第一次世界大戦期のヨーロッパ、オリエンタルな魅力とダンスで一世を風靡するかたわら、スパイとしても活動する一人の女がいた――。フランク・ワイルドホーンの楽曲が実在の女スパイの半生をドラマティックに描き出すミュージカル『マタ・ハリ』が帰ってくる。2018年の初演時にタイトルロールを務めた柚希礼音と、この再演で同役初挑戦となる愛希れいかは、宝塚歌劇団の先輩後輩同士。作品に臨む意気込みを二人に聞いた。

――ミュージカル『マタ・ハリ』、3年ぶりの再演となります。

柚希:大好きな役にまた挑戦できるので、心して、魂をこめて演じたいと思っています。再演ということでハードルも上がっておりますし、ドキドキしますが、再演できるのは本当にうれしいので、喜びをこめて演じたいと思います。マタ・ハリは実在の人物で、調べれば調べるほど、良い人ばかりではないところも出てくるのですが、それさえもまた人間らしいなと。女を使って生き延びるあたりが本当に壮絶な生き様ですが、共感できるところが多いので、そこを思いきり演じたいと思います。

彼女の奥底にはピュアな部分があるんですね。でも、戦時中のパリで、女が一人で命をつなぐには、綺麗事だけでは生きていけない。私はそこにすごく共感するけれど、共感しない人もいるだろうなと。そんな共感さえも必要としない女性を、舞台で思いきり生きたいと思っています。

愛希:私は今回初めてマタ・ハリを演じさせていただくので、緊張もあり、自分にとって大きな挑戦になるだろうなと。宝塚時代に“ファム・ファタル(運命の女)”と呼ばれるような役をやらせてもらったこともありますが、今回、宝塚の娘役ではないところで、一人の女優としてそういった役どころに挑戦するのは初めてなので、もっともっと自分の殻を破らなければいけないところや、壁にぶち当たるところもたくさんあるだろうなと感じます。演出の石丸さち子さんとも初めましてなんですが、信じて、精いっぱいついていきたいと思っています。

私は娘役として、お客様や男役さんのファンの方に気に入っていただけるような演じ方とか、舞台人としてどうやったら好かれるかなというところを考えてきたところがあるんです。柚希さんが、マタ・ハリについて、女を武器にしていたとおっしゃっていましたが、今回特に今までの考え方ではない部分を出していかなくてはいけないんだなと感じているので、そこはすごく殻を破らなきゃなと思ってます。

――フランク・ワイルドホーンさんの楽曲の魅力についてはいかがですか。

柚希:ワイルドホーンさんの曲は、それぞれの曲に盛り上がりや迫力の起伏があり、そして長さの面からも、一曲一曲歌うのが本当に大変だなと思いますね。ワイルドホーンさん自身、かなりドラマティックで情熱的な方なんだろうなと思うような、美しくて心が揺さぶられるすばらしい音楽なので、その音楽を歌えるという喜びが強くあります。私が『マタ・ハリ』を初めて見たのは、韓国公演のオク・ジュヒョンさんでした。自分自身がマタ・ハリを演じるにあたり目指すところがオク・ジュヒョンさんで、とても高い目標ではありますが、(作品では)壮絶なマタ・ハリの半生を脚本で更にドラマティックに描いていて、それを石丸さんが初演とはまた違った形の舞台にしてくださると思うので、楽しみです。

愛希:宝塚時代に『THE SCARLET PIMPERNEL(スカーレット ピンパーネル)』でワイルドホーンさんの曲を初めて経験したのですが、私は子役だったので、ちょっとだけ歌わせていただく感じでした。やはり、すごく耳に残るし、すぐに口ずさみたくなるようなキャッチーな曲、そしてドラマティックでロマンティックな曲ばかりで。今回の『マタ・ハリ』の譜面を見たら、一曲一曲がすごい重量で、すごいな、これ私歌えるかなと。一回一回お客様に投げかける楽曲だなという印象を受けたので、これはまた自分にとって大きな挑戦だし、しっかり頑張らないといけないなと気合を入れ直した感じですね。

柚希:初演の時、幕開きの曲から全お客様に嫌われなさいと石丸さんが仰っていて。もう、この女、強すぎ、本当に嫌! って思わせるくらいにやりなさいと。

愛希:(笑)。

柚希:その言葉が印象的だったので。思いをぶつけるというか、中からどんどん感情があふれ出すような人なんですよねだから、そういったお芝居を伴えるように歌っていきたいです。

――「嫌われなさい」なんですね。

柚希:前回は宝塚を退団してまだ3年目だったので、ついお客様に好かれる演技をしがちなことを突っ込まれて。「全お客様に愛されようとしている」と突っ込まれていました。意識していなくても、もう何か身についてしまっていたものだったから。みんなに嫌われても、この女無理! と思われたって、その女を演じればいいんだって、石丸さんにすごいところを突っ込まれたなと感じていたので、今回もそう演じてみようと思っています。

前回は宝塚を退団してまだ3年目だったので、ついお客様に好かれる演技をしがちなことを突っ込まれて。「全客席に愛されようとしている」と突っ込まれていました。特にそう思っていなくても、もう何か身についてしまっていたものだったから。みんなに嫌われたって、この女無理! と思われたって、その女を演じればいいんだって、石丸さんにすごいところを突っ込まれたなと思っていたので、今回もそう演じてみようと思っています。

――ダブルキャストを務めるお互いの印象はいかがですか。

柚希:ちゃぴちゃん(愛希)と同じ役をするなんて、信じられない(笑)。

愛希:(笑)。

柚希:皆さんも思っているでしょうが、私もめちゃくちゃ思ってます。今まで全然違うタイプの方とのダブルキャストが多いのですが、本当にたくさん学ばせていただき、すごく刺激をいただきました。昨年、宝塚の上級生のとうこさん(安蘭けい)とダブルキャストをしましたが、今回は下級生と初めてダブルキャストなので、何だかまたそれも新鮮ですし、私と全然違うタイプなので、いろいろ勉強させてもらい、刺激をもらいながら、お稽古場で一緒にマタ・ハリを作っていくつもりで過ごしたいと思います。

愛希:私も最初はびっくりというのが一番だったんですけれども、やっぱり、男役さんのときも、女優さんになられてからも、ちえさん(柚希)は常に前に前に進まれている、新しいものを常に追求して、自分の個性をどんどん磨いていらっしゃるイメージがあって、すごく尊敬してきましたし、私自身、舞台を拝見してすごく楽しんできていて。前に進むエネルギーをすごく感じる方なので、そのあたりを近くで見させてもらえることがすごく幸せだなと思います。前に進むことってなかなか難しいので、そこを、自分も一緒になって前に進んでいきたいなと思っています。

柚希:そう見えているならすごくうれしいなと。私も、毎公演、ゼロから始まり、なんで前回までの経験が生かせないのだろうと悔しい思いをしながら、でも、何とか初日までに進んでいきたい、初日が開いてからも何とか一公演ずつ進んでいきたいと思っていて。ずっと、まだできていないという感触があるのが、前に進む原動力になっている感じですね。

――ダブルキャストが決まったとき、お互いに連絡されたりはしましたか。

柚希:挨拶しに来てくれたよね。

愛希:作品は異なりますが稽古場が同じ建物だったときがあって、そこでお会いした際に。連絡先ももちろん知っていたんですけれども、直接お会いしたときに言いたいなと思ったので、お願いしますとご挨拶させていただきました。

柚希:ちゃぴちゃんよろしく、ってね。

――愛希さんにとって、柚希さんは憧れの上級生で、芸名の「希」の字も確か柚希さんにちなむものでは?

柚希:いやいやいや、それ言われたらもうそうですって言わなきゃいけないから(笑)。

愛希:いえ、ホントですホントです。柚希さんに断りもなく「希」の字をいただきました、ごめんなさい。それこそ、本科生のとき、同期と一緒にお茶会に行きました。

柚希:えーっ、そうなの!? 知らなかった〜。

愛希:初めてちえさんを知ったとき、やっぱりダンスが大好きで。ダンスで抜擢されていらっしゃったので。まさか自分も歌劇団に入ることになって、同じ時期に近くで拝見できることになるなんて……と思いましたね。男役娘役に関係なく、常に新しい方向を目指して、自分の個性を大事にしていて、一人の舞台人としてしっかりしていらっしゃる方だから、男役としても、外に出ても、きっと輝かれる方なんだなと思っていて。

柚希:(照)。そんな風に言っていただけるなんて。

愛希:いえ、ホントなんです。私は姿月あさとさんと花總まりさんを観て初めて宝塚に憧れて、そのあとちえさんを知ってファンになった人間なので。初めてちえさんを観たのは『愛するには短すぎる』『ネオ・ダンディズム!』で、そのビデオを買ってすりきれるほど観て。本当に印象的な作品でした。一番好きな役は『ロミオとジュリエット』のロミオかな。フレンチ・ポップスの『ロミオとジュリエット』で、新しいロミオだなと衝撃でした。

柚希:ちゃぴちゃんの舞台で衝撃的だったのは、『THE SCARLET PIMPERNEL』のルイ・シャルル。新星若手男役来た! と思ってたら、娘役さんになって。娘役になってもめっちゃかわいいと、私たちの間では話題でした。太陽みたいな笑顔のすごくかわいらしい子だなと。顔のあたりにひまわりみたいに陽が射している感じというか、あたたかいかわいらしさがある感じだなと。

愛希:(照)。

柚希:『All for One』〜ダルタニアンと太陽王〜で演じた太陽王ルイ14世もすごく好きでしたね。トップ娘役があまりしないような役だけど、すごくチャーミングに作っていて、とてもかわいかったから。男役もちょっと勉強して、それから娘役ができあがった人ならではの演技だなと思いました。共演したのはTCAスペシャルで一回くらいだけかな。

――去年、柚希さんの呼びかけで、宝塚の元トップ19人がリモートで集まって「青い星の上で」を動画配信したとき、共同作業されていらっしゃいましたよね。

柚希:ソーシャル・ディスタンスを保って、マスクをして、男役さんにやってもらう振りを私がやって、娘役さんにやってもらう振りをちゃぴちゃんにやってもらって参考の動画を撮影したんですけれども、やっぱりとてもかわいかったです。

愛希:私は、一緒に何かできることがすごく楽しくて、娘役の気持ちを思い出していました。

――歌稽古に入られていかがですか。

柚希:この作品はとても大変だと改めて思いましたね。歌ってみたら、3年前の自分の喉と全然違うんです。お客様はもちろん前以上のものを観たいと思って来てくださるだろうし、そうするのが絶対だと思いますし、そのプレッシャーに参りそうになりますが、今できることを精いっぱい、心をこめてやりたいなと。3年前とは違うよさもきっとあるだろうと思って。一方でキャラクターとしてはしっかり中身を埋めていく必要がありますが、そのあたり、前回石丸さんの導きの先に見つかったことが沢山あったので、今回もまた身を任せてやりたいなと思っています。また新たな自分に出会えたらいいなと自分自身楽しみにしています。

愛希:譜面を見る限り、すごく大変なんだろうな……と思っていて。新しい自分に出会えそうで、それが一番楽しみですね。娘役としてやってきて、卒業後は声の出し方が娘役に寄ってしまう点を指摘されたり、悩みもありました。でも、今後はそういうところでもしっかり、この人は女優になったんだと思っていただけるようになれたらうれしいです。そういう風に演じられるよう、自分をしっかり持っていこうと、気合が入っています。

柚希礼音:ヘア&メイク=黒田啓蔵(Iris)/スタイリスト=間山雄紀(M zero)
愛希れいか:ヘア&メイク=杉野智行(NICOLASHKA)/スタイリスト=山本隆司

取材・文=藤本真由(舞台評論家)