SLOW CIRCUS PROJECTは、SLOW LABELから発足した日本初のソーシャルサーカスカンパニー。2017年からシルク・ドゥ・ソレイユのサポートを受け、世界各地のソーシャルサーカスを実践する団体と連携しながら、障がいのある人とのパフォーマンス創作、ワークショップなどに取り組んでいる。『T∞KY∞ 〜虫のいい話〜』は、パフォーミングアーツを通じて障がい・性・世代・言語・国籍などを超えて、個性豊かな人たちと一緒に楽しむ芸術祭「True Colors Festival-超ダイバーシティ芸術祭」(日本財団主催)にて製作、2020年に公演を行う予定だった。コロナ禍で封印されていた作品が満を持して登場する。SLOW CIRCUS PROJECTのディレクターで演出を務める金井ケイスケ、同じくSLOW CIRCUS PROJECTのメンバーであり、絵本作家としても活躍している「くるくるシルク」のトッチ(高橋徹)、シルク・ドゥ・ソレイユのエアリアル部門にて日本人初の登録キャストとなったHiROKO(桧山宏子)に話を聞いた。

撮影:冨田了平/提供:日本財団 DIVERSITY IN THE ARTS

撮影:冨田了平/提供:日本財団 DIVERSITY IN THE ARTS

――演出の金井さんからうかがいます。稽古はどんなふうに進んでいらっしゃいますか。

金井 今までずっと屋内で個別に稽古をしていたのですが、感染症対策として風通しが良い半野外の新豊洲Brilliaランニングスタジアムに場所を移し、出演者全員で本番の野外劇場に近い環境で最終稽古に入っています。作品の全体像も見えてきたところです。

――金井さんは演出とのことですが、役割としてはどんなことをされているのでしょう?

金井 作品づくりはクリエイティブ・プロデューサーの栗栖良依さんとどんなことをやろうか相談し、僕らが感じているサーカスの魅力と個性豊かな仲間たちを一つのストーリー、一貫したテーマの中で表現したいということで始まりました。劇団子供鉅人の益山貴司さんに、未来の共生社会を描くにはどんな世界がいいだろうかと一緒に考えていただき、虫の世界という設定になりました。僕は演出とは言え一人の思考で導いていくような役割ではありません。虫の世界だったらこういう技を入れたらこう見えるかなとか、アイデアを出しながら整理していくポジションです。以前からそうですが、僕らはみんなで作品をつくることが柱になっていて、栗栖さん、益山さん、出演しているメンバー、関わっているスタッフみんながある意味では演出家でもあるんです。

金井ケイスケ 撮影:冨田了平/提供:日本財団 DIVERSITY IN THE ARTS

金井ケイスケ 撮影:冨田了平/提供:日本財団 DIVERSITY IN THE ARTS

――「虫」というテーマは、どんな発想から生まれてきたのですか?

金井 虫は種類によって物のとらえ方、世界の見え方が違うんです。1万個以上のマルチスクリーンがあるような世界が見えていたり、360度の世界が見えたり、目は見えないけれど触角で何かをキャッチしていたり。つまり虫が持っている機能ってものすごく多様じゃないですか。それに対して人間たちが見ている世界は「こういうもの」という共通認識があると思いがちです。でも車いすの人からしたら世界の見え方は僕らと違う。目が見えない代わりにすごく聴覚が発達している人もいる。手話ができる人はダンサーからするとうらやましいくらい手の動きがなめらかだったり、表情も豊かだったりする。そういう多様な才能をどう引き出せば表現につながるか考えたときに、虫の世界ってちょうどいいなと思ったんですよね。

――なるほど。

金井 それからコロナで露わになりましたが、今の時代、僕らはサバイバルしていかなきゃいけない。でも虫たちの世界は常にサバイバル。危険にさらされ、一生も短いし、環境によってはすぐに死んでしまう虫もいる。寿命を全うできる虫は少なくて、でも精いっぱい与えらえた宿命を受け入れて、与えられた身体で精いっぱい生きることが自然界では当たり前のこと。けれど人間の世界はそうなってはいません。いろんなことを考えて、悩んで生きているけども、そもそも自分たちが与えられた環境やこの身体で最大限に生きているのだろうか。これからの時代、お互いが力を合わせないと困難を乗り越えられないと思うんです。だからやはり虫というテーマは面白いと思っているんです。

トッチ 撮影:冨田了平/提供:日本財団 DIVERSITY IN THE ARTS

トッチ 撮影:冨田了平/提供:日本財団 DIVERSITY IN THE ARTS

――トッチさん、主人公のお一人だそうですが、役どころを紹介してください。

トッチ いろんな虫たちが暮らす「T∞KY∞(トーキョー)」という名の森の中に旅芸人が迷い込んで、虫たちに翻弄されたり、仲間になったりしながら物語は進んでいきます。その旅芸人をかおりちゃんと僕とで担当します。かおりちゃんはダウン症の女の子で、SLOW LABELでは7年も活動しているベテランさんです。今回は音楽にも挑戦して、ピアニカを吹いてくれる。かおりちゃんができるだけ楽しくやれることを僕が見つけて、一緒にシーンをつくっていっています。本番中でもかおりちゃんがついワッハッハと笑い出すような感じになればいいなと思います。

撮影:冨田了平/提供:日本財団 DIVERSITY IN THE ARTS

撮影:冨田了平/提供:日本財団 DIVERSITY IN THE ARTS

金井 実はかおりちゃん、ここ2、3年、SLOW CIRCUS PROJECTが始まったくらいから成長がすごいんです。帽子芸という好きなものが見つかって、しかも人を楽しませることができるので、彼女の道化的なキャラクターが、かわいいね、面白いよというところからどんどん深みを増しています。パフォーマーになった感じがしています。

HiROKO 撮影:冨田了平/提供:日本財団 DIVERSITY IN THE ARTS

HiROKO 撮影:冨田了平/提供:日本財団 DIVERSITY IN THE ARTS

――HiROKOさんはどんな役どころですか。

HiROKO 私はクモの役としてエアリアルをやらせていただきます。脳性麻痺のはづきちゃんと一緒にリングに座って空中でくるくる回りながら音に合わせて手の表現をしたり、クモの動きをしたりします。はづきちゃんとはコロナなどもあって一緒に練習するのは久しぶりだったんですけど、今までよりもかなり高い位置に上がっても怖がるどころかすごく楽しそうだし、乗っている姿勢も安定しているし、とても驚きました。なんでもお家で練習してくださっていたみたいです。

撮影:冨田了平/提供:日本財団 DIVERSITY IN THE ARTS

撮影:冨田了平/提供:日本財団 DIVERSITY IN THE ARTS

――空中技をお家でトレーニングしているんですか?

HiROKO はづきちゃんは意思の疎通はしっかりできるんですけど、支えがないと立てなくて、普段も車いすだったり固定された状態で座っているんです。エアリアルでは、細いリングに座って、バーを手で握って身体をキープしなければなりません。そのために座る位置、腰をかける深さでバランスを取るので、体幹がしっかりしていなければいけないんです。そこでSLOW LABELのリングをお渡しして、お家にリングをつるす場所をつくって、お母さんと座ってバランスを取る練習をしてもらうようにお願いしました。

――空中技ですから危険を伴いますが、お二人の信頼関係はバッチリのようですね。

HiROKO はい! はづきちゃん自身も、私を見るとうれしそうにしてくれたり、稽古場であいさつするときもテンション高くハイタッチしてくれたりして、本当にエアリアルが好きなんだと伝わってくるんです。

――トッチさん、HiROKOさんは、SLOW CIRCUS PROJECTについてどう感じてらっしゃいますか。

トッチ 僕は2014年にSLOW LABELがパフォーマンスのワークショップを始めたところから参加しています。障がいのある方と関わるのはそのときが初めてでしたが、一緒に稽古する中で、僕らと一緒なんだ、区別はないんだという思いになりました。またサーカスは、身体で触れ合ったり、しぐさやアイコンタクトで通じ合うところがあるので、障がいある方と関わるときにはとても可能性を感じています。

HiROKO  私は2017年の夏に行われたインクルシブ・エアリアルの指導者育成講座から本格的に参加させてもらっています。それまで自分がパフォーマンスをすることをメインにやってきたんですけど、ずっと社会貢献ができないかと考えていたんです。障がいがある方たちの機能向上だったり、トレーニングの成果が目に見えたことで、私がエアリアルをやってきた意味がしっかりとつながりました。たとえば、はづきちゃんの身体や意識の変化が感じられることを、私も楽しみながら勉強させてもらっていますし、エアリアルをやってきてよかったと感じています。実は私の弟も体操の練習中に首から落ちて車いす生活をしています。けれどダウン症の子がいたり、脳性麻痺の子がいたり、多種多様な障がいを持っている方と関わるのはSLOW LABELさんの活動に参加してからでした。実際にみんなと接してみると、健常者と呼ばれる私たちにもごく普通に得意不得意があるように、障がいの有無によって特別感を持つことはありません。それはこのSLOW CIRCUS PROJECTのすごいところだと感じています。

撮影:冨田了平/提供:日本財団 DIVERSITY IN THE ARTS

撮影:冨田了平/提供:日本財団 DIVERSITY IN THE ARTS

撮影:冨田了平/提供:日本財団 DIVERSITY IN THE ARTS

撮影:冨田了平/提供:日本財団 DIVERSITY IN THE ARTS

――金井さん、今回のような作品をつくることで感じている意義などはありますか?

金井 作品をつくるときは、こういう世界を表現しようというよりも、障がいあるメンバーが持っている魅力こそが表現の素材だと考えています。精神的にも身体的にもいろんな障がいがあるメンバーがいて、彼らは僕らと違うよねという認識を持つかもしれません。それが表現するという土俵に乗ったときに、僕らは何か役になってみようといろいろ変化をしようとするけれど、障がいのあるメンバーは変化をしなくてもすでにアーティストとして魅力ある存在なんです。簡単に言うと僕らが持っていないものを持っている。それが個性で、むしろ僕らは自分たちの個性を自分たちで発見し、伸ばしていかないといけない。僕らはどう面白く演じるかということをついつい考えてしまう。メンバーによっては障がいがあることで一緒に何かをやっているときに、演技上コントロールの効かない部分もあったりしますけど、彼らが持っている魅力や面白さのほうがだんぜん勝っている部分もあります。そもそもそういう魅力を持っている人たちと僕らが一緒になって、今まで見たこともないような面白いものをつくろうよ、そういう意識でいますね。

撮影:冨田了平/提供:日本財団 DIVERSITY IN THE ARTS

撮影:冨田了平/提供:日本財団 DIVERSITY IN THE ARTS

――またサーカスの効用みたいなものはありますか?

金井 サーカスと言いつつも、サーカスを表現しようとしていないんですよ。障がいがある人もない人もいろんな人が集まって一緒に作品をつくっていること自体がサーカスじゃんみたいなことかもしれません。そしてお互いが協力しあうという意味でのサーカス。たとえばHiROKOさんとはづきちゃんのエアリアルのシーンでも、技術としては大したことはしていないかもしれない。でも、はづきちゃんのように障がいを持った子でも危険なことに挑戦してキラキラと表現ができるのは、HiROKOさんの力でもあるし、それを支える僕らのエアリアルの経験と知識でもあるし、舞台に乗せるまでをサポートするアクセスコーディネーター、いろいろなスタッフや周りの皆さんの力があって成り立っているんですよ。だからそこを隠さず表現し、お互いが協力することによって、今までにない価値を生み出す。それが僕らが目指すサーカスです。

――HiROKOさん、トッチさん、最後に一言ずつお願いします。

HiROKO ほかでは見られない個性的なメンバーが、障がいのある子たちもない人たちも一生懸命に取り組んでいる作品です。お互いの良さを発見して、感じることで、自分の中から新たな発信をし、お互いを相乗効果で高め合っている現場です。たくさんの人に見ていただきたいなと思っています。

トッチ 僕らにとって稽古すること自体が楽しい体験ですが、それはきっとお客様にとっても観劇ではなくて、なにかを体験することになるんでないかなと思っています。衝撃的な、身体で感じるような体験をしにいらしてください。

撮影:冨田了平/提供:日本財団 DIVERSITY IN THE ARTS

撮影:冨田了平/提供:日本財団 DIVERSITY IN THE ARTS

取材・文:いまいこういち