渋谷すばる LIVE TOUR 2021「NEED」
2021.4.21 東京ガーデンシアター

2ndアルバム『NEED』がリリースされたのは去年の11月のこと。渋谷すばるは、このアルバムを引っさげ、4月8日から全国ツアーを行うはずだった。渋谷にとっては自身2作目となるフルアルバム。そして、2回目のツアーとあって、ソロアーティストとして行った初のライブツアーであった『渋谷すばる LIVE TOUR 2020「二歳」』とはまた違った意気込みであったに違いない。それは、ソロアーティストとして初めて作り上げたデビューアルバム『二歳』と『NEED』を聴き比べれば自然に分かるほどに、とても素直に、そして、とても純粋に伝わってきていた。

ありのまま。在るが儘。自分の思うがまま。飾りのないさま。『NEED』は、そんな渋谷の人間性が、『二歳』以上に、より自然な形で表現されていた様に感じた。そして、より音楽人として“好きな音への追求”を感じさせるサウンド感も伝わってきた。


昔は、1年に3枚のシングルと1枚のアルバムというのがリリースのスパンでもあったが、近年フルアルバムのリリースに至っては、2年、3年と間をあけるアーティストが増えてきている。その理由としてよくアーティストが語っていたのが、“アルバムをリリースしてツアーをしたら、もうそのアルバムは過去のものになってしまって、もう次の作品作りに切り替えていかないといけないというスパンは、流れが早すぎる気がする。シングルもカップリングを含めたら3曲あるわけで、合わせたら年にアルバムを2枚作っているみたいなものだから、もっとじっくり育てたい”と。アルバムを1枚作るのに、すっからかんになる程自らを出し切るというアーティストがほとんどであることから、その言葉の意味はとても理解できる。聴き手としても、1回のツアーだけで終わってしまうのはなんとも惜しいもので、アンコールツアーをやってくれたら良いのに、と感じることも多い。

が、しかし。渋谷は違う。

“唄が歌いたい”と渇望してきた彼の中には、とにかく唄に変えて吐き出したい想いが溢れかえっているのだろう。デビューアルバム『二歳』から2ndアルバム『NEED』の発表が実に早かった。この衝動はまだまだ収まりそうにない。


ソロアーティストとしての初のツアーであった『渋谷すばる LIVE TOUR 2020「二歳」』が行われたのは2020年の1月28日から2月26日のこと。このツアーでは、自身初の海外公演を行う予定であった。が、しかし、新型コロナウイルスの感染拡大のため海外公演は中止。新たなスタートを切った渋谷にとって“ここから!”というときにバッサリと出端を折られてしまった訳である。故に。吐き出せなかった想いは、より強い衝動となって彼の中に残ったに違いない。

そんな想いも、『NEED』と、2021年の4月8日からスタートするはずだった全国ツアーに持ち越されていたことだろう。

しかし、自らを愛し、集まってくれるオーディエンスの安全を考え、全公演中止という判断を下した渋谷は、4月21日に、このツアーが行われる予定だった東京・東京ガーデンシアターで配信ライブを行うことを決めたのだ。

そのライブは、オーディエンスで埋め尽くされているはずだった客席に、誰も居ない状態で行われた。


殺風景な景色の中に、渋谷の声が響いた。

「Sing -a cappella-」だ。1分13秒に込められた、どこまでも真っ直ぐな想いは、渋谷の声のみで届けられた。アルバムと同じ始まり。渋谷はそこから、「Earth Color」「BUTT」と、アルバムと同じ流れで唄を届けていった。

邦楽的な旋律を感じさせるも、ブリティッシュロックからの影響を強く感じる「Earth Color」は、切なげなギターのアルペジオがとても印象的な楽曲。少し影のあるメロディは、そこに乗る渋谷の選んだ言葉達に引き立てられ、伸びやかに響き渡った。リズミックながらも、どこかルーズな印象を含んだ「BUTT」は「Earth Color」とは一変し、飾りのない歌声で届けられた。メンバーによるコーラスも実に心地良いし、塚本史朗の無骨さを感じるウネリと絶妙なタメ感を持った味のあるギターが、項垂れてしまうほどにしっくりとくる。

右足を一歩引いて踏ん張りながら全身の力を込めてハープに息を吹き込む渋谷。ラストに畳み掛けられた、なかむらしょーこ(B)と魅せたベースとハープの掛け合いは圧巻だった。


「いろんなところからいろんな環境で聴いてくれていると思いますが、あなたがいる場所で精一杯楽しんでくれ! 我慢できそうにないなら、近所の人も巻き込んで一緒に見たら良いと思うよ」

渋谷は、画面の向こうで見てくれているオーディエンスに向かい、自由に聴いて欲しいというメッセージを緩い言葉で伝えた。

バンドメンバーとの阿吽の呼吸を感じさせたのは、そんなとことん緩いラフなメッセージを挟んだ後だった。1stアルバムからの選曲であった「ワレワレハニンゲンダ」で見せつけた荒れ狂うサウンドの中で、渋谷はソロ1年目よりも明らかに成長したと感じさせる音楽人な姿を魅せてくれた。曲によって実に器用に歌唱や声色を操る渋谷は、この曲のバンドサウンドの中にハリのある叫びを乗せ、ハープにも魂そのものを感じさせる感情を注ぎ込んでいた。

ドラマーのMASUOと強い目力でアイコンタクトを取って呼吸を合わせ、とことん歪ませたベースを奏でるなかむらしょーこの音にハープを絡ませ、この曲では敢えてシンセ的な音色を選んで奏でた山本健太の鍵盤と、いなたいギターで全体のサウンドを引っ張る塚本史朗の生み出すグルーヴの中で、渋谷はその場で感じたままを素直にハープの音に変えて表し、それを最高のタイミングで差し込んでいったのだ。これぞバンドの醍醐味。計算し尽くされたサウンド感ではあるのだが、その場のセッションから生まれる生々しさを、本物のロックの在り方を、説得力のある“バンド力”で見せ付けてくれたのだった。

“ほぉ。そうくるか!”と、感心させられたのは、ここからの流れだった。


ライブの中盤にアコースティック編成を差し込む構成は、よく見る光景でもあるのだが、通常の編成でのサウンドを止めることなく、ドラムソロ、鍵盤ソロ、アップライトに持ち替えたベースソロ、アコースティックギターに持ち替えてのギターアプローチ、渋谷の奏でるブルージーなハープ、という流れから、演奏しながらアコースティック編成にチェンジされたのだ。

素晴らしい演出だ。転換すらも演出にしてしまう、ありのままのステージを、本当に素晴らしく思った。

アコースティックで届けられた「水」は、アコースティックならではの柔らかな音色の中で、少しスタッカート気味に歯切れ良く歌われ、ほっこりと歌われた「今日はどんな一日だった」は、少し気の抜けた雰囲気で届けられた。両曲共にアコースティックならではの良さが際立っていたのがとても印象的だった。

「今日はどんな一日だった」はニューアルバム『NEED』の8曲目に置かれた曲であるのだが、この曲の中には渋谷の心境の変化が現れているような気がしてならなかった。少し前だったら、こんな曲は生まれていなかったのではないかと感じた。

“僕は僕だけでは生きられないんだ”

意味のないことなど一つもないと歌われるこの曲。渋谷は昔からそういう考えを持った人間ではあったのだが、この曲を聴いたとき、“思っているだけ”ではなく、心から、身をもってこの言葉が湧き出ているのが感じ取れたのだ。


そんな渋谷の変化は、この後に届けられた新曲2曲にもしっかりとにじみ出ていた。

新曲として届けられたゆったりとした空気を宿した1曲目には、日常となったスタジオの匂いや、1日中レコードを聴いていた時間のことが描かれており、2曲目に届けられたファンキーな新曲2には、遊び心しかない歌詞を乗せた手放しで音楽を楽しむ様が感じ取れた。

そんな新曲達は、次作のリリースを匂わせるものだと公言した渋谷。冒頭にも書いたように、渋谷の中には、まだまだ吐き出したりない想いと、日々消化され、昇華されていく想いが溢れ出ているのだろうと思った。

ストラト、リッケンバッカー、レスポール、と、曲ごとに細かくギターを持ち替えていた塚本史朗のギターサウンドも、渋谷としっかりと向き合って選ばれた音色なのだろう。この先、ますます深まっていくであろうサウンドへのこだわりと、渋谷の中から生み出されていく感情(歌詞)が楽しみになった。

「素晴らしい世界に」を本編ラストに選んでいた渋谷は、この曲を届ける前にこんな言葉を残した。

「好きなことを、好きで好きで仕方ないことを、思いっきりやれていて幸せです。これからもずっとずっと続けていこうと思います。大事な人に囲まれながら。ずっと続けていこうと思います」

真っ直ぐな嘘のない想いは、「素晴らしい世界に」の中に書き記された想いへと繋がっていた。

アンコールで届けられた「ぼくのうた」の中で歌われる、“歌を歌わせて頂けませんか?”という言葉が、“もがき”ではなく、“純粋な気持ち”として聴こえてくる様に変化したと感じたのも、渋谷の心境の変化があるからなのではないかと感じた。

渋谷すばる。良くも悪くも真っ直ぐな人間。だからこそ面白い。だからこそ興味深い。この先、渋谷がどのように変化し、進化していくのか、実に楽しみなところである。

取材・文=武市尚子 撮影=伊藤岳