1950年代のニューヨークを舞台に、夢見る若者の友情と挫折を逆再生で描くミュージカル『メリリー・ウィー・ロール・アロング』〜あの頃の僕たち〜が、2021年5月17日(月)に東京・新国立劇場 中劇場で開幕する。初日まで1ヶ月を切った4月某日、都内の稽古場を取材した。活気溢れる稽古場の様子と共に、メインキャスト6名からのコメントもお届けする。

稽古場は横に広い空間が広がっており、中央にステージのセットが組まれていた。ステージ正面に向かってスタッフ・キャストの机と椅子が配置され、その中央には撮影カメラとモニターが設置されている。本作はイギリスの演出家マリア・フリードマンによる新演出。残念ながらコロナ禍のために海外スタッフの来日は叶わなかったが、距離と時差(ロンドンと東京は約8時間)の壁を越えたリモート稽古が行われていた。

取材が始まった時点ではまだ海外スタッフとのZoomは繋がっておらず、現地スタッフとキャストは各自このあとの稽古に向けた準備を行っていた。本来ならばキャストは総勢20名ほどいるはずなのだが、シーン毎に必要な最小限の人数で稽古を進めているのだろう。取材時に稽古場にいたのは、メインキャストの平方元基、ウエンツ瑛士、笹本玲奈、昆夏美、今井清隆、朝夏まなとの6名に加え、数名のキャストのみだった。

キャストの席には1つずつパーテーションが設置され、もちろん全員マスクをしている状況ではあるが、席が隣り合っている平方、ウエンツ、笹本は終始楽しげに会話を弾ませていた。実はこの3人は本作が初共演。同い年ということもあって、作中でも仲の良い“OLD FRIENDS”のコンビネーションが期待できそうだ。

ステージ上では、今井と朝夏が次の稽古の登場シーンの動きを練習する姿が見られた。今井がキャスター付きの椅子に座った状態で、その椅子を朝夏が押しながら上手袖から現れる。2人は『マイ・フェア・レディ』(2018年)で親子役で共演経験があるせいか、とても親しげな様子。ステージ上からは度々笑い声が聞こえてきた。


いよいよリモート稽古が始まる。取材時に演出のマリアは不在だったが、振付のティム・ジャクソンが中心となって稽古は進められた。シーンは2幕の「OPENING DOOR」。約7分のビッグナンバーで、1曲の中でどんどんストーリーが展開していく。セリフ量、登場人物、動き、どれも多く複雑だが、若かりし頃の登場人物たちの勢いが感じられる、非常にエネルギッシュなシーンでもある。


曲の冒頭は舞台下手側から、若き日のライターのメアリー(笹本)、作曲家のフランク(平方)、脚本家のチャーリー(ウエンツ)が並び、三者三様に創作活動に打ち込んでいる様子が描かれる。3人は時に落ち込み、励まし合い、季節は移り変わっていく。

フランク役の平方元基

フランク役の平方元基

チャーリー役のウエンツ瑛士

チャーリー役のウエンツ瑛士

メアリー役の笹本玲奈

メアリー役の笹本玲奈

フランクとチャーリーが作品を売り込むためにプロデューサーのジョー(今井)の前で自作の曲を披露するのだが、どうやら反応はいまいち。今井は貫禄たっぷりの芝居と歌で「客の喜ぶ曲を書いてくれ」と語りかける。ジョーの隣にいるのは、後の大女優ガッシー(朝夏)だ。このシーンではセリフこそないが、軽やかな身のこなしで存在感を発揮していた。

ジョー役の今井清隆

ジョー役の今井清隆

ガッシー役の朝夏まなと

ガッシー役の朝夏まなと

1シーンを通してから、それを見たスタッフが音楽、ステージング、芝居の要素に分けてキャストにノートを伝えていく。最初に、音楽について現地の歌唱指導スタッフから細かい指示が出た。「OPENIG DOOR」はスピード感のある曲なので、歌い始めの最初の言葉が遅れないよう気をつける必要があるようだ。本作の作詞・作曲を手掛けるのはミュージカル『スウィーニー・トッド』などで知られる巨匠スティーブン・ソンドハイム。ソンドハイムの生み出す音楽は、非常に美しい旋律であると同時に難曲が多いことでも知られている。

リモートでは振付のティムから、主にステージングに関するノートがあった。平方、ウエンツ、笹本の3人はステージ中央に集まると、モニターに映るティムから発せられる言葉、そして現地の翻訳スタッフの声に集中して耳を傾ける。1シーンの通しを見たティムは「とても素晴らしいです」とコメント。その上で、3人が椅子に座りながらステージ上を移動する際、椅子の動きを止める着地点と歌のタイミングを合わせたいと話した。キャスト自身の歌いやすさを考慮しつつ、その場で細かい動きを合わせていく作業が行われる。


稽古の合間、平方さんからカメラ目線でピースをいただきました!

稽古の合間、平方さんからカメラ目線でピースをいただきました!

曲の後半、フランク、チャーリー、メアリーたちは自主公演に向けてオーディションを開催することに。フランクは、オーディション会場に現れたベス(昆)の歌声を聞くと即座に彼女に合格を伝え、その場に座っていたメアリーは思わず立ち上がる。

ベス役の昆夏美

ベス役の昆夏美

このシーンについて、ティムは「メアリーはフランクに対して好意を持っているので、フランクとベスの関係性が近づくことに対して焦りの気持ちを込めてもいいかもしれない」と伝えた。さらに「そうなるためには、チャーリーとフランクの力も必要。オーディションの場にいるチャーリーもベスに対して『この子いいんじゃないかな』と感じつつ、フランクはベスの歌声を聞いて『この子はいいぞ』とどんどん興奮していく。すると、メアリーが立ち上がるという瞬間に繋がるのでは。みなさんどうでしょうか?」と、決してアイディアを押し付けずにキャストに提案していく。

舞台上での何気ない動作にも一つひとつ意味が込められ、こうして少しずつ肉付けされていくことで作品の完成度が高まっていくのだろう。本番の舞台上では決して知ることができない、キャスト・スタッフたちが作品作りに奮闘する姿を垣間見ることができた。

今まさに稽古場で作品と向き合っているキャスト陣に、マリア・フリードマンの演出(リモート)を受け、日々どんなことを感じているか聞くことができた。以下で、平方、ウエンツ、笹本、昆、今井、朝夏の順に記載する。

平方元基

海を越え、一つの作品を作ることができる喜びを感じています。もちろんたくさんの困難や問題もあるけれど、腐ってしまったらそこで終わり……普段はあまり頼りませんが、ここまでくると精神論ですね。頑張るしかない、やるしかないということです。

ウエンツ瑛士

こんな演技を求めるという演出ではなく、その感情の中にこの気持ちを1枚足してみて、だったり。レイヤーを厚くしていく作業なので楽しいです。
全ての感情が正解で、全ての感情が必要というのは常に前に進めてる実感が持てます。

笹本玲奈

女優さんでもあり過去にメアリーを演じた事もあるので、ノートの最中に実際に演じてみせてくれる事がよくあり、リモート稽古なので画面越しですが、ヒントになる表現や表情を見ることができてとてもラッキーだと思っています。
ミュージカルらしい壮大な音楽が流れる中でも、心情や行動のリアリティを追求してくださるので、毎日のマリアの一言一言がとても興味深く勉強になります。

昆夏美

一つの作品を創るには演出家と演者が同じ場にいることがいかに大切かを感じながらも、私たちにできる限り不安がないように努めてくれているのがわかります。中でも「演出家が上の立場とは考えないでほしい。私が作品を創るのではなく私たちで作品を創るのです」というマリアの言葉が、とても印象に残っています。

今井清隆

マリアはイギリス人演出家らしく、その役のディテールをキチンと考えさせて決定してから演出します。なので役の骨格がしっかりしてすごく演じやすいし、お芝居が楽しくなります! リモートで、その上通訳の方を通しての演出なので、時間はかかりますが、有意義な時間を過ごしていると感じています。何よりマリア自身がこの作品をこよなく愛しているので、その気持ちをどれだけ我々がお客様に届けられるかがポイントになってくると思います。頑張ります!

朝夏まなと

あたたかくて、わかりやすくてとても刺激的です。エクササイズやテーブルワークで深いところまで理解できますし、発見がたくさんあって毎日とても幸せです!

これから本番に向けてさらに稽古を重ね、より魅力的な作品に仕上がっていくに違いない。劇場で初日の幕が上がるそのときを、心待ちにするばかりである。

取材・文・写真=松村 蘭(らんねえ)