新国立劇場バレエ団『ライモンダ』が2021年6月5日(土)〜13日(日)、日本舞踊協会主催による第4回日本舞踊 未来座 =祭(SAI)=『夢追う子』が6月4日(金)〜6日(日)に行われる。それを機に、新国立劇場舞踊芸術監督の吉田都、歌舞伎役者で日本舞踊松本流家元の松本幸四郎が顔を合わせ取材に応じた(取材日は2021年4月23日)。古典バレエの様式を確立したマリウス・プティパ最後の傑作と称される大作を取り上げる吉田と、日本舞踊界の気鋭を多数起用した創作の構成・演出を手がけ出演も果たす幸四郎が、公演の見どころやコロナ禍での活動を語った。

■バレエと日本舞踊の相通じるところ

幸四郎は歌舞伎座での舞台後に駆け付けた。吉田は「本番を終えてからいらっしゃるなんて、私にはちょっと考えられないですね。歌舞伎は(公演)回数が多いし毎日舞台がある」と驚嘆。幸四郎は「今月は特殊で」と応じる。「四月大歌舞伎」第一部の『勧進帳』で武蔵坊弁慶と富樫左衛門を日替わりで務めた。「イギリスとかだと(バレエの)公演数も多いです。ただ、そんなに役を変えるようなことはないですね!」と吉田がさらに驚いたところで本題へ。

――まず、お互いのジャンルに対する印象をお聞かせください。

吉田都(以下、吉田) 踊り方に逆の部分があるかもしれません。日本舞踊は(重心を)下に、下に。バレエはできるだけ体重を感じさせないように。ただ、伝統という意味では共通する部分があるのを感じます。

松本幸四郎(以下、幸四郎) 凄く繊細な感じがあるんです。でも、研ぎ澄まされた力強さといいますか、積み重ねて創り上げられた肉体があるかなと。日本舞踊でも時に応じて人数が変わったり、一部曲が変わったりします。そうやって古典が進化していく、いろいろなものに対応していくことは凄く共通していると思います。

松本幸四郎  (撮影:阿部章仁)

松本幸四郎 (撮影:阿部章仁)

 

■"踊り"で魅せる、それぞれの公演

――吉田さんは新国立劇場バレエ団『ライモンダ』、幸四郎さんは日本舞踊協会の第4回日本舞踊 未来座 =祭(SAI)=『夢追う子』を控えています。見どころや注目点を教えてください。

幸四郎​ 日本舞踊協会は毎年新作公演をしています。去年の中止公演を今年できるようになりました。日本舞踊の可能性といいますか、いろいろな題材、音楽、演出を取り入れることによって、新たな日本舞踊が誕生する公演です。今回私が演出いたしますが、日本舞踊家たちが存分に踊る姿を見ていただきたい。出会い、競い合いといったストーリーもありますが、ひたすら踊っている日本舞踊家たちのパワーとエネルギーを感じていただきたいです。(昨年は中止になったが)上演に向けて準備していましたので、(思いや構成は)ほぼ変えずにいます。イメージを真っ新にしないで、もっともっと変化させる。多くの流派からの47名の出演者が再び全員集まりました。一昨年から準備していたので、2年越しになります。その思いが花開けばいいなと。

吉田 『ライモンダ』の初演(2004年)でライモンダを踊りました。牧阿佐美先生の(改訂振付・演出による)バージョンは、(ライモンダの婚約者である騎士)ジャン・ド・ブリエンヌが十字軍に出征するプロローグが入るなど、ストーリーをよりシンプルに分かりやすくしています。出演時に苦労したのは、踊りで魅せる部分が多いことです。ただ、純粋な踊りだけでなく、ドラマの入ったストーリー展開も楽しんでいただきたい。ルイザ・スピナテッリさん(美術・衣裳)の色彩感覚は美しく、衣裳も素敵です。色合いが本当に宝物だなと。踊りはもちろん、美術・衣裳やアレクサンドル・グラズノフの流麗な音楽も楽しめる総合芸術になっています。
 

■表現者たちの集団を率いる極意とは

――第4回日本舞踊 未来座 =祭(SAI)=『夢追う子』には47名の日本舞踊家が集まり、新国立劇場バレエ団には70名程の団員がいます。表現者たちの集団を率いまとめていく上で、何を大切にされていますか?

幸四郎​ 目指すところではあるのですが、出演者の個性を引き出すか広げるかして、その人が今までで「一番いいね!」といわれる代表作にしたいといつも思います。ただ、今の段階では「この人、面白いね、変わっているね!」というものばっかりです(笑)。その人の個性が生きるように引き出したいのですが、どうしても面白い部分ばっかりになってしまいます(笑)。

吉田 私もやはりダンサーたちの良いところを引き出したいです。そのために環境を整えること、皆が気持ちよく舞台に立てる環境を作ることに気を付けていきたい。目指すところを明確にすることも意識していますね。「ここに行くんだ!」という同じ認識を皆がきちんと持っていないと、注意もなかなか伝わらないと思って。ですから、できるだけいろいろな場面で「この作品の中では、ここをこのように目指しています」と伝えることを凄く大切にしています。

吉田都  (撮影:阿部章仁)

吉田都 (撮影:阿部章仁)

■劇場で観客と共有する喜び、動画配信の可能性

――コロナ禍でどのように芸術活動を続けていくのかについてお伺いします。幸四郎さんは昨年、動画配信による図夢歌舞伎(ずぅむかぶき)を歌舞伎座の公演再開前に始め、その後も続けていらっしゃいます。吉田さんも今年1月、直前で中止になった「ニューイヤー・バレエ」を無料ライブ配信するなどされていますね?

幸四郎​ 日本舞踊でも公演ができなくなり映像だと思いました。NHK Eテレ「にっぽんの芸能」の方にお話をすると、作品をやることはできたんですね。ただ、47人全員でスタジオ撮影はできない。それで1人ずつ撮って1つに構成しました。僕は日本舞踊でも歌舞伎でも、観ていただけるところでやるのが役目だと思います。舞台だけじゃないだろうと考えると、必然的に配信が出てきました。お芝居をしたい、踊りたいと掲げるのは、どれだけ行動するエネルギーになることか。もちろん立ち止まるのも決断だと思いますが、僕は半歩でも1ミリでもいいから続けたい。そこで何ができるのかを考えています。配信は舞台とはまた違う魅力があります。配信での歌舞伎は、これから100年続くうちの1年目だと思っているので、どんどん進化していければ。

吉田 コロナが無ければ配信を考えていませんでした。今だからこそです。「ニューイヤー・バレエ」でも劇場にいらしていただいて、皆さんが同じ空気やエネルギーを共有してほしいと強く思っていました。配信をして気付いたのは、劇場だけではなく全世界のお客様に観ていただけるということです。その広がりに驚きました。配信は(舞台を観に行く)機会がなかなか無い人でも触れられるという意味で良いと思います。幸四郎さんが配信されている動画も興味深く拝見しました。私たちは幸四郎さんがされているようなところまではできていないのですが、新しい試みに取り組んでいかなければいけない。バレエという芸術を分かっていただくには、そういうやり方も必要だと実感しています。

――それぞれの公演に来てくださるお客様に一言メッセージをいただけますか?

幸四郎​ 2年の思いが詰まった新作ですので、その思いを共有していただきたい。思い続ければいつかは夢は叶うという、夢を持ち続けることの大切さ。それって凄く力になるんだというのは感じていて、多くの方と共有したいです。ぜひ見に来ていただければ。

吉田 今このような状態なので、公演ができるかどうかドキドキしています。私たちもできることをやっていきますので、ぜひ劇場に足を運んでいただけたら。よろしくお願いします。

取材・文=高橋森彦