久本雅美、柴田理恵、梅垣義明が所属する劇団ワハハ本舗が、2021年10月28日(木)の東京・新宿文化センター大ホールを皮きりに、全体公演『王と花魁』の全国ツアーをスタートする。「ワハハ本舗を知っていますか?」と問われたら、知っている方は多いだろう。しかし、ワハハ本舗を生で体験したことがある方はどのくらいいるだろうか。全国の大ホールを埋めてきたワハハ本舗だが、まだ観たことがない方も多いはず。そんな方に主宰の喰始の言葉を伝えたい。

“観た気になるな、ワハハ本舗!”

4年ぶりの全体公演に向けて、喰、久本、柴田、梅垣に話を聞いた。

■その手があったか〜! と笑わせたい

ーー昨年、惜しくも延期となった全国ツアーです。世の中の状況がガラリと変わりましたが、どのような演出プランをお考えですか?

喰:今までは客席に乱入したり色々できました。今回は、お客様が不安を感じるようなことはまず止めようと。そこで何をやるか。例えば梅ちゃん(梅垣義明)の場合、鼻から豆を飛ばしたり、客席に放水して、お客さんがキャーキャー笑いながら逃げていたけれど、飛沫感染やソーシャルディスタンスを考えるとどれもできない。じゃあ、梅ちゃん自身が被害を受ける側に変えてみてはどうか。そういった路線変更で、新しくやれることを考えています。梅垣が歌うコーナーに、久本と柴田が乱入してもいいかもしれないね。

喰始

喰始

柴田:それ、楽しそう! やりましょうよ!

梅垣:初コラボ(笑)。

喰:梅垣がメインの場面なのに、みんな久本と柴田に気を取られてしまって梅垣が怒ったり。

梅垣:ちゃんとバランス考えてやってね?

久本:そこは上手いことやりますよ!

梅垣:お客さんが楽しんで、喜んでくれるならそれでいいです。あとは、2人が目立ちすぎないようにしてくれれば!

久本・柴田:やるやる!(笑)

ーーコロナ禍をきっかけに、新しい笑いが生まれそうですね。

柴田:できないことは、確実に増えました。でもそこはお客さんも分かってらっしゃることです。だからこそアイデアを出してやれることをやり、「その手があったか〜!」と笑わせたいです。

喰:逆手にとるという意味では、換気の名目で休憩をたくさん入れることができる。すると、出演者の衣裳替えの時間を作れることになりますから、全員が総出演する派手なシーンを、今までより多く作れるかもしれない。

全員:おおーー!(笑)

■それでも花火を打ち上げるよ

ーーテレビや映像作品でもご活躍の中、生の舞台に立ち続けていますね。

久本:映像のお仕事は本当に面白いですし、バラエティ番組には、瞬間瞬間をどう返していくかの、戦場みたいな熾烈な面白さがあります。でも生の舞台は、何日も稽古をして練り上げたものを、何が起こるか分からない緊張感の中、お客さんからの毎回違う反応に応戦していきます。役者としての精神的な持久力をつけるには、生の舞台に出続けることが一番なんです。以前、テレビドラマ(『その女、ジルバ』久本と梅垣がレギュラー出演)で、草笛光子さんとご一緒させていただきました。ずっと現役で舞台にも立ち続けてこられた方です。あの底力は、本当にすごい! 圧倒的でした!

久本雅美

久本雅美

梅垣:(深くうなずく)

ーー生の舞台は観る側としても、映像とはまるで別物ですね。

柴田:最初の緊急事態宣言が出て、すべての公演が止まった後、ある舞台を観に行った時に「人間がそこにいて、生で演じるって、こんなにいいものなんだ」とあらためて思いました。生気が伝わってくるんです。映像では監督さんの編集が入り、映像としてどう切り取るか。そこが面白くあるけれど、舞台は観る人がそれぞれどこでも好きなところを、見て聞いて、受け止めていい。その良さを再確認しました。

梅垣:生の力は絶対にありますね。ワハハの舞台はアナログなんです。雪を降らせるにも映像ではなく、紙吹雪を作って人間が降らせる。最近はプロジェクションマッピングやデジタルでみせる演出が増えていますが、僕はそれを面白いと思えないんです。生身の人間が、さらけ出してやっているから面白い。お金をかければいくらでも映像でできることはあるんだろうけれど。

柴田:使い方によるね。

梅垣:よるよる!

柴田:そんなこと言って……今回喰さんが映像を使う気だったらどうする?(笑)

喰:使うなら、ものすごいお金をかけて、やってみたいね。ニューヨークで客席から何から全部が映像に包まれて、アトラクションみたいになる舞台がありました。あれくらい!

柴田:すてき!

久本:ワハハにそんなお金があればなあ(笑)。

柴田:お金はないけれど、やりたいことはある。だからアナログでやるんだよね。

久本:そう! あいかわらず段ボールで何でも作ります!

喰:生で観る魅力って、花火大会と同じだと思うんです。花火大会をテレビで見た時、きれいではあるけれど実感はない。花火大会に実際に行くと、いつ誰と、どこから見たか。体験が思い出になります。舞台なんて儲かるものではありません。大きな劇場でお客さんが入ってなんとかトントンという世界。それでもワハハは、いま花火を打ち上げるよ、ということです。

(左から)梅垣義明、柴田理恵、久本雅美、喰始

(左から)梅垣義明、柴田理恵、久本雅美、喰始

■ブラジャーをかぶる素敵な時間

ーーワハハ本舗は、世間的には下ネタや過激な笑いで注目されますが、ファンの方からはどのような感想が寄せられるのでしょうか?

久本:「私、これで良いんだ」と思えたって(笑)。

柴田:大事だよね、自分は自分でいいんだって。

久本:出演者は、美男でも美女でもない。デブもチビもハゲもいます。不器用で決してダンスが上手なわけでもない。そんな皆が笑いのためにアイデアを出し、一生懸命ステージで踊るんです。アンケートに「自分に生きている価値なんてないと思っていたけれど、友達に連れられてきてみたら、私も私でがんばろうと思えた」って。うれしいですよね。

喰:ワハハは、社会には貢献していないけれど、人の心に貢献してる劇団なんです。

久本:やりがいを感じますよ。時々、怒って帰る方もいるんですけれどもね!

ーーそういう方もいるにはいるのですね(笑)。

久本:大きな会場でお客さん全員にブラジャーを配ってかぶっていただき、それを皆で歌に合わせてモミモミってするネタがあったんです。ものすごい一体感で盛り上がったのですが、男性2人組が「なんなんだ」って周りを見まわしながら、つまらなそうに会場を出ていかれたそうで。

喰:終演後、着物でいらしたお客さんにお金を返せと言われたこともありますね。レストランで食事が口に合わなかったら、もう行かなければいいだけの話。まずいと言われるのは構わないけれど、金を返せというのは心が貧しい。

ーーブラジャーの扱いが常識的かどうかはさておき、ワハハ本舗さんの笑いは、誰かを攻撃したり傷つけたりするタイプではないように思います。怒る方は何に怒ったのだと思いますか?

柴田:あまりの価値観の違いに、びっくりされるのかもしれませんね。

久本:価値観や好みは色々で、ブラジャーをかぶることに何の価値があるか問われると、何もないんです。でも「家族で来て、お父さんがブラジャーかぶっているのをみて、ゲラゲラ笑いました」なんて感想を頂くと本当にうれしい。かぶるお父さん、かわいいですよね。

柴田:たしかにブラジャーは頭にかぶるものではありません。胸にあてるものです。でも「かぶるお父さんとかぶらないお父さんなら、どっちが素敵ですか?」と言えば、かぶったお父さん、かわいいじゃない? それを見て笑う娘も素敵でしょう? 自分の世界になかったものに出会ってハッとした時、「何なのこれは!?」と怒っちゃう人もいる。でも「ああ、これでもいいんだ」と思う人もいるんですよね。

柴田理恵

柴田理恵

久本:くだらない非日常的な体験を楽しめるかどうか。楽しめないのは、もったいないですよね。(皆がうなずく中)えーっと……ブラジャーのネタの話ばかりしましたが、これは特殊な例ですよ!

喰:念のため補足しておきますが、ワハハにはお洒落なダンスショーもあります! 裸影絵(※)なんかは、海外の方に「アートだ!」って言っていただけます。

柴田:日本文学をパフォーマンスにしたり、大河ドラマをパフォーマンスにしたり、泣かせるものもあります。裸タイツは、海外の芸術的なボディペイントから着想を得てますしね。私たちは現代アートと思ってやっていますよ?

久本:そう! ワハハは前衛的ではあるんです! ようやく時代が追いついてきましたね(笑)。

(※)裸影絵:舞台上のスクリーンの向こう側で、全裸の俳優が躍る(?)ネタ。ライトからの距離で、人物の影の大きさがダイナミックに変化する。

■いつまでも、ある気がしてたワハハ本舗

ーー芸達者な皆さんが、全体公演で大集合されるのを楽しみにしています。

喰:うちは全員、芸はないです。無芸です(一同笑)。

一同:(笑)。

ーー昨年2月のプレイベント(※宣伝隊長の泉谷しげるさんへのリスペクトを込めたネタを全メンバーが披露)では、バラエティ豊かなネタが次々に登場しました。

喰:梅ちゃんなんて本当に不器用ですよ? 誰かが手裏剣を投げて、それが刺さる演技をさせた時、「エイッ」って投げ終わると同時に「ウッ」って倒れちゃう。早すぎるんです。

柴田:「梅垣! 手裏剣は刺されてから死になさい!」って、伝説のダメ出しがあるくらいに不器用なんですから。

梅垣:不器用は否定しませんよ(笑)。

梅垣義明

梅垣義明

久本:でもカラオケをきっかけに、歌ってみたらどうだ? と喰さんのアイデアで梅垣が生まれて、喰さんのアイデアで私も柴田も育ててもらって、生かしてもらっています。みんな本当に何の芸もないし、何もできなかった。

柴田・梅垣:(深くうなずく)

久本:……とはいっても、それぞれに生まれ持った才能があったんじゃないかな? という気もしています。

一同:(笑)。

ーープレスリリースには「いつまでもあると思うなワハハ本舗」というコピーがありました。“最後の全体公演”としていた「ラスト」3部作以降も続いていたので、いつまでもあるような気になっていました。

梅垣:「いつまでもあると思うな」って、喰さんに言われてあらためてそう思いました。僕自身そういう思いでやらせていただきたいと思ってますし、お客さんにも同じ思いでお越しいただきたいですね。

久本:いつも応援してくださる方々には「お待たせしました!」の気持ちです。まだご覧になったことのない方々にも、ワハハ・ワールドを味わっていただきたいです! このご時世ですし演劇って観るのもお金もかかります。だから若い方に「ぜひ」というのも難しいのは分かっています。でも一回一回全力でやらせていただきますので、ぜひ飛び込んできてください!

柴田:たしかにお安くはありませんが、もしも鬱々とした時は、飲み屋に行くより劇場に来ていただいた方が「こんな世界があったのか!」って解放的に笑っていただけますよ。それに劇場の方がきっと安全。稽古期間中から、消毒、検温、換気にPCR検査を徹底しています。きっと明日から元気に生きていく元気が出ます。ぜひいらしてください!

ーー最後に喰さんから一言お願いします。

喰:昔、日本には大勢が登場する派手なダンスショーや、レビューをみせる歌劇団がいくつもありました。それがいつしかなくなってきて、残っているのは宝塚の大階段をつかったステージくらい。ワハハ本舗の全体公演はそこに笑いが加わった、稀有な存在です。でも、みんないい年齢になっているし、今はコロナだってある。いつか行ける、いつでも行けると思っているうちに、ぜひ一度観にきていただきたいです。つまり、見た気になるな、ワハハ本舗! ということです。

(左から)梅垣義明、柴田理恵、久本雅美、喰始

(左から)梅垣義明、柴田理恵、久本雅美、喰始

取材・文=塚田史香  撮影=池上夢貢