熊川哲也 Kバレエ カンパニー Spring 2021『ドン・キホーテ』が、2021年5月19日(水)〜23日(日)Bunkamuraオーチャードホールにて行われる。キトリとバジルの恋物語を軸にした華やかな古典バレエ3年ぶりの上演だ。話題は飯島望未のKバレエデビュー。アメリカの名門ヒューストン・バレエ団でプリンシパル(最高位)を務めた実力者であると同時に、SNSでの発信やファッション雑誌への登場、有名ブランドのアンバサダー就任などの活動を通して、ファッショニスタとしても注目されている。パートナーを組む山本雅也は2020年にプリンシパルに昇格し、若くしてKバレエのトップとして飛躍中だ。飯島と山本の共演回のうち5月23日(日)13:00公演は日本を含む世界 19 の国・地域に向けたオンラインライブ同時配信される。両者に単独取材を行い、意気込みを語ってもらった。

■"あの"飯島望未が帰国、Kバレエカンパニーへ!

飯島望未

飯島望未

――飯島さんはヒューストン・バレエ団のプリンシパルとして活躍されていましたが、このほど退団し、Kバレエ カンパニー『ドン・キホーテ』に出演します。経緯をお聞かせください。

飯島望未(以下、飯島):コロナで舞台が無くなってしまったのもありますが、以前から日本で踊りたい、バレエ以外にもいろいろなことをやっていきたいという思いを抱いていたので帰国しようと決断しました。そこで、Kバレエ カンパニーにコンタクトを取り、オーディションを受けたいと連絡しました。結果、『ドン・キホーテ』にはゲスト出演させていただくことになり、8月からは正式入団のご返答をいただきました。

――日本で踊ることへの思いは、どのようにして高まったのですか?

飯島:以前、私が日本で踊る舞台をSNSで発信したところ、多くの方が観に来てくださったことがありました。そこで、ちょっとした使命感を覚えたのです。日本には素晴らしいダンサーがたくさんいるのに、一般のお客さんはあまりバレエを観ない現状があるのが悲しく思えて。それを契機に、自分がお客さんに足を運んでいただけるきっかけ作りをしたいと思うようになりました。

ヒューストン・バレエ団時代

ヒューストン・バレエ団時代

――山本さんは飯島さんがKバレエカンパニーにやって来る、しかも『ドン・キホーテ』で一緒に主演すると分かった時、どう思いましたか?

山本雅也(以下、山本):最初は「飯島さんって? あの飯島望未さん!?」と思ったほど衝撃的でした。「ノゾさんが日本に帰ってくるんだ!」と。皆ざわざわしていました(笑)。新しいパートナーなので楽しみにしていましたし、飯島さんをきっかけにこれまでにないファンの方たちにも舞台を見ていただけるのがうれしいです。

山本雅也

山本雅也

――これまでに接点は?

山本:『オーチャード・バレエ・ガラ〜JAPANESE DANCERS〜』(Bunkamuraオーチャードホール芸術監督でもある熊川哲也が総合監修。2015年、2019年に開催)ですね。

飯島:1回目の時は、まだ若かったね(笑)。

山本:入団してすぐの頃でした。

――飯島さんはKバレエ カンパニーにどのようなイメージを持っていましたか?

飯島:いい意味でダンサーひとりひとりの個性が強い。皆本当に個性的で、ダンサーの色が出ていると感じていましたし、レパートリーにも憧れていました。

『オーチャード・バレエ・ガラ』2019年公演時「ロミオとジュリエット」(C) Hidemi Seto / Bunkamura

『オーチャード・バレエ・ガラ』2019年公演時「ロミオとジュリエット」(C) Hidemi Seto / Bunkamura

■憧れの熊川哲也の下、新世代が活気づくKバレエの現在

山本雅也

山本雅也

――山本さんは2020年1月『白鳥の湖』でジークフリードを踊り、舞台上で熊川さんからプリンシパル昇格を告げられました。それから程なく感染症拡大の影響で公演をお休みした期間がありましたが2020年10月の『海賊』で公演活動を再開し、2021年3月、約1年ぶりに『白鳥の湖』を踊りました。この時期、中村祥子さん、遅沢佑介さん、宮尾俊太郎さんといったスターの皆さんが、それぞれの道を歩むことになりました。創立から20年を経て世代交代期に入り、新世代の台頭が話題になりますが、山本さんはカンパニーの雰囲気に変化を感じたりしますか?

山本:自分が入団した当時から考えると、僕がトップの立場になるとは夢にも思いませんでした。今のカンパニーの雰囲気が大きく変わったとは思いませんが、背中を追ってきた先輩方がいらっしゃらないのは個人的にもさびしい想いもあります。プリンシパルとしての責任を感じる一方で、飯島さんのように、経験あるダンサーが入って盛り上げてくれるのは刺激になります。

『白鳥の湖』(2021年)(C)Hidemi Seto

『白鳥の湖』(2021年)(C)Hidemi Seto

――飯島さんは実際にKバレエ カンパニーに身を置いてみていかがですか?

飯島:皆が優しいですね!私の偏見かもしれませんが、日本のバレエ団はピリピリしていたり、上下関係が厳しかったりするのではないかと思っていました。ところが、Kバレエは皆仲が良く、雰囲気もいいですね。

――山本さんが入った頃も、なじみやすかったですか?

山本:そうですね。僕はマイペースにやらせてもらっています(笑)。

飯島:海外も含めカンパニーの色や雰囲気はおのおの違います。ダンサー同士の関係性やディレクターとの距離感も違うので、どこがいい、何がいいと一概には言えないですね。

昨日、熊川さんがリハーサルにいらっしゃいましたが引き締まります。そういった緊張感、一丸となる気持ちは大事ですね。熊川ディレクターが素晴らしいのは、実際に踊って見せてくださること。男性だけでなく女性が見ても学ぶことが多くあるので勉強になります。

飯島望未

飯島望未

――山本さんは熊川さんが審査員をされていた時のローザンヌ国際バレエコンクール(2013年)で受賞し、英国留学を経て入団した縁もあって、熊川さんの秘蔵っ子ではないかと感じます。

山本:ここまで育てていただいたことに対して感謝の念があります。自分らしく踊らせていただいています。初めて主役に抜擢された時は必死でしたが、逃げ出したいと思ったことはありません。プリンシパル昇格について「いずれは……」と思ってはいましたが、去年の『白鳥の湖』で上げていただけるとは考えていませんでした。

飯島:トップが皆の憧れで、目指すべきところだと捉えている。そこがいいなと思います。

■「人間味あふれる演技を」(飯島)「自分のバジルを踊りたい」(山本)

左から 飯島望未、山本雅也

左から 飯島望未、山本雅也

――『ドン・キホーテ』のリハーサルで組んでみてお互いの印象はいかがですか?

飯島:凄く踊りやすいです。パートナーリングがしっかりしているし、よく合わせてくれます。

山本:楽しいです。パートナーリングを合わせるのは当然ですが、安心して踊っていただいているようなのでよかったです。

――フィーリングも合っているのですね?

山本:そうですね。やりやすいです。

飯島:自然に入っていける。空気感や相性も合っていると思います。

左から 飯島望未、山本雅也

左から 飯島望未、山本雅也

――山本さんは2018年にバジル役を踊っています。飯島さんは『ドン・キホーテ』のキトリを全幕で踊ること自体初めてですね。それぞれの目から見た熊川版『ドン・キホーテ』の魅力・特徴を教えてください。

飯島:物語がはっきりしていて、キトリと(幻影として現れる)ドルシネアは別人だという設定が明確です。キャラクターが見て分かりやすく、ダンサーの立場からしても表現しやすい。一方でステップがとても多く、テンポも速くて本当に難しいです。息を切らしながら頑張っています。

山本:僕もいまだに難しいと思いながら踊っています。ストーリーはシンプルで分かりやすく、踊りの華やかさも確実にある。眠くなるようなバレエではありません。他のバージョンがちょっと物足りないと感じるくらい熊川版が体に染みついています。

山本雅也『ドン・キホーテ』(2018年)(C)Shunki Ogawa

山本雅也『ドン・キホーテ』(2018年)(C)Shunki Ogawa

――熊川さんにとって『ドン・キホーテ』は、ローザンヌ国際バレエコンクールでゴールドメダルを受賞した時をはじめ世界の檜舞台で踊ってきた代表作です。Kバレエ カンパニーにおいても、2004年の初演以後歴代のダンサーの方々が受け継いできた十八番のレパートリーですね。

山本:前回のバジル役デビューの時は、「熊川哲也の、Kバレエ カンパニーの『ドン・キホーテ』を踊っている」という感慨が強くありました。ディレクターが踊るバジルって、世界中のバレエをやっている誰が見ても「テツヤが一番!」と口をそろえると思うんです。だから、それに倣ってやらなければKバレエの『ドン・キホーテ』にはならないと考えていました。でも、今回は2度目となり、プリンシパルとして踊るので、気負い過ぎないようにしたいですね。それに熊川哲也にはなれないですし(笑)。かといって、すべてを自己流でやるつもりはありません。山本雅也と飯島望未が、フレッシュに踊る。僕はKバレエのエッセンスが身体に染みて入っているので、そこを踏まえ新しいパートナーと共にいい意味で自分のバジルを踊ることができれば。

『ドン・キホーテ』ビジュアル(キトリ:飯島望未)(C)Toru Hiraiwa

『ドン・キホーテ』ビジュアル(キトリ:飯島望未)(C)Toru Hiraiwa

――飯島さんは『白鳥の湖』『ジゼル』などの古典全幕を踊っていますが、『ドン・キホーテ』のキトリの役柄をどう捉えていますか?

飯島:他の古典バレエの主役よりも人間味があります。普通の人間の感情に近いですね。バレエのマイムは大きくなりがちだし、どうしても硬くなってしまいますが、『ドン・キホーテ』ではいい意味でそこが崩せるし、お客さんから見ても親しみを感じやすいのではないでしょうか。熊川ディレクターのバージョンならではの、より人間味あふれる演技をお見せできればと思います。

■『シンデレラ』でも共演決定! 来季の魅力的なラインナップに期待

左から 飯島望未、山本雅也

左から 飯島望未、山本雅也

――秋以降の新シーズンのラインアップが発表されました。10月の『シンデレラ』で再びおふたりの共演が決まりました。12月は恒例の『くるみ割り人形』、2021年1月は熊川さんの『クラリモンド〜死霊の恋〜』(世界初演)と渡辺レイさん(舞踊監督)の『FLOW ROUTE 222』によるダブル・ビル、3月に『ロミオとジュリエット』、5月に『カルメン』と続きます。その辺りを視野に入れて今後の抱負をお聞かせください。

飯島:『シンデレラ』も楽しみですが、『ロミオとジュリエット』をぜひ踊りたいですね!昔から好きなバレエなので、日本で全幕を踊るのが夢ですし喜びでもあります。渡辺さんの作品も楽しみです。役に入ることができるかはまだ分かりませんが、渡辺さんからエネルギーやさまざまな知識を吸収できたらいいですね。

山本:『シンデレラ』『ロミオとジュリエット』に主演したのはまだ1回だけですし、パートナーが違えば演じ方や物語が変わってくるので楽しみです。『カルメン』は主演したことがないのでぜひやりたいですね。『くるみ割り人形』は毎年踊らせていただいていますが、常に課題がある作品です。『クラリモンド〜死霊の恋〜』/『FLOW ROUTE 222』もとても楽しみにしています。

左から 飯島望未、山本雅也

左から 飯島望未、山本雅也

取材・文=高橋森彦 撮影:荒川潤