コンドルズ埼玉公演2021新作『Free as a Bird』が、2021年6月5日(土)〜6日(日)彩の国さいたま芸術劇場大ホールにて行われる。コンドルズ(1996年結成)は学ラン姿をトレードマークとする、30代から50代までの男性が集うダンスカンパニー。ダンスに加えて生演奏や人形劇、映像、コントを繰り広げ、他に類を見ない舞台を生んでいる。世界約30か国で公演し、NHKホール公演も即日完売、追加公演をしてきた彼らの活動の中でも、2006年より続く彩の国さいたま芸術劇場での新作公演は個性的かつ挑戦的で人気が高い。なお、2021年4月より主宰の近藤良平が彩の国さいたま芸術劇場次期芸術監督に就任した。近藤と石渕聡、古賀剛というベテラン勢に、埼玉公演の軌跡や新作について熱く語ってもらった。

■近藤良平、彩の国さいたま芸術劇場次期芸術監督に就任!

近藤良平

近藤良平

――近藤さんは本年(2021年)4月より彩の国さいたま芸術劇場次期芸術監督に就任され、2022年4月の芸術監督就任に向けて準備に入りました。コンドルズ埼玉新作公演や障害者ダンスチームのハンドルズの公演などを通じて、埼玉県の芸術文化へ貢献してきたことが選任理由として挙げられています。オファーを受けた際の率直なお気持ちは?

近藤良平(以下、近藤):びっくりしました。芸術監督って何をするんだろうと。新鮮な気持ちになり、あらためて履歴書を書くような印象でした。内定したことをコンドルズのメンバーにさえ長い間明かせませんでした。プロデューサーの勝山(康晴)にすらなかなか言えなくて。黙っていなくちゃいけない事柄って、普通あまりないじゃないですか? 手放しでワクワクしているんだけど言えない(笑)。ようやく今年2月に発表され、メンバーにも話ができました。いま、劇場の事務室のデスクとデスクの間を歩く自分の姿が不思議ですね。

――メンバーのお二方は、どのように受け止めましたか?

古賀剛(以下、古賀):良平が皆に対して「実は……」と切り出すと衝撃が走り、大騒ぎになりました。特にスズキ拓朗は蜷川幸雄さん(前芸術監督、2016年死去)に学んだこともあるので、後任に良平が就くと聞いて「良平さんのことを信じてきてよかった!」と大号泣でした。皆、彩の国さいたま芸術劇場が大好きですし大喜びしました。

石渕聡(以下、石渕):うれしかったのと同時に「よくぞ!」という気持ちが強かったですね。コンテンポラリーダンスという形式の無いカテゴリーから演劇や伝統芸能、バレエをかいくぐって選ばれた。彩の国さいたま芸術劇場が未来に向けて新しい伝統を創っていく気概を感じて本当にうれしかったですね。20年以上前の我々は、どちらかというと権力とか権威とは反対側にいました。モダンダンスではないような新しいもの、良平がやりたい世界をやっていたのに、50代になってメインストリームに位置付けられたのかなという象徴的な出来事だと思いました。

■常に新作、埼玉公演ならではの面白さとは?

左から 石渕聡、近藤良平、古賀剛

左から 石渕聡、近藤良平、古賀剛

――埼玉新作公演は2006年に「コンドルズ埼玉スペシャル公演」として始まり、2009年からは「コンドルズ埼玉公演」に名を変えて続いています。彩の国さいたま芸術劇場プロデューサー佐藤まいみさんの肝いりです。埼玉での公演の特徴は何だと認識されていますか?

近藤:10回目くらいになると任務になってきて、いい意味で1年に1回は埼玉で公演するというペースができました。大ホールの舞台面と同じ広さを持つ稽古場で創ることができるのは大きい。新しいものを創りたいというよりも、新しいものしかできないですね(笑)。

まいみさんが最初に呼んでくれた時は幸運でした。劇場に来ると「あっ、蜷川さんが歩いている!」みたいなノリだったので(笑)。そこから積み重ねがあって、今の立場になりました。現在コンドルズを劇場主催公演として呼んでくれているのは埼玉だけです。まいみさんが海外から招聘するカンパニーと同じ位置付けにコンドルズを持ってこようとしたのは、とてもリスクが高いことですよね。「新作を! ここでしかできないことをやって!」とずっと言われてきました。

石渕:ここに移動してきて皆で作品を創る。本当に恵まれた環境です。それを意識し始めたのは、5年目、6年目くらい。「埼玉では本気でクリエイションできるよね」という認識になるのには少しタイムラグがありました。それからは意気込みが全然違ってきて、クオリティの高いものを創れている、という自覚があります。

コンドルズ埼玉スペシャル公演2006『勝利への脱出 SHUFFLE』(2006)©HARU

コンドルズ埼玉スペシャル公演2006『勝利への脱出 SHUFFLE』(2006)©HARU

古賀:最初は「新しい作品だったらいいだろう」みたいなノリだったんですが、6、7年目くらいになると、よりコンセプチュアルなものを求めるようになってきました。夏のツアーは全国を回さなければいけないので、王道の流れ、勝ちパターンでいきます。でも、埼玉では自由に挑戦できる。

石渕:夏のツアーはダンスを初めて観る人に向けても創っています。その点、彩の国さいたま芸術劇場の客層は舞台インテリジェンスが高いじゃないですか。だからダンスを観続けてきた人を唸らせるくらいのアート性を舞台空間そのものに盛り込むことができる。

古賀:同じ踊りをやっているんだけど、舞台背景が変わるだけで意味が全然違うという発見が『ストロベリーフィールズ』(2015年)などの作品でありました。そういったアート的な遊びができるのは凄くうれしいし、埼玉でしかできないんだろうなと。

コンドルズ埼玉公演2015『ストロベリーフィールズ』(2015) ©HARU

コンドルズ埼玉公演2015『ストロベリーフィールズ』(2015) ©HARU

――作品タイトルも楽しみです。『十二年の怒れる男』(2012年)や『アポロ13』(2013年)のように映画の題名や年号と絡ませたりもしています。どのようにタイトルを付けるのですか?

近藤:近辺の出来事とかからですね。『ひまわり』(2014年)の時は、その前にオランダ公演があったんです。向こうにいる時、まいみさんから「早く題名を付けて!」と何度もメールが来るので、「今日ゴッホ展を見にいくんだよな」と思って付けました(笑)。

一同:(爆笑)。

――石渕さん、古賀さんが特に印象に残っている作品は何ですか?

古賀:『ストロベリーフィールズ』と『ひまわり』が大好きですね。あと『17's MAP』(2017年)ももう一度やりたい。『白と黒のナイフ』(2009年)からコンセプチュアルなものがはっきりと出てきて、大きく変わったと思います。『ストロベリーフィールズ』は石渕さんが海外から戻ってきたばかりで、大きな舞台機構を初めて大々的に使いました。『ひまわり』に関してはコンセプトがしっくり来ています。良平の好きなこと、好き勝手にやりたいところもいっぱいありつつアートのコンテキストもあって、その混ざり方がいいんです。それから、『18TICKET』(2018年)で、石渕さんがやる(定番ネタの)"シャーマン"が生まれたでしょ?

コンドルズ埼玉公演2014『ひまわり』(2014) ©HARU

コンドルズ埼玉公演2014『ひまわり』(2014) ©HARU

コンドルズ埼玉公演2009『白と黒のナイフ』(2009) ©池上直哉

コンドルズ埼玉公演2009『白と黒のナイフ』(2009) ©池上直哉

石渕:そう。"シャーマン"って、超夏っぽいよね!

古賀:だから夏のツアーで回そうと。埼玉で実験をしていたら、バケモノコンテンツが生まれた。

石渕:『ストロベリーフィールズ』は、コンドルズに久々に復帰したので、非常に思い入れがあります。あとは階段を使った『Like a Virgin』(2019年)。あれは舞台から引っ込んで、あえて見づらい状況でやっていくというのが、ちょっとコペルニクス的転回というか非常に楽しかったですね。

■2020年の中止公演に代えて新作ビデオダンスを配信

左から 石渕聡、近藤良平、古賀剛

左から 石渕聡、近藤良平、古賀剛

――昨年2020年5月30日〜31日に行う予定だった『Golden Slumbers』は、新型コロナウイルス感染症拡大の影響を受けて残念ながら公演中止になりました。それに代わって、コンドルズ埼玉新作ビデオダンス2020『I Want To Hold Your Hand』の映像配信を2020年5月30日(土)〜6月8日(月)に行いました。その経緯をお聞かせください。

近藤:『Golden Slumbers』はチラシまで作ったのに幻になってしまいました。中止が決まって最初は『Golden Slumbers』としてビデオダンスを創ろうとしたのですが、気持ちが乗らなくて。『I Want To Hold Your Hand』は、(カーペンターズの)『Close To You』じゃないけれど、少し人との距離を感じる。その頃、"STAY"と"DISTANCE"が騒がれていたので、そういうタイトルにして、やれることをやろうとしたのが基本ですね。

――皆さんが自宅などで撮影した映像を同じ画面に並べたりしながら展開しました。

古賀:打ち合わせもすべてリモートでした。

石渕:良平が劇場で踊るラストシーンも良平だけが劇場に行ったんです。

古賀:(ピアノを伴奏していた)石渕さんすら現地に行かなかったんですよね。

石渕:収録された映像を見ながら家でピアノを弾きました。僕と良平が劇場に行くという話も出たのですが、それまで1回もメンバーに会っていなかったから、そこは絶対に貫いたほうがいい。最後の最後に2人が同じ舞台面に上がった瞬間、今までのシステムが壊れてしまう。

古賀:不思議な体験でした。いつもは皆すぐ側で踊り、質感を揃えるんですが、画面越しだと説明を聞いても難しい。でも、ベテランだけで創る場面もあって楽しかったですね。

コンドルズ埼玉新作ビデオダンス2020『I Want To Hold Your Hand』(2020) より

コンドルズ埼玉新作ビデオダンス2020『I Want To Hold Your Hand』(2020) より

コンドルズ埼玉新作ビデオダンス2020『I Want To Hold Your Hand』(2020) より

コンドルズ埼玉新作ビデオダンス2020『I Want To Hold Your Hand』(2020) より

――仕上げは大変でしたか?

近藤:映像の担当はオクダ(サトシ)さんです。僕たちは映画が好きなのですが、急に映像を創ることになったので皆うるさくて。音の入り方とかタイミングにこだわりがあって、皆がギャーギャー言い出したんです。30分くらいの長さがあり、映像を送り合うだけでも大変で、何度も何度もダウンロードしては直しました。皆のOKが出ると、舞台とは違う達成感がありましたね。公開は『Golden Slumbers』の初日開演時刻と同時で、カウントダウンの画面を出しました。外から映像で本番スタートを見るという、今までにない緊張感を覚えています。

古賀:いつもは構成会議の時から「1幕を創って、2幕を創って」というような肌感覚があります。でも、30分でこれだけのシーンを創るとなると、肌感覚では分かりませんでした。

コンドルズ埼玉新作ビデオダンス2020『I Want To Hold Your Hand』(2020) より

コンドルズ埼玉新作ビデオダンス2020『I Want To Hold Your Hand』(2020) より

――コンドルズのさまざまな魅力が詰まっていると感じました。全国からの反響があり、コンドルズを昔見ていたけど埼玉まで行けないという方も見てくださったそうですね。

石渕:去年5月の段階で、ダンスの側から舞台が上演できない代案として映像を発信できたのは大きいと思うんです。演劇界に比べてダンス界はちょっと遅れていたので。映像でこうやって出せる、しかも皆が1回も会わないで創ったことによって1つのモデルケースになれたのではないかと。

古賀:良平のやり方って「できることをやろう」というスタンスです。コロナになって良平が毎日家で映像を撮って配信していましたが、大事なことです。閉塞感がある中で、良平がそのようにやっていたという下敷きがあったからだと私は思います。身の丈じゃないけど、自分たちができることをしっかりとやって、しっかり社会に生きるというのがいいなと。

石渕:コンドルズのtwitterでの映像展開も埼玉での映像配信がきっかけです。メンバーが交替で2分くらいの作品をガッツリと創りました。30代から50代の超ベテランまでが所属するカンパニーが、若手カンパニーみたいなワクワク感と共に新しいことをやっている。

石渕聡

石渕聡

■2021新作では「鳥のごとく自由に」

左から 石渕聡、近藤良平、古賀剛

左から 石渕聡、近藤良平、古賀剛

――今年の新作『Free as a Bird』について伺います。これは『Golden Slumbers』同様ビートルズの楽曲から来ていますね。この曲はジョン・レノンが遺した曲を残されたビートルズメンバーが拾い出し、リミックスして発表されました。そこに想を得たのはどうしてですか?

近藤:タイトルの通りですね。時間を超えているし、国を超えている。まさに鳥のごとく自由。創るモチベーションも含めて『Free as a Bird』的な思いを乗せてもいいのかなという気がします。あまり曲がった考えはないですね。クリエイションの中で、どこかに鳥が飛んでいくようなイメージも出てくるだろうし、コンドルズの個人を尊重する集団としての在り方も反映されるタイトルかなと。

――埼玉の劇場でリアルに作品上演するのは2年ぶりです。いまのお気持ちは?

古賀:うちの新作としても2年ぶりです。こんなに楽しいことはない。マスクを付けてのリハーサルは相当辛いですが、我々は(舞台での)立ち位置も決まっているので安心するんですね。

古賀剛

古賀剛

コンドルズはホームページにSDGs(持続可能な開発目標)について書いているように、きちんと社会に向けて発信していく。コンドルズに注目していただき、良平が彩の国さいたま芸術劇場次期芸術監督になりました。社会貢献も期待されているし、我々もそれに応えていくつもりですが、そういう前提がありつつも『Free as a Bird』=自由にやるよというコントラストが凄くいいなと。何にも囚われず、良平が言ったように時間や空間を超えていく。良平が得意とするところです。ワクワクしています。

石渕:新しい作品を生み出す瞬間のワクワク感があります。すべての予定を投げ打ってでも来たいくらいですね(笑)。「楽しい!」という一言しかないです。

古賀:家族からは相当文句を言われています(笑)。ゴールデンウィークなのに稽古ばかりだと。

石渕:もう、しょうがない(笑)。ごめんなさいと言うしかない。

近藤:本当に飽きないんです。

石渕:25年やっているんですが飽きていない。ある意味凄い(笑)。

左から 古賀剛、石渕聡、近藤良平

左から 古賀剛、石渕聡、近藤良平

――最後にあらためて抱負をお願いします。

石渕:久々の新作ですし、驚くような裏切りをみせたい。今まで奇跡的な演出を偶発的に生んできました。ちょっとした思い付きから凄い奇跡が生まれてきたので、それを呼び込みたいですね。そのために埼玉に通い、良平とキャッチボールをして奇跡の瞬間を呼び込めれば。

古賀:埼玉では皆凄く議論するんです。埼玉では何かにこだわって極限までできるので、今回も絶対何かにこだわると思います。見た目でも、コンセプチュアルな面でも楽しみにしてほしいですね。今のメンバーは最高なので、一緒にこだわったものを創ることができる自信があります。ぜひ見に来ていただきたいです。

近藤:こんな時期ですが無事に公演ができれば……。4分の3くらいはそんな気持ちです。そこに行くまでに曲がり角がいくつもあるので大変です。とにかく無事に上演したいですね。

コンドルズ埼玉公演2021新作『Free as a Bird』トレイラー

取材・文=高橋森彦 撮影=荒川潤