2021年夏、ミュージカル『王家の紋章』が帝国劇場に帰ってくる。

細川智栄子あんど芙〜みんによる同名漫画を原作に、『エリザベート』『モーツァルト!』など大作ミュージカルを手掛けてきたシルヴェスター・リーヴァイが作曲・編曲、荻田浩一が脚本・作詞・演出を務める本作。2016年に日本初演、その半年後に異例のスピードで再演を迎えて4年経った今、新キャストを迎えてついに再々演が決定した。古代エジプトに生きる若き王メンフィスと、現代のアメリカから古代へタイムスリップしてしまう少女キャロル。時空を超えた二人のロマンスが壮大な世界観で描かれる。

徐々に本作の歌稽古が始まりつつあるタイミングで、初演、再演とメンフィスを演じてきた浦井健治と、新たにメンフィスを演じる海宝直人によるWメンフィス対談が実現した。それぞれにミュージカル界の第一線を歩み続け、今回初めて本格的にひとつの作品に臨むことになる二人。互いの印象や、再々演に向けての想いを語ってもらった。

「海宝くんとWキャストでやらせていただくことが、何よりも嬉しくて」(浦井)

ーー『王家の紋章』は三度目の上演となります。出演に向けてのそれぞれの想いを聞かせてください。

浦井:原作者の細川先生方が人生を懸けて現在進行形で取り組み、世界中で愛されている少女漫画の金字塔である『王家の紋章』のミュージカル化。初演、再演とやらせていただく中で、責任、重圧、達成感、それらをみんなで味わってきた月日だったなと思います。再々演となる今回、海宝くんとWキャストで一緒にやらせていただくことが僕は何よりも嬉しくて。メンフィスを演じる上で原作に忠実にやらなくてはいけないということもありますが、演劇・ミュージカルとしてのメンフィスへのアプローチもありだと思うんです。それを二人で、しかも個人的にとても尊敬している大好きな海宝先生とできる。ミュージカル『王家の紋章』をこのメンバーで作ることは、僕にとってはすごく幸せなこと。再々演というより、今回また新しくみんなで作っていこうという心構えでいます。

浦井健治

浦井健治

海宝:『王家の紋章』は学生時代にたまたま家にあって、僕が読んだことのある数少ない少女漫画です。当時、まさか自分が舞台で演じることになるなんて微塵も思っていませんでした。特に古代エジプトチームのキャラクターは、現代人にないダイナミクスというか、現代に生きる我々には考えられない価値観の中に生きています。僕自身が経験できないような感覚を俳優として味わえるのはすごく楽しみですし、みなさんとご一緒できることもエキサイティング。浦井さんとは今回初めて現場でご一緒させていただくので、本当に楽しみです。メンフィスは今まで僕が演じたことのないようなキャラクターなので、荻田さんと稽古でいろいろなアプローチを試しながらチャレンジしていきたいです。

ーーお二人は今回初めて現場でご一緒されるとのことですが、お互いの印象は?

浦井:いろんな方から、海宝くんの素晴らしさをたくさん聞いています。芸歴は自分よりも長いんですよ。これまでの海宝くんの生き様というものが、今の彼の人脈や信頼に繋がっているような気がします。穏やかだけれど信念を持っているところも役者として尊敬できるし、信頼できると思うんです。ミュージカル界、演劇界で海宝直人としてちゃんと君臨している。一方で謙虚ですし、お芝居に対して自分がどう思うかということを冷静に分析しながら歩んでいるんだろうな、と。何より、歌声のファンです!

海宝:恐縮です……! 僕、浦井さんは舞台で何作品か拝見していて。確か初めて観たのは『アルジャーノンに花束を』。

浦井:本当に!? 『アルジャーノン〜』観てくれていたのかあ。嬉しいなあ。

海宝:作品によって印象が全然違うというのが、僕の浦井さんの印象。何色にも染まって変わっていく。変身していくというか、メタモルフォーゼというか(笑)、本当に別人のように見える。底が見えないんですよ。本能的に役に入っていっているように見えたので、すごいパワーだなと思いました。メンフィスもそうじゃないですか? ひとつの違うスイッチが入るような感じ。

浦井:必要ですよ、ファラオスイッチ(笑)。

海宝:そうですよね(笑)。その変身する様を稽古場で間近で見ることができるのが、今回とても楽しみです。

浦井:結構大変ですよ。稽古場で布をマントみたいに羽織って、メンフィスの扮装全くなしで「うぬ」とか「ういやつ」とか言わなきゃいけないから(笑)。あと「私の足に接吻しろ」とかね(笑)。

海宝:冷静な気持ちではいられないですね(笑)。

(左から)浦井健治、海宝直人

(左から)浦井健治、海宝直人

「ビジュアル撮影時、自分じゃない誰かになっていく感覚がありました」(海宝)

ーー『王家の紋章』のポスターにはとても美しいお二人の扮装姿があるのですが、ビジュアル撮影で衣裳を身につけたときの感想を聞かせてください。

浦井:プロデューサーの方が初演、再演と自分のメンフィスを観てくださっているのもあって、開口一番に「懐かしい」って言われたんですね。海宝くんだったら「わー! キャー!」みたいな。でも浦井は出てきたら「あー懐かしい」で終わり(笑)。自分としては結構頑張ったんですけどね(笑)。今回は新しいキャストが多いので、お客様の反応も含めて自分も楽しみたいと思います。海宝くんはどうでした?

海宝:いやもう、すごかったです! 撮影のとき、かっこいい写真を撮るためにみなさんおだててくれるんです。そのときの女性陣の感想がすごいおもしろくて。「はあー! 腕折られたーい!」みたいな(笑)。そのときの僕は原作のことはそんなに詳しくなかったので、「何のことですか? どういうことですか?」って(笑)。原作でメンフィスがキャロルの腕を折るシーンがあると聞いて「ああそういうことか」って(笑)。 ヘアメイクの方が漫画を手元に置いて進めてくださるんですが、できあがっていくにつれて段々自分じゃない誰かになっていく感覚がありました。衣裳もそうですし、ストレートのロングヘアもそうですし(笑)。だからできあがるまで一体どうなるんだろうって、僕怖くて。

浦井:あはははは(笑)。

海宝:荻田さん演出の作品だと、あまり経験させてもらえることのない服装や格好にチャレンジさせてもらうことが多いんです。メンフィスの衣裳やヘアメイクができあがったときは、その世界に入っていく手助けというか、パワーがあるなとも感じました。立ち居振る舞いや表情が自然と変わるんです。

浦井:確かにそのとおりなんです。本番中も自分では衣裳が着れないし、実はメンフィスって衣裳替えが多くて、早替えの時も何人もスタッフさんがついてくださるので、それも含めてファラオとしての感覚や役をみんなで作っていく感じがあります。カンパニーのみんなも「ファラオ」って呼んでくれるので、それに乗せられていくような。衣裳、メイク、周りの人たちの助けによって役者は成り立っているんだなと思います。

(左から)浦井健治、海宝直人

(左から)浦井健治、海宝直人

ーー古代エジプトの少年王メンフィスは、どんな役だと捉えていますか?

浦井:唯我独尊で元祖オラオラ系、俺様系。メンフィスは血が故に王族として生まれてずっと育てられてきたから、自我が芽生えたときには既にファラオとして生きている。だから人を人とも思えない。王としての自覚はあるけど、ある意味で子どもらしさとピュアさを持ち続けている人物だなと思います。我々役者としては、突飛なキャラクターなので理解していくのがとても大変。「ファラオって何? まずはエジプト展に行こうかな」みたいな(笑)。まずそういう段階を踏むのですが、今回は海宝くんと二人で客観的に作っていけるので、いろんな捉え方をしてより人間味が深くなっていくんじゃないかな。そんな期待をしています。

海宝:荻田さんが今回作る『王家の紋章』のメンフィスに、どういうアプローチをしていくのがいいのかというところはまだわかりません。でも、漫画としてある意味デフォルメされたキャラクター像としてのアプローチもできると思うし、もうちょっとリアリティの方向から役を掘っていくこともできなくはないのかな、というのが今の感触。ちょうど最近、エジプトの勉強をするために『ツタンカーメン 呪われた王家の血』という海外ドラマを観たんです。冒頭のシーンがすごくおもしろくて。王である父を早くに亡くしたツタンカーメンは、幼いときに王位を継承しなければならなかった。あるとき自分と同じくらいの年の子どもを処刑することになり、ツタンカーメンはナイフを手渡されます。彼自身はすごく怯えていました。けれど、宰相はツタンカーメンの手を取って子どもの心臓にナイフを突き刺し、「これがファラオなのです」と言う。そのシーンを見て、こういう感覚が必要なんだろうなあって。今の時代から見たら残虐かもしれないけれど、当時の帝王学としては当たり前のこと。宗教感覚も死生観も違う。演じる側がそういうことを理解した上で生ききらなきゃいけない。そういう特殊な舞台なんだろうなって。理解できていないと、役者ってどこかでブレーキがかかってしまうので。当時のエジプトの価値観が、役作りの手助けになってくれるのかなと感じました。それでいて、メンフィスの無邪気でピュアな少年性と、ファラオとして崇め奉られる存在というアンバランスさも魅力のひとつ。人を本当に愛したことがなかったメンフィスが、キャロルとの出会いで変化していく姿もまた魅力的だと思います。

シルヴェスター・リーヴァイの楽曲への挑戦

ーー巨匠シルヴェスター・リーヴァイさんが手掛ける楽曲も作品の大きな目玉だと思うのですが、そこに挑戦する意気込みをぜひ。

浦井:僕は『エリザベート』の舞台を踏ませていただいたときに、初めてリーヴァイさんの楽曲に挑戦しました。とにかく難しくて、体力と繊細な技術が必要だということを痛感したんです。ですが、いざちゃんと歌えるようになると音楽が味方してくれるような感じもありました。天才的な芸術家であるリーヴァイさんの楽曲の洗礼を受け、それを武器にして舞台に立てるということにすごく感謝しています。

海宝:浦井さんがおっしゃっている通り、本当に体力がいるなと。息継ぎポイントがあまりない楽曲が多いので、しっかりと歌いこんで表現するにはまだまだ稽古が必要です。何よりも、この楽曲をキャラクターとして歌うということがこの作品の肝だと思っています。しっかりと楽曲を表現することに加え、曲によってはキャラクターのテイストも表現していきたいと荻田さんと話しているんです。例えばメンフィスのオラオラ感を出すために、あまり丁寧に歌い過ぎないようにしていくとか。楽曲の中でのキャラクターとしての表現というのが、これからの課題かなと思っています。

海宝直人

海宝直人

ーー最近歌稽古が始まり、お二人で参加された稽古もあったと伺っています。

浦井:海宝くんの第一声の響きでクラクラ酔えるんですよ。「目覚めて♪」って歌ったら、「あー目覚めちゃったー!」みたいな説得力があります(笑)。木下晴香ちゃんもいて、三人での歌稽古だったんです。晴香ちゃんと海宝くんのデュエットを僕は特等席で聴かせてもらったんですけど、お手本のように上手くて! お互いにその場でちゃんと反応して、緩急を一緒につけられるんですよ。やっぱり人間って努力をし続けるとこういう声が出るんだなあって。キラキラした宝石が目の前にあるようでした。きっと稽古場が学びの場になるんだろうなとワクワクしていています。

海宝:僕は浦井さんが歌ったメンフィスの曲の音源をずっと聴きながら、音や歌い方を勉強しています。それこそ「うわー本物のメンフィスだ!」と思いながら(笑)。舞台って、本番を踏むのと踏まないのとでは圧倒的に表現や理解が違うんです。近々また歌稽古でご一緒する予定があるので、浦井さんのメンフィスの歌が聴けるのを楽しみにしています。

ーー浦井さんにとっては3年ぶりの帝国劇場主演。海宝さんは、2020年に中止となってしまった『ミス・サイゴン』以来の帝国劇場での作品となります。今回の公演に特別な想いがありましたら教えてください。

海宝:僕が初めて帝国劇場に立たせていただいたのは、19歳のとき。『ミス・サイゴン』でアンサンブルをやらせていただきました。それまでは子役という形で参加していたので、僕にとっては大人の俳優としての第一歩。初めて自分でいろんなことを考えました。アンサンブルもそれぞれ自分たちで役の名前をつけたり、出身地や家族構成を考えたり、ワークショップをしながら作品を作っていったんです。公演自体も長かったですし、とてもいろんなことを勉強させてもらいました。そういう意味でも、僕にとって特別な思い出が詰まった劇場です。

浦井:帝国劇場に立たせていただくのはこの上なく名誉なこと。しかも今回も主演のメンフィス役をやらせていただくというのは、すごく役者冥利に尽きるというか……誰もが立ちたいポジションだと思うんです。それをやらせていただくからには、ちゃんと責任を背負わなきゃいけないと思います。コロナ禍の中、帝国劇場で上演中の『レ・ミゼラブル』がお客様に愛され熱狂的に受け入れられているのを見て、エンターテインメントの素晴らしさを改めて感じると共に、文化というものは人の心に必要なものなんだなと確信しました。エンターテインメントに関わっている者として、先行きが見えない中で役者やスタッフを守るため行動してくださる主催者の方や、演劇を守っていくために手を取り合って協力する人々の姿を、この一年間僕はたくさん目にしてきました。またこうして帝国劇場で上演できることのありがたみを感じています。まずは上演できること自体が奇跡だと思うんです。なので、誰一人欠けることなく、感染対策を徹底して安心安全な状態で堪能していただけるよう、みんなで古代エジプトを盛り上げていけたらなと思っています。

(左から)浦井健治、海宝直人

(左から)浦井健治、海宝直人

ヘアメイク=山口淳<浦井>、友森理恵<海宝>
スタイリスト=森田晃嘉<浦井>、津野真吾(impiger)<海宝>
衣装協力=EMMA CLOTHES、MONO-MART<海宝>

取材・文=松村蘭(らんねえ)  撮影=中田智章