2021.6.23(Wed)ReoNa Acoustic ONE-MAN Live Tour 『ふあんぷらぐど2021』@Zepp Tokyo

”絶望系アニソンシンガー”ReoNaが自身のファンクラブ「ふあんくらぶ」会員限定のアコースティックライブツアー『ふあんぷらぐど2021』東京公演を行った。

会場となったZepp Tokyoは満員。コロナ禍で雑談などは全く聞こえてこないが、そこにいるのはReoNaの絶望と希望に魅せられた人々だ、そこには間違いなく強い思いがある。ReoNaのライブはいつも熱狂と静寂が渦巻いているようだ。

舞台上は額縁やパイプ、布がかけられており、背後には大きく白いバラがあしらわれている。どこかガラクタのような、朽ち果てた美術館のような、荒涼とした世界。会場が暗くなり、ピアノのSEの中に混ざって雨の音が聞こえてくる。雷鳴の音とともにReoNaはそこにいた。お歌の時間の始まりである。


「おやすみの詩」から始まった音楽、ReoNaは地面に打ち捨てられた額縁の中央に立ち歌う。演奏もギターの高慶“CO-K”卓史とピアノの荒幡亮平のみ、ミニマムな編成だが一曲目から音の厚みに驚かされる。

『ふあんぷらぐど』はReoNaのオリジナル曲だけではなく、彼女が歌うカバー曲を楽しむことが出来るのも魅力の一つ。軽やかに奏でられたのはダニエル・パウターの「Bad Day」だ。自身がカバーしたことをきっかけにダニエル本人のライブにゲスト出演するという奇跡も起こしてきたReoNaだが、シンプルな構成ゆえにそのシンガーとしての上達ぶりも堪能することができた。

デビューから見てきた中で、圧倒的に上手くなったと思えるのはボイスコントロールの部分だ、囁くようなウィスパーな歌声も、体に響かせるような低音も乱れることなくしっかりとメロディとともに客席に届く。元からのピッチの良さ、声の質感の良さはあったReoNaだが、表現を伝えるテクニックも確実に身に着けている。

最新シングルの表題曲でもある「ないない」はTVアニメ『シャドーハウス』の世界観を見事に表現したテクニカルな一曲。今回は照明やセットを含めた世界観でアコースティックながら素晴らしい完成度。声の出せない環境でのライブながら、観客の目と心は静かに確実にReoNaに引き寄せられていく。


「私の魂とあなたの魂、そこに何か違いはあるのでしょうか?」

ReoNaから魂という言葉がこぼれたら、それは代表曲「ANIMA」への助走だ。THE FIRST TAKEでも披露したこの楽曲は彼女の持つアイデンティティと『ソードアート・オンライン アリシゼーション War of Underworld』という作品の精神性が見事なレベルで合致した一曲。そこからの流れで演奏されたのは「Scar/let」。切なく激しいこの楽曲はアコースティックverとして、スパニッシュなギターサウンドと鍵盤ハーモニカの叙情溢れるアレンジで刺激的に展開された。原曲とは違うアレンジで見たことのない曲の一面を覗き見れるのも嬉しいところだ。

MCを挟んで「Lotus」、力強く歌うReoNaはずっと額縁の中にいる。彼女は基本ライブ中に動くことはない。水を飲んだりギターを受け取ったりという動き自体はあるが、歌いながらステージを縦横無尽に……ということは絶対にない。いつもReoNaは舞台の中心にあって、お歌を紡ぎ続けている。


しかし今回そのステージに額縁が一つあるだけで印象が凄く変わるのには驚いた。まるで一枚の絵だけの展覧会を観るような感覚。それくらいシンプルな構成で発せられるお歌たちは曲ごとに表情を変えていく。

先日発売された5枚目のシングル「ないない」に収録されている「生きてるだけでえらいよ」は傘村トータの音楽性と精神性がReoNaとの化学反応を起こした一曲。ポエトリーリーディングのように、日々募る一言では表せないような辛さを訥々と語られる。その独り言のような言葉たちが非日常のライブ空間で、音楽として完成していく工程を見た気がする。

生きづらさの吐露がささいな許しの歌へと変貌する瞬間、ライブとしては初披露のこの曲を聴くことができただけでも今回のツアーに参加する意義があるのではなかっただろうか。


ここからはカバーソングの時間。夏休みの思い出トークの中で「ジ・アースに乗ったり……」という段階でアニメファンは「おっ!?」と思ったかもしれない。石川智晶によるアニメ『ぼくらの』主題歌である「アンインストール」が本日の日替わりスペシャルだ。

想像通り、いや想像以上にこの曲はReoNaにマッチしている。違和感なく自分のテイストで歌い上げながらも、オリジナルへのリスペクトも感じられる歌唱。続いて歌われたのもアニソン、というにはあまりにもビッグメジャーな一曲。アニメ『魔女の宅急便』エンディング曲である松任谷由実(当時は荒井由実)の「やさしさに包まれたなら」。

数多のミュージシャンがカバーしてきたであろうこの名曲を、絶望系アニソンシンガーが歌うというのは刺激的に感じるかもしれないが、原曲の持つカントリーテイストはReoNaの源流の一つでもある。そしてデビューして三年を経て、ReoNaの持つ“絶望系”というものは、決して希望を否定するものではないということを僕らは知っている。豊かに歌い上げるReoNaから温かいものが伝わってくる。


「ジブリソングからもう一曲」その言葉の後アカペラで歌い始めたのは「Country Roads」。やはりReoNaの血には確実にカントリー・ミュージックが流れている。カントリーの持つ言葉にできない叙情性は絶望というキーワードとどこか紐づくところがあるのかもしれない。

勿論この曲はアニメ『耳をすませば』で本名陽子がカバーしているのだが、元々はカントリーの大御所、ジョン・デンバーの大ヒット曲だ。ReoNa自体が自身の曲「あしたはハレルヤ」の中でもジョン・デンバーという歌詞を歌っているが、色々な点が線としてつながるこの感覚はとても面白い。

カバーは続く、先日自身のYouTube チャンネルでも公開されたイーグルスの「Desperado」もここで歌われた。正直渋い選曲と言わざるを得ないと思うのだが、ReoNaというフィルターを通して会場のファンに楽曲が浸透していく姿はある意味感動的でもあった。

イーグルスといえば「ホテル・カルフォルニア」に代表されるようなアメリカン・ロックの象徴のように感じられるかもしれないが、この「Desperado」を発表した1973年頃の彼らは確実にカントリー・ロックを意識したサウンドワークを行っていた。そして「ならず者」という意味のこの歌、やはり彼女が選ぶサウンドはマスターピースでありながら、ReoNaのパーソナルに対する軸は全くぶれないものをチョイスしている。だからこそ心地よく世界観に浸りながら曲を楽しめるのだろう。


「Desperado」から間髪入れず歌われたのはReoNaの持ち曲「unknown」。世界的な名曲からシームレスに繋がっても何もおかしくないのは、楽曲の強さの証明かもしれない。ReoNaが立つ後ろには一輪の大きな白い薔薇は照明を浴びてそれぞれの色に染まる。まるで額縁にとらわれて動けないReoNaの感情を表すように、何色にでも染まれる花は明滅する。

ギターを手に持った彼女が放つ「誰にも期待されていないなら、それは自由だ」という言葉。「ALONE」の調べに合わせて照明が赤と青に輝く。舞台にかけられたドレープの布が赤く、青く舞うそれはまるで血管のように見えた。静脈と動脈が脈動する。血がめぐるように音楽がZEPPの空間に行き渡る。

「Life is alone 巡る季節に置いてけぼっち」と歌う彼女はたしかに額縁の中にいる。ReoNaがそこから出れないのだとしても、孤独を感じたのだとしても、そのお歌を受け取る観客たちは彼女の近くで彼女を見続けている。たとえ今は声を出せないとしても、思いは繋がっているのだと感じられる。目に見えない関係性を感じさせる場の力、それを生み出す素晴らしいパフォーマンスだった。


カバー曲として最後に披露されたのはヴァネッサ・カールトンの「A Thousand Miles」。ReoNa自身が2020年に行うはずだった全国ツアーのタイトルも『A Thousand Miles』。あなたに会えるなら1000マイルも超えていくという強い強い思いの曲。会いに行けなかったという思いも乗っていたのだろうか、ついにこの曲を歌えたという気持ちをひしひしと感じながらの歌唱。そしてこの日の最後の曲は、彼女が初めてレコーディングしたという「Rea(s)oN」。

きらめくミラーボールが会場を星の世界のように染める中、ギターの音も軽やかに、出会えた奇跡を歌うReoNaは間違いなく僕たちの目の前でお歌を届けようとしていた。震える声帯が音を作り、そこに乗った感情は表現として突き刺さる。無機質になってしまった世界に、そのメロディは確実な現実としてそこにあった。それが泡のように消える刹那だとしても、体験はその鼓動が止まるまで残り続ける。


すべてを歌い終え、ゆっくりと額縁から歩み出たReoNaは、いつものように客席をしっかりと見渡し、深々と頭を下げてステージを後にした。たった一枚の絵画だけの展覧会はこうして幕を閉じる。

ReoNaを見ていたのに、様々な人の人生に触れたような充実感。それは彼女や彼女を支えたギターの高慶“CO-K”卓史とピアノの荒幡亮平、そして全てのスタッフの思いが乗ったライブだったからだろう。ReoNaは多くの思いを背中に背負って歌えるシンガーに成長している。

今年の秋から全国7か所をまわるライブハウス&ホールツアー『ReoNa ONE-MAN Concert Tour 2021 "These Days"』の開催も発表された、きっとReoNaはその心臓が動き続ける限り、僕らに体験をくれる。


レポート・文=加東岳史 撮影=平野タカシ