日本公演40周年を迎える、ブロードウェイミュージカル『ピーターパン』が2021年7月22日(木・祝)からめぐろパーシモンホール 大ホールで開幕する。2014年に読売演劇大賞で大賞・優秀演出家賞を受賞した、新進気鋭の森新太郎が演出を務め、今回が4度目となるピーターパン役を吉柳咲良、フック船長・ダーリング氏役を小西遼生が演じる。
 
今回、SPICE編集部では、演出の森新太郎に単独でオンラインインタビューを実施。昨年は、新型コロナウイルスの感染拡大の影響で全公演中止となってしまったが、その1年間があったからこそ新しい演出プランも生まれたそうだ。どんな舞台になるのか、思いを語ってもらった。 

コロナで中止になったからこそ、演出プランを深く練ることができた

ーーお稽古は順調でしょうか?

驚くべきスピードで進んでいますね。これだけやること多いのに。

『ピーターパン』稽古場より

『ピーターパン』稽古場より

ーー通し稽古などはもうされたのですか?

通しはあと数日後になりそうです。僕もやってみて、びっくりしているんです。ミュージカルって、ストレートプレイに比べて、歌あり、踊りありで、要素が多いですよね。特にこの『ピーターパン』はフライングや、ティンカーベルの明かりのこともやらなくてはいけないし、あと、これは僕が勝手にやったことですけど、人形をたくさん使っていて、もうやること満載なんです。
稽古はすごく多めに時間をとってもらってはいますが……今、どういう状態かというと、「ここ手が余っている人いるかー?」と声をかけて、「あなたは、ここの場面は手があいているから、これやって」みたいな状態(笑)。よくみんな手伝ってくれているなと思いますね。

ーー「劇団」のようですね(笑)。

はい。本当に最高の劇団ですよ(笑)。

ーー昨年の公演は新型コロナウイルスの感染拡大の影響で、全公演中止になってしまいましたが、森さんは「1年間考える時間が増えた」とプラスに捉えていらっしゃいますよね。

そうですね。去年延期になったことで、今回出れなくなった俳優さんもいるので、残念ではありますけど、演出家としてプランを練れたという点では、プラス以外の何物でもないですね。また、とても感謝していることなんですけど、去年の段階で、空の劇場をお借りして、1回目の舞台セットのプランを仮組みさせてもらっているんですよ。

こんなこと普通できないんですけど、制作さんとスタッフさんのご好意で、一度試してみようかということになって。おかげで、初期のセットの良さが分かったし、足りない点も判明した。そこから1年熟成させたので、よく練れているなと思います。

『ピーターパン』稽古場より

『ピーターパン』稽古場より

ーー日本初演の演出をベースにするという点は変わらず、細かい点をさらに練られていったということですか。
そうですね。ただ、ネバーランドが月の向こうにあるかもしれないし、ここにあるかもしれないということを形にした舞台セットはこの1年で思いついたアイディアです。去年はその辺りの考えが反映できていなかったんですけど、今年はそこまで追及できた。
もともと、テーマパークみたいに作り込むのは違うなとは思っていました。従来の『ピーターパン』って、よくできたデコレーションで埋め尽くしたり、最近では映像を使って幻想的な雰囲気を作ったりしているんですけど、僕の場合は、もうちょっと素朴なものがいいなと。そして、明らかにお芝居だということが分かるセットでやりたいなと思っていました。
 
その考えを、美術の堀尾(幸男)さんに説明していて。堀尾さん自身は『ピーターパン』が3度目で、「もうやり尽くしたよ」なんて言われたんですけど(笑)、「堀尾さんもやったことのないような『ピーターパン』にしたい」と口説きまして。例え話として、「大きな布一枚でネバーランドを表現するみたいな、それぐらい素朴な世界を見立ての工夫で作っていきたい」という話をしたら、本当に大布一枚のプランが来たんです(笑)。
 
それで、どこまでやれるか試したんです。堀尾さんが、大布がたえず揺れていると面白いよとか教えてくれて。なるほど、そうすることによって目に見えないネバーランドの風まで感じさせることができる。姿を変える大布が生き物のように見えるときもあって、刺激的なセットではあったんです。

ただそれだけでやろうとすると、どうしても今回の演出のコンセプトを十分には表現できなくて。子どもの寝室とネバーランドが常につながっているような、境目がはっきりしないような舞台にしたいという新たな要望を出して、現状、すべてのことがうまく融合された舞台になっていますね。

吉柳咲良は、歴代とは違う、「特殊な」ピーターパン

(左から)吉柳咲良、小西遼生 製作会見より 撮影=五月女菜穂

(左から)吉柳咲良、小西遼生 製作会見より 撮影=五月女菜穂

ーー4度目となるピーターパンを演じる吉柳咲良さん。成長は感じられますか?

はい。成長しかしていないと思っています。まだ17歳。稽古場で彼女によく言っているのは「楽をするな」。そんな生半可なエネルギーで舞台上に立つなと口酸っぱく言っています。
 
全体で見れば、ちょっとしたワンアクションかもしれないけれど、どんな瞬間でも汗をかくぐらいのエネルギーを費やしていないと、これほどシンプルな話の場合は、お客さんの興味を引き続けられない。そのためにはまず身体です。フルに使いきらないと。身体の隅々にまで意識を張り巡らせ、大胆に、なおかつ的確に感情を表現できるよう彼女にしつこく言い続けてきました。1か月以上稽古をする中で、彼女もかなりその意図を理解してきてくれていると思います。

僕が彼女に求めているピーターパンは、台本に書かれているピーターパンを素直に具現化すると「こうなる」ということだけなんですけど、今回は歴代いないタイプの特殊なピーターパンになっている気がしますね。

ーー特殊なピーターパンとはどういうことですか?

一言で言うと、こんなに有頂天な奴はいなかった(笑)。こんなに陽気で、勝手気ままなピーターパンはいなかった気がします。
 
今回潤色を担当しているフジノサツコさんは、たくさんの文献に当たっているので聞けばいろいろと教えてくれるんです。皆さんが、バリの原作通りだと思っている箇所が、実はミュージカル用に別の作者によって改変された部分だったり、有名なディズニー映画によるイメージだったりもする。フジノさんのレクチャーによると、バリの描いたピーターパンはまだ乳歯が全部残っているらしいので、僕たちが思っているよりもずっと小さな子を想像しないといけない。上だとしても小学校低学年ぐらいで、ウェンディもそれと同じぐらいの年齢を想定していかないとダメ。
 
というのも、大人の感覚でピーターパンの心をひも解いていくと、ちょっとセンチメンタルな奴になっていくんです。生まれてすぐに両親と離れ離れになっているという背景もありますし。だけど小説を読んでみると、それでいつも悲しい思いをしているわけではなくて、むしろ、そういうことをほとんど忘れて生きている。目の前の楽しいことばかり夢中になっている。そういう本来の年齢設定で考えると、ピーターパンは、意外となんの矛盾もなく、僕の中では存在できるんです。

『ピーターパン』稽古場より 吉柳咲良

『ピーターパン』稽古場より 吉柳咲良

吉柳は、最初の頃、悩んでいました。彼女も3年ピーターパンをやってきて、「考えれば考えるほど、内面的な流れが分からなくなる」と言っていた。だから「自分の物差しで考えるな」と伝えました。子どもって、この世の終わりだというぐらい路上で大泣きしていても、すぐそばを消防車が通ると「あ、消防車!」と言って、ケロっと泣き止んだりするじゃないですか(笑)。

俳優は、あれを体現しないといけなくて。あの感情の飛躍。そうすると、なんら不自然なことなく、正真正銘の子どものピーターパンが現れる。実に一般的な子どもの姿だなとも思うし、僕らも間違いなくかつてはこうだったんですよ。忘れてしまっているだけで。すぐに大人の思考回路で整合性の取れるような芝居を目指しがちですが、ことこの作品に関しては、我々が無くしてしまった無軌道ぶりを意図的に生み出さないといけないんじゃないかなと。そんなふうに、稽古を重ねていった結果、とんでもなく浮かれたピーターパンが出現してしまいました(笑)。

ーー楽しみです。

去年公演が中止になったので、ホリプロさんからビデオをお借りして、これまで上演してきた全部の『ピーターパン』を見たんですけど、本当に「今までこんな奴いなかった!」というぐらい変な男の子になりましたね。

ーー見どころのひとつですね。

いやいや、ひとつどころか、これぞ見どころですよ! 舞台セットなどで工夫も凝らしますけど、肝心要はピーターパンの造形だと思っているんです。我々の周りにもいますよね、一緒にいるだけで、こちらが幸せになっちゃう男の子。その一挙手一投足がみんなを堪らなく、ウキウキさせてしまう男の子。それがピーターパンをやる俳優に課せられている仕事のような気がしています。どれだけ生き生きと自由で、魅力的な男の子を作れるか。本当に僕は1番の柱はピーターパンの造形だと思っていますよ。

望み通りのフック船長。小西遼生の本性はいかに?

ーーその造形にも関わる、もうひとつ大事な役がフック船長。演じられる小西遼生さんについてはどう見ていらっしゃいますか?

『ピーターパン』稽古場より 小西遼生

『ピーターパン』稽古場より 小西遼生

まだ作品を作り出した最初の頃に、同じように小西くんについてコメントを求められて、「彼の新境地を開くことが僕のひそかな野望です」と言った記憶があるんですけどね、今、彼は、こちらが望む通り、かなりお馬鹿なフック船長になりつつあって(笑)。
 
これは果たして新境地なのか、もともと彼はこんな奴だったのか分からなくなっています。これまで小西くんって二枚目の役が多くて、“そっち”担当なのかなと思っていたのに、あれ、“こっち”担当なのかと(笑)。いや、嬉しいですよ。僕が無理にこじ開けることなく、のびのびと新境地を開いてくれているので。いや、でも新境地じゃなくて、もともと“こっち”だったのか?(笑)。

すごく、いいですよ。ピーターパンと同じぐらい子どもっぽいフック船長を演じてくれています。役柄上、子どもたちは応援まではしないだろうけど、「なんか自分たちに近しいものがある」と感じる、そういうチャーミングな悪者になっていますね。

なぜ40年も長きにわたって愛されるのか

ーー今回が日本公演40周年です。ここまで長きに渡り、作品が愛される理由はなんだと思いますか?

やっぱり、今、このコロナの時期に作っているからかもしれないですけど、ここまで底抜けに明るい芝居はめったにないんです。ウェンディは最後ネバーランドに行けないというちょっと切ないところもありますけど、でも、それとて、自分の子どもがネバーランドに行くということで未来に向けてちゃんと光が描かれていますしね。これほどまでに、生きていることの肯定に満ちている芝居はないです。
 
原作者のバリの祈りのようなものを僕は感じていて。バリ自身が、近所に住む実際の男の子たちと、公園でごっこ遊びをしているうちに、『ピーターパン』の物語ができたわけで。それで、その子どもたちが成長してごっこ遊びから卒業していき、それをバリは寂しく思って、いつまでも残しておきたいと希求して、戯曲にしたり、小説にしたりしてきた。
そんなバリの願いが込められているので、ネバーランドは永遠に輝きを失わない場所なのだと思います。いつの時代にも子どもたちには輝いていて欲しい、至極単純なメッセージかもしれませんが、それをこうも力強く訴えかけている作品って他にないような気がして。それがこの作品が多くの人に愛され続け、特別なものとして残っている理由なのかなと思います。

ーー森さんの演出作品の中でも、明るいですよね(笑)。
 
はい(笑)。この作品を観て、うつむいて帰る人はいないんじゃないかな。うつむいて帰る芝居、僕、嫌いじゃないんですけど、これはこれで唯一無二の作品だなと。ここまで前向きな内容だと、作り手側はかえってものすごいエネルギーを要求されるものですね。

『ピーターパン』稽古場より

『ピーターパン』稽古場より

森新太郎がミュージカルの演出の時に心掛けていること

ーー森さんは『パレード』の演出が初めてのミュージカルの演出で、だいぶ慣れてきたのではないですか?

いや、笑っちゃうぐらい、慣れてないですよ(笑)。毎日、現場に音楽監督の村井(一帆)さんとか、歌唱指導の満田(恵子)さんとか、振付の新海(絵理子)さんとかに来てもらっていて。本人たちはそう思っていないと思いますけど、僕のお守り役のようなことをしてくれています(笑)。

例えば、ミュージカルの専門的なこと。譜面の何小節のどうのこうのとなると、最近では知っているフリをすることすら面倒になっちゃって、もうすぐ聞いちゃうんです。「これは、今、どうなっているの?」と。そうすると、向こうも僕の違和感を察知してくれて、それはそれは丁寧に相談に乗ってくれる。
 
彼らの支えなくしては、音楽の力を十全に活かしきることはできません。なので、自分の中ではミュージカルの演出家としては全然まだまだだなと思っています。
 
ーーミュージカルを演出する際に気をつけられていることを教えてください。
 
これは『パレード』の時もよく言っていたことですが、歌も芝居でやってくれ、ということですね。ミュージカルだし、きちっと音程外さずに歌いたい……。まぁ音程外さないというのは基本なのかもしれないけれど、それよりも大事なのは芝居だと思っていますから。なぜこの場面で歌うのか、なぜこの旋律を使うのか。その意味をしっかりと考えないといけない。考えないと、せっかくの歌がもったいない。
 
今回ひそかに僕が助かっているのは、潤色したフジノさんが、訳詞をし直してくれているんです。語りかけるような歌詞に整えてくれたので、そのことが僕がストレートプレイの感覚で作品を作れているひとつの理由ではあるんです。
 
もちろん、僕はミュージカルの歌をいらぬ制約だと思ったことは一度もないです。ストレートプレイにはない要素なので、ただただ新鮮で楽しい。ミュージカルの人にとってはこんな僕こそが新鮮な存在だと思いますので、お互いに気付きを与えうるような関係性を築けたらいいなと思っています。

『ピーターパン』稽古場より (中央)森新太郎

『ピーターパン』稽古場より (中央)森新太郎

ーー最後に、観客のみなさまに一言お願いします!
 
『ピーターパン』を初めて観る人も多いと思うんですけど、これだけ長くやっていますから、すでに何回も観ている人も少なくないと思うんです。僕の友達にも初代ピーターパンの(榊原)郁恵さんバージョンを観ている人が結構います。でも、本当にリニューアルしましたから! 「これ、同じ『ピーターパン』?」と驚かれるような舞台になっているような気がします。

それは、決して奇をてらって変化球を投げたということではありません。かつてバリが描いてみせた、本当と嘘の境目が分からなくなるような、壮大なごっこ遊びの世界を僕なりに再現した結果、こうなりました。そんなわけで、従来のファンの方こそ観に来てもらいたい『ピーターパン』です。厳しいお叱りでも構いませんので、ぜひ皆さまの感想を聞かせて欲しいなと思います。

取材・文=五月女菜穂