7月3日(土)から18日(日)まで、大阪松竹座で幕を開ける『七月大歌舞伎』。大阪の夏を呼び込む風物詩として長年、愛されている歌舞伎興行だが、昨年はコロナ禍により中止に。2年ぶりの大阪松竹座公演となる今年は、昼の部に、1796年に伊勢・古市の遊廓で実際に起こった事件を基にしたサスペンス『伊勢音頭恋寝刃(いせおんどこいのねたば)』と、江戸の祭りを題材にした歌舞伎舞踊『お祭り』を、夜の部は大坂、京都を舞台に親子の情愛や義理の兄弟の絆を描いた『双蝶々曲輪日記 引窓(ふたつちょうちょうくるわにっき ひきまど)』と、男女の悲恋と親子の慈しみが胸に染みる『恋飛脚大和往来 新口村(こいびきゃくやまとおうらい にのくちむら)』を上演する。『伊勢音頭恋寝刃』と『双蝶々曲輪日記』には「上方歌舞伎が大好き」という松本幸四郎も出演。開幕を前に、現在の心境や作品への思いを聞いた。

松本幸四郎

松本幸四郎

――2年ぶりの『七月大歌舞伎』になります。開幕直前の今のお気持ちをお聞かせください。

昨年1月の興行が終わって以来、大阪松竹座で歌舞伎興行が開催できませんで、この7月にやっと開くということで、喜びと興奮でいっぱいですね。

――2020年はコロナ禍で公演中止が相次ぎました。ただ、その間、幸四郎さんは「図夢歌舞伎」をはじめ、様々なことに挑戦され、今後の歌舞伎の可能性も感じられることがたくさんあったと思います。そんな1年を経て、改めて舞台でお客様の前で演じるということについては、いかがですか?

舞台で演じるというのは歌舞伎の基本ですけども、と言って舞台がないと何もできないのかというと、そんなことはないだろうと思ってたどりついたのが配信であったり、いろいろな形だったと思います。それぞれが始まりだと思っていますので、舞台が再開されても両方、共存できるものではないかなと思っています。僕は配信で「王道の歌舞伎」というのはありうることだと思っていましたし、それは舞台では絶対できない、舞台とはまた違うものだったと思っていました。なので、だったらわざわざ、「わざわざ」と敢えて言いますけど、わざわざ劇場に来ていただいて、観ていただくということでしか味わえないこと、舞台を生で観る、時間を合わせてもらう、劇場まで来てもらうということ、そこにもっと意味があり、それでしか味わえないことがあると思うので、そもそもの舞台の魅力というものを見つめ直してやっていくということの始まりなのかなと思いますね。

松本幸四郎

松本幸四郎

――昨年4月に曾祖父様の七代目の幸四郎さんが終戦からわずか2ヶ月で歌舞伎を上演された映像が見つかり、そのニュースをご覧になって「何かをしよう」という気持ちになれらたこともおっしゃっていました。

当時も歌舞伎が必要とされていたということだと思いますので、それは今の時代に歌舞伎役者を名乗っているわけですから、この時代でも必要とされる存在の役目は担わないといけないなと思っています。こうして関西でも歌舞伎興行が大阪松竹座で開き、また続きますので、これは本当にありがたいと思います。

――では、それぞれ演目のお話を。まず昼の部の『伊勢音頭恋寝刃』では福岡貢を演じられます。

福岡貢の役は一度、歌舞伎座でやらせていただきました。青江下坂という刀と折紙(鑑定書)取り戻す、それを主君に渡す、この思いを常に忘れずに持っているということが福岡貢を演じるにあたっては大事なことだと思います。お紺という女性に対してや、また、刀で大勢の人を殺めたりなど、そこでのドラマがいろいろありますが、忠誠心ですべてが繋がっていると思います。

――コロナの影響で、これまでと見せ方も変わる場面もあるのでしょうか。

それはあります。ただ、今、上演する、今、歌舞伎を公演するということが第一ですので、逆にドラマに焦点を当てた作りになっています。

――『伊勢音頭恋寝刃』は十人斬りもあり、凄惨ではあるのですが、とても美しいという印象です。

そうですね。殺しが美しさだったりしますので、これは歌舞伎の特徴であり、得意技ですね。殺しを陰惨ではない見せ方があるというのは歌舞伎の強みだと思いますので、実際、油屋で舞の会が始まって、その曲をバックに殺しが行われるわけですが、真逆ですよね、殺しと音楽とが。その対比によってより際立っていると思います。

松本幸四郎

松本幸四郎

――また、福岡貢が心理戦を繰り広げる仲居万野の憎々しさもこの作品の面白だと思うのですが、今回は万野を扇雀さんが務められます。

本当にありがたいことですけども、怖さもあります(笑)。

――夜の部は『双蝶々曲輪日記』に相撲取りの濡髪長五郎の役でご出演されます。このお話は親子の情愛が描かれていますが、どのような印象をお持ちですか。

これはもう大好きなお芝居で、悲劇ですけれどもそこに情愛、また絆を強烈に感じられます。与兵衛も濡髪も両方やらせていただいていますが、どちらも葛藤といいますか、それが非常にドラマチックですね。上方には人間味の強いお芝居がたくさんありますが、その中でも『双蝶々曲輪日記』は代表的な作品だと思います。

――お好きな場面はどちらでしょうか?

最後の最後で、(人を殺めた)濡髪にお母さんが縄をかけて、濡髪の前髪を剃り、(郷代官となった濡髪の義理の兄弟の)与兵衛に「濡髪を捕縛してくれ」と。そこでお母さんが自分の気持ちをすべて話す、そこまでの時間ですかね。お母さんに縄で縛られて、前髪を剃られる間は全くの無言です。結構長い時間なのですが、じっとして剃ってもらっているその時間の気持ちは大きいですね。

――話は変わりますが、YouTubeチャンネルの『歌舞伎ましょう』で2021年の抱負として「お芝居を書きたい」「ラーメンを作りたい」と語っていらっしゃいました。今年も半年が過ぎましたが、進捗はいかがでしょうか。

そうですね、お芝居を作ってみたいというのは強く思っていることではありますが、ラーメンはずっと思い続けていたいですね(笑)。本当に作ってみたいですけど、行動するまでは至ってないです(笑)。お芝居は新作歌舞伎を書きたいのですが、配信もできましたので、映像での歌舞伎ということも一つあるなと思っています。

――では最後に、『七月大歌舞伎』を楽しみにしていらっしゃるお客様に一言、メッセージを願いします。

『七月大歌舞伎』が開催できることを本当にありがたいと思っていますし、嬉しいですし、また自分がそこに参加できるということが本当に幸せだと思っています。大阪松竹座での歌舞伎の始まりで、これを皮切りにまたいろんな歌舞伎を上演していきますので、ぜひとも皆様と時間を共有させていただきたいと思います。 

松本幸四郎

松本幸四郎

取材・文=Iwamoto.K 撮影=ハヤシマコ