俳優・佐々木蔵之介がプロデュースする「Team 申」が、2021年7月17日(土)より、朗読劇を除くと11年ぶりの本公演をスタートさせる。

今作のテーマは、2020年に放送されたドキュメンタリー番組「中国王朝 英雄たちの伝説」で取り上げられた清の第五代君主・雍正帝。番組のロケで中国に訪れ、彼の生き様に触れた佐々木の要望によって、同ドキュメンタリー番組を担当し、雍正帝について調べ尽くした阿部修英が初の戯曲を制作した。演出は劇団桟敷童子の主宰で、テレビドラマ『めんたいぴりり』の脚本でも注目された東憲司。さらに、ドラマや映画、舞台といった幅広いフィールドで活躍する実力派キャストたちが顔を揃える。

前日に行われた取材会には、佐々木蔵之介、中村蒼、脚本の阿部修英、演出の東憲司の4名が登壇。まずはこの作品についての思いや意気込みが語られた。

佐々木蔵之介

佐々木蔵之介

佐々木:緊急事態宣言中ですが、こうして公演ができることに感謝しています。

この企画は、去年放送されたNHKのドキュメンタリー番組で行った中国のロケがきっかけで生まれました。「暴君」というテーマで三人の皇帝の人生を辿ったうちの一人が雍正帝だったんです。その生き様を見ていると、暴君だけどユニークな独裁政治をしていて、この人は面白いな! と思いました。

これを作品にできたら面白いな、演じてみるのもいいなと思いました。チーム申というのは私のプロデュースで、自分の好きな芝居をこっそりできたらいいなと思って立ち上げました。今回は中村蒼くん、阿部さん、東さんと皆さんに賛同いただいて、バチッと本番に至れることになりました。

脚本・阿部修英

脚本・阿部修英

阿部:私はこれが初の戯曲。普段はTVのディレクターをしています。コロナ禍の前、佐々木さんと一緒に中国に行きまして、その時の体験が戯曲になったことが嬉しいです。

「雍正帝って誰なんだ?」と思う方も多いと思います。中国の皇帝では始皇帝とラストエンペラー・溥儀という最初と最後だけが有名なんですが、200何人の皇帝の中で一番エキセントリックで、一番面白くて、一番パワハラ気質で、一番ワーカーホリックなのがこの雍正帝じゃないかと思います。史実に基づいて書いてみたので、ぜひ楽しんでいただけたら。

演出・東憲司

演出・東憲司

東:雍正帝という人物は独裁者であり、ひどい男なんですけど、すごく魅力的で。

日本人には中国の皇帝って馴染みがないと思うんですが、この話が現代の日本とマッチしていると僕は思うんです。コロナ禍でのリーダー観とか。この男が今の日本にいたらどうなるんだろうと考えながら稽古をし、キャストの皆さん、阿部さんの力を借りて作り上げてきました。ぜひご覧いただければと思います。

中村蒼

中村蒼

中村:初日を迎え、お客さんの反応を直に感じながらお芝居できることにワクワクしています。

ほぼ史実なんですが、台本を読んでいて「本当にこんな人がいたのか」と思いました。毎日稽古していても、毎回驚くことばかりで。そんな雍正帝に真正面からぶつかっていくオルクという人間を演じることで、僕自身が雍正帝と蔵之介さんの魅力に魅せられていました。この作品を皆さんと共有できるのを楽しみにしています。

ーーきっかけはドキュメンタリー番組ということですが、テーマに選んだ決め手はありますか?

阿部:僕は演劇にしようとは全く考えていなかったので、ロケ終わりに佐々木さんからお話をいただいて腰が抜けるくらい驚いたのを覚えています(笑)。

ただ、雍正帝が暮らしていた北京を歩くうちに、最初は暴君というちょっと遠い存在だった雍正帝に佐々木さんが共感していくのが見えて、僕の頭の中では雍正帝の顔が佐々木さんになっていたので。なんなら弁髪に見えてくるみたいな(笑)。

佐々木:これまで日本の殿様やヨーロッパの王などを演じてきましたが、中国の皇帝を演じるのは初めて。中華演劇を見る機会もあまりなかったので、初めてづくしで面白く思っています。

ドキュメンタリーで教わったんですが、中国とEUの広さは同じなんです。EUはあれだけ国があって民族や言語や文化がある。中国はそれがひとつの国で、たった一人の皇帝が全てを決める。

雍正帝はピラミッドの頂点にいるけど、大臣とかをすっ飛ばして地方の末端、現場の人らと手紙のやりとりをする。紫禁城(明・清代の皇宮)は広いですけど、2LDKくらいの部屋から出ず、20時間働いて、過労死した。で、趣味はコスプレだと。さらに手紙の言葉が汚い。でもユニークな言葉を使う。なんとも面白くて、この人はただの独裁者じゃないぞ、よく見るとすごいことをやってるぞと思ったのがきっかけです。

ーー中村さんは独裁者と直接対峙する難しい役どころですが、工夫している点はありますか?

中村:いや、あんまり……(笑)。ただひたすら東さんの演出にしがみついて、他のキャストさんに置いて行かれないように夢中でやっています。夢中で必死にもがいている感じが、結果的にオルクの真っ直ぐさ、誠実さにつながっていけばいいなと思っています。

蔵之介さんとは皇帝と地方官という、他には例えづらい関係性なんですが、蔵之介さんは目の奥に鋭いものを持っていて、目の前でお芝居をしていると、勝手に試されているような気分になるんです。恐縮しちゃうので、関係性は蔵之介さんの眼力のおかげで自然とできてるかと。

ーー東さんは群像劇を得意とされているイメージです。今回のような少人数の作品を演出する上での苦労、注目して欲しい点があれば教えてください。

東:皆さん魅力的なキャストさんなので、そこは自信を持って「観てください」といえます。ただ、阿部さんの本は場面が込み入っていて、転換をしたくても人手不足になる(笑)。音楽や照明やキャストの力でうまいこと見せるのはちょっと苦労しましたね。


ーー最後に、お客様へのメッセージをお願いします。

阿部:こんなご時世ですが、東さんもおっしゃっていたように、「今この人がいたらどうなるんだろう」と思うリーダー像かも、と感じるので、ぜひご覧いただけたらと思います。

東:こういう時だからこそ、演劇の力を感じていただけたらと思います。

中村:観に来てくださる方は本当にありがとうございます。僕は「雍正帝という人物はどんな人なんだ?」というところから入って、自分の目で見て、最終的に「こういう人だったんだ」とたどり着くんですが、お客様もきっと同じような目線で舞台を観られると思います。オルクとともに雍正帝の謎や魅力に迫って、歴史の目撃者になっていただけたらと思うので、よろしくお願いいたします。

佐々木:タイトルは『君子無朋』。皇帝には兄弟はいない、家族はいない、父も母もいない、一人だと言っているんですね。彼がそれを掲げて、一国の未来を切り開いていく、その覚悟と孤独をぜひご覧いただければと思っています。そしてそんな彼についてきた現場の人たち。国の現状を見つめて、戦い抜いた人たちの話です。

劇場は非日常を観にきていると思うんですが、その非日常で何を感じるか。古代中国の話なんですけど、今にも通じる話になっていると思うので、観ていただけたら本当に嬉しいです。難しくなく、愉快なお芝居にしたので楽しんでいただけるとありがたいです。

【あらすじ】
18世紀の中国。主人公は歴代約200人の皇帝の中で最も勤勉、4時起床、24時まで1日20時間働き続け、「過労死」したと言われる清の雍正帝(1678-1735、在位1723-1735)。
雍正帝は、13年の治世において、紫禁城に暮らした皇帝の中で唯一玉座に座ろうとしなかった。
執務室に籠り、中央のエリート役人を無視し、地方の末端役人223人と2万通におよぶ手紙をやり取りし続けた雍正帝。手紙にあふれる、およそ皇帝には相応しくない罵詈雑言と叱咤激励の嵐。パワハラなどと言う概念を吹き飛ばすユーモア。
生々しく国を導いた彼と役人とのスリリングでスピード感あるやり取りを再現し、さらになぜ雍正帝は過労死するほど働いたのか、人生の鎖となった「謎」も解き明かしていく。

フォトコールで披露されたのは、冒頭のシーン。


まずは、馴染みの薄い雍正帝について、彼が在位中ほとんどの時間を過ごした紫禁城についてなどが語られる。広さは東京ドーム何個分? その広さで部屋は何個あるの? といったQ&Aを挟みながら小気味よいテンポで説明してくれるため、難しそう……という不安はすぐに払拭された。




佐々木の登場シーンはベッドの上。すっかり弱り、血を吐きながらも、鋭い眼光と毅然とした態度で皇帝の威厳を見せ付ける。信念を感じさせる立居振る舞いに自然と惹きつけられ、雍正帝という人物への興味が湧き上がった。観ている側までつい背筋を伸ばしてしまうような風格で劇場の空気を引き締め、物語の世界へ誘ってくれる。



地方の官僚であるオルクを演じる中村は、皇帝に萎縮しながらも真っ直ぐに向き合い、佐々木に負けない存在感を見せる。恐ろしい皇帝と、その皇帝を前に真摯に言葉を紡ぐひたむきな地方官の対比で、さらに物語に引き込まれた。それぞれが国を真剣に思っていることが言葉から伝わるからか、ユーモアのある言い回しのおかげか、激しい言葉の応酬にもどことなく品があるのが面白い。


また、演出の東が苦労した点として挙げていた通り場面転換が多く、キャストは5名のみと少人数、舞台美術やセットも無駄を削ぎ落としていながら、スケールの大きさも感じられる。

語り部や官僚などさまざまな役を演じ分け、作品に深みを与えるとともに佐々木と中村を支える奥田達士、石原由宇、河内大和の安定感ある芝居も見逃せない。



独裁政治の施行、軍機処の創立、「文字の獄」と呼ばれる文人弾圧といった厳しさを見せる一方で、奴隷解放、民の手本となるような倹約も行い、それまで赤字続きだった財政を黒字にした雍正帝。

清王朝の礎を作ったとも言われる彼の生き様を、この機に知ってみてはどうだろうか。

取材・文・撮影=吉田沙奈