9月3日(金)から26日(日)の期間中、中村獅童と初音ミクによる『九月南座超歌舞伎』が京都・南座で開催される。演目はこの南座公演のために書き下ろされた新作歌舞伎舞踊「都染戯場彩(みやこぞめかぶきのいろどり)」と、源頼光と傾城七綾太夫の戀物語と土蜘蛛伝説が軸になった「御伽草紙戀姿絵(おとぎぞうしこいのすがたえ)」。さらに本公演に加えてリミテッドバージョンも実施、こちらは澤村國矢が初音ミクの相手役を勤める。

「都染戯場彩」は桜が満開の「花の大内」、秋の情景を描いた「月の吉原」、勇壮な獅子の狂いを見せる「雪の石橋」と三段返しの構成で、「雪の石橋」での獅童と初音の獅子の精の踊りが見どころだ。「御伽草紙戀姿絵」は今年4月、幕張メッセで開催された『ニコニコネット超会議2021』で初演され、初音が初めて悪役に挑んだことでも話題を集めた。獅童は源頼光と袴垂保輔の二役を、初音は傾城七綾太夫実は将門息女七綾姫を勤める。また、平井保昌を國矢、山姥茨木婆を中村蝶紫が勤める。本作で獅童は、観客のペンライトの光をまとうことで新たな力を獲得し、自らを変えていくという「超越の術」にも挑む。通常の歌舞伎公演とは一味異なる、歌舞伎と最新テクノロジーのコラボレーションに期待したい。なお、リミテッドバージョンにも出演する國矢は、本公演での獅童の役を演じる。

過日、大阪市内にて「九月南座超歌舞伎」の製作発表をおこない、中村獅童が本公演にかける思いを語った。


「映画の撮影の関係でむさ苦しい髭面ですが、お許しください(笑)」と笑顔で登壇した獅童。南座で2年ぶりに超歌舞伎を上演するにあたって、「南座という歴史ある劇場で、こういった新しい試みを上演できる時代になったのだな……」としみじみとした表情を浮かべ、「京都は毎年12月に顔見世興行があり、古くからの歌舞伎好きなお客様も大勢いらっしゃいます。そういった方が超歌舞伎をどう感じてくださるか不安でもあったのですが、2019年の初演では歌舞伎通の方から小さいお子様まで、喜んでいただけたという手応えがありました。歌舞伎専門の劇場でこの演目をやらせていただけたということが私にとって非常に大きなことでした」と振り返った。

2016年、幕張での『ニコニコ超会議』で産声を上げた超歌舞伎。以来、5,000人の観客の前で演じてきた(2021年4月は動員制限を設けて開催)。「相当大きいホールのようなところで歌舞伎をやるとお客様にはどのように届くのかなという思いがありました。新作歌舞伎『あらしのよるに』もそうですが、「新しいことをやっていても古典にこだわるものづくり」というのが僕のひとつのこだわりです。超歌舞伎でも衣裳や化粧、鬘など古風に作りました。そして歌舞伎の色彩美や化粧、鬘などはデジタルの世界に負けないものがあるということを実感しました。先人たちが目指してきた歌舞伎の表現に改めてすごいと、計算し尽くされたものが今日まで残っているんだなと思いました。僕自身これからも、伝統、古典を残しつつ革新を追求するという生き方をしたいと思うので、また南座でやらせていただけるということは感慨深いものがあります」と語った。

バーチャルシンガーの初音ミクとの共演という、前代未聞の歌舞伎に獅童も相当、苦心してきたという。なんせ相手は最新テクノロジーの賜物だ。「めっちゃくちゃ大変ですよ。初音ミクさんは絶対に間違いがないんですよ(笑)。セリフも完璧なので、こっちがちょっとでもミスるとすぐ駄目になっちゃう。毎日全く変わらず、同じきっかけで、同じタイミングでセリフをおっしゃるので……。子供の頃からやっていたんじゃないの? というくらい、踊りも上手で素晴らしいですね。ここ数年でここまで踊りが上達する方は他にいらっしゃらないから、並々ならないご努力じゃないかなと思っています」と冗談も交えて話す。

話題となった「御伽草紙戀姿絵」での初音の悪役についても「芝居もどんどん上達して……というかもう歌舞伎俳優ですよ! 初の悪役といっても、初めてとは思えない完成度で、稽古の段階で完璧に仕上げてくるので、本当にどうなっているのかなと……(笑)。悪役に関してはもう完璧です!」と感心しつつ、毎回、多くの刺激をもらっていると語った。

歌舞伎でアナログとデジタルの技術を融合させるというクリエイションは当初、よいものをつくりたいという思いがゆえにスタッフの間で意見がぶつかり合うこともあったという。「最初の年(2016年)は、初日の明け方まで舞台稽古をやって、これは初日の幕が開かないのではないかというくらい、大変でした。それでも今日まで来られたのは超歌舞伎ファンのおかげです。初演で、幕が閉まった後に彼らが(会場で)「スタッフさんありがとう、超歌舞伎ありがとう、よーい、よよよい」と手打ちをしてくれて。その声を聞いて、幕の中ではみんなが握手、握手、涙、涙で……。我々が感動させなきゃいけないのに逆に「いやー、よかった」と。そういうことは超歌舞伎ならでは。本当に超歌舞伎ファンの方達に育てていただきました」と、ファンとの絆が年々、温まっていることを実感しているという。

コロナ禍で公演中止が相次ぐなか、それでも今年4月に幕張で上演できたことは「マナーのいいファンのおかげ」と話す。「大変な状況のなか、何とか歌舞伎の灯が消えないようにやっていかなくてはいけない。そのなかで、声を出さない、マスク着用など、ルールを守って、万全な安全対策のもとにやれば乗り越えていけるのでないかと、一つ一つ証明していく。今はそういう時期に来ているのではないかとも思います。もちろん、世の中の状況に合わせて判断しなくてはいけないこともありますが、超歌舞伎が「こうすれば安全だ」ということを証明していける公演になればいいなと思っています。ファンの皆さんに協力していただくペンライトも超歌舞伎の一つの強みだなと思いました。声援は出せないけど、ペンライトも一つの演出方法になりますので、南座でもぜひ、気兼ねなくペンライトを振っていただきたいなと思います」。

「御伽草紙戀姿絵」のリミテッドバージョンで出演を勤める國矢へも、期待を募らせる。「國矢くんは、型がきっちりできて、踊りも上手、でもはみ出すところがあんまりなくて。僕は國矢くんのことを見習わないといけないところがたくさんあるんだけど、時には枠からはみ出て、自分のやりたいように、やぶれかぶれになる瞬間を見てみたいと思っています。最初にリミテッドバージョンをやったときも、國矢くんはカーテンコールで涙、涙でしたが、体当たりで演じていて、とても嬉しかったです」。

『九月南座超歌舞伎』

『九月南座超歌舞伎』

そして、後進がさらに活躍できるようになればと歌舞伎の未来を見つめる。「これからの時代、当たって砕けろで、一生懸命やらないと若者の気持ちを捕らえられない。そしてコロナ禍になって、先々のことを一番不安に思ったのはお弟子さん達です。先が決まらない、決まっても自分たちがいい役がやれるのかもわからないとなった時、こうして國矢くんをフューチャーすることで、頑張ったらああいうふうになれるのかもしれないとお弟子さん達に夢や希望を持ってもらいたい。お弟子さん達がいないと、芝居もできません。お弟子さん達は本当に大事です」と声に力を込める。

「今は伝統を守りつつ、変わらないといけないことは変えていくというチャンスだと思うので、自分の公演では國矢くんや弟子たちが活躍する場を設けさせていただきました」とリミテッドバージョンに込めた思いも明かした。

取材・文・撮影=Iwamoto.K