2021年9月4日(土)の北海道札幌市での公演を皮切りに、全国16会場(20公演)をめぐる『秋の特別公演 古典への誘い』。「伝統芸能を分かりやすく、多角的に味わっていただきたい」と市川海老蔵が企画し、2012年から行っている本公演。今回の演目は『通し狂言 命懸歌舞伎ノ道筋 三升先代萩(みますせんだいはぎ)』で、仙台藩伊達家のお家騒動を題材にした「伽羅先代萩」がモチーフになっている。

最大の見どころは、我が子を犠牲にして忠義を尽くす乳人政岡をはじめ、歌舞伎の様式美と荒事で魅せる荒獅子男之助、妖術使いの大悪人仁木弾正など、善人悪人を織り交ぜた主要な七役を“早替り”で勤めること。先行作を手掛かりに、娯楽性あふれる演出やスピード感のある展開など、新たな息吹を吹き込んだ時代物の名作に臨む市川海老蔵が、開催を前に都内で取材会を行った。

ーー『三升先代萩(みますせんだいはぎ)』への意気込みをお聞かせください。

私の年中行事として、『古典への誘(いざな)い』の公演を毎年開催させていただいております。この度の秋の特別公演は先代萩をモチーフにした『三升先代萩(みますせんだいはぎ)』で、もともと七代目市川團十郎がやろうとしていたことです。それを追いつつ、市川團十郎の思想を組み込みながら、かなり厳しい条件の中での、自分としての挑戦、そして実験といった形での公演になるのかと思います。

ーー早替りによる七役が、大きな見どころになると思いますが。

見どころと言いたいところですが、早替りの舞踊公演ではなく、不安定な足利のお家を乗っ取ろうという話です。「御殿(ごてん)」「床下(ゆかした)」「対決(たいけつ)」「刃傷(にんじょう)」など、歌舞伎が好きな方なら、お分かりになるお芝居です。それを旅巡業でやるということが見どころです。日々現場も変わりますし、舞台の裏を走る動線も異なるので、どうなるか分からない。無茶はできませんし、コロナ禍なので宙乗りはできません、廻り舞台もございません。あくまで歌舞伎的な二次元、平面的な演出の中でどこまでやれるかも、もう一つの見どころです。

ーー乳人(めのと=乳母)政岡を演じ、女形に挑む姿も見どころになるかと思います。

そうですね。僕は立役専門でやっていますので、女形へのハードルは高くなっていきます。そういうところは演出も含めて、かなり見ていただきたいなと思います。乳人政岡は大変重要なお役。自分の子どもとの別れ、若君に対する思いといった表現もあります。若君の代わりに命を落とさせる教育をしているような時代ですから、政岡は若君を守ることに純粋無垢に向き合うわけです。結果的に自分の子どもが殺される。悲しんでいるけど、悲しみを見せない毅然とした態度は、本音と建前と言いますか、歌舞伎独特の美徳や深さを感じていただけると思います。以前演じた際は子どもがまだおりませんでしたが、今は娘も息子もいますし、自分自身どう感じるか未知な部分もあり、お客様にもその辺りを楽しんでいただけるのではないかと思います。

市川海老蔵

市川海老蔵

ーー「暫(しばらく)」を披露した東京オリンピック開会式についても、お聞かせください。

大変光栄なことだと感じております。世界中がパンデミックと戦っていて、色々な反対意見もあり、逆にオリンピックをやらなきゃいけないという意識がある人もいるなかで、諸手を挙げて喜べることではなかったです。このような状況で参加したのは複雑ではございましたが、大事なことはお話をいただいた事に対して、素直に応じる事です。世界の方々、日本の方々に、日本の文化を少しでもお目にかける機会をいただいたので、歌舞伎俳優として、日本の伝統文化に携わる1人としては、大変役目の大きな仕事だったと思います。

ーー2012年から行っている『市川海老蔵 古典への誘(いざな)い』が、10年目に突入しました。

本来は市川團十郎白猿になっていたはずなので、『古典への誘い』も一区切りでやめていた可能性もありました。襲名が延期になり、『古典への誘い』が10年目を迎えて公演ができるのは意義あることだと考えます。大都市の劇場に行けず、お住まいになっている地域を離れられない皆さまに、伝統文化である歌舞伎、そして市川海老蔵を観ていただくという意識は10年前から、まったく変わっておりません。