イタリア人作家アレッサンドロ・バリッコの文学作品で、映画でもお馴染みの名作『海の上のピアニスト』が音楽劇に。豪華客船の中で孤児として生まれ、船の専属楽団のピアニストとなったノヴェチェント。彼は天才的なピアノの才能を持ちながら、一度も船を降りることなくその短い生涯を終える――。
主人公のピアニスト・ノヴェチェント役には内博貴が、親友のトランペッター役には藤本隆宏が出演。本作のために書き下ろしたオリジナル楽曲の数々とともに、切なくも愛しいピアノ弾きの半生をドラマティックに描き出す。公演は2021年9月より、東京、栃木、大阪ほかで上演。天才ピアニスト役に挑む主演の内博貴に、現在の心境と舞台への意気込みを聞いた。

■役作りはしないんです

ーー台本を読んで、主人公ノヴェチェントの生き方をどう感じましたか? ご自身に重なる部分、共感できる部分はありましたか?

実は映画版を観たことがなく、まず全く何も知らない状態で台本を読ませていただきました。主人公は船の中で生まれ、ピアニストとして生き、船の中で生涯を終える。ノヴェチェントは外の世界、陸の世界を知らなくて、街を歩いたことすらない。本当にピアノしか知らない人生を送っていて、ちょっとかわいそうだなと感じましたね。普通に考えたらありえない人生だし、僕とは全然かけ離れた役どころで、なかなか共感しにくい人物だなというのが正直な感想としてありました。

ーーご自身とかけ離れた役を演じるにあたり、どのように役作りをしていくのでしょう?

僕はいつも役作りはしないんです。なぜなら、役に関しては全部台本に書かれてるから。こういう会話のときはこういう台詞を返すんだと台本に書かれたものがそのキャラクターの性格であり、それが役作りになる感じです。
いろいろ先入観にとらわれるのがイヤなので、基本的にいつも原作には触れないようにしています。ただ今回はニュアンスの参考に一応映画版を観ておこうと思い、上演台本を手がけた演出の星田良子先生にそう伝えたら、「映画とは全然違うから観なくていいよ」と言われて(笑)。だから稽古には何もないゼロの状態で入り、そこから徐々にキャラクターを作り上げていくつもりでいます。

ーーこの作品に取り組む上で、特に手強さを感じる部分はどこですか?

二人芝居ではあるけれど、台詞の掛け合いというものが少なく、そこは不思議な感覚であり手強さを感じているところです。藤本さんは状況を説明するストーリーテラー的な台詞も多く、一方僕は一人で自分の心情を喋ってる。会話というよりポエム的な台詞が多く、例えば「海が目を覚ました!」「水しぶきが大きく吹き荒れる!」と朗々と語り上げていく感じ。さらにそこから歌に入っていくので、すごく難しいですね。
まず相手の台詞を全部覚えて、最後に自分の台詞を覚えるのが僕のいつものスタイル。相手の台詞を覚えれば、それに対してこういう言葉を返すんだと自分の台詞が自然と頭に入ってくるから。けれど今回はひたすらポエムを覚える感じなので、全く台詞が入ってこなくて。こういう経験は初めてで、これまでのやり方は一切通用しない。この作品に関しては、それが一番のチャレンジかもしれません。

ーートランペッター役の藤本隆宏さんとは初共演ですね。初めてお会いして、どんな印象を持ちましたか?

藤本さんってめちゃくちゃいい身体をしてるんです(笑)。聞いたところによると、なんでも水泳でバルセロナオリンピックに出たことがあるとか。なぜこの世界に入ろうと思ったのか、どうして役者になったのか、いろいろ気になっちゃいますよね(笑)。藤本さんとは一緒に歌うシーンがあって、これから稽古でご一緒させていただく時間も増えるので、ぜひそのあたりをお聞きしてみたいと思っています。

藤本隆宏

藤本隆宏

■盛りだくさんの楽曲に「こんなに歌うの!?」

ーー楽曲は全て書き下ろしで、内さんの歌唱シーンは本作の大きな見所となっています。作中は様々な曲を披露されますが、実際に歌ってみた手応えをお聞かせください。

アップテンポな曲もあればバラード的な曲にラップのような曲と、とにかく歌う曲がたくさんがあって……、最初に曲目を聞いたときは「こんなに歌うの!?」って思ったくらい(笑)。
音楽劇はもちろん、ここ最近はミュージカルも出ていなかったので、舞台作品で歌うのは本当に久しぶりです。音楽劇ということで、台詞を喋るように歌うのが難しいところ。特にメインの曲はバラード調になっていて、どこまでも繊細な曲なので、ちょっとでも外すと目立ってしまう。すごく優しく歌わなくてはいけなくて、そこは集中して臨まなければと思っています。

ーーピアノに対する興味や憧れは? 内さんはギターを弾かれますが、ピアノに挑戦したことはありますか?

ピアノを弾いたことはないけれど、すごく繊細な楽器だなって感じます。昔からピアノに憧れていて、弾けたらいいなとずっと思ってました。子供の頃は野球ばかりしていたので、あの頃ピアノを習っておけばよかったなと、野球をやってる場合じゃなかったよなと……。絶対音感が身につくのもだいたいピアノだし、何で自分はギターにしたんだろう、やっぱりピアノにしておくんだったと今になって後悔してるところ(笑)。もし自分に子供ができたら、絶対にピアノを習わせようと考えています(笑)。

■イイ身体になってきました(笑)

ーー舞台人として日頃気を付けていること、健康維持のために心がけていることがありましたら教えてください。

心がけているのは早寝早起き。早い時は9時頃寝たりと、おじいちゃんみたいな生活をしています(笑)。公演中はなかなかそうはいかないけれど、それでも23時過ぎには布団に入ってますね。朝も早くて、まず目が覚めるのが4時くらい。とりあえずウォーターサーバーで水を飲んで、このまま起きるかもう1度寝ようか考える。もうちょっと寝ようとまた布団に入ることもあるけれど、それでも6〜7時頃には起きてます。
あと健康のために、どんなに忙しくてもジムに行って身体を鍛えるようにしています。ジムに通いだして3ヶ月くらい経つけれど、やっぱり体調はいいですね。もともとあまり寝付けないタイプだったのが、健康的な生活を意識するようになってから夜も寝やすくなりました。それと自分で言うのもなんだけど、我ながらイイ身体になってきたと思っていて(笑)。とっつー(戸塚祥太)にも、この前楽屋で着替え中に「おぉ、仕上がってるね!」と褒められました(笑)。今回共演する藤本さんもかなり身体を鍛えてそうなので、どんなトレーニングをしているのか今度聞いてみたいと思います(笑)。


ーー舞台出演が続いていますが、切り替えやリフレッシュはどうされていますか?

今回は一つ前の舞台『フォーティンブラス』と公演期間が近く、すぐに『海の上のピアニスト』の稽古に移る必要があったので、切り替えというのがなかなか難しくて。あまり時間がないからと『フォーティンブラス』の公演中に『海の上のピアニスト』の台本を開いてみたこともあったけど、そのせいか一度本番であやうく台詞が飛びそうになって、これは危ない、同時進行は辞めようと決めました。なかには同時進行ができる作品もあるけれど、この舞台に関しては難度が高く、チャンネルを切り替えて集中して臨む必要がある。だからリフレッシュはとりあえずおあずけで、この舞台が全部終わってから発散しようと思っています。

ーー船旅の経験はありますか? もし今後船旅ができるとしたら、どこに行ってみたいですか?

船旅の経験はないけれど、やっぱり憧れはすごくありますね。うちのオカンも「いつか船で世界一周してみたいわぁ」なんて言っていて、旅費がとんでもないことになりそうだからちょっと辞めてって思ってるんですけど(笑)。そういう意味ではノヴェチェントは羨ましいなと思います。しかも最近のクルーズ船は、プールが付いていたり、ジムがあったり、テーマパークがあったりとすごいらしいですよね。今はなかなか難しいけど、もし船旅ができるようになったらカリブ海に行くのが夢。きっと海もキレイだろうし、いつか本当に行けたらいいですね。

■ジャニーさんの言葉で目覚めて

ーー幅広いジャンルで活躍されている内さんですが、舞台ならではの醍醐味、舞台に立つ面白さを感じることはありますか?

正直言うと、もともと舞台はあまり好きではなかったんです。舞台に対する意識が変わったのは二十歳くらいのころ。ジャニーさんの言葉がきっかけでした。
あるときジャニーさんに誘われて、二人でお寿司を食べに行ったことがありました。そこで言われたのが、「舞台に立てる人間が最後に生き残るんだよ」という言葉。ジャニーさんは「舞台が一番大切なんだよ」と言う。でも当時の僕にはピンと来なくて、「テレビより大事なの?」と聞いたら、「舞台に立ち続けるのが一番難しくて大変なことなんだよ。でもユーはイヤイヤやってるでしょ」と言われてしまった。“全部見抜かれてるな、やっぱりスゴイなこの人”と思い知らされました。もちろんそれまでも手を抜いていた訳ではなかったけれど、やらなきゃいけないからやってた部分が自分の中にあったと思う。でもジャニーさんの言葉で舞台に対するスイッチが切り替わって、もうちょっと真剣にやらなければと考えるようになった。全てジャニーさんのおかげです。ジャニーさんがいなかったらきっともう舞台はいいやと思っていたかもしれません。

ーー今は大変な状況下ではありますが、どんな想いで舞台に臨んでいますか?

もちろん多くの方に観てもらいたいという想いはあるけれど、やはりいろいろ考えてしまうし、なかなか難しいところはありますね。僕らはすごく気をつけているし、万全の状態でみなさんのことをお迎えしている立場ではあるけれど、それでもやはり心配はあるし複雑な気分です。「全力でやろう!」という気持ちを常に持って舞台に臨むようにしています。

ーー最後に、ファンにメッセージを御願いします。

今回は東京公演のほか地方公演もあり、なかには僕が初めて行く場所もあります。きっとそこで待ってくれている方もいると思うので、みなさんと早くお会いしたいし、僕自身その日をとても楽しみにしています。万全の状態で足を運ぶようにしますので、楽しみに待っていてもらえたらうれしいです!

取材=小野寺悦子