2021年9月17日(金)から11月14日(日)まで、東京ドームシティ・Gallery AaMo(ギャラリー アーモ)にて『NATURE AQUARIUM EXHIBITION 2021 TOKYO』が開催中だ。

ネイチャーアクアリウムとは、生態系の概念を取り入れ、水槽の中に石や流木、水草を用いて美しい景観や魚の棲息環境を表現する水草レイアウトのことだ。1980年代にADA(アクアデザインアマノ)の創業者および初代社長である故・天野尚が提唱・確立しており、現在は世界各国のアクアリウム専門誌などで紹介されている。

以下、写真や動画やネイチャーアクアリウム水槽など、天野と彼の愛弟子5人のADA水景クリエイターたちによる創作活動が結実した本展を紹介しよう。

天野尚《大自然の縮図》2007年10月

天野尚《大自然の縮図》2007年10月

緻密で鮮明な写真と映像
没入感に身をまかせ、作品世界を堪能する

会場に入ると、色鮮やかな大判写真に目を奪われる。これらは天野尚が撮影したもので、細部に至るまでくっきりと写っており、自然の中に入り込んだような感覚に陥る。なお、会場ではすみだ水族館「自然水景」の水中動画も上映されており、水の中にいるような没入感を味わえる。

天野尚《金剛杉屹立》2007年5月中旬

天野尚《金剛杉屹立》2007年5月中旬

会場風景。色鮮やかで緻密な写真が並ぶ。

会場風景。色鮮やかで緻密な写真が並ぶ。

すみだ水族館「自然水景」の水中動画。臨場感溢れる映像により、没入感を味わえる。

すみだ水族館「自然水景」の水中動画。臨場感溢れる映像により、没入感を味わえる。

本展では、天野のキャリアの紹介や、使用していた道具などが紹介されている。彼は異色の経歴の持ち主であり、プロの競輪選手として活躍していた賞金でニコンのカメラを購入し、時間を見つけては旅に出て自然の生物を撮影したという。現役競輪選手として働く傍らアクアリウムショップを開業、やがて水草レイアウトにおける二酸化炭素の必要性を証明するなどさまざまな功績を残した。

会場風景。天野のユニークなキャリアに驚く。

会場風景。天野のユニークなキャリアに驚く。

会場風景。天野愛用の品が並ぶ。

会場風景。天野愛用の品が並ぶ。

自然を克明に記録することを信念とした天野は、自身の写真を「生態風景写真」と呼び、単に美しく撮るだけではなく、水草の一本一本に至るまで克明に捉え、生態系そのものを写し取ろうとした。天野は一枚の中に大量の情報量がある大判フィルムを使用、撮影時は大判カメラを愛用したという。会場には、天野が国内でのフィールド撮影で使用した世界最大級のカメラ、ウィズナーテクニカルフィールド8×20in.が展示されている。

天野が使用したカメラ、ウィズナーテクニカルフィールド8×20in.。持ち運びが大変そうだ。

天野が使用したカメラ、ウィズナーテクニカルフィールド8×20in.。持ち運びが大変そうだ。

巨大な《ネイチャータワー360°》や3mのパルダリウム水槽も
「生きたアート」を目の当たりにする

会場でひときわ目立つ《ネイチャータワー360°》は、高さ約3.5m・直径約4.5m・全周約13mもの巨大な熱帯雲霧林だ。8つのエリアに分かれており、タワーの各エリアには東南アジア・インド・アフリカ・マダガスカル・中南米などの地域をイメージした植栽が施され、現地の植物や魚を中心に景観が作成されている。

《ネイチャータワー360°》。熱帯の密林がそのまま現れたようで圧倒される。

《ネイチャータワー360°》。熱帯の密林がそのまま現れたようで圧倒される。

このタワーは2021年3月頃に制作を開始、実に5か月以上をかけたところで展覧会を迎えたそうだ。タワーを構成しているのは生き物なので常に変化があり、表面が見えている流木や石の表面はどんどん苔で覆われ、木々は成長していくことが予想される。会場に訪れるたびに変化を楽しむことができる、生きたアートといえるだろう。

《ネイチャータワー360°》の水槽部分。各エリアごとの植物や魚は、現地に生息しているものを中心に再現しているという。

《ネイチャータワー360°》の水槽部分。各エリアごとの植物や魚は、現地に生息しているものを中心に再現しているという。

《ネイチャータワー360°》では、定期的に霧が発生する。

《ネイチャータワー360°》では、定期的に霧が発生する。

3mもの長さを誇る、ネイチャーパルダリウム水槽も見逃せない。パルダリウムとは、主に高湿度を好む熱帯の植物や苔を用い、水槽の中に自然の景観を再現して楽しむスタイルのこと。水槽に霧を発生させて湿度をコントロールするパルダリウムは、水槽を水で満たすネイチャーアクアリウムとは水のあり方に違いはあるが、自然への憧れを満たすという点では共通しており、近年注目を集めているそうだ。

ネイチャーパルダリウム水槽。日常の中で熱帯雨林を見ることができる。

ネイチャーパルダリウム水槽。日常の中で熱帯雨林を見ることができる。

会場の水槽は、ADAのパルダリウム専用システムにより定期的に霧を発生させている。ガラスの中の小さな熱帯雨林では霧の合間から光芒が差し、幻想的な光景を作りだす。

ネイチャーパルダリウム水槽では、霧が発生すると光芒が見えることも。

ネイチャーパルダリウム水槽では、霧が発生すると光芒が見えることも。

水景クリエイターによるネイチャーアクアリウム
神秘の世界に驚嘆

ネイチャーアクアリウム水槽のセクションでは、暗闇の中で9つの水槽が輝く。ガラスと水があまりにも透き通っているため、魚たちが空中を泳いでいるように見える。ネオン・テトラなどの光沢のある魚たちは、光が当たると宝石のようにきらめき、鑑賞者をファンタジックな世界へ誘う。

暗闇に浮かび上がるネイチャーアクアリウム水槽。一つひとつがクリエイターの作った世界をまるごと閉じ込めているようだ。

暗闇に浮かび上がるネイチャーアクアリウム水槽。一つひとつがクリエイターの作った世界をまるごと閉じ込めているようだ。

水槽《グリーン・ヘブン》のネオン・テトラ。水と水槽のガラスの透明度が高く、魚たちが空中を泳いでいるように見える。

水槽《グリーン・ヘブン》のネオン・テトラ。水と水槽のガラスの透明度が高く、魚たちが空中を泳いでいるように見える。

水槽には《初夏の石景》《風薫る水辺》《グリーン・ヘブン》《水の中の紅葉》といったタイトルがついており、それぞれが独自のコンセプトで作られている。石の魅力が活かされた《初夏の石景》は抑制された情緒が漂い、水槽からはみ出した木が目につく《風薫る水辺》は、流木のダイナミックな造形美が印象的だ。

もちろん技量は必要だが、作り手の創造性を活かすことが可能で、外界の自然と同様に変わりゆく情景を楽しむことができるのも、ネイチャーアクアリウムの魅力といえよう。

手前:本間裕介《初夏の石景》。シンプルで抑制された美の世界。

手前:本間裕介《初夏の石景》。シンプルで抑制された美の世界。

本間裕介《風薫る水辺》は、流木のダイナミックな曲線と、細く長い水草のコントラストが鮮やかだ。

本間裕介《風薫る水辺》は、流木のダイナミックな曲線と、細く長い水草のコントラストが鮮やかだ。

井上大輔《グリーン・ヘブン》。水中森林に迷い込んだような気分になる。

井上大輔《グリーン・ヘブン》。水中森林に迷い込んだような気分になる。

ネイチャーアクアリウムの創作方法は、人や作品によって異なる。例えば内田成の《水の中の紅葉》は、福島県の中津川渓谷の紅葉にインスピレーションを得ているとのことだ。水槽内のみずみずしい緑と鮮やかな赤はまさに紅葉の景色で、屏風か日本画のような風情を漂わせる。落ち着いた色味の魚たちは独特の光沢があり、画上の箔に似た輝きを見せる。

屏風か日本画のような趣の、内田成《水の中の紅葉》。水中に出現した渓谷を、魚たちがきらめきながら泳ぎ渡る。

屏風か日本画のような趣の、内田成《水の中の紅葉》。水中に出現した渓谷を、魚たちがきらめきながら泳ぎ渡る。

関連グッズも見逃せない。本展のための公式タブロイド紙『RECORD』は、《ネイチャータワー360°》の制作過程やクリエイターたちによる見どころ解説などが掲載された、充実の内容。これを読みながら会場を回れば、より知識が深まるだろう。またTシャツやキーホルダー、水景を眺めながら舐めるキャンディなどのユニークなグッズも目白押し。物販コーナーは入場無料なのも嬉しい。

公式タブロイド紙『RECORD』。ネイチャーアクアリウムについて、より詳しくなれる一冊。

公式タブロイド紙『RECORD』。ネイチャーアクアリウムについて、より詳しくなれる一冊。

『RECORD』は、クリエイターたちによる見どころ解説も。

『RECORD』は、クリエイターたちによる見どころ解説も。

本展オリジナルのグッズも充実。物販は入場無料なのも嬉しい。

本展オリジナルのグッズも充実。物販は入場無料なのも嬉しい。

世界中に愛好者を持ち、自然環境のモデルとしても注目度が高いネイチャーアクアリウム。普段なかなか目にすることができない水中の情景は息を呑むほど美しく、ずっと見ていても飽きることがない。またネイチャーアクアリウムは水草や魚の種類などを厳選する必要があり、人間のエゴが出ると水槽内の生態系に無理が生じてうまくいかないそうだ。天野尚も写真から自然を学びとり、その技術と理念がネイチャーアクアリウムの魅力的な世界に結実している。自然の神秘を知り、学ぶことができる『NATURE AQUARIUM EXHIBITION 2021 TOKYO』、是非見逃さず、じっくり堪能いただきたい。

文・写真=中野昭子