京都音楽博覧会2021 オンライン
2021.10.2

2007年から毎年開催されている『京都音楽博覧会』。例年は京都市内の梅小路公園を会場として、国内外から様々なアーティストを招いて行われてきたが、昨年は京都の老舗ライブハウス・拾得からのオンライン配信となり、「くるり」と「岸田繁楽団」が出演。そして、15回目を迎える今年は、くるりの母校である立命館大学・衣笠キャンパス内の以学館と学生会館で収録された映像が配信された。この模様をレポートする。


2部構成となっていた『京都音楽博覧会2021 オンライン』は、以学館のライブからスタート。今年の4月にリリースされたアルバム『天才の愛』の全曲が披露される旨が事前にアナウンスされていたが、どのようなものとなるのか? 配信開始を待ち構えていると、衣笠キャンパスが画面に映し出された。豊かな緑の上に青空が広がり、蝉の声と鳥のさえずりが聞こえてくる風景が美しい。やがて画面は屋内の以学館に切り替わり、ライブがスタートした。オープニングを飾ったのは「I Love You」。松本大樹(Gt)、石若駿(Dr)、中山航介(Perc & Pf)、山崎大輝(Perc)、野崎泰弘(Key)、ハタヤ テツヤ(Key)、副田整歩(Sax, Fl & Cl)、野口勇介(Tp & F.Hr)、米崎星奈(Hr)、小坂みか(Harp)、加藤哉子(Cho)、ヤマグチヒロコ(Cho)――大編成によるサウンドと、岸田繁(Vo & Gt)と佐藤征史(Ba)が放つ音色が融け合う様は、何とも言えず心地よかった。円形のフォーメーションで演奏していたバンドの中心に立ち、音を全身で感じながら歌声を響かせていた岸田。ウッドベースでアンサンブルに温かな躍動感を添えていた佐藤。青地に白抜き文字で書かれた「おこしやす」という文字が目を引くのれん、白と青の提灯で彩られた会場の空間が、穏やかなサウンドで満たされていく様に引き込まれずにはいられなかった。






多彩な音色が緻密に絡み合う『天才の愛』の収録曲たちが、この配信ライブのために施されたアレンジで響き渡る様は、作品の魅力を再確認させてくれた。野球の応援歌をモチーフとしたフレーズが、ホーンの賑やかなサウンドと共に表現されていた「野球」。大衆歌「オッペケペー節」を引用しつつ、野趣に富んだサウンドを躍動させた「益荒男さん」。艶やかなラテンサウンドと幻想的なハーモニーが融け合う様が美しかった「ナイロン」。スリリングな展開を遂げ続けたインストゥルメンタルナンバー「大阪万博」。ゲストボーカルの畳野彩加(Homecomings)が岸田と共に歌い、郷愁を誘うメロディを届けた「コトコトことでん (feat.畳野彩加)」……などなど。緻密且つ遊び心に満ちながらレコーディングされた楽曲が、ステージ上で具現化されていくひと時は、参加した各楽器の奏者たちにとっても心躍る体験だったのだろう。穏やかなエネルギーを全員で醸し出していた「ぷしゅ」が幕切れた時の余韻が、とても清々しかった。






岸田と佐藤がキャンパス内を散策し、所属していた音楽サークル「ロックコミューン」の部室を久しぶりに訪れたりもしながら思い出を語り合った映像の後、学生会館でのライブがスタート。ここからは、野崎泰弘(Key)、松本大樹(Gt)、石若駿(Dr)が加わり、最近のライブでお馴染みとなっている5人編成で演奏が届けられたのだが、1曲目「尼崎の魚」が始まった瞬間、全国の視聴者が一斉にどよめいたのではないだろうか? メジャー1stシングル「東京」のカップリングだったこの曲がいきなり飛び出すというのは、おそらく全ての人にとって完全に予想外。メンバー同士で演奏のキメとタメをスリリングに交し合い、緩急自在に楽曲をドラマチックに高鳴らせていく様にワクワクさせられた。



「窓」「ハローグッバイ」「GO BACK TO CHINA」「花の水鉄砲」「HOW TO GO」「奇跡」「続きのない夢の中」「ランチ」……次々と披露された曲のタイトルを並べて眺めるだけでも、くるりをずっと応援してきたファンたちは胸がいっぱいになるはずだ。初期作品を中心としつつ、マニア心をくすぐる選曲で構成されたセットリストは、視聴者の胸の奥にある無数の思い出も掘り起こしていたのだと思う。耳を傾けていると旅に出たくて堪らなくなった「ハイウェイ」。雄大なサウンドで包み込んでくれた「さよならアメリカ」。くるりが上京した頃の心情が、母校での演奏によって一際鮮やかに浮き彫りにされているように感じられた「東京」……くるりと出会い、リスナーとしての日々を過ごしてこられた喜びを、改めて噛み締められるセットリストであった。そして、ラストを飾ったのは「宿はなし」。『京都音楽博覧会』の会場に足を運んだことがある人は、この曲を聴きながら梅小路公園の風景をふと思い浮かべたのでは? 芝生の匂い、夜風、空間を共にしている人々の大合唱……平時の『京都音楽博覧会』のムードの肌触りがよみがえるメロディ、リズム、ハーモニーが、映像を通して真っ直ぐに伝わってきた。




参加したバンドメンバーたちのコメント映像が流れ、「来年も会いましょう」というメッセージが画面に浮かび上がって迎えたエンディング。『京都音楽博覧会』に一貫して脈打ち続けている音楽に対する深い愛情を存分に噛み締められる映像配信であった。見逃し配信期間が2021年10月11日(月)23:59までとなっているので、まだ観ていない人には、強力にお薦めしておきたい。『京都音楽博覧会』が通常の形で開催できる時が再び巡ってきても、「2021年の配信、すごく良かったよね?」とファン同士で語り合えるはずだ。

取材・文=田中大 撮影=井上嘉和