反田恭平×JNOメンバーによる座談会Vol.3。今回はコントラバス大槻健、ヴィオラ長田健志、ヴァイオリン宇野由樹子の3名が集まる弦楽器セクションメンバーによる座談会の後半の模様をお伝えする。前回(Vol.2)では、彼らがJNOに参加するきっかけを聞いたが、今回はそれぞれのリサイタル内容について一人ひとりが熱い想いを語ってくれた。

◆コントラバス 大槻健 (2021年10月27日 奈良公演/2021年11月10日 東京公演)〜“枯れた渋みのある音色”を存分に

大槻健

大槻健

――3人の中でシリーズ最初に登場するのが大槻さんですね。

大槻:はい、そうです。僕は大学を卒業してからずっとオーケストラの一員として演奏していましたので、ソロ演奏に関して積み上げてきたものがありませんでした。なので、今回、「大槻健の世界」ということでお話を頂いた時、非常に悩みました。最初、シューベルトの「鱒」をピアノ五重奏でやってみようかなとも思ったのですが、JNOは “ソリスト集団” ということですので、やはり第一回目はソロ演奏でのプログラムに取り組もうと決めました。

――コントラバスは主にアンサンブルのベースを担当する楽器という印象が大きいですが、今回のソロ・ラインナップで、コントラバスのどのような魅力を感じて欲しいと思っていますか? 

大槻:皆さん、実のところあまりコントラバス単体の音というのをご存知ないと思うんです。近くで聴いても、遠くで聴いても変わらない音を出す楽器。そもそも、音としてではなく、“明るい” とか “暗い” とか、“広がりがある”、“奥行きがある” というようなイメージをアンサンブルに与える存在として捉えられることが多いんですね。

チェロと比べると音域も狭いですし、ソロ楽器としてはかなりハードルが高い部分があります。今回のプログラムでは、いかにそう感じさせないかというところと、それを乗り越えた上で表現できるコンバス特有の“枯れた渋みのある音色”というのを意識して演奏したいと思っています。

大槻健

大槻健

――ラインナップについてはいかがでしょうか。

大槻:僕の中では、やはりオーケストラという存在が中心なので、今まで多くの指揮者に接してきて、彼らから学んだ事柄をリサイタルでもお聴かせできればと思いました。読売日本交響楽団では、ロマン派以降の作品にも多数取り組んでいて、指揮者からは歌い方やフレージングの作り方などに関して多くのことを学びました。今回のラインナップも、ロマン派以降の作品が中心になっています。

特にヒンデミットのコントラバス用のソナタは、当時としては大変前衛的な作品です。音楽的な流れがあるというよりも、瞬間、瞬間に音楽があって、突然ピアノと演奏する速いパッセージがあったりと、ドイツロマン派の流れとは全く違うスタイルで書かれた作品です。

僕自身、ヒンデミットに関しては、何となくフランス的なイメージがあったのですが、ある日、オケで(読響)常任指揮者のヴァイグレとヒンデミットの「画家マティス」を演奏する機会があって、そこで初めてヒンデミット作品にあるドイツ音楽の本領を感じることができました。その後、もう一度このソナタの楽譜を見直したら、まったく違う新しい印象と曲の捉え方ができたんです。今回の演奏会ではそれを実現してみたいと思いました。

長田:えらい、真面目やな(笑)。


――(笑)。そして、日本人作曲家 川上哲夫のソナタも予定されていますね?

大槻:はい。この作品はクーセヴィツキーの協奏曲をイメージして描かれた一面があるという解釈が定説のようですが、この作品もロマン派作品の延長線上で捉えてみたら、新たな気付きがありました。なかなか演奏される機会のない作品ですので、きっと同業者も聴きに来てくれるのではと思うところもありまして、「こういう解釈もあるんじゃないか」ということを仲間たちにも提示したくて選んでみました。

――大槻さんは、長田さんの演奏会ではアンサンブルのメンバーの一員として、そして、三日後にはご自身のソロ演奏会があるわけですが、弾き分けみたいな感覚はありますか?

大槻:アンサンブルやオーケストラの場合、コントラバスの弾き方一つでヴァイオリン奏者たちがうまく弾けるかどうかというのが決まってきてしまいます。我々、コントラバス奏者は、どのような場合でも「コンバスが一番音楽的じゃないといけない!」と思っています。「じゃあ、ソロで弾いた時はどうなのよ?」と言われた時、「えー、できません」とは言えないので(笑)、今、ソロも音楽的に聴こえるように頑張っています。

あと、技術的なことでお話すると、調弦が変わります。ソロ演奏でピアノと合わせる際は、ピアノの上を(コンバスの)音が通り抜けないといけないんですね。なので、音色を全く変えるために長二度高い、ソロ用のチューニングでハリを出します。弾き方も違いますし、松脂も別のものを使用します。オケ用の調弦だと、いい具合にピアノに溶け込んでしまって音が目立たなくなってしまうんです。

◆ヴィオラ 長田健志(2021年10月30日 奈良公演)〜「話したい」「歌いたい」声のように、ありのままの想いから生まれる音楽をたっぷりと

長田健志

長田健志

――今回のリサイタルのプログラムについて、意気込みやポイントなどお聴かせください。

長田:僕自身、今まで一番経験を積んできた場がカルテット(弦楽四重奏)でしたので、当初、仲間への感謝も込めてカルテットでプログラムを組もうと思いました。それを仲間たちに提案しましたら、「ソロもやれば?」と言ってくれたんです。

ヴィオラの場合、コントラバスと同じで、ソロリサイタルの機会もそうそうありませんし、「長田健志の世界」ということですから、まず第一回目は自分と、それからヴィオラの魅力を知ってもらうためにも無伴奏で弾く作品がいいのかな、と思い、前半は無伴奏ソロのみのプログラムにしてみました。

後半は、大槻君にも加わっていただいて、カルテット+コントラバスでのアンサンブルでは最も有名なドヴォルザークの「五重奏曲 第二番」を演奏します。とても難しい曲なので、ある意味でチャレンジですね。

反田:なんか、こういうのいいよね。

僕たちはオーケストラであっても、つねにカルテットの演奏にも力を入れてきました。なので、プロデューサー目線としては、「好きなことをやっていいよ」、というリサイタルシリーズで、長田君が、後半部分で積極的にカルテットを中心でプログラムを組んでくれたのはとても嬉しいですね。

長田健志

長田健志

――前半プログラムで決まっていることがあれば教えて下さい。

長田:はい、バッハの「無伴奏チェロ組曲」からとマックス・レーガーの「ヴィオラのための無伴奏ソナタ」を弾きたいと思っています。

――ヴィオラの魅力としては、どのような点を一番伝えたいですか?

長田:僕がヴィオラに関して一番好きな点は、人の声に一番近い音色を持っているところです。自分の声のように、「こう話したい、こう歌いたい」というありのままの思いから生まれる音楽を前半部分でたっぷり伝えられたらと思います。

後半はヴィオラという楽器が、アンサンブルの中でどのようなポジションを担っているかということや、コントラバスやチェロが入ると、どういう役割へと変わってゆくのかというところを感じてもらえたら嬉しいですね。

◆ヴァイオリン 宇野由樹子(2021年11月11日 東京公演)〜万華鏡のように煌めく個性と調和を

宇野由樹子

宇野由樹子

――宇野さん!大変お待たせしました。今回の東京でのリサイタルにあたって、ラインナップなどについてお聴かせください。

宇野:今回のリサイタルでは、一つのプログラムを通して調和や世界観をお客様と共有できるものにしたいと思いました。参考になったのは、今年の夏にアメリカで室内楽音楽祭に参加した際のプログラムです。現代音楽に特化したもので、一見すると、どれもまったく共通点がないように思え、「これでプログラムが成り立つのか?」と心配になるくらいだったのですが、いざ聞いてみると、別世界へと引き込まれるような感覚になったんです。

今回、自分自身の演奏会でも、そのような効果を生みだしてみたいと思いました。そこで、「音響的な効果」をテーマに、一つひとつの作品が万華鏡のように個性と輝きを放ちながら、それらが一つに組み合わせると、絶妙な調和が生まれるというプログラミングを考えてみました。

メインはプロコフィエフの「ソナタ 第二番」で、古典的な要素も現代的な要素も兼ね備えた作品です。プロコフィエフというと男性的で力強い印象がありますが、幼い頃に感じた憧憬やノスタルジックな情景が描かれているところもあり、多彩な要素にあふれています。

「5つのメロディ」も同じ作曲家の作品で、歌詞の無い歌 “無言歌” のようなイメージです。5曲とも性格が違うのですが、全曲を通してキラキラしていて、とても幻想的です。

宇野由樹子

宇野由樹子

――武満作品も予定されていますね。

宇野:はい、「妖精の距離」です。日本で演奏会をするならば、現代作品にも挑戦してみたいと思いました。武満作品に取り組むのは私自身、初めてです。ピアノとヴァイオリンの音が溶け合う曲で、印象派の作曲家にも影響を受けています。前に演奏するドビュッシーにも影響を受けているので、相性が良いかなと思いました。

―――そして、後半はブラームスのソナタですね。

宇野:近現代の作品が並ぶ前半と対比的に、人間的なあたたかみや息吹を感じる作品としてブラームスの「ソナタ 第二番」を後半に選びました。この作品には、つねに歌が流れていて、ヴァイオリンの持つ女性の声のようなあたたかみのある音色や、その中に込められたメッセージを感じていただけたらと思っています。

――10月末〜11月にかけて3つの異なった弦楽器の演奏を聴けるのは本当に楽しみです。楽器の魅力についても、じっくり聴き比べしてみたいですね。では、反田さん、〆に一言お願いします。

反田:メンバーみんなで楽しみながらアンサンブルを勉強して、その後、それぞれの居場所に戻って新しい能力や感性を磨いていく。そして、再び、このメンバーで集まって再確認し合う。そういう場所が「僕たちのJNO」かな、と思っているので、皆さん長いスパンで頑張っていきましょう!

長田:今日の総まとめ。本当に社長みたいだね。

大槻:そう、それが言いたかったんだね(笑)。

次回からは、管楽器座談会です。

取材・文=朝岡久美子