「パラリンピック東京2020」開会式の演出を務めた、ウォーリー木下が主宰する大阪の劇団「sunday」。7年ぶりとなる新作『ひとりいっこ』は、旗揚げメンバーの一人・赤星マサノリが構成・演出を務めるAR演劇だ。劇場に行くのではなく、一人ひとりがスマートフォンを片手に街に出て「音」を探しに行くという、ある意味「ポケモンGO」や「ドラゴンクエストウォーク」などのゲームに近い感覚の、異色の実験芝居になるという。その赤星に、リモートで話を聞いた。

本作の発想について「もともと来年の頭に、久々にsundayの長編作品を上演しようとしたけど、東京(在住)組はまだ気軽に(大阪に)来られる状況ではないし、何よりも僕たちが理想とする環境の劇場が見つからなくて。それでいろいろ考え直したら“そもそも会場を決めないと演劇ができないというのが、おかしいんじゃないか”と。そこで劇場を借りずにできて、しかも中止にならない演劇公演をやってみよう……となったのが始まりです」 と語る。今回の上演は、その「劇場でやらない演劇」にアプローチするための、試作の意味が強いそうだ。

観客は公演当日、スマートフォンとイヤフォンを持って街に出る。そこで見かけたいろんなもの……ベンチやバスなどにスマートフォンをかざし、特定のオブジェクトを検知すると、それに合わせた音声がストリーミングされる。その音や声を聞きながら再度風景を眺めることで、ある一つの物語や、これまで気づかなかった街の一面が見えてくる……という仕掛けになっている。

赤星マサノリ。

赤星マサノリ。

赤星はsundayと平行して、マルチメディア色の強い演劇ユニット「StarMaschineProject」を主宰しており、今回はそこでタッグを組んでいるエンジニア・久保田健二(株式会社 闇)がシステムを開発。「普段はホラーのコンテンツを作ってる人なんですけど、彼がいなかったら今回の公演は実現できなかったです。ARって、スマートフォンの画面を通して、そこにないものが現実にあるかのような世界を作る技術だけど、まだ演劇ではあまり使われてないじゃないですか? 現実の風景と、別の世界からやってきた音の情報を混ぜることで楽しんでもらう……というのが狙いです」。

取材前日には、20人程度の観客を交えたプレ公演を実施。技術的な問題や台本の構成などで、いろんな課題が見つかったそうだが、赤星たちも予想をしない楽しみ方を見つけたのは、大きな収穫だったと言う。

「全部で20個ぐらいある音声をコンプリートしたくなったとか、同じようにスマートフォンを持って歩いている人が、同じ作品を楽しんでる人だったら面白いな……と想像したとか、いろんな声がありました。今回の音声は、過去のsundayや劇団☆世界一団(注:sundayの前身の劇団)の台本をベースに、それぞれのメンバーが集めた音を編集したんですが、もう少し普遍的なつながりを持たせた方がいいかなあ? とも。システムの精度の向上に加えて、音声を追加するなど、その辺りも本番までに考えようと思います」。

sundayの歴史を振り返る動画(2012年)。

さらに赤星は、劇場でみんなが集まらなくても、観た人同士がつながりを持てるような気分になるはずだと予測している。

「たとえばどんな場所で、どういうものにかざしたら検知したか? ということを、お客さん同士がSNSを通じて情報交換をするのもアリですし、もしかしたら“一緒に音を聞きましょうよ”という流れになるかもしれない。この作品を通して、一人ひとりがそういう形でつながりを持つ可能性はあるなあ、と。今いる場所や見ているものが違っても、みんなで一つの世界を共有できるという意味では、“観劇”と言える体験になると思います」。

コロナ禍で、いつ公演が中止になるかわからない世の中だけど、その分観客のリモート演劇の抵抗が少なくなった、今の時代だからこそ生まれたと言える『ひとりいっこ』。たとえその場にひとりぼっちでも、この瞬間に大勢の人と一緒に、同じ時間と物語を味わっていることを実感できる、NO密だけど濃密なひと時を体感できそうだ。

ちなみに赤星が提出した音声は「信号にかざしたらストリーミングできます」とのことなので、気になる人は試してみよう。またシステムの都合上、チケットの販売は10/10までと早めの締切となっているので、気になった方は今すぐ申し込みを。とはいえ今回の作品は、先に触れた来年のsunday公演につながるものなので、申し込み損ねた人も、次の機会を楽しみに待ってほしい。

取材・文=吉永美和子