2021年10〜11月、東京・シアタークリエにて(その他全国ツアーあり)上演される、『Home, I’m Darling〜愛しのマイホーム〜』。本公演のオフィシャル稽古場レポートおよびキャストコメントが届いた。
 

2018年にロンドン・ナショナルシアターで初演、翌年のローレンス・オリヴィエ賞でベスト・ニュー・コメディ賞を受賞した舞台『Home,I'm Darling〜愛しのマイホーム〜』が日本に初上陸。日本版初演に挑むのは、鈴木京香、高橋克実、江口のりこら豪華な面々だ。演出を手掛けるのは繊細な心理描写に定評のある白井晃。10月初旬の某日、その稽古場を取材した。

鈴木京香

鈴木京香

稽古場に入ると目を引くのは、作りこまれたキッチンとリビングのセットだ。しかし白い大きな冷蔵庫はずいぶん古めかしい形だし、テレビはブラウン管タイプの中でもかなり旧式のもの。幾何学模様のラグマットなども、ずいぶんレトロチック。でもきちんと整頓され、居心地が良さそうな部屋ではある。そして鈴木京香が着けている、ふわっと広がったパニエ型の稽古着。家の中でこんなスカートを履いている人、なかなかいないよね……、というのが気になるところ。

高橋克実

高橋克実

取材したこの日、まず稽古にあたっていたのは鈴木京香と高橋克実。鈴木扮するジュディと高橋扮するジョニーは夫婦であり、ジュディは専業主婦、ジョニーは住宅会社の営業マン。ここはふたりのマイホームだ。家の中は50年代風だが、実は舞台は現代。ふたりは50年代風のものに憧れ、家具を50年代のもので揃えているのみならず、ライフスタイルさえ50年代風にしているらしい。そして本来はラブラブな夫婦だが、このシーンでは少々、雲行きが怪しい。禁忌であるショッピングモールのピザ店にジョニーらしき人物が女性といたという情報がジュディの耳に入ったのだ。ショッピングモールもピザ店も、50年代にはなかったのに! しかも、自分以外の女性と!? トゲトゲしい口調で、遠まわしにジョニーを問い詰めるジュディ。演出の白井は、一つひとつの台詞の裏にあるジュディの疑念、怒り、そして疑惑が解けバツが悪くなり、最後には上機嫌になる感情を膨らませ、粒立てていく。白井の細かい演出に応えていくうちにどんどんジュディがチャーミングになっていくのがわかる。鈴木のジュディはプリプリして拗ねる姿も、変な勘繰りをしてしまった自分に赤面する姿も可愛らしい。一方でジョニーは、妻にあまり強く出ることができなそうな男性だ。高橋のジョニーは、妻に頭が上がらないというよりは、あくまでも妻を傷つけたくないという愛情深さ、優しさを感じるのだが、浮気を疑われたことよりも、妻がこだわる“50年代風の生活”を破ってしまったことが発覚する方におびえているような……? どうやらこの物語、ちょっと裏がありそうだ。

江口のりこ

江口のりこ

稽古は進み、次のシーンへ。ジョニーの新しい上司であるアレックスを、家に招待したジョニーとジュディ。ジュディは夫の昇進の手助けをしようと奮闘するが、アレックスはその大仰な接待に逆に少々引いてしまっているようだ。アレックスを演じるのは江口のりこ。江口の持つクールで淡々とした雰囲気がアレックスの切れ者感を際立たせる。ジュディの作り上げた甘い50年代的世界と働く現代女性アレックスとの不協和音が見てとれるが、しかしそれはピリピリしたものでは決してない。白井は江口アレックスにモデルウォークをさせたり、ポーズをとらせてみたり。ここにもクスリとするポイントが仕込まれていく。

だがこの物語、懐古趣味の奥様の暴走っぷりが面白い……という話ではないことがだんだんわかってくる。「50年代はみんながもっと親切だった」と話すジュディから伝わる、そこはかとない闇。そしてジョニーが口にした“取り決め”という言葉。彼らはいわゆる昔の価値観の“夫は外に働きに出て、妻は家を守る”という関係性ではなく、ジュディは“家庭のプロ”であることを自ら選び、そのポジションを務めているのだ。そう気付くとこのドリーミーなレトロハウスが、一転して非常に現代的なジェンダー感覚を持つ空間として見えてくる。さて、一筋縄ではいかなそうなこの物語の行きつく先は……?

(左から)江口のりこ、鈴木京香

(左から)江口のりこ、鈴木京香

出演はほかに青木さやか、袴田吉彦、銀粉蝶。青木&袴田が扮する友人夫婦は想像するだけで賑やかに、何かしらのトラブルの火種を持ち込んできそうだし、銀粉蝶扮するジュディの母が現実的でシビアな意見をピシリと言う姿も目に浮かぶ。ピンクで可愛らしい宣伝ビジュアルに騙されることなかれ、イギリス産らしい皮肉と社会風刺と現代的テーマが根底に流れる一流のコメディ。これを、一流の俳優陣がおしゃれに愛らしく紡ぎ出す。見ごたえのある舞台になりそうだ。

本公演は10月20日(水)から11月7日(日)まで、東京・シアタークリエにて。

取材・文=平野祥恵

稽古をすすめての感想コメント

■鈴木京香
すごい勢いで稽古が進んでいます!
そして、すごい勢いで膨らんできました。
「こう読んだら、こうなるのか!」「考えていたのと違う方向だった!」とか、落ち込んでいるシーンかと思っていたら、責めているシーンだったのか‼ とか。毎日、新しい発見に満ちています。

■高橋克実
ものすごいスピードで稽古していますよ!
え⁉ え⁉ え⁉ え⁉ え⁉ といううちに、1幕、2幕と一回終わって、いま折り返し始めたところですけど、最後までいって、もう一回戻ると、最初にやったときと見方が全然変わるということがわかりました。最初は、ただあたふたしてしまい、プロンプターの川本さんがほとんど喋っている感じでしたけど(笑)。

■江口のりこ
もっともっと面白くしていくように頑張ろうと思っています!
白井さんを信頼して、頑張ります!!

■青木さやか
こんなに台詞が多い役は初めてで色々あたふた、などと思っておりますが、ほぼ2時間喋り通しの京香さんの前では、どの口がそんなことを言うのか! と静かにしております。演出の白井さんは丁寧に1950年代の世界を目でみせてくださり耳で聴かせてくださりながら、その世界観をチームでじっくりと作り上げていると感じます。ジャイブストックを踊る京香さんに見惚れる毎日、まだまだお稽古したいです。

■袴田吉彦
8年ぶりに舞台ということで不安な気持ちもありましたが、出演者、スタッフの皆さんと稽古が進めていくにつれ楽しく演じることが出来てきました。
マーカスに少しでも近付けるよう残りの稽古に取り組んでいきます。
地方公演もあるので、是非足を運んで頂ければと思います。

■銀粉蝶
まだ全体の通し稽古もなく、場ごとの稽古をしている日々です。正直なところ、不安でいっぱい。なにしろ、この状況ですから。無事に開幕できるかしらとドキドキしながら、それでも楽しんで稽古をしています。ご期待ください