長年の親友だったアルヴィンの弔辞を書くことになった小説家のトーマスは、自身の空想世界の中でふたりが共有してきた人生をたどり、かけがえのない物語を探す追憶の旅に出かける──。ミュージカル『ストーリー・オブ・マイ・ライフ』はふたりの青年の6歳〜36歳までの人生スケッチを音楽と歌で綴る、友情と愛情についての物語。2019年の日本初演で田代万里生と平方元基が2役を交互に演じることでも話題となったが、2021年の再演では太田基裕と牧島輝が新たに参加。トーマスを平方元基と牧島輝、アルヴィンを田代万里生と太田基裕が固定で演じるスタイルでの上演となった。ここでは110分ノンストップ、ふたりだけのミュージカルに挑む新ペアにフォーカス、本番に向けたその胸中を語り合ってもらった。

──いよいよ稽古開始。感触はいかがですか?

太田:昨日から歌稽古が始まって。とにかく曲数が多いのでかなり翻弄されながらですけど、ここから少しずつ積み上げて行くぞって感じです……よね?

牧島:はい。曲、たくさんあります(笑)。

太田:でもどの曲もホントにメロディーが綺麗で、ゆえに歌うのはすごく難しいんですけど……なんとかそこもお芝居と一緒に磨いていけたら素敵な作品になるんだろうなっていう期待もしつつ、不安も感じつつ。序盤ですからね。今まさに楽曲の素晴らしさを身を以て感じているというところです。

太田基裕

太田基裕

牧島:僕もまだ音取りをしているっていう段階ではあるんですけど、やっぱり曲が素敵だから自分で歌っていても「いいなぁ」と思いますし、太田さんが歌っているのを聴いていると普通に曲だけでも感動できてしまうというか……

太田:フフッ(笑)。

牧島:歌詞も知っているし台本も読んでるから余計そう感じられるのかもしれないんですけど、一緒に創って行く中でもすごくドキッとする瞬間がたくさん生まれる予感が、しています。

──ストーリーについてはどんな印象を?

太田:全然タイプの違うこのふたりの関係性……互いの愛情とかが時にちぐはぐになりながらも奥底で強く結ばれている絆とか、そういう姿がとても素敵に描かれている作品だなぁと思います。ホントにいろんな要素、いろんな面があるのがこの作品。ふたりだけの問題が描かれているわけでもないし。社会のこととかいろんな側面もある、とても奥深い作品だなって思っています。

牧島:そうですね。そして……エモいシーンがいっぱいあります(笑)。

太田:ハハハッ(笑)。

牧島:ホントにエモいんですよ! あと、不思議と懐かしくなるような場面も多くて、自分が経験したことではなくても演じていてすごく「あ、これってわかるなぁ」って自分自身の心が動くこと、気持ちが匂い立つようなことがたくさんあって。なので……エモエモです(笑)。

──語られていくのは繊細で愛情に溢れた思い出の数々。それらを実体のあるトーマスとイメージの中の存在であるアルヴィンのふたりだけで綴っていく。その独特な設定も魅力です。

牧島:うー。難しいですよねぇ。

太田:今はまだ稽古を重ねる中でどんな表現になっていくのか、それを自分たちでも知りたいという段階。いい意味で流れに身を任せつつも、やっぱり緻密に関係を創り上げていかないといけないから……なんか……「こういう風にしたい」って、自分たちで断定できるところまでは全然いけてないんです。

牧島:ですね。でも改めて初演の映像も拝見して……感じることはたくさんあったんですけど、その上で台本を読むと、どう考えても僕らは僕らで初演のおふたりとは全く違うモノになるんじゃないかなぁってすごく思ってるというか……

牧島輝

牧島輝

太田:うん。

牧島:だからこそまだまっさら。「自分の形はこれだ」ってハマるものはまだ持ててないなっていうのもわかるんです。それはきっと僕たちふたりで創るものだから、やればやるほど、そこは色々と変わってくるんじゃないかなぁ。

太田:僕という人間を通したアルヴィンと、牧島くんという人間を通したトーマス。“演じる”というよりは僕らが歩んできた人生とか経験から生まれてくるものをいっぱい出して集約させてふたりの関係性を創っていけば、リアリティも生まれますし、感動してくれる瞬間を見てもらえるんじゃないかなぁって思いますよね。なんか……いい意味で僕ら自身が透けて見えることで、唯一無二のトーマスとアルヴィンになれるというか。

牧島:そうだと思います。

──トーマスのように思いがけない心のツボを押されて記憶の底に眠っていた具体的な思い出が飛び出してきたりすることって、誰にでもありますからね。

太田:そう! それが多分牧島くんが言ってた「懐かしい匂い」ってところなんだと思います。

牧島:(頷く)。

──ではそれぞれの役のチャームポイントなどを教えてください。

太田:アルヴィンはホントに一言、「美しいな」と思ってしまうんですけど……自分自身もちょっと憧れるところがあったりして。あの自由奔放さ、でも自由奔放なだけじゃなくていろんな葛藤や悩みみたいなものも随所で感じられるんだけど、そんな中でも自分の美学というものは譲らない姿勢。「何が自分にとって美しいと思える世界なのか」ってところを貫いて追求しているところはすごく愛に溢れているし、力強いし、いいなぁって思います。ちょっとなにかの拍子で崩れてしまいそうな儚さもあるんだけど、ピンと張り詰めている強靭なモノも感じるし、繊細だし。ガラスのような綺麗さというイメージを今は持っていますね。

牧島:トーマスは一見ちょっと弱い人間なのかなって、僕は結構そう感じたんですけど……ちっちゃい頃はビビったりとかしてたし。普通に生きないと周囲に馬鹿にされるんだってことをすごく気にしている弱い人間だと思った。でも同時にトーマスは戦い続けている人間なんですよね。ずっと一人で戦ってる。そこは僕はすごい好きだなって思うところで、生きる上で人それぞれいろんな考え方はあると思うけど、彼は自分のやりたいこととか理想のために流されているというか……

太田:“前線で戦ってる感”はあるよね。

牧島:ありますね。それはすごく。

太田:生きるために「これはこうなんだ」って思い込もうとして葛藤し続けてる。なんか……アルヴィンとはまた違う種類の強さを感じます。あっちは現実主義でこっちは理想主義。どっちの生き方もとても美しいんだけどね。

太田基裕、牧島輝

太田基裕、牧島輝

牧島:うん。だからこそふたりは心底分かり合えてるというか、奥底で心が繋がれているってところもあると思うな。

太田:一見全然違うように見えるんだけど、お互い補い合ってるというか無い物ねだりというか。羨ましかったり、尊敬できたりっていう関係性なのかなって。そうやって絆が結ばれてる。

牧島:(頷く)。

──かけがえのないふたりだけが舞台上にいる。濃密な空間ですね。

牧島:大変な集中力が必要だなって、シンプルに覚悟してます。きっと体感としてはあっという間だけど、何か一つ切れた瞬間にいろんなことが崩れてしまうのは怖いなぁ。ふたりだけなので余計にそういう空気はお客様にも伝わりやすくなってしまうと思うから、やっぱり集中力は大事にしたいですね。

太田:人間だから日によってちょっと疲れてるとかコンディションもいろいろだもんね(笑)。でもこの素敵な作品をお客様に伝えたい、この作品の美しさを届けるぞ、ラストまでみんなを導きたいんだという思いさえ根本にあれば、絶対気持ちも繋がって行くと信じてるので……。

牧島:はい。

太田:「思い続ければきっと届く!」と念じて進むしかないですね。

──俳優同士としてのおふたりの関係は?

太田:なんか、すごい、楽。

牧島:ハハハッ(笑)。

太田:一応「太田さん」って呼んでくれるけど、そこまでそんなに先輩ってことを意識されている感じでもないと思うし……え? してる? してない??(笑)。

牧島:してますよ(笑)。

太田:でも「それはそれ」だよね、きっと。ミュージカル『刀剣乱舞』からの関係もありますし。

牧島:あ、はい。「それはそれ」です(笑)。すでに「この作品で打ち解けて仲良くなりたい」とかっていう段階じゃないので。

牧島輝

牧島輝

太田:……って感じでもういい関係ができてるので、このままの流れで、ニュートラルなふたりのままで役に向き合っていければ大丈夫。だって、やっぱり自分もそうだもん。ふたり芝居なのにすごい気を使う先輩とかだったら困るでしょ。「いやぁもう怖くて……」って(笑)。だからそうじゃない関係のふたりで居られることってすでにとても大切だなぁって思いますよ。

牧島:ま、生意気なことを言うと、メンタル的な……ソウル的なところでは太田さんとは友達だと思ってるので。

太田:ね。

──配役を聞いたときはおふたりとも逆のイメージがあったんですが、今こうしてお話をしていると、むしろ今の配役はとてもぴったりだなぁと感じられて。役へのフィット感も楽しみです。

太田:配役の意外性っていうのは僕自身も楽しみなポイントですね。多分僕をよく知っている方は最初僕がトーマスをやると思ったんじゃないかなぁ。僕もそう思ったし。そこをあえて僕がアルヴィンで彼がトーマスっていう面白さも含め、お客様にも楽しんでもらいたい。ね、最初、(自分が)アルヴィンかなって思ったでしょ?

牧島:正直、思いました(笑)。ファンの方もそういう意見が多かったかもしれないですね。でも今はもう自分が「太田さんのアルヴィンが見たい!」って気持ちでいっぱいなので。みなさんにも楽しみにしていてほしいなぁ。

太田:稽古も始まり、お互いにそれぞれの様子もしっかり想像できるし。なんか……面白いことになりそう。

牧島:面白い。楽しみです。あとすごく個人的な自分自身のことで言わせてもらうと、僕は2.5次元舞台をずっとやってきて、こういう外の世界の作品で歌うこと……ミュージカルに出ることが初めて。経験は少ないですけど真摯に向き合って、一生懸命お芝居したいなって思ってますし、その点太田さんは僕よりもミュージカル経験が豊富なので、色々教えてもらいつつ……

太田:いやいやいや。教えることなんてないよ〜。僕はもう毎回とにかく自分のことに必死なんで、僕の方こそもう、頼り頼られだから……そこはほら。もうひとチームを見て、盗もうよ。色々と。

牧島:ハハハッ(笑)。そうしましょう。

太田基裕

太田基裕

──お稽古はここからグッとギアが上がっていく段階。公演を楽しみにしているお客様にもぜひ、意気込みとメッセージをお願いします。

牧島:クリスマスシーズンに公演ができるのは嬉しいですね。作品世界と実際の季節感がマッチしてるのって僕たちにとってはちょっと有利なのかなっていうのもあり、また、お客様もこの世界観を共有しやすいとも思うし。最近特に実感してるんですけど、この作品の印象って言葉にするのがすごく難しいんですよね。だからお客様がこの舞台を観た後にどう感想を言葉にするんだろうっていうのが、僕は今からとても楽しみなんです。そしてそれがみなさんにとって素敵なモノになるように、ここからさらに頑張ってしっかりと取り組んでいきたいなと、思っております。

太田:素敵で美しくてそしてすごくさみしい気持ちにもなる作品なんですけど、そのさみしさも愛おしいというか、なんか……「愛」に満ち溢れたような気持ちになる作品。そんな特別な温度感を劇場でぜひ体感していただきたいです。「答え」がある作品ではないと思うので……答えというか、物語がたどり着く先、かな。そこがどこでどう気持ちを導いていくかはもうお客様それぞれの感性にお任せして。僕はひたすらにみなさんと一緒に素敵な時間を過ごせたらいいなって思います。

──共に心の旅を経験する時間がここにある。

太田:そう。どなたにでも楽しんでもらえるというか、年配の方も子供でも、ホントにいろんな世代の方に楽しんでもらえる内容なので、ぜひね、「一緒に観たいな」と思う方と一緒に観ていただくのも素敵なんじゃないかな。

牧島:そして一人で観るのもまた、とてもいい時間を過ごせる作品。

太田:あー、そうだよね。いろんなスタイルでたくさんの共感を受け取ってください。

太田基裕、牧島輝

太田基裕、牧島輝

取材・文=横澤由香 撮影=iwa