昨年(2020年)で結成40周年を迎えた、関西小劇場の兄貴分的な劇団「南河内万歳一座」。新型コロナウイルスが蔓延してもなお、座長の内藤裕敬を始めとする劇団員たちは精力的に活動を続け、沈みがちな演劇界に喝を入れている。そして前回の新作『ゴミと罰』から一年も経たずに、次の新作『ギャンブルの犬』の上演が決定。ギャンブル=勝負に出ることの楽しさと重要性を、何かと守りに入りがちな現代社会にぶつけていくという本作について、内藤が大阪市内で行われた会見で語った。

幼少の頃から競馬に興味を持ち、競馬関係のコラムやTV番組のレギュラーを持つなど、かの寺山修司と比肩するほど、演劇界きっての競馬マニアとしても知られている内藤。それだけに本作は「自分の趣味は、もちろん入ってくると思う」と笑うが、そもそも私たちは賭け事に限らず、日常のいろんな所で“ギャンブル”をしているはずだと言う。

「よく考えたら、生きていたら毎日がチャレンジですよね。その日の仕事が上手く行くかもチャレンジだし、昼飯が当たるか外れるかもチャレンジ。オリンピックだって、選手には人生をかけて取り組んだチャレンジでしょう。でもチャレンジという過程だけでなく、私たちはそれを重ねた上で“大きな勝負がしたい“と思っているんじゃないかな。そこで勝っても負けても、何かが見えるはずだと。

競馬の場合、馬券を買うという勝負の瞬間にたどり着くまで、データや想像力を使って予想をするという、とても大きな努力を積み重ねているので、運に任せて買うだけの宝くじとはわけが違う。そういう意味では、オリンピック選手がメダルを目指して訓練するのとあまり変わらないし(笑)、バクチだからって責めないでくれよ! という気持ちはあります」。

一度一緒に演りたかった関西の俳優達+南河内万歳一座☆オールスターズ『ゴミと罰』(2021年)。東京・福岡公演は中止したものの、大阪は全公演を決行。 [撮影]谷古宇正彦。

一度一緒に演りたかった関西の俳優達+南河内万歳一座☆オールスターズ『ゴミと罰』(2021年)。東京・福岡公演は中止したものの、大阪は全公演を決行。 [撮影]谷古宇正彦。

さらに本作のモチーフとなるのは、イソップ童話の『犬と肉』。大きな肉を咥えた犬が、川の水面に映る自分の姿を他の犬と勘違いし「そっちの肉の方が大きそうだ」と思って吠えかかったら、咥えていた肉が川に落ちて、肉を食べそこなってしまった……というお話だ。通常は「欲張るとろくなことがない」という教訓として語られる説話だが、内藤は初めて読んだ時から、納得いかないものを感じていたという。

「この犬なら、肉を失ったことを反省するんじゃなく、取り返そうとして何か勝負をするんじゃないか? と。イソップ童話って教訓に満ちているけど、それで反省して地道に生きたり、真面目になっても、つまんない人生になりそうだなあ……と思いますね。たとえばオオカミ少年は(正直者になるのではなく)、もっと上手い嘘を付くことで出世するかもしれないじゃない? 今回の万歳は、そんなイソップ童話の逆を行く物語にしようと思っています。

つまり「教訓に対して、反省をせずに成功する」という、万歳版のイソップ童話をやってみよう、と。実際振り返ってみても、反省をしてもあんまりいいことはない……というか、そこで何かが改善されるのではなく「一応反省したから」と言って、またやるんですね。それはいくら毎週外しても、馬券を買うようなものです(笑)。教訓や反省の上に立たずに、前を向く。その大事さを描きたい。

バクチに限らず「勝負に出る」という行為は、人間にはとても大事なことなんじゃないか? 勝負ができるうちに勝負に出るのが、大事なんじゃないか? と。なるべく勝負をしないで生きていきたいと思う人でも「現在の自分を逆転したい」「何か奇跡が起こって、違う所に行けないか」という勝負心は、どこかにあるでしょう。そこで「逆転は可能だよ。しかし勝負にでないと、奇跡も起きないよ」ということを、しっかりと物語にしたいと思います」。

内藤裕敬。

内藤裕敬。

舞台となるのは、ソロキャンプの人々が集まっているキャンプ場。2週間以内に経営を改善しないと、倒産は免れないという工場のトップたちが、環境を変えて相談をするために、テントを張っている。会社をたたむ準備をするか、それとも一か八かの勝負に出るか? を必死で考える彼らに、周りのキャンパーたちの人間模様や、不気味な老婆などが絡んできて……。

「ソロキャンプって一人で静かに過ごす、孤独な行為であってほしいと思うけど、動画サイトでたまに(その様子が)流れると「自分はこんなに豊かな時間を過ごしてます」というのをひけらかして嫌らしいな、と思うわけです。それで、ソロキャンプ流行りを逆説的に取って、ソロキャンプに来たのに(キャンパーが)密集してるというシチュエーションで遊んでみます。ちゃんと舞台上にテントを張るから、万歳では30年ぶりぐらいのテント公演です(笑)。

このコロナ禍をどうやって乗り切るかは、相当なチャレンジ。この2年で、したいチャレンジではなく「しなければいけないチャンレンジ」に割と圧迫されてきた私たちは、イソップ童話の教訓にしたがって粛々と生きるんじゃなくて、やっぱり逆転したいと思っているはず。この工場の人たちの選択が、単なる無謀なバクチに見えないように、物語を積み上げたい。観た後に、何か爽快感が残るような……テレビ番組の『逆転人生』みたいに、彼らもこのキャンプ場に来たことで、奇跡が起こればいいなあと思います」。

南河内万歳一座『ラブレター』再演(2021年)。緊急事態宣言の延長のため、半分以上のステージが中止になったものの、劇団初のライブ配信を成功させた。 [撮影]面高真琴。

南河内万歳一座『ラブレター』再演(2021年)。緊急事態宣言の延長のため、半分以上のステージが中止になったものの、劇団初のライブ配信を成功させた。 [撮影]面高真琴。

現在は公演を本拠地の大阪にとどめ、旅公演を再開するための力を蓄えるという、ギャンブルとは逆のスタンスを取っている万歳。しかし将来的には、これまでとは違う形の旅公演を提唱することで“逆転”を狙っているそうだ。

「状況が改善し次第、早いうちに、積極的に外に出ていきたいです。とはいえ今は、計画もなしに旅に出ても“何か古い劇団が来てる”というだけになりかねなくて、意味がない。それなりにしっかりしたパブリシティを確保して、戦略を立てないといけないから、今はその準備をしている所です。

ただ個人的には、東京にはそれほど興味はないんです。今は(大阪)近隣の自治体との交流が増えているので、そのネットワークの中で旅公演をしていく方が、自分たちらしいんじゃないかな。大都市にこだわらない、独自の旅公演ができればと思います」。

内藤裕敬。

内藤裕敬。

ギャンブルという、一見すると罰当たりな題材を扱いながらも、そこから「しなきゃいけない勝負からも逃げていないか?」などの、誰もが思い当たりそうな問いを投げかけていくという、まさに内藤節と言える内容となりそうな『ギャンブルの犬』。今回も10日にライブ配信を行うので、大阪まで見に来られないという方は、そちらをご視聴いただきたい。

また一部の回では、ポストパフォーマンストークも開催。6日昼公演は「Piper」の後藤“大王”ひろひと、10日昼公演は長年公演チラシのイラストを手掛けている人気絵本作家・長谷川義史、12日は落語家の桂九雀が出演する。特に、関西での活動にこだわりがあることと、プロレス好きということ以外、共通点のなさそうな内藤と大王(ちなみに大王の方が10歳も年下!)が、どんな話で盛り上がるのかは、かなり気になる所だ。

南河内万歳一座『ギャンブルの犬』公演チラシ。 [イラスト]長谷川義史。

南河内万歳一座『ギャンブルの犬』公演チラシ。 [イラスト]長谷川義史。