16世紀のスペインを舞台に、王子カルロス(北川拓実)は愛するフランス女王エリザベート(愛原実花)が父王の妻になったことで深く絶望する。時を同じくして宮廷と教会の陰謀に巻き込まれていくカルロス。自由を求めてカルロスの選択した行動は……。

ドイツの作家シラーの名作『ドン・カルロス』に少数精鋭6人の俳優たちと共に挑む演出家・深作健太。主人公のカルロスに扮するのは深作と組んだ『火の顔』の好演も記憶に鮮やかな北川拓実(少年忍者/ジャニーズJr.)。カルロスが愛するエリザベート役は宝塚出身の実力派・愛原実花がつとめる。いよいよ本番直前、通し稽古も順調に終えた深作と愛原に『ドン・カルロス』の魅力を語り合ってもらった。

ーー本番を前に今、どんなお気持ちでしょうか。

深作:シラーの書いた長編戯曲を4分の1くらいにカットして、出演者も6人に絞りました。ジャニーズ、宝塚、小劇場……など6名とも俳優としての経歴がいい意味でばらばらで、それがうまく絡み合いながらたった6人で大きなドラマをうねるように作っていく姿が演出家としては見ていて楽しくて、はじまる前から終わった時のことを考えて寂しくなっているところです(笑)。北川拓実くんの成長も著しいですし、愛原実花さんがしっかり彼を支えてくれています。

愛原:最初に台本を読んだ時は重厚な作品ですし、とりわけ私の演じるエリザベートはフランスからスペインに嫁ぎ、しかもその相手は恋人の父親であるため、孤独で人生に失望しているような印象があって、暗くて重い、でもそこに一筋の光があるように感じていました。ところが稽古をしてみたら意外にもとても楽しいんですよ。台本を読んだ印象とのギャップに驚いています。

深作:ドイツ演劇は懐が広く、自由に遊びを取り入れても世界観が壊れません。古典を当時書かれたままやるのではなく遊びのシーンもいっぱい盛り込みました。例えば、エリザベートとエーボリ公女(七味まゆ味)が親交を深めるシーンでは現代的な要素を取り入れています。そこでは衣裳とはにわかに信じられないような現代的なものを着用してもらいます。また、小ネタもさることながら、戯曲の本質的な部分に関しても僕なりのアイデアを取り入れています。特にクライマックス——愛し合っていながら引き離された王子カルロスとエリザベートがどうなるのか。カルロスの決断はもちろんのこと、エリザベートの強さも印象に残ります。大人の女性の頼もしさで若い拓実くんを引っ張っていってくれています。

愛原:実年齢ですと、北川さんと私は親子ほど年齢差があるんです。もしも私が二十歳くらいで結婚して出産していたら、北川さんくらいの子供がいたのだなあと思うと、恋人役を演じることに最初は遠慮がありました。稽古中、深作さんに「もっと思いきって抱きしめて」と言われると、そんなことしたらトラウマになってしまうのではないかしらと思って(笑)。でも私が、カルロスを愛するエリザベートを本気で演じることで、カルロスがいかに魅力的な人物かより際立たせることになるので、舞台の上では本気でぶつかっていこうと覚悟を決めました。

深作:愛原さんが宝塚時代に築かれた古典を表現する技術や、お父さんである劇作家・つかこうへいさん譲りの情熱と、愛原さん自身の等身大の女性の感性など複数の要素を客観的に出し入れしながら演技をされることで物語をリードして頂いております。

愛原:宝塚歌劇団の芝居を経験している私は、現実とかけ離れた古典の世界に生きる人物を演じることや男役トップスターの方を本当の男性と思って恋するお芝居をすることを、ある種の職人のようにできるように鍛錬してきました。でも今回は様式的にならないよう、できるだけリアルに見えるように心がけています。

ーー深作さんの演出作『火の顔』から北川拓実さんが続いて主演されています。彼の成長度合いはいかがですか。

深作:『火の顔』は現代もので、拓実くんが等身大のまま全身全霊で演じてくれたら成立する部分もありました。ところが今回はそれだけでは乗り切れないと言いますか、戯曲の言葉を的確に伝える技術も必要になってきますし、中世の王子の所作などの見せ方も必要になってきます。はたして大丈夫だろうかと心配していたら、すくすくと成長していて、怯みなく毎日一段一段着実に階段を上っていて頼もしいばかりです。父親のような気持ちで見守っている僕としてはそんなに早く先にいかないでほしいという寂しさもありますが(笑)。

愛原:北川さんのパワーはすごいですねえ。若いなーっ! て思います。エネルギーが生き生き脈打っている感じがします。

深作:擦れてないのがいいのでしょうね。へんにかっこつけてもいなくて。

愛原:そんな気がします。ほんとにそのまま一直線な感じで。少年忍者の中ではかわいい担当だそうで、私も思わず「かわいい」と言ってしまうこともあります。ただ男性としては「かわいい」と言われることは本意じゃないのではないかしらと思ったら、「大丈夫です」と言っていて、とらわれてないところもすてきですよね。もちろんかわいいだけでなくかっこいいいところもある方です。

ーー愛原さんが演じるエリザベートは、恋人カルロスと夫であるカルロスの父王との間で葛藤する役ですが、演じてみていかがですか。

愛原:葛藤はすごくありますが、そのドロドロした気持ちが、とても美しい言葉で表現されているんです。その言葉を一つひとつ明確に語ることで、どんなに感情が溢れて出してもバランスがうまくとれるような気がしています。

ーー女性ならでは感情の演出はいかがですか。

深作:この演目は、息子と父を主軸に読んで惹かれ、やりたいと思ったものなんです。ところがいざはじめてみたら、エリザベートのたくましさが魅力的だったんですよ。カルロスを筆頭に、登場人物はみんな悩むのですが、エリザベートには「私にはこれが責務」というセリフがあるように、彼女だけはどんな状況も受け入れて乗り越えていく。エリザベート無敵説(笑)。それは愛原さんの内面の強さから出てくるものかなと思います。まるでつか(こうへい)さんの名作『幕末純情伝』や『飛龍伝』の主人公のようです。シラーがこの作品を書いた2年後にフランス革命が起こり、それをモチーフにドラクロアが「民衆を導く自由の女神」を描くことからも自由を象徴するのは女性なのかなと感じています。

愛原:そうですよね。女性は強いと思います。

深作:男はいざとなると慎重になってしまうんですよね(笑)。僕はこれまでお仕事でご一緒した女優さんから毎度「ほんと深作さんって女性のことわかってないよね」と言われてきたんです。愛原さんにもあらかじめそれをお断りしてありますが、実際、どう思ったかは打ち上げの席で聞きたいと思います。

愛原:あはは(笑)。

ーー最後に読者の皆様へメッセージをお願いします。

深作:海外の古典は難しいというイメージを払拭するものになっています。北川拓実くんのファン、演劇ファン、映画ファン、オペラ版である『ドン・カルロ』をご存知のオペラファン……とジャンルの壁を超えて様々なお客さんに来ていただけたらと思います。コロナ禍で閉じていた劇場が緊急事態宣言解除によって開放されてから間がない今、この状態がいつまで続くか心配もありますが、今この瞬間を楽しむために、劇場に足を運んでいただきたいと思います。

愛原:お客様が息つく間もないほど驚きがたくさんある作品です。観劇後、たくさんの思いが浮かんできて、あれはどういう意味だったのだろうか考えたり、見た人同士が話し合ったりできるような、観客と劇場が一体になった演劇を深作さんと俳優6人で作るようにがんばりますのでよろしくお願いします。

本公演は、2021年11月17日(水)〜2021年11月23日(火・祝)東京・紀伊國屋ホールにて、その後、11月26日(金)〜2021年11月28日(日)京都・京都劇場にて上演される。

取材・文=木俣 冬