昨年(2020年)公開した映画『ドロステのはてで僕ら』が、世界各地の映画祭で受賞が相次ぐなど、地域やジャンルを超えて支持の輪を広げている、京都の劇団「ヨーロッパ企画」。とはいえ彼らの本領が発揮されるのは、誰が何と言おうと「演劇」の舞台だろう。コロナ禍を経て、2年ぶりに行われることになった新作本公演のタイトルは『九十九龍城(きゅうじゅうくーろんじょう)』。かつて香港にあった巨大スラム街「九龍城砦」をモデルにした魔窟が舞台の、無国籍風味の群像コメディになるという。その舞台の会見が、2021年11月17日に大阪で行われた。

この日出席したのは、劇団代表で作・演出の上田誠と、劇団員の永野宗典&ゲストの金丸慎太郎以外の10人の出演者(永野は随所でリモートで登場)。まず始めに、2年ぶりに本公演が実現することに対して、上田は「僕らにとって、やっぱり本公演は特別なもの。やっとこの時がきた」と喜びの声を上げた。

「この2年間は(生配信演劇の)『京都妖気保安協会』(2020年)など、いろんな活動を試みたけど、やはり僕らは“劇”をやる集団として結成したので。稽古初日にみんなが集まった時は、特別な感慨がありました」と語った。

今回の舞台となるのは、パラレルワールドのアジアの街。住民たちが勝手に増築をして、もはや魔窟と化している集合住宅「九十九龍城」に、ある事件の犯人がいるかもしれないという情報を得た2人の刑事(中川晴樹・金丸慎太郎)。建物も住民たちもアンタッチャブルな雰囲気にあふれ、警察も介入しようとしなかったこの場所を捜査するために、2人は特別な手段に出る──。

『九十九龍城』作・演出の上田誠。

『九十九龍城』作・演出の上田誠。

「九龍城砦はもう取り壊されてるんですが、残された写真を見ると、善悪を超えた凄みを感じて、それの11倍すごい“九十九龍城”を作ろうと。僕はよその劇団さんでも、観に行くのは怖いもの見たさというか、あるトライブ……全然別の発展を遂げた部族の、営みのようなものを見たいという感覚があって、それが独自であればあるほど面白い。それで僕らのトライブ感を覗きに来てもらうなら、魔窟劇がとても合うんじゃないかと思いました。

2006年に『Windows5000』という、テトリスのような小部屋が集まった集合住宅を舞台にした物語をやったことがあるんですけど、これはヨーロッパ企画にしかできないし、ほか(の劇団)はやろうとも思わない作品だ……という手応えがあって。今回それを元にしようとしたけど、この時期はなかなか海外に行けないし、せっかくだから演劇の中ぐらいは、日本とは地勢的・時間的にも離れた世界を描いてみようと思いました。そうしているうちに『Windows5000』とは、似ても似つかない作品になってきています(笑)。

僕はビジュアルで“おーっ!”ってなる劇が好きなんで、今回は特にそういうものに……舞台美術、すごいですよ(笑)。その中でマフィアだったり、工員だったりする人たちが“こんな暮らしをしてるのか!”というのを見せていくのが、この劇の醍醐味です。面白い魔窟が見られると思います」。

今回の公演から、正式な劇団員として出演する藤谷理子。

今回の公演から、正式な劇団員として出演する藤谷理子。

もう一つの大きなトピックは『来てけつかるべき新世界』(2016年)を始め、数多くの作品にゲスト出演してきた藤谷理子が、今年から正式な劇団員として加入したこと。それについて藤谷は「記念すべき第一作目です。演劇を続けていく中で、ずっとヨーロッパ企画の皆様と一緒にやっていて、安心感と信頼感のある場所でした。このタイミングで入団したのは“話がまとまったから”としか言いようがありませんけど(笑)」と、裏事情を明かしつつ挨拶した。

また、今回ゲストで参加する早織は「『サマータイムマシン・ブルース/ワンスモア』(2018年)に出演させていただいてから、また本公演に出させていただくのを夢見ていました。またご一緒させてもらえることを、本当に光栄に思っています」と意気込みを語った。

『サマータイムマシン・ブルース/ワンスモア』以来の本公演出演となる早織。

『サマータイムマシン・ブルース/ワンスモア』以来の本公演出演となる早織。

もう一人のゲスト・金丸は、ビデオメッセージで「とにかくウケたい。めちゃめちゃ笑かすコメディになれば」などの、イキのいい抱負の前フリで、稽古直前に変えた髪型について、上田から難色を示されたエピソードを延々と語ってしまい、上田が「彼はこの場の空気を知らずに撮影したので、記録的に長くしゃべってしまいました」とフォローに回っていた。

前回公演『ギョエー! 旧校舎の77不思議』に引き続いて出演する金丸慎太郎は、ビデオメッセージでコメント。

前回公演『ギョエー! 旧校舎の77不思議』に引き続いて出演する金丸慎太郎は、ビデオメッセージでコメント。

そして中川以外は、全員魔窟の住民を演じるというヨーロッパ企画の劇団員。会見ではおなじみとなっている(そして大抵のニュース記事ではカットされる)、各劇団員のお楽しみコーナーが、今回も設けられた。

まず石田剛太が、高校の卒業旅行で九龍城砦跡地を訪れたことを、写真付きで紹介。しかしいずれも微妙な写真だったため、上田から「30年前の(京都の)河原町じゃないんですか?」と突っ込まれたのみならず、記者席もやや苦笑いのムードに。それでも「この時代に思いを馳せながら演じていきたい」と、前向きな言葉で締めくくった。

九龍城砦跡地を訪れた話をする石田剛太。

九龍城砦跡地を訪れた話をする石田剛太。

諏訪雅は、今回の稽古場の三大ニュースを、角田貴志のイラスト付きで紹介。舞台の性質上、高い足場に大勢が登ったり、天井が低い状態で芝居をせざるを得ないという苦労話や、上田の最初の構想では、出演者の数が全然足りなかったこと。また完成したという台本が、すごろくを複雑化させたような、チャート状のモノだったことへの戸惑いを、赤裸々に語った。

角田貴志の描いたテロップを使って、稽古場の三大ニュースを解説する諏訪雅。

角田貴志の描いたテロップを使って、稽古場の三大ニュースを解説する諏訪雅。

珍しくこのコーナーに参加した中川晴樹は、先に触れた『Windows5000』からの進化ポイントとして「舞台美術が酒井(善史)ではない」「小道具が永野ではない」ことを挙げ、手作り感にあふれていた『Windows5000』とは違う、プロが本気を出した魔窟の世界が立ち上がることを予告する形に。またこのご時世ということもあり「(上演時間)2時間超えない」とも告げられた。

『Windows5000』と『九十九龍城』の違いを熱弁する中川晴樹。

『Windows5000』と『九十九龍城』の違いを熱弁する中川晴樹。

リモートで参加した永野宗典は「『九十九龍城』は九龍城砦の11倍だから、俳優もそれに対応すべく11役をやります。キャストが12人だから、132役が見られることになります」という、謎理論を展開。そして伝説の、大部屋俳優たちの役者集団「ピラニア軍団」になぞらえて「むちゃくちゃ(たくさん)役をやりたい。一人ピラニア軍団となって、超過密魔窟劇を表現したいです」と勝手に宣言した。

リモートで参加した永野宗典は、「一人11役」という提案で会場を戸惑わせた。

リモートで参加した永野宗典は、「一人11役」という提案で会場を戸惑わせた。

しかしこれは永野の妄想かと思いきや、上田は「刑事役以外は、一人何役もやる人が出るのは事実。その中でも永野さんは、割とやるんじゃないかと思います」と、複雑なキャスト配置が見どころの一つになることを明かした。

この後は記者の質疑応答の時間となったが、主な質問と回答は以下の通り。

──「香港だったら、そりゃアクションはあるやろう」ってなりますけど、ありますよね?

上田「とても苦しい質問です(笑)。アクション芝居と思われると緊張しますけど、せっかく香港のような設定でやるので、やっぱり活劇ではありたい。会話劇だけで終わるというより、結構激しい動きや変わった動きが劇中では行われますし、なんちゃってアクションもあります。やっぱりコメディなので、いろいろと面白い動きや、空中性のある舞台を活かしたアクションに期待していただけたらと思います」。

(下段左から)上田誠、角田貴志、諏訪雅。(上段左から)西村直子、藤谷理子、本多力。

(下段左から)上田誠、角田貴志、諏訪雅。(上段左から)西村直子、藤谷理子、本多力。

──前作の『ギョエー! 旧校舎の77不思議』が77で、今回が99ですが、そういう数字のシリーズが続くんでしょうか?

上田「『Windows5000』もそうですけど、僕が数を増やすというか、そういう言語感覚が好きというのがあります。それと本公演が久々なので、前回の77不思議から、お客様に忘れられてるかもしれないな……という思いがあって、じゃあヨーロッパ企画節というか、“これぞヨーロッパ企画らしいタイトルだ”と思ってもらえるようなものにしよう、と。それで、わざと前回のイメージを彷彿とさせるようなものにして、“また本公演をやりますよ”という意味を込めようと思いました」。

(下段左から)石田剛太、酒井善史、早織。(上段左から)土佐和成、中川晴樹。

(下段左から)石田剛太、酒井善史、早織。(上段左から)土佐和成、中川晴樹。

──大阪は初めて[シアター・ドラマシティ]で公演を打ちますが、何か特別な意気込みはありますか?

上田「演劇って、目で観る要素と耳で聞く要素があって。台詞は劇場が大きくなっても意外と届くんですけど、目で観る要素は(舞台が)遠かったら如実に遠くなるので、『Windows5000』にはなかったような、派手さやケレン味を入れなきゃいけないなあと思っています。先ほどアクションの話がありましたけど、香港活劇のようなことって、大きい空間だと映えるものなので、それについては(ドラマシティで)良かったなあと思っています」。

本多「高校時代によく観に行っていた、憧れの劇場でできるのは嬉しいなあ……と思っていたんですけど、一回『昭和島ウォーカー』(注:2008年に井ノ原快彦とコラボレーションした企画)でやったことあるなあと(笑)。ただその時は仕込みやバラシを自分たちではやらなかったので、搬入口がどんななのかな? というのを、今回の楽しみにしたいと思います」。

『来てけつかるべき新世界』以来のコラボとなる、京都の兄弟ユニット「キセル」の無国籍風の音楽も注目。

『来てけつかるべき新世界』以来のコラボとなる、京都の兄弟ユニット「キセル」の無国籍風の音楽も注目。

現在、劇団の公式YouTubeチャンネルでは、毎週火曜日に「Vlog」を使って、作品の進捗状況や稽古場レポートを配信中。またMBSでも特別番組を放送する予定なので、公演特設サイトなどでチェックをしておこう。