2021年6月からスタートした<TRUMPシリーズ>Blu-ray Revival発売記念連載『TRUMP解体新書』。

毎月1タイトル、8か月連続リリースする舞台<TRUMPシリーズ>について、脚本・演出の末満健一さんのインタビューと共に、毎月たっぷりじっくり振り返ってきた連載もこれが最終回になりました。長い間、読んでいただきありがとうございました。

今回は、2022年1月15日(土)に開幕する<TRUMPシリーズ>最新作であるミュージカル『ヴェラキッカ』のお話と、シリーズのこれからのお話をうかがいます。

※以下『ヴェラキッカ』についてのネタバレを含みますのでご注意ください。


■『ヴェラキッカ』はこれまでとは違う手触りの作品に

――今は<TRUMPシリーズ>最新作のミュージカル『ヴェラキッカ』のお稽古が始まったばかりということですが、どんなものをつくろうとされていますか?

この作品を書く時に、2020年に上演した音楽朗読劇『黑世界〜リリーの永遠記憶探訪記、或いは、終わりなき繭期にまつわる寥々たる考察について〜』を踏まえ、「<TRUMPシリーズ>は質感自体を変えていくことができるんじゃないか」「もっと多様なものが描けていくんじゃないか」ということを考えました。今はまだ始まったばかりなのでなんとも言えないですが、今までとは違う手触りの予感はしています。だからまあ、一言で言うと、不安ですね(笑)。もちろん意図的に、そうしたいと思ってそうしたのですが、やっぱり出来上がりが読めないので。

――どうしてそういうものをつくろうと思われたのですか?

僕は劇作家の活動を始めて間もなく20年になります。<TRUMPシリーズ>も12年やってきましたし、演劇自体は役者時代を含めると25年くらいやっているんですけど、その中で、方法や技術、作法が蓄積されて、組み立て方もわかるようになってきました。そうすると、予想の範囲内で作品が収まってしまいがちになって、どこかつまらなさも感じるようになりました。だから今回は、テクニカルな面も含め今までに蓄積した方法ではないものをやってみたいなと。だから今は全然予想がつかない。<TRUMPシリーズ>的にすごく未知のものをつくっているな、という感じがありますね。読み合わせをしてみても、このシリーズの稽古をしている感覚ではなかったです。だからすごくギャンブル性が高いなと今感じています。

ミュージカル『ヴェラキッカ』

ミュージカル『ヴェラキッカ』

――内容としても、これまでに出てこなかった場所が舞台になっています。

そうですね。ヴェラキッカという一族のお屋敷の中だけで起きる出来事なので、クランよりもスケールがさらに小さくなっています。

――過去作を観ていなくても楽しめるストーリーになりそうですね。

意図的にそうしました。毎回、一作で成立するようにつくっているつもりですが、シリーズを重ねるごとにどうしても、別作品とエピソードが繋がってきたりするので、「今からは入れない」と感じてしまうお客さんもいらっしゃると思うんです。でも今作は過去作と関係があるようなキャラクターもいないですし、できれば観ておいたほうがいいという作品もないです。設定も、すごくそぎ落として必要最低限にしています。設定の内容は劇中で説明しますしね。

――だけど独特な作品で。

詐欺的というか。題材はコンゲームではないけれど、作品と観客の間にはコンゲームのような関係性が発生するような作品です。表面的に進んでいくことと根底で流れているものが全く別なので。音楽も目くらましですし。

――またそんな、お客さんを煙に巻くような。

ちょうど稽古初日に「お客さんを煙に巻いていかなければいけない」という話をしました。ただまあ、内包しているのはとてもシンプルなものなので、煙に巻かれて、煙に巻かれて、気が付いたらそのシンプルなものを手渡されている、みたいなことになればいいなと思っています。

ミュージカル『ヴェラキッカ』

ミュージカル『ヴェラキッカ』

――末満さんがTwitterの配信でキャスト発表をされたとき、美弥るりかさんが演じる”ノラ”が中心にいて、それ以外の登場人物の矢印がすべてノラに向いている相関図を出されていましたよね。ノラが軸になって展開していくのですか?

いえ、今回は一人の登場人物の感情を追っていくようなものではないです。常に混乱。ただ、混乱しているんだけど、混乱に気付かないまま混乱している人たちです。

だから読み合わせの時にも、「前半はこれがどういう話なのかわからなくしたいんだ」と言いました。ミステリーなのか、サスペンスなのか、ファンタジーなのか、ただはしゃいでいるだけの芝居なのか、わからないようにしたい。

観客と情報戦をしながら進んでいくようなものになるので、舞台上と観客との駆け引きは丁寧にやっていかないといけないなと思っています。伝わらないのもよくないし、伝わりすぎるのもよくない。だから絶妙な匙加減が必要なんですね。

――和田俊輔さんの音楽も楽しみです。

僕と和田さんの“いびつな曲シリーズ”も、来るところまで来たかなって(笑)。僕がいびつな音楽が好きなので、ずっとその傾向でやってはいましたが、今回は特にいびつです。だから僕的にはすごく面白いけど、役者は歌いにくいと思います。テンポとかリズムのラインが非常に難しい。

ただ、僕は揺り戻しをする傾向があるので、もし次にミュージカルをやる機会があったら、すごくシンプルなファミリーミュージカルみたいなことをやると思います(笑)。

■「命の肯定の物語」であることは変わらない

――この連載も今回で最終回となります。改めて<TRUMPシリーズ>をどうしたいと考えていらっしゃるかうかがいたいです。

具体的にどうというのではないのですが、今回『黑世界』を踏まえて『ヴェラキッカ』になったように、『ヴェラキッカ』を踏まえてまた違うものになっていくだろうなと思っています。ただ、そろそろこの「いびつに」「ソリッドに」してきた反動が来ると思うので、15周年以降またガラッと変わるかなと思いますね。

末満健一

末満健一

――つまり、ファミリーミュージカルが。

(笑)。ファミリーミュージカル、やりたいですね。親子チケットみたいなものを作って、すごくカラフルで楽しいものをつくってみたい。子供のために演劇をつくりたいなっていう願望はずっとあるので。児童演劇とかもやってみたいです。たいていのことは<TRUMPシリーズ>の中でできると思っているから、これもこのシリーズの中で(笑)。「ロマンティックコメディ」が『ヴェラキッカ』になるみたいに、<TRUMPシリーズ>なりのファミリーミュージカルになると思います。その時々でやりたいことをやっていきたいですね。

でもシリーズとしては、15周年を過ぎたらそろそろ畳みにいかないととは思っています。「20周年は越えたくない」という目標があるので(笑)。演劇でシリーズ的な展開をしながらこんなに続いている作品はあまりないですし、すごく珍しいことをやらせていただいているなと感じていますので、その珍しさからくる面白さを損なわないうちにできたらいいなという気持ちです。

――この数年のうちに終わりがくるのですね。

だからまあ、15周年を越えたら、ファミリーミュージカルを一回挟んで、終わりに向かうのかな。

――ファミリーミュージカルがなにかの合図に(笑)。末満さんはこの連載のVol.2で、<TRUMPシリーズ>は「命の肯定の物語」だとおっしゃっていました。それは『黑世界』から始まった「シーズン2」になっても変わらないものですか。

変わらないです、それは。『ヴェラキッカ』でも顕著に表れているんじゃないかなと思います。そこは変えられないでしょうね。僕はそれ以外できないんです。

末満健一

末満健一

――「それ以外できない」なんですか。

そうです。結局は手を替え品を替えながら、同じことばかり言ってるんですよ。その「生命賛歌」みたいなところは変わらないのかなと思います。本当は、すべてがそうでなくてもいいとは思うんですけどね。内容が全くない、ただただ笑える芝居とかもやりたい。昔、小劇場でやっていた時にはそういうものをつくっていたんです。シンプルに「ただはしゃぐ」っていう(笑)。僕は自分が現実でできないことを代替行為として演劇でやっているところもあって、自分自身がそういう遊びの少ない人生を送ってきたので、一回はしゃいでみたいなと思ってそういう芝居をつくったことがありました。その時はお客さんのアンケートに示し合わせたかのように、「風邪が治りました」っていう感想が書かれていて。

――ええ?(笑)

こういう芝居を見せたら風邪が治るんだなと思いました(笑)。

でもむしろ、僕はそういう元気系な作品をつくる作家だったんですよね。だから『TRUMP』を初演するときは「今回はいつもと違ってダークな内容です」みたいなことをお客さんにエクスキューズしました。

一度あの頃に立ち返りたいなって気持ちもなくはないので、それもシリーズの中でやれたらなと思います。やるとしたら『キルバーン』(コロナ禍で断念した作品。その代わりとして『黑世界』が生まれた)なんですけどね。それも、このコロナの状況があと10年続いたら、やる機会はないかもしれない。客席降りとかしたい作品なので。

音楽朗読劇 『黑世界 〜リリーの永遠記憶探訪記、或いは、終わりなき繭期にまつわる寥々たる考察について〜』 日和の章 (2020年上演)

音楽朗読劇 『黑世界 〜リリーの永遠記憶探訪記、或いは、終わりなき繭期にまつわる寥々たる考察について〜』 日和の章 (2020年上演)

――『黑世界』と『キルバーン』のことを考えると、社会的背景からくる事情も含めさまざまなことが絡み合った末にひとつの作品が世に出るのだということを実感します。

そうですね。(<TRUMPシリーズ>は)非現実世界を描いたファンタジー作品に見えて、割とリアルタイムでつくっていて、現実世界の空気感と一致している部分はあるんだなというのは感じます。

『ヴェラキッカ』も、コロナ禍で過ごした時間が影響しているのかもしれないなと思いました。自分ではあまり意識していないつもりでも、約2年のコロナ禍で蓄積した、なにかしらのわだかまりのようなものが、少なからず作品の空気感に出ているのかなと。入れ込もうと思ったわけではないのですが。

――今回で連載も終わりですが、この8か月で<TRUMPシリーズ>がとても愛されていることや、末満さんに元気で作品をつくり続けてほしい方がとてもたくさんいらっしゃることを実感しました。これからの<TRUMPシリーズ>も、末満さんご自身の活躍も、楽しみにしています。

はい、これからも健康に気をつけながらがんばっていきたいです。ありがとうございました!

末満健一

末満健一

8か月間お読みいただきありがとうございました!これからも<TRUMPシリーズ>をよろしくお願いします。(SPICE編集部)

取材・文=中川實穗 撮影=iwa