木村達成が主演を務める舞台、KERA CROSS『SLAPSTICKS』が、2021年12月25日(土)、東京・北千住のシアター1010にて初日を迎えた。本作は劇作家・演出家のケラリーノ・サンドロヴィッチ(KERA)の名作戯曲を、才気溢れる演出家たちが新たに息吹を吹き込む連続企画の第四弾。今回は、劇団「ロロ」主宰、映画やテレビなどでも活躍する三浦直之が演出に抜擢された。

『SLAPSTICKS』は、1920年代のアメリカで、時代の中心がトーキー(発声映画)に移り変わるなかでなお、サイレント映画に情熱を注ぎつづけた人びとを、一人の青年の視点を通して描くロマンティック・コメディ。1993年にナイロン100℃で初演、2003年にはオダギリジョー主演で再演された。
キャストには、木村のほか、桜井玲香、小西遼生、壮一帆、金田哲(はんにゃ)、元木聖也、黒沢ともよ、マギーに加え、劇団ロロの面々が名を連ね、バラエティ豊かな顔ぶれが舞台を彩る。

核心の部分に触れないよう気をつけながら、初日の舞台をレポートする。
時は1939年、二人の男性がサイレント・コメディを見つめるシーンで幕を開ける。
サイレント・コメディ全盛期に助監督を務めていたビリー(小西遼生)は、映画配給会社社員のデニー(元木聖也)に、当時一世を風靡したコメディアンのロスコー・アーバックル(金田哲)の映画を復活上映してもらうよう、必死に説得を試みる。しかしデニーは、すでに時代遅れとなった無声映画に少しも関心を示さない。

なおも食い下がるビリーは、サイレント・コメディに魅せられ、命を懸けた人々の物語を語り始める。

 写真提供:東宝演劇部

 写真提供:東宝演劇部

1920年、時はサイレント・コメディ全盛期。セリフがない分、高い身体能力を備えた俳優たちが、大きな身振り手振り、命知らずのアクションで観客を笑わせる時代の真っ只中である。

若きビリー(木村達成)は、コメディアンを目指しまずは業界に潜り込もうと、「喜劇の神様」と呼ばれたコメディの監督、マック・セネット(マギー)の映画会社に助監督として入社。

 写真提供:東宝演劇部

 写真提供:東宝演劇部

首の骨折すら瑣末に扱われる苛烈な現場で、ある夜、フィルムの編集作業中だったビリーの元に、人気コメディエンヌのメーベル(壮一帆)が現れる。明らかに「シラフ」ではない彼女は、コカイン中毒に陥っていた。その事実を知りながら彼女を庇うセネットに口止めされたビリーは、預けられたコカインを誤って吸い込んでしまい、夢の中へ。

夢の中では、映画の伴奏ピアニストをしていたアリス(桜井玲香)の姿が。サイレント・コメディが好きなことがきっかけでお互いに惹かれ合いながらも、成就することなかった淡い初恋が、ロマンティックな踊りで描かれる。

 写真提供:東宝演劇部

 写真提供:東宝演劇部

一方、活躍のチャンスを狙う女優のヴァージニア・ラップ(黒沢ともよ)は、とあるホテルでアーバックルが主催するパーティに参加することに。この夜、彼女とアーバックルの運命を揺るがす出来事が起こる……。

あらすじを読めばいかにもヘビーでダークな作品に思われるかもしれないが、三浦による演出の魔法のおかげで、この時代の感覚からしても見やすく、観劇後はほろ苦いながらも、やさしい気持ちに包まれた。ロロの作品に感じる、不恰好な現実をロマンチックに包み込むやさしさ。これと同じものを本作にも感じた。

 写真提供:東宝演劇部

 写真提供:東宝演劇部

 写真提供:東宝演劇部

 写真提供:東宝演劇部

バラエティ豊かなキャストは、サイレント・コメディ全盛期と衰退期の光と影を見事に表現していた。

木村の演じる好青年役には、「まっすぐ」だけでは成功できない現実と、それでも「まっすぐ」が人の心を動かす現実の両方が描かれていた。初恋相手を演じた桜井との夢の中のダンスは、軽やかでチャーミングでありながら、それが「夢」でしかないことを想起させた。

 写真提供:東宝演劇部

 写真提供:東宝演劇部

子どもに大人気のキャラクターながら、ある事件をきっかけに没落した太っちょコメディスターを、細身のイメージのある金田が演じるのには意外性があったが、楽しい身振りの中に切なさを滲ませる演技が光ったし、配給会社社員を演じる元木は、その身体能力を活かしたシーンに目を奪われた。

 写真提供:東宝演劇部

 写真提供:東宝演劇部

中年になったビリーを演じる小西の姿には、夢破れながらも夢を捨てきれない男の哀愁と燃え続ける情熱を感じ、壮が演じる悲しきコメディエンヌと、悲劇に襲われる女優役の黒沢には、華やかな舞台の裏にある闇を思わされ、マギーの監督役には、無茶振りで役者をふりまわしながらも映画を生み出しつづける男の執念を感じ、この4人がこの作品のビターな部分を絶妙なバランスで支えていた。

 写真提供:東宝演劇部

 写真提供:東宝演劇部

そしてロロのメンバーの存在が作品にポップな印象を加え、ロマンティックでピュアな華やかさを添えた。
さほど整備されていない道路を、車が何人もの人を引きづりながら走る映像。5メートルはありそうなハシゴの上から、人が地面に叩きつけられる映像。走行中の汽車の外側で人が振り落とされないよう必死になっている映像。

サイレント・コメディの実際の映像が、作中に挟み込まれる。このような映像をこれまでにも見かけたことはあったが、くり出される離れワザの数々に、そこに登場する人たちを自分と同じ一人の人間として捉えたことがなかった。

しかし、それこそCGもない時代に、「笑い」だけを求めて、いや、もはや「笑い」に取りつかれた人びとが、文字通り命をかけて作ってきた映像だと、本作を見て思い知らされた。

本作はシアター1010での上演後、大阪、福岡、愛知への巡回を経て再び東京へ。日比谷シアタークリエでの公演は、全国での上演を経て一層深みを増していることだろう。どのように作品が変化するのか見届けることをおすすめしたい。

 写真提供:東宝演劇部

 写真提供:東宝演劇部

『スラップスティックス』12/25開幕コメント

■木村達成(ビリー・ハーロック)

やっと待ちに待った初日の幕が上がります。楽しみながら千秋楽まで怪我なく無事公演ができるように、最後まで気を緩めず演じていきたいと思います。クリスマスが初日、浮かれつつもいい緊張感の中、皆様にクリスマスプレゼントとしてこの作品を届けられればと思いますので、お楽しみに!!

■桜井玲香(アリス・ターナー)

遂に幕が上がるという高揚感で胸がいっぱいです。
夢みる人たちが、その夢のため一生懸命生きる姿に奮い立たされる瞬間が沢山詰め込まれています。
儚くかけがえのない時間が流れる、素敵な作品に仕上がっています。劇場でお待ちしております。

■小西遼生(中年のビリー)

過ぎた時間を思い出す時、バタバタと忙しなく生きていた時間ほど、それは鮮明に蘇り、愛おしく感じます。もちろんその分、後悔もきっと沢山。
喜劇は悲劇、嘘とまことの境界にある曖昧な感情を、それぞれの人生と重ね合わせ楽しんで頂きながら、映画を愛し命をかけていた人たちの姿を通して、ご覧頂く皆様の今日の喜びや、明日への活力になればと思います。そして、サイレントコメディ映画の魅力も知って頂けたなら幸いです。

■壮一帆(メーベル・ノーマンド)
いよいよ初日を迎えようとしている今、ワクワクとドキドキが止まりません

歌もダンスもないストレートプレイはほんの少しの緩みがリズムを狂わせてしまうので、本番に向けて良い集中ができるよう調整していきたいですし、何より観に来て下さるお客様とこのストーリーの面白さを共有したいです!

カンパニーの良い空気が良いお芝居に繋がるよう、心してのぞみたいと思います

■金田哲(ロスコー・アーバックル)

皆様! 12月25日に最高のクリスマスプレゼントを用意させて頂きました! 凄く素敵なモノが出来上がりました!ほんとにいいです! 名作です! 1920年代のハリウッドに登場する個性豊かなキャラクター達が放つピュアな気持ちと喜劇と悲劇を彷徨ったロスコー・アーバックルを是非、ご堪能ください!

■元木聖也(デニー)
いよいよ『SLAPSTICKS』始まります! 無声映画の面白さや、この時代にあったいろんな困難や葛藤など見どころがたくさんあります! 昔の人は「こんなふうに映画を作っていたんだ」というのも、この舞台を観ていただければ分かるとおもいます。また、この舞台に出てくる役で、本当にその時代に生きていた人も出てきます。そんな事を思いながら観て、観終わった後に調べてもらったりしたら、より面白いかもしれません。映画にかける熱い想いを持った人達がたくさん出てくる、『SLAPSTICKS』楽しみにしててください!

■黒沢ともよ(ヴァージニア・ラップ)
初めて台本を読んだ時に感じたわくわくがどんどん色や湿度を変えて、さらにさらにと膨らんでいくのを感じています。
"わたしたちの『SLAPSTICKS』"をたくさんの方に体感してもらえたら嬉しいです。大切に誠実に努めます。よろしくお願いいたします。

■マギー(マック・セネット)
私、このカンパニーの最年長おじさんの経験をもってしても、今回の作品が、どんなお客さんたちに、どんな風に届くのか、幕が開くまで皆目、見当がつきません。そんな初舞台のような不安とワクワクで迎える初日。笑いに命を懸けた先人たちの熱い思いを込めて。若者たちとともに、いざ。

取材・文=碇 雪恵