日本初演から3年の時を経て、ミュージカル『笑う男 The Eternal Love -永遠の愛-』が帝国劇場にて再演される。

ヴィクトル・ユゴーが自身の最高傑作と評した小説をミュージカル化した本作。2018年に韓国で世界初演、2019年に日生劇場で日本初演、そして2022年2月に待望の日本での再演を迎えることとなった。幼い頃に口を裂かれた青年グウィンプレンは浦井健治が初演から続投、盲目の少女デアは真彩希帆と熊谷彩春という異なる魅力を持つ二人がWキャストで担う。

稽古が始まって間もない年の瀬、浦井健治・真彩希帆・熊谷彩春の3人に率直な今の気持ちを語ってもらった。

――全体での本読み稽古が始まったということですが、『笑う男』2022年版に感じる現時点での手応えを教えてください。

浦井:初演でお客様にたくさん愛された作品の再演、しかも帝国劇場バージョンとして花開くということで、みんな気合いを入れて挑んでいます。そのカンパニーを山口祐一郎さん(ウルシュス役)や石川禅さん(フェドロ役)という諸先輩方が、みんなをケアしてくれて過ごしやすい環境を作ってくださっているんです。だからこそ、一人ひとりが大船に乗った気持ちで役に取り組めているんじゃないかと思います。

演出の上田一豪さんがおっしゃっていたのですが、この作品を上演する意味をすごく考えさせられるんです。貧富の差、権力、疫病……これらが消えなくなってしまった今、葛藤することや感じることが悲しいかな初演よりも再演の方が心に響いてくると。それを聞いて「このストーリーをみんなで素直に紡ぐことができたら、お客様に今回ならではのメッセージを届けることができる」という確信というか、そうなるのではないかという感触を覚えました。

浦井健治

浦井健治

真彩:私は宝塚歌劇団を退団してから2作目のミュージカルになるのですが、帝国劇場という幼い頃から観ていた舞台に立つということにすごく感慨深いものがあります。カンパニーも初めてご一緒する方ばかりなのにとても温かい空気で。それは作品が呼ぶものなのか、そこにいる人の醸し出す空気なのか、私には未だわかりませんが、とにかくこれは良いエネルギーだなとすごく感じながら稽古に臨んでいるので、これからがますます楽しみです。

熊谷:私も今回初めてご一緒する方が多く、右も左もわからずワタワタしていたのですが、浦井さんはじめ本当に温かく包み込んでくださるようなカンパニーなんです。私自身デアと同じような気持ちで、周りの先輩方に助けていただきながらこの作品をお届けできたらなと思っています。

浦井:またデア二人の仲が良いんですよ。

真彩:(熊谷さんを見て)かわいい!

熊谷:(真彩さんを見て)いやいや〜、お姉ちゃん!(笑)

浦井:(笑)。デア二人の歌声が全く違うんです。音楽監督さんの言葉が印象的で、「デア二人は何も言うことがない。あとは自分たちのキャラクターをどう作っていくか。実力的にはもう何も心配していない」とおっしゃっていました。

真彩:本当ですか……!

熊谷:いやいや……!

浦井:二人はそのくらいの実力派ですし、自分もすごく刺激をいただいているんです。役を全うするにあたって、作品に飛び込めるきっかけを二人がくれる気がしています。

真彩希帆

真彩希帆

――初演に出演されていた浦井さんに質問です。初演時に苦労されたことや楽しかったことは?

浦井:じゃあ先に苦労を言いますね(笑)。(『笑う男』の音楽を手掛ける)フランク・ワイルドホーンさんはお客様が感動してすごくエネルギーをもらうことができる楽曲を作る、天才的な作曲家です。その分、楽曲をいただいて歌う立場となると、ものすごく体力がいるんです。グウィンプレンは曲が連続することもあるので、その配分を間違えるともたないというのが初演時の反省点でした。今回はそれも含めて、楽曲の中で物語を伝えることが重点だと思っています。同時に楽しかったことは、この作品はみんなが座組として“ウルシュス一座の仲間”なので、どんどん仲良くなっていくこと。まるで本当の一座のようにみんなで提案し合っていく立ち稽古が楽しかったですね。

――真彩さんと熊谷さんは初演をご覧になりましたか?

真彩:観ました! 大感動! 大号泣! 1幕が終わったときに「え〜どうなるの〜!」って幕間にずっと頭の中でぐるぐるぐるぐる考えちゃいました。最後にグウィンプレンとデアがこうなってその瞬間にあああああ〜って!

浦井:効果音しか言ってないね(笑)。こうなってあ〜って(笑)。

真彩:本当に感動して! 私、愛する人とは何があっても一緒にいたいと思う派なんです。なのでグウィンプレンとデアの幸せそうな瞬間を見たら泣けてきちゃって。本当に大好きな作品です。

浦井:終演後に楽屋に来てくれたとき、共演していた朝夏まなとさんが「そんなに泣いてどうしたの?」って驚いてたね(笑)。

真彩:デアを演じていた(夢咲)ねねさんの前でも泣いていたら「え〜ありがと〜。そんなに〜?」って(笑)。さっきまで可憐にポロポロ涙をこぼしていたデアがほやほやのかわいいねねさんになっていて、それにも泣きました(笑)。

熊谷:私は初演を観ることができなかったのですが、浦井さんと『天保十二年のシェイクスピア』(2020年)でご一緒したときに『笑う男』のCDをいただいたんです。それを聞いてすごく美しい音楽に魅了されて、恋に落ちました。何回も何回も聞いて自分で歌えるようになって、韓国版の動画も何度も見ていたんです。なので自分がデアとしてこの作品に関われるということが夢みたいで、決まってからも信じられないくらいでした。

熊谷彩春

熊谷彩春

――浦井さんは、ご自身が演じるグウィンプレンをどんな人物だと思いますか?

浦井:物事にまっすぐ向き合うことができる、不器用だけどいわゆるヒーロー系。まっすぐだからこそ周りの人を動かす力があって、共感してしまう部分がある人物だと思います。口を裂かれて見世物として扱われるような、生きるのがつらい状況下に置かれてもなお本来の性格を失わなかったのは、もしかしたらデアに救われていたのかもしれません。吹雪の中で凍死した母親に抱きかかえられる赤ん坊のデア。それを口が裂かれた少年グウィンプレンが抱き上げ、ウルシュスと出会う。この物語自体が、何が一番大切なのかということを投げかけてくれます。グウィンプレンは生きている存在そのものが十字架になっちゃったんですよね。彼が辿った道が人生の縮図になっているようにも感じます。自分はこの作品・役から学ぶことが本当に多かったので、再びグウィンプレンという役を通してお客様に何か感じていただけるよう、精進していこうと思います。

――真彩さんと熊谷さんは、ご自身の演じるデアについてどういう印象を持っていますか?

真彩:自分がデアを演じるとなって改めてこの作品を中から見たとき、柔らかさだけではなく、人間の持つエネルギーの強さや、人間の本質が見えている人間はなんて強くて美しいんだろうということを思いました。今はそれをどう表現したらいいのかなと考えています。私の頭の中で浮かぶのは、大切なことは目に見えることじゃなくて、じゃあ一体何だろうということ。人によってそれは絶対に違うことなので、自分のデアとして、浦井さんのグウィンプレンと、そしてみなさんとの中で見つけていけたらいいなと思っています。

熊谷:見た目や富ではなく、中身や本質、心と心の繋がりこそが本当に美しいというのが、この作品のテーマだと思うんです。目が見えなくても心でものを見ているデアだからこそ、このテーマを象徴している女の子なんじゃないかなと思っているので、まっすぐにそこを演じていけたらなと思います。

真彩希帆、浦井健治、熊谷彩春

真彩希帆、浦井健治、熊谷彩春

――グウィンプレンとデアは、命の恩人であり、家族であり、一座の仲間でもあります。この二人の特殊な関係をどう捉えていらっしゃいますか。

熊谷:(演出の)上田さんともお話ししたのですが、デアにとってグウィンプレンはお兄さんでもあり、いろんなことを教えてくれるお父さんのような存在でもあり、自分の人生においてなくてはならない大切な存在。恋人というくっきりした概念ではなく魂で繋がっていて、ずっと繋がっていたいと思えるような運命の人。本当に特殊な関係ではあると思いますが、ただの恋人、兄妹、それだけではない、もっと深い絆がある二人だと思います。

真彩:作品として見せたいものや、こういう関係だろうとされているものはあると思うんです。けれど、じゃあ私が浦井さんと一緒にお芝居をしていく中でその通りになるのかと言ったら、多分そうはならないと思うんですよね。デアとグウィンプレンは確かにお互いがお互いを必要としていて、一緒にいたからこそ存在できるというのがとてもキーだなと感じます。でも同時に、デアとしては「グウィンプレンは自分といて本当に幸せになれるのだろうか」という不安もどこかにあるんじゃないかなと思うんです。私自身の気持ちと照らし合わせると、大切な人にはやっぱり幸せでいてほしい。そこは押し付けるものではないですし、お互いを思いやる気持ちが滲み出たらいいなあと思いますね。

――最後に、2022年の抱負や作品への意気込みをお願いします。

熊谷:『笑う男』は、家族や一座の人たちとの心の繋がりがすごく繊細に描かれている素敵な作品です。コロナ禍で人との繋がりがより大事だなと感じているので、今そばにいてくださる人たちに感謝しながら2022年も精一杯頑張りたいです。『笑う男』を通して、大切な人を思う温かい気持ちをお客様に感じていただけたらなと思っております。

真彩:抱負というより、これは私がミュージカルの世界に触れてからのテーマですが、出会う一人ひとりの方と心の中を通して関わっていけたら良いなと思います。関わる人といつどこでまた出会えるかわからないですし、人との繋がりはとても尊いものだと思うので。そんなときに『笑う男』という作品に出会い、そのテーマを自分で体感してお客様にお届けできるという状況を使命のようにも感じています。近くにいる大切な方、家族、パートナー、自分自身に対して温かい気持ちをずっと持ち続けていきたいですね。作品を通してそんなことを投げかけたいなと思います。

浦井:僕が演じるグウィンプレンは口元を隠して登場するんですね。だけど今、舞台上からお客様の表情が見えない。この作品を上演するときも、きっとお客様はマスク着用という日常はまだ変わらないと思います。そんな中で「人間ってこう生きたら素敵だよね」というメッセージがお客様に投げかけられているからこそ、我々は素直に役をお届けできるんじゃないかなとすごく感じています。もしかしたら劇場へ行くのが怖いと思う方もいるかもしれませんが、劇場での感染症対策は徹底しています。上演中の時間だけでも夢を見ていただけたらと思うので、ぜひ劇場へ足をお運びください。

真彩希帆、浦井健治、熊谷彩春

真彩希帆、浦井健治、熊谷彩春

取材・文=松村蘭(らんねえ) 撮影=荒川潤