松尾スズキが“21世紀の不幸を科学する”と銘打って立ち上げた「日本総合悲劇協会」(通称・ニッソーヒ)。この“悲劇”を基本としたプロデュース公演の1作目として1996年に初演された『ドライブイン カリフォルニア』が、2004年の再演から約18年ぶりに上演される。物語の舞台は、裏手に竹林が広がる田舎町のドライブイン。その経営者アキオを新たに演じる大人計画の看板俳優・阿部サダヲに、作品の印象や魅力などを聞いた。

ーー3度目の上演にして、今回が『ドライブイン カリフォルニア』初参加となる阿部さん。ご自分がアキオ役で出演すると聞いた時は、どう思われたでしょう?

そうか、みたいな感じでした。ニッソーヒ(日本総合悲劇協会)で大人の俳優さんたちを集めて最初に上演した “よそ行き感”のある作品で、自分からは遠い存在というイメージがあったんです。今回、改めて初演と再演の映像を観て、アキオが言ってるようなセリフを僕はあまりしゃべったことがないな、しゃべってみたいなと思いました。

阿部サダヲ

阿部サダヲ

ーー初演と再演を観て印象に残っているのは、どういったことですか? 

いちばん印象に残っているのは、竹林のセットです。初演の時は、僕は裏方の手伝いみたいなことをやっていて、稽古を見ることもなかったので、「松尾さん、こういうのやるんだ!」と思いました。あと、悔しかったですね。自分はトラックを運転したり、仕込みとかバラシをやっているのに、正名僕蔵は出演していて、しかも落ち着いた感じの大人っぽい作品だったから。再演は、若松役の仲村トオルさんとエミコ役の小池栄子さんが、すごく受けていた印象があります。あと、初演で竹沢物語っていう役者がやって受けていた役を、再演では松尾さんがやっていて、「松尾さん、やりたかったんだな」って思いました(笑)。

ーー再々演に出演するにあたって、初演と再演をどの程度意識していますか?

正直、そんなに意識していません。このところ、再演とか再々演のものをやることが多かったから、麻痺してきたのもあるし、再演から18年経っているから、初めて観る人も多いんじゃないかと思って。松尾さんも台本を書き変えると言っているみたいだし、キャストがこれだけ変わったら、結構変わる気がします。小日向(文世)さんのアキオと初演の徳井(優)さんのアキオも違う印象があったから、僕がやったらまた違うんだろうなと。

ーーアキオが愛してやまない妹マリエを演じるのは、麻生久美子さん、マリエをスカウトして東京でアイドルデビューさせる芸能マネージャー若松役は谷原章介さんです。

麻生さんとは、舞台『キレイ -神様と待ち合わせした女-』の時に、もうちょっと一緒にお芝居したいなと思っていたので、今回は兄妹役で共演できて嬉しいです。谷原さんとは、役者としては20年以上前に共演させてもらって以来なんですけど、皆川(猿時)くんと仲が良くて、グループ魂で皆川くんの生誕祭をやった時に司会をやってもらったので、勝手に信頼しています。なんといっても、あの落ち着きぶりがすごい。朝の情報番組の司会をやってから、舞台の稽古や本番にくる人なんて、なかなかいないですよね。若松という役にもすごく合っている気がします。

阿部サダヲ

阿部サダヲ

ーー物語の語り手でもある、マリエの中学生の息子ユキヲを演じるのは、初演・再演に続いて大人計画の田村たがめさん。やっぱりこの作品には、田村さんの声が欠かせないのでしょうね。

あのストーリーを、あの声でしゃべるのがいいんだなと思います。あと、松尾さんは、田村を脚立に乗せるのも好きなんでしょうね。『母を逃がす』でも乗せてたから(笑)。心配なのは、村杉(蝉之介)さんのショウゾウ(ユキヲの祖父)とユキヲが、結構長いこと2人で話すシーンですね。2人とも再演からまた一段と年をとっているから、セリフ覚えられるのかなぁ(笑)。でも、味は増している気がしますね。ほかのキャストの方も、3年ぶりに松尾さんの演出を受けることも楽しみです。

ーー稽古が待ち遠しいですね。

そうですね。ただ、付き合いが長い大人計画のメンバーに稽古を見られるのは、どうも恥ずかしくて(笑)。この芝居は僕と麻生さん2人の場面から始まるから、たぶん、そのシーンから稽古をすることになるじゃないですか。それをアイツらに見せるのが恥ずかしい。長く一緒にやってきたから、わかるんですよ、「ニヤけた顔で見てるな、皆川猿時」とか。だいたいみんな「あいつ、台本持ってないぞ。セリフを入れてきたな」とか、「初日どんなジャージ着てきたんだ?」という感じで見るから、僕は初めての人達と稽古するほうが楽かもしれない(笑)。まあ、初めて参加する皆さんのほうは緊張するでしょうけど。

ーーなるほど(笑)。東京公演は本多劇場で上演されます。阿部さんにとって、本多劇場はどういう場所ですか?

『愛の罰』という芝居で、大人計画から温水(洋一)さんが抜けて若手だけになって、みんなで頑張ろうってなった時に、初進出したのが本多劇場です。そこから始まって、1ヶ月公演がやれるようになって……たぶん、いちばんお世話になっている劇場ですね。そういえば、だんだん人気が出てきて、当日券に並ぶお客さんが出てきた頃、みんなで当日券に並んでいる人向けにお芝居してました。「劇団当日券」といって、毎回、顔田顔彦が階段落ちするんです。本番前にやることじゃないですけど(笑)、お客さんのことを考えてそういうことをやる松尾さんは、すごくいいなと思ってました。

阿部サダヲ

阿部サダヲ

ーー阿部さんが大人計画に参加したのは1992年。今年でちょうど30年になりますね。

松尾さんが取ってくれなかったら、今の僕はいなかったわけで、大人計画が自分をいちばん出せるところだと思っています。他の現場だと、気取ってますよ、僕は(笑)。ここに戻ってくると、やっぱり大人計画の人達の真似は、誰にもできないなって感じます。特に松尾さんはそうで、どういう人なのかいまだによくわからないけど、どんどんすごさが増してる感じがするし、お元気そうで何よりですって感じです。

ーー阿部さんが初演の『ドライブイン カリフォルニア』を観た時にイメージしたような“大人”に、今ご自分はなっていると思いますか?

自分では全然わからないです。すごく大人に見えた浅野和之さん(初演の若松役)みたいな感じにはなってないと思うけど、若い人から見たら、もう十分大人なんだろうし。この間、一緒に仕事をした柄本佑くんから、高校生の頃に好きだったバンドが「グループ魂」だったって聞いたんです。年下の人達にそうやって言われて、そうか、俺、50歳過ぎてるんだって思うことが多いです。

ーー改めて、松尾さんの作品の面白さをどんなふうに感じていますか?

ドキッとするくらいわかるところと、全く共感できないところの幅がすごくあるところが、僕は面白いです。たとえば、人に対する見方とか距離感みたいなものは自分と似てるのかなと思うし、逆に、何それ? と思うところもあって。「いちばん怖いのは人だよね」と感じるようなことや、怒りとか悲惨なことを、笑いに変えて見せる力もすごい。この『ドライブイン カリフォルニア』も家族の悲しい歴史の話だったりするんですけど、笑いもたくさんあって面白いので、いろいろな人にぜひ観て欲しいなと思います。

阿部サダヲ

阿部サダヲ

ヘアメイク:中山知美
スタイリスト:チヨ(コラソン)

取材・構成・文=岡崎 香    撮影=敷地沙織