三宅弘城が“完璧なる執事”鎌塚アカシに扮する『鎌塚氏』シリーズ、その第6弾となる今回の舞台は“お屋敷”ではなく、趣向を変えて“豪華寝台特急”! 生涯無休だったはずの鎌塚アカシが、なんと長期休暇で寝台特急に乗り込む!! 移動する車内で事件の謎に迫ったり、ハプニングに見舞われたリ、ほっこりするひとときを味わったり、腐れ縁の相手とイチャイチャしたり……!? シリーズ二度目の登場となる二階堂ふみをヒロインに迎え、初参加の櫻井海音、マキタスポーツ、西田尚美に、シリーズ皆勤の玉置孝匡も加わって、列車の進行と共に突き進んでいく、痛快で軽妙な笑いに満ちたスクリューボールコメディとなる。主演の三宅と、作・演出の倉持裕にこの新作のヒント、そして今シリーズへの想いなどを聞いた。

ーーこの『鎌塚氏』シリーズも、なんと今回で第6弾になりますね。

倉持:“6”までいったのならこのまま“10”までいくんだろうという気にもなるような、中途半端な数字ですよね(笑)。僕としては、特に今回は変な気負いはないです。

三宅:前回の“5”で、恋愛的なことが一段落したりもしたので、今回は場所も、出てくる人もちょっと一味違ってここでフェーズか変わるという感じがありますね。

倉持:ああーなるほど、そうかもしれない。

三宅:振り返ると“2”の時もそうだったんです。あの時は舞台が豪華客船で。今回の舞台は列車ですが、これは昔からよく言っていましたよね。

倉持:そう、しょっちゅう言ってました、「いつか、列車を舞台にしたいな」って。執事だとシチュエーションはどうしてもお屋敷になるので、そのお屋敷がどんな場所にあるかということでバリエーションを変えていくだけになっていたから。まあ、それも楽しいんですけどね、湖のほとりだとか、避暑地だとか。

三宅:スキー場だとか(笑)。

倉持:そうそう。

(左から)倉持裕、三宅弘城

(左から)倉持裕、三宅弘城

ーー列車だと、それらとはまたガラッと違うシチュエーションになるから。

倉持:そうです。“2”の時の豪華客船も、面白かったし。だから、陸・海・空ということで。

ーーでは、次は飛行機の可能性も?(笑)

三宅:ハハハ。

倉持:まあ、それはいずれ(笑)。だけど飛行機だと、せいぜいファーストクラスがあるくらいで、中で舞踏会が行われることもなさそうだし。やはり、まずは船の次は列車でしょう。豪華寝台特急なら、ちょっとセレブ感、上流階級な雰囲気もありますし。

ーーアガサ・クリスティ作品も連想しますが、やはり意識はされますか。

倉持:ビジュアル写真も、なんとなくキャストの衣裳やヘアメイクがアガサ・クリスティ作品の雰囲気に近そうですからね。そういう意味では意識していますね。

ーー脚本を書く時も、意識されましたか?

倉持:少しは、パロディっぽくしたりするところもありますけど。だけど今回は列車内で、ではなく、外で起きた殺人事件の犯人がどうもこの列車に乗っているらしい、というところから物語が始まるんです。だから確かに列車内で推理をしたりするところはアガサ・クリスティ的な要素もありますが、前回ふみちゃんが出てくれた『鎌塚氏、腹におさめる』の時ほど、入り組んだ推理モノにはしたくないなと思っています。

ーー改めて、お二人にとっての『鎌塚氏』シリーズに感じる、特別な想いとは。

三宅:きっと“ライフワーク”って言わせたいんでしょって(笑)、最初の頃は「その手に乗るか」なんて思っていたんですけどね。でも執事って年をとってもやれる役ですし、むしろ、より執事感が強くなるかもしれないし。だからもう、僕か倉持さんが死ぬまでやり続けるんじゃないかと思ったりもします。目指せ、寅さんですよ(笑)。

倉持:僕にとっては、実は一番難しく、そしてやりやすいシリーズなんです。最初からコメディと銘打って、笑わせるぞ! と始める芝居は、自分のものではこのシリーズくらいなので。だからその分、ものすごいプレッシャーを毎回感じるんですよね。笑わせないと0点みたいなところがあるから、笑いの世界は。しかも本番中にその結果はどんどん出て、ビシビシ採点されていくじゃないですか。笑いって本当にしんどいんです。でもそのしんどい場所を、ひとつは持っておいたほうがいいと思うので僕も続けていきたいなと思っていて。あと、前回の『鎌塚氏、舞い散る』を書いた時に思ったのが、やはりこれだけ続けていると、三宅さん演じる鎌塚アカシはもちろん、ともさかりえさん扮する上見ケシキとか、片桐仁さんと広岡由里子さんの堂田男爵夫妻とか、玉置さんの宇佐スミキチとか。お馴染みのキャラクターはもう、こんな場面に置かれたら何を言うだろうというのが、だいたいわかるんです。

(左から)倉持裕、三宅弘城

(左から)倉持裕、三宅弘城

三宅:ハハハ、なるほど。

倉持:そんなの、このシリーズでしかないことですからね。

三宅:ここまで同じ役柄を演じ続けることって、演劇ではめったにないことだと思うんです。しかも毎回いろいろなシチュエーションでね。とはいえ、僕が「よーし、またやるぞ」って言って動き始められるわけではないので。だから、お客さんと同じように「おお〜、またきたっ!」って感じではありますね。それと以前、観に来てくれたマギーくんが「“第8弾”くらいで俺に演出させて」って言ってくれたり、宮藤(官九郎)くんが「スピンオフ、俺が書きたいよ」と言ってくれたり。小池栄子ちゃんは「大事にしなね、この役は」みたいな言葉をくれたり。本当に、僕にとってはもはや宝物ですよ。

ーー今回は、二階堂ふみさん演じる綿小路チタルが再登場しますが。

倉持:ふみちゃんはやっぱり面白いですね。時々、顔をゆがめて叫んだりするところとか。

三宅:アハハハ。

倉持:それが決して暑苦しくなくて、ちょっとかわいいし。しかもああいう推理好き、探偵趣味のお嬢様というキャラクターが、僕は好きだったし面白かったからもう一回、一緒にやりたいなとは思っていたんです。それで、列車の中で何か起きるのであれば、やはり推理モノだな、だったら一番活かせるキャラクターはチタルだな、と。そして確かに前回の『舞い散る』で、僕も『鎌塚氏』は一旦「書ききった」みたいな気持ちになったりもしていたので、この第6弾を改めて起ち上げるにあたっての起爆剤としても、ここでふみちゃんに再び出てほしいと思ったんです。

ーー三宅さんは共演者として、二階堂さんにどんな魅力を感じていますか。

三宅:いつも全力で体当たりなので、こちらも疲れるんですけど、やっぱり面白いんです。刺激的だし、全然飽きない。あと、いいか悪いかで言ったら悪いんですけど、ちゃんと間違える(笑)。

倉持:ハハハ!

三宅:いや、ちょっとセリフの前後が逆になったりするくらいですけどね。だから、いいか悪いかとで言えば良くはないんですけど(笑)。いかにも、ナマでやりとりをしているというライブな空気が生まれやすい人なんです。だから今回もきっとスリリングに、いつも新鮮にやれるんじゃないかと思います。

(左から)倉持裕、三宅弘城

(左から)倉持裕、三宅弘城

ーーシリーズ初参加な方が三人もいらっしゃいます。まずは櫻井海音さん。どんな印象をお持ちですか。

倉持:僕、この間、顔合わせしてきたんですけどね。すごく真っ直ぐな印象で、整った顔立ちで。誰からも好かれそうな顔だなと思いました。

三宅:彼もドラマーですからね。ライバルですよ(笑)。だけどドラマーだからわかる空気というものがあると思うんです。ボーカリストではないんです。ドラマーって屋台骨ですから、どこか客観性が必要なんです。そういうところってたぶん、芝居にも出ると思うんですよね。ま、今回ボーカリストは他にいますから、ツインドラムで支えていければいいなと思っています。

倉持:ああ、すごくわかりやすい分析ですね。そうかもしれない。確かに、今回の場合はふみちゃんがボーカルですね。

ーーマキタスポーツさんの参加は、ちょっと意外な気もしましたが。

倉持:詐欺師の役で出ていただくんですが、あの胡散臭い感じがいいなあと思ったんです。マキタさんの著書を僕、とても好きだったんですよ、「一億総ツッコミ時代」。お笑いをやってる人自身がああいう分析をするというのは、かなり勇気がいることだし、だからきっと論理的に喜劇をやってくださる方なんだな、と思っていて。別に今回、論理に期待しているというわけでもないんですけど(笑)。

三宅:僕は面識が少しあるくらいで、芝居でご一緒したことはなかったです。これまでも、この鎌塚シリーズには、片桐君、今野君、谷田部君といった、芸人でもある方が毎回出演されてるんですけど、それが今回はまた違うタイプの芸人さんで、楽しみです。チラシのビジュアル写真の時点で、もう見るからに詐欺師で(笑)。だから倉持さんが昔から言っている、“偉大なる予定調和”に向かい、すごく力を発揮してくれる役者さんなんじゃないかなと思っています。

ーー西田尚美さんも、このシリーズには初参加です。

倉持:西田さんは、僕の作品にはもう何度も出ていただいているんです。僕、この人の芝居が好きなんですよ。キレイなのにちょっと面白いんですよね、過剰じゃないところがいいのかな。本人は過剰にやっているつもりなのかもしれないけど、すごく抑えているというか、ベールが必ず一枚挟んである感じがあって、そこが好きなんです。

三宅:僕は初共演ですけど、確かに倉持さんの世界にとても似合う方だなと思います。

倉持:このシリーズのことも、観に来てくださった時にすごくほめてくれましたし。「上品だ」と言って。「でも私には品がないから出られないだろうな」なんて言ってて。

三宅:品、ありそうですけどね。

倉持:そう、「ないなんて思ったことありませんよ」という話をしたんですけど。だから今回、このシリーズでもご一緒できることはうれしいです。

(左から)倉持裕、三宅弘城

(左から)倉持裕、三宅弘城

ーーそして、玉置さん演じるスミキチについてもおうかがいしないと。

倉持:シリーズ、全部に出ていますもんね。

ーー皆勤賞です。玉置さんがいるからこそ、の安心感もありそうですが。

倉持:いやホント、僕、『舞い散る』の時の初日乾杯でも言ったんですけど。初日の舞台で、玉置さんが出てきた時、まあ、これは初日だったからというのもあるけど、ちょっと客席が湧いたんです。

三宅:アハハハ。

倉持:僕、ちょっと泣きそうになっちゃって。それこそ第1弾の時は、玉置さんが登場しても、客席はなんというか……冷静だった。それが、あれから10年ちょっと経って、「とうとう湧いたか!」と(笑)。

三宅:そうですよねえ。アカシとスミキチって、阪神と巨人みたいなもんじゃないですかね。なんだかんだ言いながら、いないとお互いにさびしいみたいな間柄。また今回も、取っ組み合いになるのかな。前回も取っ組み合いの稽古をしていたら、ともさかさんに「またイチャイチャして〜」って言われちゃったんだけど。

ーー今回も、そのイチャイチャが見られるわけですね、それも列車内で(笑)。そしてチラシのキャッチコピーには、ヒントとして“暴走!”とか“「橋がない!」”という言葉がありますが。

倉持:まあ、でも列車が舞台だったら暴走はしないと(笑)。なんらかの事情でブレーキが効かなくなったとか、「今、駅を通り過ぎたぞ?」みたいな感じ、欲しいですよね。あと、やっぱり屋根の上にも行きたいかな。そんなわけで鎌塚氏の初めての列車旅、楽しみにしていてください。そして三宅さんには、また歌ってもらいます。

三宅:ハハハ。

倉持:もちろん、ふみちゃんにも歌っていただきますから、三宅さんと二階堂さんの歌唱シーンもどうぞお楽しみに。

三宅:このシリーズをやるたびに言っていることではありますが、これまでのシリーズを観ていなくても楽しめますので。観ている人は観ている人の楽しみもありますけどね。そんなシリーズものの垣根は一切取り払って、観た方も観ていない方もぜひとも劇場へお越しください!

(左から)倉持裕、三宅弘城

(左から)倉持裕、三宅弘城

取材・文=田中里津子     撮影=中田智章