自らも悪事を行いながらも、悪事を働こうとする者たちに制裁を加える、お勢 ーー。2020年2〜3月に上演を予定していたこの『お勢、断行』は、開幕の2日前に新型コロナウイルス感染症の影響で全公演中止となった。しかし2年後の2022年5月に、ほぼ同じキャスト・スタッフにて再びの上演を目指す。作・演出の倉持裕。稀代の悪女・お勢役の倉科カナ。そして、今回このチームに初参加となる福本莉子が物語の中心となる謀略の被害者・資産家の娘を演じる。この3名に、善悪せめぎ合う今作の魅力を聞いた。
 

■公演中止になって2年。今はパラレルワールドにいるみたい

──2年前は本番直前で中止となってしまいました。あらためて稽古を始められて、どんな様子ですか?

倉持 まずは2年前に辿り着いた所までは、もう一回辿り着くことを目指しています。あまり欲をかかずに、ひとまず再現していこうと。

倉科 そうですね。普通は中止になってしまったら流れてしまうことも多い中で「2年後にやろう」と言ってくださり、皆さんのお力添えでまた『お勢、断行』を作っていることがすごく嬉しいし、不思議な感覚です。2年前のパラレルワールドにいるような、タイムスリップしたような、同じ時間を繰り返してるような……。

倉持 同じ日をやり直しているようだよね。あの時は本番が無かったから「あれ? 劇場入りしたはずなのに、また稽古初日だ」みたいな、ぐるぐる同じ時間をループしている感覚がある。

倉科 晶(あきら)役が(上白石)萌歌ちゃんから福本(莉子)ちゃんになったりと、ちょっと違ったりしているところもパラレルワールドみたいなんです。

倉持 そうそう、そこで「あー違う違う、2年経ってる」って我に返る。

──2年経ってみて、作品に変化はありますか?

倉科 お勢への人間味をより感じるようになったかもしれないです。あと、時間を置いたことで俯瞰的に見られて、前回あった空白を埋めていく作業がすごく楽しい。お勢像がどんどん濃くなっていくので、やっぱり2年前と違うなと思います。

倉持 人間味、出てきましたよね。たぶん2年前よりもお勢を大人っぽくした方がいいんだなと直感しています。倉科さんが成熟されたのか、2年前のままにやると幼く見えてしまう。あと、2年前は不安からか、いらないギャグを足して一生懸命「この作品は面白いですよ」と役者やスタッフを説得していたように思うんですが、今は、どんな作品で何がやりたいかをすでに皆が知ってるから、僕もそういう無用な努力をせずに演出しています。

作・演出の倉持裕 (撮影:田中亜紀)

作・演出の倉持裕 (撮影:田中亜紀)

──今回から参加する福本さんは、稽古に入ってみていかがですか?

福本 2年前は、事務所の先輩である上白石(萌歌)さんが晶を演じられるということで、この公演や中止になったこともリアルタイムで知っていました。だからまさか巡り巡って私にお話が来るなんてビックリしました。初めて台本読んだ時は理解できなくてすごく難しかったし、稽古1日目の本読みでは皆さんのテンポが良すぎて「もうできあがってる!どうしよう!私、ここに新しく入るの!?」と不安になりましたけど……稽古が始まると皆さんが気にかけてくださるのでなんとかやれています。

倉科 2年前の蓄積がある段階でのスタートですけど、そこに新しく入った福本さんや堀井(新太)くんが食いついてくる。「え、初めてでこのレベルまで来るの!?」と驚きです!

倉持 そうだよね。すごく大変なことを二人に頼んでいる自覚はある。10人中8人がもう稽古を終えているんだから、こんなに厳しい状況ってないよ。それを皆わかってるから、そりゃ優しくなるよね。

倉科・福本 (笑)

福本 私はゼロからだから、皆さんがこの話をどう解釈されているのかと一生懸命考えています。まず、肝心の父・松成千代吉が登場しない。皆さんが千代吉にどんなイメージを持っていらっしゃるのかもわからないところからスタートしています

倉科 それを感じさせないからすごいよ。追いついてくるから!

倉科カナ (撮影:田中亜紀)

倉科カナ (撮影:田中亜紀)

 

■“お勢”という人がもっとも輝ける物語を目指して

──江戸川乱歩の短編からどのように『お勢、断行』を作られていますか?

倉持 江戸川乱歩の作品にこの話(『お勢、断行』)があるわけじゃなくて、『お勢登場』という短編からお勢というキャラクターだけを借りてきて、どんなシチュエーションに放り込んだら一番活躍できるかな……と発想しています。その短編にも書いてあるのですが──お勢をもっとも悪女たらしめてる所以は、悪事をひらめいてからそれを実行するまでの速度だ。そのスピードが常人離れしてる──と。普通の人なら「あ、ひらめいた!」となっても行動を躊躇したり、何かしらインターバルがあるはずなんだけど、お勢はすぐにやってしまう。それでも、やってしまった後ですごくうろたえるし、嘘をついている間もドキドキしてる。そのギャップがすごく魅力的です。もしこれが、やるのも速いし終わった後も平然としていたら、ただのサイコパス。人間味も面白味もない。思い切りはいいが激しく動揺もする、そんなお勢が活躍できる展開を考えています。

──お勢の魅力が引き立つ場面設定や構成を考えていったんですね。

倉持 そうです。まず「ヤバい女に依頼してしまった」というシチュエーションでやろうと。困り事があって誰かに助けを頼んだ時に、よりによってこの人に頼っちゃった……ということを後から知る。

──お勢が悪人かと思いきや、周りの人達もそれぞれ悪人なんですよね。

倉持 いろいろ悩んだんですけど、お勢が正義の味方になっちゃうのもつまらない。でも、善人が次々倒されていくのも後味が悪い。

倉科 (笑)

倉持 やっぱり敵も悪人じゃないといけないし、悪人それぞれの事情も明かしたい、ということで多面的な構造にしました。「果たして誰が本当に悪いの?」となれば面白い。

──この作品の面白さ、作っていて楽しいところは?

倉科 そうだなぁ……やっぱり構成がすごく面白い。同じ場面がリプレイされたりして、いろんなキャラクターが多角的に見られます。

福本 あまり見ない構成ですよね。同じシーンが何回も繰り返されて、後で「あぁ、こういうことあったんだ」とわかるような構成だったり。

倉科 あと、登場人物がほぼ悪人なんですけど、それぞれが自分の持つ欲を越えて、衝動みたいなものがギラリと表に出てくる瞬間がちょっとゾクゾクする(笑)

福本 ダークな感じがしますね。でもところどころクスッと笑える案配が良い。江戸川乱歩原案ということで、世界観が独特で、衣装がすごく素敵で、斎藤ネコさんの音楽も不穏だけどかっこよくて作品とマッチしていて、総合芸術だなぁと思います。全部合わさって倉持さんワールドが展開されているのが魅力かな。

福本莉子 (撮影:田中亜紀)

福本莉子 (撮影:田中亜紀)

 

──では、課題は?

倉科 お勢は、難しいところが多い! クレバーで、頭の回転が速くて、先手先手を読んでいたりする。そのスピードに合わせて、いきなりポンっとテンションが上がったり、気持ちの切り替えが速かったりするので、頭の回転と心の切り替えの速さについていくのがすごく難しいです。あと、2年前はお勢の気持ちの空白が多くて、「この場面でお勢は何を考えてるんだろう?」と思うところが結構ありました。今回はその空白を埋めたい。埋めたうえで、計画的に余白を作っていきたいな。ただ、お勢は普通の人ではないので、感情を埋めていく作業はとても難しいです。暇つぶしに人を弄ぶようなところがある人なので。

福本 私は人物の情報量が少ないので、そこから晶という人物を探っています。いつも役作りする時にはその人物の履歴書のようなものを作るんですが、今回は稽古前にこういうことをしていてもダメだな、と。稽古場で倉持さんに相談したりしながら役の関係性を探っていく方がいいなと思って、そういう方向にシフトしました。

お嬢様の晶に対して、周りの方々が思惑を持っていろいろ仕掛けてくる。そこで純粋な晶がどう対応していくのかに、晶の純粋なだけではない本音が見えてくると思う。でも倉持さんからは「本音を考えすぎるとお芝居していて混乱しちゃうから、あんま考えすぎなくていいよ」というようなことを言われているので、とりあえずは考えすぎずに進んでいます。

──お勢と晶の関係は、脚本には描かれていない部分も多いです。どのように作っていかれていますか?

倉持 お勢と晶は本当に難しいんですよ。内側に、自分でも不可解な部分をたくさん抱えている役。他の役はわりと動機がわかりやすいんですけどね。でも、その"わからない"部分を書きたい。皆がわかっていることを見せてもしょうがないじゃないですか。人間の、言葉で説明できない部分を可視化したくて芝居を作っているとも言えるから。

福本 本当に、お勢との距離感が難しいんですよね。ちょうど今日の稽古で倉持さんに聞こうと思ってたところです!

倉科 稽古をして体や心に沁み込んでくるとわかっていくんだろうけどね。今難しいのは、晶役が福本ちゃんになったことによって模索している段階なんです。倉持さんが言うとおり、他の登場人物には明確に欲望があってわかりやすいけど、お勢と晶の気持ちの流れを掴むのはすごく難しい。でも、2年前越しに台本と向き合って、お勢と晶の場面はすごくシンプルなんだなと思いました。舞台装置も照明も会話もすごくシンプル。だからこそ、稽古ででてきたものを繋げて、感情をひとつひとつ明確に通していかないといけない。

ただ、私自身、ちょっと焦りがあるんですよ。まわりのキャストが素晴らしすぎるから! すごい方達によるいろんな善悪が入り乱れる中で、お勢は段違いな悪女でなきゃいけない。どうしようって焦っています(笑)。その焦りを越えて、お勢としてドンと存在して、晶さんと物語や台詞を紡いでいくことが大切なんだろうな。難しいですけど、とても楽しみですね。
 

取材・文=河野桃子 撮影=田中亜紀
倉科カナ/ヘアメイク=草場妙子・スタイリスト=清原愛花
衣装:ドレス/ERDEM(メゾン・ディセット)・ピアス、リング/ともにBOUCHERON(ブシュロン クライアントサービス)・シューズ/JIMMY CHOO(ジミー チュウ)
福本莉子/ヘアメイク=伏屋陽子(ESPER)・スタイリスト=中井彩