ヴァイオリニストの﨑谷直人が2022年6月10日(金)にHakuju Hallでピアニストの沼沢淑音とリサイタルをひらく。ウェールズ弦楽四重奏団や石田泰尚とのユニット“DOS DEL FIDDLES”のメンバーとしても活躍する﨑谷は、この3月に8年間務めた神奈川フィルハーモニー管弦楽団のコンサートマスターを退任し、いよいよ新たな活動を本格化する。

――まずは、今回のリサイタルのプログラムについて、話していただけますか?

この3月に神奈川フィルのコンサートマスターを辞めて、久々にリサイタルをしたいなと思ったのです。

コンサートマスターとして演奏することには様々な制約があり、ウェールズ弦楽四重奏団でも4人のやり方に制約がありますが、そういうのを取っ払った状態で、ナチュラルに一人のヴァイオリニストとして出したい音色があり、重圧なしに演奏したいという気持ちがありました。

神奈川フィルのコンサートマスターの頃はとても忙しく、なかなかヴァイオリンを楽しんで弾くことがなかったのですが、もう一回、学生の頃みたいに楽しんでヴァイオリンを弾きたいと、敢えて、王道プログラムを組みました。「THE ART OF VIOLIN」のタイトルは、有名なDVD(注:イザイ、クライスラーを含む20世紀の偉大なヴァイオリニストの映像を収めている)から採りました。

﨑谷直人『The Art of Violin』

﨑谷直人『The Art of Violin』

ドビュッシーのソナタは、ジェラール・プーレ先生からたっぷり教えてもらった曲です。このソナタは、プーレ先生のお父さん(注:ドビュッシーと親交のあったガストン・プーレ)が世界初演しました。

チャイコフスキーは、(彼のパトロンであった)メック夫人と(夫人に仕えるピアニストであった)ドビュッシーのつながりから。『懐かしい思い出』より「瞑想曲」は、11歳のとき、ノヴォシビルスク国際コンクールのジュニア部門で優勝したのですが、そのとき弾いた思い出の曲です。

そしてフランコ=ベルギー派のイザイ。子供のような心を取り戻したいという気持ちから、「子供の夢」を弾きます。イザイが認めたクライスラーは「美しきロスマリン」「愛の悲しみ」「愛の喜び」。聴き慣れた曲だからこそ、踏み込むと、新しい発見の可能性がいっぱいあると思います。最後はイザイに献呈されたフランクのソナタ。過去の偉大なヴァイオリニストにまつわる王道で行きたいと思いました。

――ピアノの共演は、沼沢淑音さんですね。

僕は、彼を日本でトップクラスのピアニストだと思っています。彼は、今は桐朋学園で教えています。僕は、15歳でケルン音楽大学のザハール・ブロンのクラスに行ったあと、19歳で桐朋学園のソリスト・ディプロマに入りましたが、そこで沼沢君と同級生でした。いっぱいヴァイオリン・ソナタを一緒に弾いて、彼とヴァイオリンとピアノのデュオを初めてちゃんと勉強しました。沼沢君とは楽しんで弾いていましたね。当時の録音を聴くと、まあ、楽しそうなんです。言葉を介さなくても、音楽が共有できる。彼はすごくパワフルですごく繊細。いろいろな色を使い分けてくるから、こちらもどう応えようか考えます。自発的に演奏させてくれる人。先日、久々に一緒に弾いてみたのですがそれは変わってなかった。お互い大人になって、やっぱり上手くなっていましたが(笑)。

――今回のリサイタルで、楽しみにしていることは何ですか?

僕のお客さんにもずっとリサイタルを聴きたいという方がたくさんいました。でもこれまでなかなかできませんでした。僕はオーケストラや弦楽四重奏などいろいろな活動をしてきましたが、多くの方は、素の状態の僕を知らないかもしれません。その辺りを知っていただくのも楽しみです。

――今後の活動について教えていただけますか?

今月、バッハの無伴奏ソナタとパルティータ(全曲ではありません)を録音して、秋冬には沼沢君とブラームスのヴァイオリン・ソナタ全曲を録音します。彼とのブラームスの全曲録音は夢でした。

ある程度経験を積んで、頭で理解できて、体がちゃんと動くときに、やりたいことをしっかりやって、残しておかないと、たぶん、15年後、20年後、後悔すると思いました。今なら、自分なりのものができるが、10年後は体が動くかわからない。何年かは、ヴァイオリニストとしてやりたいことを納得するまで思い切りやる、そういう自由な時間があってもいいと思いました。そして、また、どこかでコンサートマスターの縁があれば、うれしいなと思います。


――神奈川フィルのコンサートマスターとして一番学んだことは何ですか?

自分のためではなく、人のために音楽をするのが、コンサートマスターの仕事だということ。最初の数年間、良かれと思って自分を主張しましたが、うまくいきませんでした。現状をベターにするのがコンサートマスターの仕事だと思います。

――最後に、6月のリサイタルについて、メッセージをお願いします。

絶対に、聴いたことがないくらい面白いコンサートになります。それを僕が何より楽しみにしています。この王道プログラムで、飽きさせない自信があるので、楽しみにしていてください。

取材・文=山田治生 撮影=池上夢貢