渋谷のBunkamura ザ・ミュージアムで開催中の『ボテロ展 ふくよかな魔法』。コロンビア出身の巨匠フェルナンド・ボテロは、人物や動物など全ての対象をふくよかに表現することが特徴で、その作品は不思議な感覚が漂い、観る者を惹きつける魅力にあふれている。本展の音声ガイドナレーターを務めるのは、声優・伊東健人だ。
本展の音声ガイドは、ナレーションだけでなく、ボテロに扮し本人のエピソードを語るパートや、オフィシャルサポーター・BE:FIRSTとのコラボレーションなど、充実の約30分。伊東の心地のよい声が飽きることなく、鑑賞の時間にそっと寄り添ってくれるようだ。
6月某日、展覧会場へ訪れた伊東に、作品の魅力や音声ガイドの聴きどころ、またそこから見えた本人の想いなどを聞いた。

展示風景

展示風景

初挑戦の音声ガイド収録、ナレーションだけでなく本人役も

ーー音声ガイドの収録時の思い出やエピソードなどをお聞かせください。

今回ガイドナレーターをさせていただくと同時に、恐れ多くもボテロ役もやらせていただきました。また、BE:FIRSTの皆さんとやりとり調になっているところなど、ほかのガイドナレーションとはちょっとひねっていたり、遊びみたいなところもあったので、収録も楽しかったことを覚えています。

ーーナレーションとボテロ役、それぞれ違いがあって素敵でした。

実は、ボテロ役のパートも最初はナレーションのまま、普通に読んだんです。そしたら「もっと本人になっていいですよ」と言われまして、「え! なっていいんですか?」と(笑)。そこからちょっと歳を重ねた感じにしました。ナレーションでなかなかこんなことをする機会がないので、楽しかったですね。

ーーここは聴いてほしいと思うポイントはありますか?

いや〜、全部だなあ(笑)。ぜひ最初から順番に聴いていただきたいですね。ガイドの冒頭には、ボテロの生い立ちと、どうしてこの作風になっていったのかという説明があるので、まずはそこから。そうすると自然とその先にも興味がわくと思うので、その後は作品の横に振られたガイド番号に合わせて聴いていただければと思います。


実物を見てこそ味わえる作品の魅力

ーー実際会場に足を運んで作品をご覧になった感想は?

思っていたよりも一つひとつが大きかったですね。作品のサイズも大きいし、描かれているものもふくよかで大きいし。それが壮観でした。実際に会場で鑑賞をしてみて特に面白いと思ったのが、作品が大きいので見上げる形になるんですけど、展示室のライトが作品に反射して目に入ってくるんですよね。そうすると、使われている絵の具の質感とか、塗り方などが情報としてよりわかりやすく入ってくるんです。光の反射があることで、髪と肌、衣服の描き方の違いも見えてきて。それがすごく面白かったですね。

ーー伊東さんが特にお好きな作品を教えてください。

《コロンビアの聖母》です。作中の女性が泣いているんですけど、実際の人間ってこんな風には涙は出ないじゃないですか。水滴がいくつも頬を流れているんですけど、それがとても印象的で、ボテロの液体の描き方にすごく興味をそそられました。音声ガイドでも触れているように、本作は戦争に対してのアンチテーゼが比較的わかりやすく表現されていると思うのですが、聖母が持っているものや色の使い方で、僕たち鑑賞者が考える余地がまだあるというか……。直接的ではないんですけど、それがすごく面白いなと思いました。

それから、「サーカス」の章に展示されている作品も。《赤ちゃんライオンと調教師》は、檻に閉じ込められているライオンや、ピエロの描き方に目がいきました。基本的にボテロ作品の人物には表情がないので、ここに描かれたピエロもただ表情がないものだと受け取れる。けれど、ピエロはそもそも口元の赤いメイクによってにこやかな表情になるように描かれているので、その対比でより一層悲しんでいるようにも見えてきて……。それもすごく興味深かったです。


ーーボテロが描く作品の魅力とは、どんなところにあると思いますか?

見たままに、ボリューム感ですね。モチーフをふくよかに描くのもそうなんですけど、描いているカンヴァスも本当に大きいんですよ。この大きさで均等にムラなく色を塗るのって、素人目線ですけどめちゃくちゃ難しいじゃないですか。ムラをあえて出すという絵画の手法もあると思うんですけど、彼の場合はそうではなくて。均一に色をのせているのは、単純にすごいなって思いました。このすごさはやはり実物を見ないと実感できないので、ぜひご覧いただきたいですね。

《赤ちゃんライオンと調教師》

《赤ちゃんライオンと調教師》

ーーボテロは90歳で存命の芸術家であり、現在も現役でいらっしゃいます。伊東さんご自身が90歳になったときをイメージすると……?

僕自身、自分が90歳まで生きている気はしないです……。人生100年時代なんて今現在言われてますけど、僕はこれには懐疑的で(笑)。あんまり長生きの家系ではないので、90になっても元気というビジョンは正直見えてないんですけど……。でももし元気だったら、生涯現役でいたいと思っているかな。自分の職業的にもボテロと同じように生涯現役でいられる仕事ではありますしね。でも、90歳になったら、麻雀でもやりながら平穏に過ごしていたい(笑)。たまに後輩の育成をしながら気楽に……っていうのがいいですね。

ーーでは、45歳だったら?

約10年後になるので、いい意味で枯れ切っていてほしいと思います。ちょっと早いかもしれないですけど、できることなら、それくらいには悟りを開きたいです。でもきっと無理かな(笑)。「四十にして惑わず」と言いますけど、きっとその境地には至らないですね(笑)。

ひとつだけ魔法を使えるとしたら……

ーー『ボテロ展 ふくよかな魔法』という本展タイトルにちなんで、伊東さんがひとつだけ魔法を使えるとしたら……? その理由もお聞かせください。

瞬間移動ですね! 瞬間移動ができたら時間を有効活用できるので、自宅から仕事場へとか、生活圏内で使いたいですね。もうちょっと未来になったらもしかしたら県外に住んでいるかもしれないので、そしたら県外から都内の仕事場に一瞬で行けるように。もっと未来になったら、海外にいながら音声収録に参加できる時代になっているかもしれないけど、それでもたまには日本に行きたいから、海外から日本にすぐ移動するのにとか。もし90歳まで生きていて、月に家を建てていますみたいな未来になっていたら、月から東京へ(笑)。……そんなことができたら便利ですよね。


ーー最後に、読者の方にメッセージをお願いします。

すでにご覧いただいた方はもちろん、まだ見ていない方もぜひ、一度は見ていただきたい展覧会です。今の時代はネットで調べれば簡単に見た気になれてしまう世界ですけど、やっぱり美術館で本物の絵画を鑑賞することでしか味わえないものは本当にたくさんあると思います。例えば絵の具の使用感、ちょっとした凸凹、鑑賞した角度で見えてくるものが変わるという感覚まで。ボテロ展ならではの大きさ、ふくよかさ、ボリューム感というのも圧倒されると思うので、ぜひ実物を見に来ていただければうれしいです。


『ボテロ展 ふくよかな魔法』は、渋谷のBunkamura ザ・ミュージアムにて、7月3日(日) までの開催。伊東健人による音声ガイドの料金は、会場レンタル版がおひとり様1台650円(税込)、アプリ版「聴く美術」での配信が730円(税込)。

取材・文=SPICE編集部 撮影=大橋祐希