特別展『化石ハンター展 〜ゴビ砂漠の恐竜とヒマラヤの超大型獣〜』が7月16日(土)に東京・上野公園の国立科学博物館で始まった。アメリカ生まれの著名探検家、ロイ・チャップマン・アンドリュースが中央アジアのゴビ砂漠へ最初の化石発掘調査に出た年から100周年を記念して開催される本展では、彼と彼に続く“化石ハンター”たちに光をあてたプログラムを展開。さらに史上最大の陸生哺乳類とされる「パラケラテリウム」や世界初公開となる「チベットケサイ」の全身骨格復元標本など、アジアで発掘された貴重な恐竜や哺乳類の化石を見ることができる。実際の会場の様子とともに本展の見どころをチェックしていこう!

日本にも功績残した若き日のアンドリュース

今年も“恐竜の夏”がやってきた!

『化石ハンター展』と題された本展ではゴビ砂漠とヒマラヤを舞台に化石発掘に魂を燃やしてきた探検家や古生物学者に光をあて、彼らの調査研究のストーリーを紹介。伝説のハンター、ロイ・チャップマン・アンドリュース率いる中央アジア探検隊が初めてゴビ砂漠を探検した1922年から現在まで世代を越えて紡がれてきた100年の歴史を、彼らが発見した数多くの化石を通じて知ることができる。

若き日のロイ・チャップマン・アンドリュース

若き日のロイ・チャップマン・アンドリュース

まずは全体のキーパーソンとなる人物の概略に触れておきたい。1884年にアメリカのウィスコンシン州で生まれたロイ・チャップマン・アンドリュースは、幼少の頃から自然や動物を愛する少年だった。人並外れた探究心で探検家になるべく素養を身につけた彼は、地元の大学を卒業後、動物の剥製を売って得た30ドルを手にニューヨークへ渡る。その目的はアメリカ自然史博物館で働くことだったが、彼にはその資格もなければ誰かの紹介もない。そこでなんと現地に直接押しかけ、見事に剥製担当助手として職を得ることに成功する。

上:「ツチクジラ」 下:「イワシクジラ」 ともに、国立科学博物館蔵

上:「ツチクジラ」 下:「イワシクジラ」 ともに、国立科学博物館蔵

本展の冒頭にある2種類のクジラの骨格標本は、アンドリュースの若き日の研究、そして彼と日本との関係を伝えるものだ。見習いとして働きながら鯨類の研究で認められた彼は、鯨類調査のため1909年に来日。それから2年をかけて日本各地の捕鯨地を歩いている。そして、その研究を通じて日本でそれまでトックリクジラだとされていた種が実際には「ツチクジラ」であることを指摘。さらには「イワシクジラ」に関する重要な論文を残すなど、日本の鯨類研究にも多大な影響を与えた。

伝説の始まり! アンドリュース、ゴビ砂漠へ

そして砂漠を連想させるオレンジで統一された次の空間から、百年にわたる化石ハンターたちの物語が幕を開ける。

1921年、それまでにも東アジアの各地を調査で訪れていたアンドリュースは、ニューヨークで「中央アジア探検隊」を結成。同年に中国へ渡り、翌年、モンゴルのゴビ砂漠に向けて北京を出発する。その目的はアメリカ自然史博物館で彼と師弟関係にあったヘンリー・F・オズボーンが提唱していた「哺乳類と人類の起源はアジアにある」という仮説を証明するために哺乳類の化石を発掘することだった。当時、ゴビ砂漠は化石発掘では“未開の地”に近い場所だった。

手前:「バクトロサウルス」 福井県立恐竜博物館蔵

手前:「バクトロサウルス」 福井県立恐竜博物館蔵

入り口で「バクトロサウルス」がひょっこり顔を出す空間には、以降5度にわたるゴビ砂漠探検の成果が紹介されている。この探検でアンドリュースは現地では当時まだ珍しかった自動車を活用し、自動車で広い範囲を効率よく探索、ラクダを使ってその燃料等を運ぶという画期的な作戦を採用した。そして1度目の探検の終わりに、彼らの重要な発掘地になる「炎の崖」に到達している。その後、この崖では「プロトケラトプス」だけで70体もの頭骨が見つかっている。さらには「恐竜の卵」の化石も発掘され、これが恐竜が卵を生んでいたという事実を明らかにする古生物学上の大発見につながる。本来は哺乳類研究のために結成された探検隊だったが、むしろ恐竜の研究でより大きな功績をもたらしたのである。

「恐竜の卵」 群馬県立自然史博物館蔵

「恐竜の卵」 群馬県立自然史博物館蔵

同じ空間には、映画『ジュラシック・パーク』に登場する恐竜のモデルになった「ベロキラプトル」や羽毛に覆われ翼を持つ“ダチョウ恐竜”の一種である「アーケオルニトミムス」、よろい竜の一種である「ピナコサウルス」など、アンドリュースたちが発見した恐竜の化石が展示されている。

“レジェンド”に続いた世界の化石ハンターたち

次の空間には、アンドリュースに影響を受けた次の世代の化石ハンターたちの成果が紹介されている。

「タルボサウルス」 国立科学博物館蔵

「タルボサウルス」 国立科学博物館蔵

1930年に最後のゴビ砂漠での探検を終えたアンドリュースは、その5年後にアメリカ自然史博物館の館長に就任し、1960年に生涯を終えるまで同地を再び訪れることはなかった。一方で、彼らが去った後のゴビ砂漠はその後の情勢不安によって再び未開の地になり、しばらくどの国の研究隊も調査に入ることはなかった。その後、調査が再開されたのは、戦後の1946年になってからのこと。ソ連の調査隊により調査が再開されたのを皮切りに、1963年にはポーランドの隊もモンゴルとの共同調査をスタート。さらに1990年代にはアンドリュースの後輩であるアメリカ自然史博物館の調査隊が調査に入り、それに続いて日本の林原自然科学博物館もモンゴルに入っている。また、中国側のゴビ砂漠でも、ソ連やカナダ、日本の調査チームが中国と共同研究を行っている。

「シノルニトミムス」 福井県立恐竜博物館蔵

「シノルニトミムス」 福井県立恐竜博物館蔵

今回は「人」にフォーカスをあてた企画展だけに、ここでも化石発掘に命をかけた人々とその功績のわかる工夫が散りばめられている。ポーランド隊の展示では隊を率いた女性リーダーの活躍に注目。さらに日本の化石ハンターの展示では、1995年から行われた日本、中国、モンゴルの国際プロジェクトにおける「ネグメトマイア」の新発見を2人の博士の対談インタビューを交えて伝えている。本章以外でも現役ハンターのインタビューや石のクリーニング作業が動画で見られるなど興味深い。

本展で総合監修を務める木村由莉さんがコミカルな姿になった「ゆりセンセイ」。各所に登場し、わかりやすい解説で子どもたちをサポート

本展で総合監修を務める木村由莉さんがコミカルな姿になった「ゆりセンセイ」。各所に登場し、わかりやすい解説で子どもたちをサポート

化石発掘で未開だったゴビ砂漠に世界の化石ハンターが集まり、それぞれが確かな成果を残して次の世代にバトンを繋いでいく。その種を播いたアンドリュースと後世の化石ハンターたちの百年にわたるドラマには、こちらの胸を熱くさせる感動がある。

カッコいいだけじゃない! 哺乳類の歴史を覆す可能性ある巨大獣

史上最大の陸生哺乳類とされる「パラケラテリウム」やアンドリュースにちなんで名付けられた「アンドリューサルクス」などがインパクト抜群な哺乳類の展示を経て、後半は本展のもうひとつの重要舞台であるヒマラヤに関する展示に。ここからは展示空間の色も砂漠色からヒマラヤを連想させるブルーに切り替わる。

「パラケラテリウム」 国立科学博物館蔵

「パラケラテリウム」 国立科学博物館蔵

こちらの目玉となるのは「チベットケサイ」の展示だ。展示空間に足を踏み入れると巨大な全身骨格復元標本と生体復元モデルの雄雌2頭が今にも動き出しそうな様子で我々を待っている。

「チベットケサイ」の展示風景 国立科学博物館蔵

「チベットケサイ」の展示風景 国立科学博物館蔵

2007年に王暁鳴博士らによって発見されたチベットケサイは、哺乳類の起源がチベットにあったとする「アウト・オブ・チベット」という学説のきっかけになっている。この説は、今から約533万から約258万年前の鮮新世の時代、北極圏より寒く“第三極圏”といえる場所だったチベット高原で環境適応した哺乳類が後の氷河時代に各地へと進出していったというもの。展示では、チベットケサイより300万年以上後にシベリアで見つかったケブカサイの頭骨も展示し、両者の頭部のそり上がりや鼻腔の骨などの比較からこの説を解説している。まだ仮説の域を過ぎないが、証明されれば従来知られている哺乳類進化の歴史を覆す説だけに、太古のロマンがより一層感じられる展示といえるだろう。

「アウト・オブ・チベット」に関する展示

「アウト・オブ・チベット」に関する展示

なお、内覧会に併せて行われたギャラリートークでは国立科学博物館に在籍する3名の“現役ハンター”が展示を解説。1時間近い熱を帯びた解説からは“研究者の100年”に光を当てた本展にかける科博の熱い思いが伝わってきた。彼らの活躍ぶりは、終盤の第7章「次の化石ハンターとなる君へ」で貴重な仕事道具とともに紹介されている。きっと夏休みの子どもたちの来場者も多い本展。もし“未来の化石ハンター”を目指す子がいたら、リアルタイムで活躍するハンターたちの仕事を間近に感じて、自分も次の百年を繋ぐハンターになれる可能性があることを感じてほしい。

現役化石ハンターの発掘ツール

現役化石ハンターの発掘ツール

特別展『化石ハンター展 〜ゴビ砂漠の恐竜とヒマラヤの超大型獣〜』。ところどころ文字や映像でわかりやすい解説を交えた展示は夏休みの自由研究のヒント探しにもおすすめだ。今年の夏も恐竜で熱くなろう!

文・撮影=Sho Suzuki