7月16日(土)から大阪市立美術館にて特別展『ドレスデン国立古典絵画館所蔵 フェルメールと17世紀オランダ絵画展』が開幕した。17世紀オランダを代表する画家、ヨハネス・フェルメールの初期の名作「窓辺で手紙を読む女」が2021年まで、約4年をかけて修復され、いよいよ大阪にやってきた。所蔵館以外では世界初公開となる。そのほか、ドレスデン国立古典絵画館が所蔵する17世紀オランダ絵画珠玉のコレクションから73点を展示する。SPICEでは、内覧会のレポートとともに、同展覧会の音声ガイドをつとめた女優の小芝風花に単独インタビューを敢行した。音声ガイドを経験して変化したことやお気に入りの絵、今後の仕事について話を訊いた。

小芝風花

小芝風花

修復前後の絵を見比べると、ハッとする


「窓辺で手紙を読む女」は、1979年のX線調査で壁面のキューピッドの画中画が塗りつぶされていることが判明。フェルメール本人が塗りつぶしたと考えられていたが、2019年に第三者によって消されたという調査結果が発表され、大規模な修復プロジェクトが進められた。そして約4年をかけて修復が終了した同作品が、ドレスデン国立古典絵画館でのお披露目を経て、東京と北海道を廻り、いよいよ大阪にやってきた。

取材の前に、展示室内のフェルメールの部屋にてメディアセッションが行われた。フェルメールの「窓辺で手紙を読む女」の隣に立った小芝風花。作品を観て「修復前と印象が全然違いますね。隠れていたキューピットもそうですけど、色味もこんなに鮮やかな絵の具で描かれていたんだというのは、何度見比べてもハッとします」と感想を述べた。司会進行の関西テレビの中島めぐみアナウンサーに、どちらが好きかと問われると「修復前の絵も雰囲気があって素敵だなと思いますし、でもきっとフェルメール自身がキューピットを意味があって描いたんだということを考えると、修復された絵もすごく素敵だなと思うので、両方好きです(笑)」と笑顔で回答した。

小芝風花と「窓辺で手紙を読む女」 撮影=ERI KUBOTA

小芝風花と「窓辺で手紙を読む女」 撮影=ERI KUBOTA

フェルメールの魅力については「例えばこの手紙がどういう内容なのかは、観る人によって全然違うと思うんです。窓に女性の顔が映っているじゃないですか。でも修復前の絵を観た時に私、最初は女性の顔に見えなくて。それは嫌な意味とかじゃなくて、手紙を読んでる表情が暗いから、おじいちゃんかおばあちゃんの訃報が届いたのかなと感じて。窓に写ってる顔は、その祖母が心配で見に来てくれてるのかなという印象を受けてたんです。でもキューピットが現れたことで、このお手紙はラブレターだったのかなと印象が変わりました。そして果物が傾いて乱れてるじゃないですか。そういうのも気にならないぐらい急いで手紙を読んだんだろうなとか、キューピッドがカーテンを開けているのかなとか。一枚の絵でも色々想像するとすごく楽しめるので、皆さんの感想を聞かせてください」と述べた。

そして「大人気のフェルメールの絵が修復後、ドレスデン以外で世界初公開されます。本当に貴重な作品で、(大阪では)今しか観られません。しかも修復過程の映像も展示されているので、それも含めて観ていただいたらすごく楽しんでいただけると思います。その際には音声ガイドも活用していただけると嬉しいです。ぜひ足を運んでください」とメッセージを送った。

音声ガイドも私の中でお芝居の一つ、もっと挑戦していきたい

小芝風花 撮影=福家信哉

小芝風花 撮影=福家信哉

ーーフェルメールの絵をご覧になるのは、東京会場に次いで2回目ということですが、前回と今回大阪で観られて印象は変わりましたか?

フェルメールが飾られている部屋の背景が、東京はピンク色だったんですけど、大阪はグリーンで、展示のされ方が微妙に違っていて結構印象が違いましたね。大阪で観る方が少し上品に見えました。もう絵は知っているので、落ち着いて観れたという心境的なものもあるかもしれないんですけど。

ーー小芝さんは大阪出身ですが、大阪市立美術館の印象はいかがですか?

今回初めて来たんですけど、すごくお上品ですね(笑)。変な緊張感があります(笑)。でもこの雰囲気がオランダ絵画とすごく合っていて、絵と美術館のマッチング具合が良いなと思いながら観ていました。音声ガイドも関西弁バージョンとかあったら、おもしろそうですね(笑)。

ーー音声ガイドのオファーがきた時の気持ちは、覚えてらっしゃいますか?

本当に嬉しくて、「やりたいです! やったー!」という感じでしたね。

小芝風花

小芝風花

ーー初挑戦ということで、気負いなどはなかったのですか。

正直決まるまでは、美術館に足を運んだことが一度もありませんでした。音声ガイドはどういうものなんだろうと思ったので、当時開催中の美術展に行って、音声ガイドを聴かせてもらいました。人が入れ替わり立ち代わりする中で、ひとつの絵に対してじっくりずっと動かず観ている方もいらっしゃれば、パッパッとテンポ良く移動される方もいて。もしこの方たちに音声ガイドを聴いてもらうとしたら​、どちらに合わせればいいんだろうという難しさはありました。まったり読み過ぎても、早く次の作品を観たい人にとっては「まだ喋ってる」となるだろうし、かといってゆっくり観たいのにせかせか話されても、落ち着いて観れなくなっちゃうなあとか。あと、自分の感情を入れすぎるのもあまり良くないかもしれないなと思いました。人それぞれ絵の感じ方が違うので、自分の想いを乗せると、せっかくの作品の可能性を狭めてしまう気がして。今までやってきたナレーションの声のお仕事とは全然違って、難しいなーと思いながら、でも楽しかったですね。

ーー小芝さんにとって、初めてのことを楽しむ秘訣はありますか。

好きなジャンルの新しいことなら、ワクワクできるかもしれないです。今まで苦手意識があったお仕事もあったんですけど、「どうせやるんだったら​、楽しい方がいいなー」と思って。だから苦手意識があるお仕事だったとしても、メイクをしてもらっている時に仲の良いメイクさんやスタイリストさんとお話をしながら、上がった気分のまま現場に臨むよう心がけてます。今回は声のお仕事がもともと好きなので、ワクワクしましたね。

ーー完成した音声ガイドは、ご自身でも聴かれましたか。

聴いていないんです。確認でチラッとだけ聴いたんですけど、自分の声だとなんか恥ずかしくて(笑)。

ーー普段、ご自身が出られたドラマや映画は見返されますか?

ドラマとか映画は観るんですけど、声だけのお仕事のものはちょっと緊張しちゃうんですよね(笑)。だから母とか家族に感想を聞いたりしています。

ーー音声ガイドには、声優の梅原裕一郎さんも参加されていましたが、梅原さんの声はどんな印象でしたか?

力強さと優しい声の方なので、すごく言葉が入ってくる印象でしたね。収録がバラバラだったので、もし一緒にできていたらトーンを合わせたり、もっと変わっていたかもなと思っていました。声を資本とされてる方なので、勉強させていただくことも多かったですね。

ーーまたもし音声ガイドのお仕事がきたら。

是非お受けしたいです!

小芝風花

小芝風花

ーー音声ガイドの収録以降、美術館には行かれましたか。

撮影でバタバタしていてまだ行けていないんですけど、今まで意識していなかったポスターや広告が、気になるようになりましたね。「こんな展示やるんだ」とか、目に留まるような変化は出てきました。時間があれば観に行きたいですね。

ーー音声ガイドの収録後、SPICEでインタビューをさせていただいた時に、「美術館に行ったらお気に入りの絵のポストカードを買うのがルーティンになりそうだ」とおっしゃっていましたが、何か買われました?

めっちゃ買いました! フェルメールの修復前と修復後、あとトリックアートのような手紙とリボンの絵(ワルラン・ヴァイヤン「手紙、ペンナイフ、羽根ペンを留めた赤いリボンの状差し」)もすごく可愛くて買いました。ほかには花瓶と虫がいっぱい描かれた、大きくて印象的な絵(ヤン・デ・ヘーム「花瓶と果物」)だったり、結構色々買いましたね。

ーーお家ではどんなふうに保管をされていますか。

ポストカード入れに入れています(笑)。

ーーポストカードがお好きなんですか?

ポストカードとかメッセージカードとか、ポチ袋とかが好きなんです。可愛いものやちょっとおもしろい、遊び心があるもの。

ーーポストカードは値段も手軽なので、つい買ってしまいますよね。

そうなんですよ! ちょっとしたプレゼントやお返事を書く時に、このおしゃれなポストカードに書いて渡すのも素敵だなと思って、今ちょっと集めてます。

ーー普段お手紙を書かれるんですか?

多くはないんですけど、仲の良い友達にプレゼントを渡す時とか、書けたらいいなと思っています。

小芝風花

小芝風花

ーーざっと展示会場を観られて、直感でピンと来た作品はありましたか。

色々ありました。一番と言われたら難しいんですけど、先ほどお伝えした「花瓶と果物」は、花は美しいイメージがあるけど、少し毒々しさも感じる絵ですごく魅力的でしたし、ヤーコプ・ファン・ライスダールの風景画「城山の前の滝」も好きなんです。色遣いと穏やかさと日常、影。ちょっと怖さも感じるんだけど、川や自然の力強さを感じますね。あとハブリエル・メツーの「火のそばでタバコを吸う男」の、火の色合いがすごく細かくて、あたたかみを感じられて好きでした。爆発や爆撃の風景画や、火の作品はちょくちょくあったんですけど、「火のそばでタバコを吸う男」は、火の描かれ方がすごく印象的で。周りの影と地面に映ってる火が、ちゃんと生きてるように感じて、リアリティがあって素敵だなと思いました。

ーー細かいところまで、すごくよく観られていますね。

特に音声ガイドをした絵に関しては、「あ、なるほど確かに、ここがめちゃめちゃ細かいな。光の粒があるなー」とヒントをもらえるので、知識を得ながら観ると、やっぱりより楽しいですね。

小芝風花

小芝風花

ーー会場には肖像画も並んでいましたが、もし小芝さんが肖像画を描いてもらうとしたら、どんな表情で描いてもらいたいですか。

えー!?

ーーその前に描いてもらいたいと思いますか?

えー、やだ(笑)! でもそうですね、ちょっと盛って、リアリティよりも綺麗に修正して描いてもらいたいです(笑)。

ーー今年女優デビュー10周年を迎えられました。今後のビジョンなどはありますか。

お芝居の仕事が一番好きなので、これからもいろんな作風や役柄を演じたいですし、声のお仕事も私の中でお芝居のひとつなんです。映像の内容に合わせて声色を変えて読むこともひっくるめて、全部自分の中でお芝居という認識をしているので、今回みたいな音声ガイドだったり、声のお仕事もたくさんしていきたいですね。

同展の見どころ5選

『特別展ドレスデン国立古典絵画館所蔵 フェルメールと17世紀オランダ絵画展』 撮影=ERI KUBOTA

『特別展ドレスデン国立古典絵画館所蔵 フェルメールと17世紀オランダ絵画展』 撮影=ERI KUBOTA

最後に同展の見どころを、同館の石川温子学芸員による展覧会概要説明をもとにお伝えしよう。同展は「第1章 レイデンの画家― ザクセン選帝侯たちが愛した作品」、「第2章 レンブラントとオランダの肖像画」「第3章 オランダの風景画」、「第4章 聖書の登場人物と市井の人々」、「第5章 オランダの静物画 ― コレクターが愛したアイテム」、「第6章 複製版画」「第7章 「窓辺で手紙を読む女」の調査と修復」の全7章で構成されている。

第7章展示風景

第7章展示風景

1つめの見どころは、度々述べているが「ドレスデン所蔵館以外で世界初公開」であること。大阪市立美術館の内藤栄館長によると、2019年に日本で行われた『フェルメール展』で「窓辺で手紙を読む女」の貸し出しを申し込んだところ、現在修理中で貸し出しできないと断らたのだという。しかし「修理が終わった暁には、ぜひ日本で公開を」と約束がなされ、それが今回守られた。日本が信頼されていることが伝わるエピソードである。

同作品はフェルメールのスタイルを確立した初期の傑作。表面のニスを取り除く作業からスタートし、顕微鏡とメスを使って上塗りの絵具層を取り除いていった。その修復過程も映像やパネルで紹介される。

第1章展示風景(手前がキリング・ファン・ブレーケレンカム「産後の訪問」 1665年頃 油彩、板、奥がピーテル・ファン・スリンゲラント「ヴァージナルの前で歌う女」 1670-80年頃 油彩、板)

第1章展示風景(手前がキリング・ファン・ブレーケレンカム「産後の訪問」 1665年頃 油彩、板、奥がピーテル・ファン・スリンゲラント「ヴァージナルの前で歌う女」 1670-80年頃 油彩、板)

2つめは、ドレスデン国立古典絵画館が誇る17世紀オランダ絵画コレクション。同館の中核は、17〜18世紀にかけてザクセン選帝侯が収集したコレクションが担っている。オランダ絵画の黄金期を彩る、質の高いトップクラスのコレクションを展示する。

第6章展示風景(アルバート・ヘンリー・ペイン「天の梯子を幻視するヤコブ(フェルディナント・ボルの原画に基づく)」 1848年頃 スティール・エングレーヴィング)

第6章展示風景(アルバート・ヘンリー・ペイン「天の梯子を幻視するヤコブ(フェルディナント・ボルの原画に基づく)」 1848年頃 スティール・エングレーヴィング)

そして、同館のコレクションの基礎を作り上げたザクセン選帝侯アウグスト1世と2世が愛した作品を、3つめの見どころとして挙げたい。ヘラルト・テル・ボルフやハブリエル・メツーなど、彼らが特に好んだレイデンの街の画家たちの作品を紹介。これは世界で最も重要なコレクションのひとつとなっている。

第2章展示風景(手前がレンブラント・ファン・レイン「若きサスキアの肖像」 1633年 油彩、板)

第2章展示風景(手前がレンブラント・ファン・レイン「若きサスキアの肖像」 1633年 油彩、板)

さらに、オランダの肖像画と風景画にも注目。オランダの肖像画は17世紀に目覚しい発展を遂げる。目玉作品のレンブラントの「若きサスキアの肖像」は、レンブラントの婚約者であり、のちに妻になる21歳のサスキアが古代風のドレスを纏っている。サスキアの誇張された表情やドレスは、特定のモデルではなく想像上の人物を描いた「トロニー」の特徴を備えている。レンブラントは肖像画に内面の表出という新しい特質をもたらした。

第3章展示風景(手前がヤーコプ・ファン・ライスダール「城山の前の滝」 1665-70年頃 油彩、カンヴァス)

第3章展示風景(手前がヤーコプ・ファン・ライスダール「城山の前の滝」 1665-70年頃 油彩、カンヴァス)

同時期、オランダでは風景画も大いに発展する。パウルス・ポッテルやヤーコプ・ファン・ロイスダールなど、自分たちの身近にある自然環境に目を向け、体験に基づいて作品を構成する作家が誕生。以後の風景画に大きな影響を与えた。

第4章展示風景(ヤン・ステーン「ハガルの追放」 1655-57年頃 油彩、カンヴアス)

第4章展示風景(ヤン・ステーン「ハガルの追放」 1655-57年頃 油彩、カンヴアス)

最後はコレクターたちが愛した、聖書の登場人物と市井の人々を描いた静物画。17世紀、絵画のヒエラルキーの頂点は歴史画で、オランダの画家たちは、聖と俗の両方の場面を描き始めた。静物画はこの時代のオランダにおいて隆盛を極め、絵画の1ジャンルとして確立された。貴族と同様に贅沢な品々が描かれたが、哲学的なメッセージが込められているものも多い。

ミュージアムショップにはポストカードが充実(3段目中央がワルラン・ヴァイヤン「手紙、ペンナイフ、羽根ペンを留めた赤いリボンの状差し」のもの)

ミュージアムショップにはポストカードが充実(3段目中央がワルラン・ヴァイヤン「手紙、ペンナイフ、羽根ペンを留めた赤いリボンの状差し」のもの)

ミッフィとのコラボグッズも登場

ミッフィとのコラボグッズも登場

展示作品はサイズが小さめのものもあるが、珠玉の名作が揃う貴重な機会。ぜひ見逃すことなく、鑑賞のチャンスを掴んでほしい。特別展『ドレスデン国立古典絵画館所蔵 フェルメールと17世紀オランダ絵画展』は、9月25日(日)まで大阪市立美術館で開催。

取材・文=ERI KUBOTA 撮影=福家信哉(インタビュー)、ERI KUBOTA(内覧会)