傑作が生まれるには理由がある。21世紀の日本のオルタナティヴロックを代表するバンド・MASS OF THE FERMENTING DREGS、4年振りのオリジナルアルバム『Awakening:Sleeping』。ピュアでストレートなギターロック、ヘヴィ&ラウドなミクスチャー、クラウトロックを思わせるストイックなグルーヴ、初めて同期音源を使用した楽曲など、ジャンルのタガを外し全方位に解放されたサウンドと、美しく透明感溢れる宮本菜津子の素晴らしい歌。さらに蛯名啓太(Discharming man)とTaigen Kawabe(BO NINGEN)という強力ゲストとのスリリングな共演もある。コロナ禍の混乱を突き抜けて、3人はいかにしてこの傑作をものにしたのか? 宮本菜津子(Vo/Ba)、小倉直也(Gt/Vo)、吉野功(Dr)に話を訊いた。

――アルバムの話をする間に、少し時間をさかのぼって。コロナ禍の2年半は、あらゆるアーティストにとってすごく大きな意識変換の時期だったと思うんですね。良くも悪くも。

宮本菜津子:コロナ前とコロナ後って、自分の中での時間の感じ方がまちまちで、いつ何が起きてどうなったか?がわからなくなるんですよ。すごく前のことのような気がするし、すごく最近のことのような気もするし、この3年間の時系列があんまり把握できてない。いろんなことがありすぎて。

――2020年のマスドレのトピックで言うと、まずクラウドファンディングをやりましたよね。

宮本:あー! やりましたね。あれはすごかった。

――目標の4倍でしたっけ。すごい金額が集まって、デモ音源集を集めたアルバム『NAKED ALBUM』を作ることができた。

宮本:たぶん1日で目標を達成して、「えええ?!」って。自分たちが思っているよりもたくさんの人が見守ってくれたんやなということが、可視化された感じもありました。

――それはメンタル的にすごく大きいですよね。

宮本:大きかったです。

小倉直也:そもそも、クラファンをやったのはライブのキャンセル料のためだったから。そんなに集まるとは思わなかった。

吉野功:やって、本当に良かったよ。あれでキャンセル料払って、「はあ……」ってなったままだったかもしれないから。

小倉:そこは相当大きかった。お金は気合でどうにかなるけど、気持ちはそうはいかないから。すごくうれしかった。励みになった。

宮本:マスドレのファンの方たちはすごく優しくて、クラファンに添えたメッセージにもいろんな思いを書いてくれて。落ち込んでる場合じゃないなという気持ちもなったし、コミュニケーションとして良かったですね。気持ちの面でお客さんとのつながりをちゃんと確認できたことがすごく大きかった。

――本当は、その年にオリジナルアルバムを出して、海外フェスに出て、という青写真があったんですよね。

小倉:そうです。2020年の夏に決まっていた『Arc Tangent Festival(イギリス)』に向けて、アルバムを作る予定だったんですよ。

吉野:詳しく言うと、「You/うたをうたえば」の7インチを出して、『Arc Tangent Festival』までにアルバムをリリースして、秋以降でヨーロッパツアーということを考えていたのが2020年だったんで。やっと本格的に海外に行けるというところだったんで、(コロナは)大きかった。このタイミング?みたいな。

宮本:嘘やろ?と思ったもんな。

吉野:ずっと海外に行きたくて、やっと実現しそうだなというタイミングだったんで、普通にショックでした。

宮本:1回目はそれなりにショックを受けて、でも2回目(2021年)の延期の時は「そらそやろ」みたいな、世界がそういう状況だったから、そこまでショックではなかったけど、また呼んでもらえるかもわからないじゃないですか。だから、今年ちゃんと呼んでもらえて本当に嬉しかったしありがたかったです。

――3度目の正直で、今年、8月20日に『Arc Tangent Festival』に出演しました。ライブ映像も見ましたけど、すごい盛り上がってて、かっこよくて誇らしい気持ちになりましたね。話を戻すと、ということは、今回のアルバムの曲は、2020年のコロナ前にはかなりできあがってたんですか。

小倉:いや、かなりではないです。ただ原型みたいなものはいくつかありました。「Dramatic」はあったし、「MELT」もあった。「いらない」は弾き語りバージョンで、なっちゃんのソロ曲としてあった。

宮本:「鳥とリズム」もあった。

吉野:一番古いのは「鳥とリズム」だね。僕が初めて聴かせてもらったのは、サポートをやってた時だから。

小倉:2008年ぐらいじゃない? で、2009年のツアーの最後にやったんじゃないかな。

宮本:もともと弾き語りで歌ってたんですよ。その当時、まだオグが加入する前のメンバーの時にスタジオに持って行って、でも思う感じにならなくて、お蔵入りして、それを何かのきっかけでやりたいと思って二人に言ったのかな。曲ってそういう不思議なところがあって、昔から原型はあったけど、「良き時」というものがあると思っていて、それがやっと来たみたいな感じ。

吉野:いい曲だよね。初めて聴いた時に「俺の知らないいい曲がまた出た」みたいな感じで、なんでこれやらないの?ってずっと言ってた。

――アルバムの中でも1曲目「Dramatic」と8曲目「鳥とリズム」は響き合ってるというか、音の感触も似ているし、重要な役割を占めてる曲だと思います。

小倉:本当にそうです。前のアルバム(『No New World』)で「Sugar」があった位置に「鳥とリズム」が入ってる。あそこはすごく大事なポジションだから。DHみたいな。

宮本:絶対打つ人な。

――9曲あるから、打順に例えられる(笑)。8番DH「鳥とリズム」。今回、曲順が最高なんですよ。

小倉:曲順は早い段階から置きどころを話し合って決まりました。作ってから決めるんじゃなくて、わりとコンセプチュアルな考え方で。

宮本:今までにはなかった感じかもな。作ってる最中にホワイトボードに曲順を書き出して。

小倉:作ってる段階の曲を並べてみて、どこに何を持って行くか?という話をして。

宮本:「1960」のあとの「Helluva」という曲は、「1960」があるからできた曲で、同じGのコードから始まって、「このあとにこういうイントロが来たらかっこいい」という、それだけしかなかった。ただGでダーダーダー!ってやりたいだけ。それと「1960」と同じフレーズが「Helluva」に引き継がれるのも、3人で話して決めて。

――1曲ごとの音のアプローチとバリエーションが極端なほどにバラけてるから。それを絶妙な曲順が一つに繋げていると思うんです。

小倉:確かに、バラバラに聴いたらよくわかんないかもしれない。

吉野:今回のアルバム、自分でも意味がわかんなすぎて、「これはどういうアルバムですか?」って聞かれたらどうしようって思ってた。

宮本:なかなか答えるのムズイなーっていう話をしてたな。

――これはどういうアルバムなんですか(笑)。

吉野:僕は……今までがそうじゃないということではないですけど、簡単に言うと、何も気にせず自由にやった結果という感じです。僕はサポートから入って、セカンドアルバムから関わって、ずーっと「なっちゃんのボーカルをもっと」という気持ちがあったんですよ。『No New World』もそこを大事にして曲を作りたいという気持ちがあったんですけど、今回は何も考えてない。だから、何でこうなったのかわからない。

――インストも2曲あるし、ゲストとのデュエットもあるし、ラップもある。オグさん単独ボーカルもある。すごく自由ですよね。

吉野:デュエットはけっこう前から言ってたんですよ。ゲストボーカルじゃなくてデュエットで、みたいなことはちょいちょい言ってました。あと、ここ(吉野&宮本)がヘヴィロック好きなんで、ヘヴィなことをやりたかったりとか、話してることはいくつかあって、それを実現させたアルバムと言っていいかもしれない。

宮本:「いらない」で歌ってる蛯名さんとは出会ってずいぶん経つけど、一緒に歌いたいという話はずーっと昔からしてたんですよ。でも歌う曲がないし、そのために曲を書くのもどうしたらいいかわからんくて、でも何かのきっかけで、「これはもしかして一緒に歌えるんちゃう?」と思ったのが「いらない」で。もともと弾き語りで歌ってた曲で、蛯名さんと歌うためにあのアレンジになりました。

吉野:覚えてる。じゃあドラムはこうする?ってすぐに浮かびました。

宮本:音の渦の中で二人で歌いたいと思ったから。原曲はもっと静かであんまり開けた曲じゃないんですけど、蛯名さんと歌うならこうしたいというイメージが湧いてきました。

――蛯名さんとは音楽的に、あるいは感性やセンス的に、どういうところに共感しあってるんですか。

宮本:どこやろ? でもすごい似てると思ってて。

吉野:相思相愛だよね。

宮本:蛯名さんもそう言ってくれはって、初めて録音物で二人の声が重なったのを聴いて、めっちゃうけてた。「声、一緒だね」って。でも不思議なもので、確かに似てるんだけど、一緒に歌わないと出ない雰囲気があって、私の中ではすごく納得いく感じになってます。何なんやろ?

小倉:二人のイノセントな感じが共通してると思います。蛯名さんはずっとイノセントな感じで、絵本の中にいるみたいな人。怒ったり笑ったり悲しんだり、すごいシンプルだし、なっちゃんもシンプルだし、二人が合唱してると子供が二人いるみたいな感じがする。

宮本:あはは。確かに、感情に対しての反応の仕方は似てるかもね。

小倉:それが子供の合唱ということじゃなく、音の渦の中で全力で歌ってる感じが面白い。

――もう一人のボーカルゲスト、「Helluva」で歌っているTaigen Kawabe(BO NINGEN)さんとはどんなエピソードがありますか。

宮本:Taigenくんは、もう最高マンですよ。

小倉:「Helluva」という曲を作っている時に、どんどんヘヴィになっていく中で、スキャットというかポエトリーというか、そういうものが入ったらいいなと思っていて。しかもラップをする人じゃなくて、ロックバンドのボーカルでそういう人いないかな?と思って、DAW(Digital audio workstation)を使って組み立てている時に、YuouTubeで流れてる彼の声を拾って、重ねてみて。

吉野:勝手にね(笑)。

小倉:そしたら「超 ヤベェな」と思って、二人に送って、それでTaigenくんに歌ってもらいました。もともとなっちゃんとは、コンタクトがあったし。

宮本:それも偶然なんですけど。地元・神戸にHelluva Loungeというやばいライブハウスがあって、タイトルはそこから取ったんですけど、Taigenくんと出会ったのがそこで。彼が日本にしばらくいる時に、BO NINGENのほかにAcid Mothers Templeというプログレサイケデリックバンドでベースを弾いてたんですよ。それを見に行った時に、店長の木村さんが繋いでくれたのが最初です。それより前の流れを話すと、私がクラブハウスにちょっと興味を持っていた時に、Taigenくんがベース談義の一人に入ってしゃべってたのを聴いたんですよ。中尾憲ちゃんやハマ・オカモトくんと話していたような……。そこでこの人の感性はめっちゃ面白いなと思って興味がわいて。会ってみたいなと思ってたら、その数日後とかに神戸にライブしに来るっていうので見に行って、話して、という。オグのアイディアをTaigenくんに伝えたら「ぜひやりたいです」と言ってくれました。

小倉:日本にいる時に、一回スタジオに来てもらって。

宮本:ボーカルの録音は、彼がロンドンに戻ったあとに自宅でやってくれた。

小倉:最初のスタジオの時、みんな興奮したよね。

宮本:ヤバかった。前のインタビューの時も、私が好きな音楽は結局ニューメタル、ミクスチャーとかヘヴィなものが好きという話をしましたけど、そこはマスドレにはあんまり落とし込んでない部分というか。ああいうボーカルのアプローチは自分の中にないもので、でもサウンドとしては自分の故郷みたいな場所で、それを初めて表現できる作品ができた!と思って。「リンプ(・ビズキット)やん!」てなりました(笑)。

吉野:僕はなっちゃんの故郷はよく知ってるので(笑)。だったらドラムはこうでしょ?って、すぐに思いついた。

宮本:別に抑えてたわけじゃないけど、こんなにスムーズにできたことにうれしさがあったし、聴いてくれた人たちのリアクションも良くて。3人だけやとたどり着けんかったところに、Taigenくんや蛯名さんや、ゲストの人を迎えることでそこに行かせてもらえたのがすごく大きかった。今までにない体験になってますね。

――これは何のアルバム?ってさっき吉野さんも言ってましたけどね。今の話みたいに、1曲ごとに動機ときっかけがあって、そこに振り切って作っていったから、こういうアルバムになったんだなあと思ったりします。

吉野:その中で、オグが持ってきてくれた「1960」はすごく大きかった気がする。そこで確信を持ったというか、「これをやっちゃうんだから、大丈夫だろう」と。

宮本:オグがあの曲を持ってきてくれた時、めっちゃ上がったもん。「なんなんこれ。いい曲やん!」って。

小倉:ありがとうございます。