『新・信長公記』(YTV・NTV)や『17才の帝国』(NHK)などのドラマ出演、『ひらいて』を始めとする映画での主演など、2013年のドラマ初出演以降10年にわたって着実にキャリアアップを続けてきた山田杏奈が、舞台に初挑戦する。

山田が出演するのは、劇作家・松田正隆の名作『夏の砂の上』。本作は夏の長崎を舞台に、職と妻を失った主人公と彼を取り巻く人物たちの会話劇で、1998年に初演され翌年読売文学賞戯曲・シナリオ賞を受賞。その後もあらゆる劇団が上演してきた本作に、演出家・栗山民也が新たな命を吹き込む。キャストには田中圭や西田尚美など、映像・舞台を問わずに長年第一線で活躍を続ける実力派の俳優たちが名を連ねる。

稽古開始を数週間後に控えた山田に、初舞台への思いや今抱えている不安、このチャレンジを通して叶えたいことなどを聞いた。

山田杏奈

山田杏奈

■舞台の演技は「完全に未知の領域」

ーー山田さんにとっての初舞台です。舞台に挑戦したい気持ちはありましたか?

そうですね。数年前から「いずれやらなきゃね」とマネージャーさんと話していました。

ーー舞台のオファーを最初に聞いたときは、どう思いましたか?

お話をいただいたのがけっこう前で、確か2020年だったかな。だから「あと2年くらい先か」と思ったのが、最初の感想ですね(笑)。

でも「いよいよ舞台か」と身が引き締まる思いでしたし、2年先のわたしがどうなっているかわからないのに声をかけてくださって、とてもありがたかったです。

山田杏奈

山田杏奈

ーー今回共演される田中圭さん、西田尚美さんとはこれまでも一緒の作品に出演されています。

田中さんとは映画『哀愁しんでれら』で共演させてもらって、一緒のシーンは限られていたんですが、すごく気さくに話しかけてくださってありがたかったです。

西田さんとは映像で2回共演していて、今年『17才の帝国』でご一緒したときに今回の舞台のことをいろいろ聞きました。

ーーどんなことを質問されたんですか?

「稽古ってどんな感じですか?」とか「セリフっていつ頃覚えるんですか?」とか。もう、稽古の服装から何から、わからないことだらけなので……。舞台に出てる人には、いろいろ質問してますね。セリフが飛ぶ夢を見るって、みんな言ってて……。

ーー山田さんはまだ見てないですか?

さすがに、わたしはまだ(笑)。稽古か本番が始まったら見るのかな。先輩たちの話を聞けば聞くほど、映像の仕事とは本当に別物だとわかってきました。

ーーオファーがあってから2年の間、舞台に向けてどのような準備をされましたか?

これまで参加してきたのも触れてきたのも映像作品の方が多かったので、まずはお芝居に足を運ぶようにしました。今回の舞台で演出される栗山民也さんの作品も、『フェードル』と『彼女を笑う人がいても』を拝見しました。

山田杏奈

山田杏奈

ーー栗山さんの作品はいかがでしたか?

『フェードル』は、大竹しのぶさんの存在感とヒリヒリする表現に圧倒されて、茫然とした気持ちで劇場を出た記憶があります。

『彼女を笑う人がいても』は安保闘争の話で、その時代には詳しくなかったのですが、舞台で当時を生きた人の姿に触れた気がしましたね。

栗山さんはいろんなタイプのお芝居を手掛けられているので、作品によっても全然違う印象を受けました。

ーー公式サイトでのインタビューでは、「これまでの数少ない経験や価値観を、一度捨てられるような勇気を持って」挑みたい、とおっしゃっていました。詳しく聞かせていただけますか?

これまでずっと映像作品に参加してきて、言い方はよくないのですが、最近少し慣れてきてしまった部分があるというか。お芝居に対する自分のスタンスがふらふらしてしまっているかも、と思うことが最近たまにあったんです。

これも嫌な言い方ですが、映像は監督のOKが出たら終わりますよね。でも舞台は、同じ役、同じお話を何度もくり返す。それはもう、完全に未知の領域です。

映像でも舞台でも与えられた役柄を生きることに変わりはないけど、エネルギーを発散するベクトルが違うんじゃないかと思うんです。目の前にお客さんがいる状態って、きっとこれまでとは全然違う心境になるだろうなって。

まったく異なる表現方法に挑戦することになるので、一度これまでの経験をすべて崩される体験をして、何がいけないのかじっくり向き合って考える機会が持てたらいいなと思っています。

山田杏奈

山田杏奈

■「この役をベストに演じたのはわたし」と思えるように

ーー台本を読んでみていかがでしたか?

すごく静かなお話でした。普段観るものも演じるものも、何か事件が起こって話が盛り上がっていくような作品が多かったのですが、『夏の砂の上』は日常の中で、人間の奥深くにあるものが、登場人物の会話の中で少しずつ動いていく、その時間や空気を見つめるような静かな作品。舞台でこの空気感をどうやって作っていくのか、今想像しているところです。

ーー山田さんは16歳の優子役を演じます。どんな印象を持ちましたか?

16歳だけど、女の子と呼ぶべきか、女性と呼ぶべきかわからない人物。とても大人びている面もあれば、子どもらしい面もあってミステリアスです。大人の都合に振り回されて、寂しさを抱えている子なのかなとも思います。

ーー優子は母親の都合で、学校にも通っていませんね。

学校に行っていない分ひとりでいる時間が長いので、自分自身のこと、親のこと、周りの環境のことを考えて悶々としている時間が長い子なんだろうなって。

自分の16歳の頃とは状況が違うし、何を考えているのかわからないなってところも多い。本心かどうかわからないセリフもあって不思議な人だなと思っているけど、演じ始めてみたらわかってくるのかもしれないですね。

山田杏奈

山田杏奈

ーー物語の舞台は長崎です。行かれたことは?

『17才の帝国』の舞台が長崎で、今年の1月に10日間くらい佐世保に滞在しました。基地があるせいかいろんな国籍の方がいたのが印象的でした。どこにいても海が見える町でしたね。

ーー11月に東京で幕開けして、その後は兵庫、宮崎、愛知、長野を回ります。すべての公演が終わるのは12月17日なので、2022年の残り4ヶ月は『夏の砂の上』に投入することになりますね。全公演が終わったとき、どんな姿に成長していたいですか?

ああ、そうですね……成長か……。終わったときに「また舞台をやりたい」と思えていたらいいですよね……(笑)。

ーーたしかに、それは本当にそうですね!

それは変な話だけど(笑)、真面目にお話しすると、稽古から上演の期間を経て「変われた」と思いたいですし、終わったときには「この役をベストに演じたのはわたし」だと思えるくらいになっていたいですね。

ーー頼もしいお言葉です。舞台上の山田さんを拝見するのを楽しみにしています。

いやぁ……こんなことは言ってるけど、やっぱり不安で……。友だちも「観に行く!」とか「楽しみ!」って言ってくれるんですけど、「(うつむきながら)がんばる〜……」みたいな反応しかできなくて(笑)。稽古が始まったら、堂々と「観に来て!」と言えるように頑張りたいです!

山田杏奈

山田杏奈

取材・文=碇雪恵    撮影=中田智章