シャーロット・ブロンテの小説をもとに、演出家ジョン・ケアードが自ら脚本も手がけ、1996年にトロントにて世界初演、2000年にはブロードウェイでも上演されたミュージカル『ジェーン・エア』。日本でも2009年、2012年と上演されてきたこの作品が、このたび新演出版としてお目見えする。主人公ジェーン・エアとその親友ヘレン・バーンズの二役をダブルキャストで演じる上白石萌音と屋比久知奈が意気込みを語り合った。

ーー作品のどんなところに魅力を感じていますか。

上白石:まず、原作の強さ、名作と言われて読み継がれてきているものの持っている力に圧倒されます。そして、音楽が大好きです。最近はずっと聴いているのですが、本当に壮大なのにどこか素朴で切実、そんなすごい曲をポール・ゴードンさんはお書きになっていて。これを私は歌えるのかなっていう不安の中にいます。物語を描くのにふさわしい曲という感じで、そこが本当に強いところだなと。今回、今井麻緒子さんが新たに訳詞を手がけていらっしゃるので、この作品のファンの方にとってもちょっと新しい『ジェーン・エア』になることに、私もドキドキワクワクしているところです。

屋比久:私も音楽がとても魅力的で、素朴という言葉が合うなって思っています。ドラマティックなんだけれどもすごく優しいというか、繊細で美しい旋律が印象的で、台本に描かれている作品の世界観が伝わってきて、さみしさとか哀愁といったものがあるなと思いながら聴いています。でも、本当に難曲ばかりで(笑)。

上白石:そう思いますよね。

屋比久:これを歌うのかと(笑)。

上白石:絶対いけます。

屋比久:いけるって思わないと(笑)。私は、これまでやってきた作品的に、力業というか、パワフルに歌声をぶつけてきた経験が多いのですが、今回の曲はちょっと違うなと思っていて、そういった意味でも自分にとって大きな挑戦だなというのは感じています。私は個人的に萌音さんの歌声が大好きなので、今回、同じ役を演じると同時に、役替りで一緒に舞台に立てるので、歌声を聴きながら、エネルギーをもらいながら演じられることが本当に心強いですし、その楽しみもすごくあります。こういう形でのダブルキャストはあまりないと思いますし、なかなか同時に舞台に立てない悲しさがあるので、そこは今回本当にうれしくて!

上白石:こちらこそ!

上白石萌音

上白石萌音

ーー今日(取材時)が初対面でいらっしゃるんですよね。

上白石:そうなんです。

屋比久:さっき「はじめまして」しました。

ーーこれまでのお互いの印象は?

上白石:これまでやってらっしゃったどの役もぴったりだなって。そういった、お客さんとしての安心感、信頼って、舞台役者として喉から手が出るほど欲しいものですが、誰々が演じているんだったら観に行きたいという信頼感、それを持っていらっしゃる方だなと思います。歌声の力強さ、密度、情感の豊かさ、プラス、めちゃめちゃ踊れて、若手のトップランナーというイメージがあって、そんな方と同じ役をさせていただけるのは本当に頼もしく思っています。ジェーンも、なんてぴったりなんだろう、そりゃあ観に行きたいなって、ピタッとはまった感覚があって。稽古場が楽しみだなとのんきに思っています。これまで力業でやってきたとおっしゃっていましたが、私は逆に、今一番欲しいのがパワフルさ、それが自分に一番足りていないなと思うところで、そこは本当に勉強させていただきたいです。

屋比久:いやいや、飽きるほど見ていただくことになると思います(笑)。うれしい言葉ばかりでどうしていいかわからないんですけれど、私は、実際に舞台を拝見させていただいたことはないんですが、初めて歌声をテレビで聞いたときに、この人は本当に素敵な心の持ち主なんだろうなという印象がありました。歌声ってその人の性格とかが見えて、隠せないと思っていて、何か隠しきれないものがにじみ出ている歌声ですよね。今回、『ジェーン・エア』の曲が私にとっては挑戦だと言ったのは、包容力だったり、懐の深さというか、ジェーンの、強いんだけれどもそういうあったかさがある部分なんですが、そこの部分が萌音さんにはぴったりだなと思いました。強い歌声、パワフルなものが欲しいと言ってくださいましたが、私は逆に、萌音さんのような、穏やかですごく優しいけれども芯の深いところの愛情深さを感じさせる歌声が欲しいと思っているところで、そこは今回、私も近くで学びたいなと思っています。お互いの挑戦したい部分を補いながら作り上げていくような現場になるのかなと思うとすごくうれしいですね。萌音さんはお芝居の経験が豊富で、本当に素敵なお芝居をされるから、身近で目の当たりにできるのがうれしいですし、舞台の上で役として対峙したときどうなるのかなという楽しみもあって。勉強しつつ、お互いの刺激になれるような楽しい現場になったらいいなと、今日お会いするのを楽しみにしてきました。

上白石:二人は合うと思うと周りの方に言われることが多くて、ちょっと照れくさくて。

屋比久:そわそわしちゃいますよね(笑)。

ーー今回お二人が二役で演じるジェーン・エアとヘレン・バーンズについてはいかがですか。

屋比久:この二役を演じるって、すごく大変だなって。

上白石:本当に全然違う二人。生命力の塊の人と、すぐに天使が迎えに来てしまうようなはかない人。でも、小さいときに二人は出会って、ヘレンに教えてもらったことをジェーンはずっと大事に思って生きていて、ヘレンが歌ってくれた曲もずっと大事に歌っていくので、二人にとってお互いは本当になくてはならない存在。お互いの心の中にずっとお互いがいる、みたいな感じがあるので、そこの二役を交互にさせようと思ったジョン(・ケアード)は本当にすごいですよね。

屋比久:初めて聞いたとき「えっ?」って思いました。すごい試みだなと。でも、ジョンが、片方を演じることはもう片方を演じる上で意味があるだろうと、この二役をダブルキャストに決めたとお聞きしたので。萌音さんが言ったように、お互いの中にお互いが生きているだろうから、そのコアになるようなものを、それぞれの立場から見つけていきたいなと。怖いですけどね。

屋比久知奈

屋比久知奈

上白石:ひとつの役ですら、時間が足りないと思うのに。

屋比久:二役ですから。

上白石:本当にお互いに協力していきましょう。じゃないと無理ですから。

屋比久:みんなで話し合って詰めていかないといけないんだろうなと思います。人それぞれ感じ方も見え方も違うし、感性も違う。その違いがよさでもあるし、同じ役を演じて、時間がない中、人の話を聞くことで気づけること、深めていけることはすごくたくさんあると思います。私はこれまでダブルキャスト、トリプルキャストの経験もありますが、助けられる部分があったし、みんなで持ち寄るからこそ自分が大事にしたい部分が逆に見えてくるところもありました。お互いを受け入れた上で違いを楽しめるというところも経験してきているので、今回、もっと密に持ち寄れるかなという気がしています。同じ役もやりつつ、同時に、相手役として舞台に立つということはこれまでにないことなので、より密になるんじゃないかな。

上白石:ジョンからの挑戦を二人で受けて立ちましょう。苦しんでいる姿を見せつつ(笑)。

ーーそれがジョン・ケアードさんへの有効な戦法だったり?

上白石:(笑)。ジョン自身も「違うな、違うな」って、めちゃくちゃ苦しみながら生み出す方なんです。演出家さんとしてお高くとまっているところが全然なくて、本当にカンパニーのひとつのパーツとしてみんながいるという、そういう意識でいらっしゃる方だから、お互いに苦しんでいるところがたぶん見えてしまうと思う(笑)。

屋比久:とことん苦しんでいるところを見せます(笑)。

上白石:稽古場自体がどんよりすることは一切なく、本当に愛にあふれた空間になると思うので、楽しみです。

屋比久:私はジョンとはオーディションでお話ししたことくらいしかないのですが、本当にあったかい人なんだろうなという印象と、同時に、作品に対する向き合い方もすごくていねいに話してくれる方だろうと感じたので、ジョンが求める、表現したいと思っている『ジェーン・エア』という作品を、私たちも新しいものを提示しつつ、お互いの理想、表現したいものが形にできるよう、いっぱい話していけたらいいなと思います。

ーーケアードさんの演出作品についてはいかがですか。

屋比久:私は『ハムレット』を観たことがあるのですが、すごく個が立っているな、個々のキャラクターがとてもていねいに浮き彫りになっていたなという印象を持ちました。今回の作品も、それぞれ個性的な面々が揃っているので、そこでまたそれぞれのキャラクターが作品の中で面白い形で出てくるのかなと思います。

上白石:私は、とてもシンプルで古典的なところが魅力だなと感じています。同じ演出で、古代ギリシャでも上演できるなと。ハイテクなものはあまり使わない、『千と千尋の神隠し』ですら、映像や機構を使っているのはごく一部で、ほとんどマンパワーで進めた方。人が演じるというところにすごく重きを置いている方なのだと思います。人の心の中の動きであるとか、そういったものをとてもていねいに読み解いて、一緒にかみくだいていってくださる方という印象がありますね。とにかくカンパニーと作品への愛が強くて深くて、本当にこの方についていけば大丈夫という包容力をお持ちの方です。

上白石萌音

上白石萌音

ーーエドワード・フェアファックス・ロチェスターを演じる井上芳雄さんと、上白石さんは何度も共演されていますし、井上さんは屋比久さん推しとしても知られています。

屋比久:プリンスにそう言っていただけているのは本当にありがたいです。

上白石:最近は「元祖」って言われたいらしいですよ(笑)。

屋比久:「キング」の方がいいのかな(笑)。

上白石:ロチェスターを演じる芳雄さんが想像つかなくて。

屋比久:私も。

上白石:これまで、二枚目でチャーミングな男性の役が多かったと思うんですけれど、ロチェスターって、本を読む限り、野蛮な、獣のような男性という印象なので。

屋比久:ワイルドな感じですよね。

上白石:新たな芳雄さんが誕生する瞬間に立ち会えるのかなと。

屋比久:私自身、イベントでしかご一緒したことがないので、実際舞台上で役として芳雄さんと向き合うということがどんな感じなのかあまりにも未知数だし、きっとすごく緊張するんだろうな。今回の役柄は芳雄さんのイメージにないところだったりもしますが、それと同時に、ロチェスターのちょっと斜めに見る感じが合うのかなと思います。芳雄さんってすごく面白い人じゃないですか。すごくまっすぐで優しい人なんだけれど、斜めからの見方もできる、すごく柔軟な人だと思うから、どういうロチェスターと向き合うことになるのか楽しみです。

上白石:年齢差や体格差がきっとぴったりだろうなって。20歳くらい差がありますし、すごく大きい人ととても小さい女の子っていう対比が小説の中にもあるので、まず形から入るというか。私のこの身長から見える背の高さ・大きさとか、年齢の違いというのは、役を演じる上ですごく助けになるだろうなと。

屋比久:私たち、さっき初めて会って、お互いに、思っていたよりちっちゃいなって(笑)。私、ここまで身長が近い人っていなくて、昆夏美さんは私より2センチ大きいのをすごく自慢されます(笑)。萌音さんとはもっと近かったから、すごくうれしい。

屋比久知奈

屋比久知奈

上白石:身長、ほぼ一緒かもしれないですね、私たち。

ーージェーンとロチェスターの関係性についてはいかがですか。

屋比久:いびつなように見えてすごく純粋だなと思いますね。デコボコがはまる感覚というか、そういうところが見える二人なのかと思います。

上白石:ジェーンは、ロチェスターと対等であるというところにすごくこだわりをもっていて。みなしごで、雇われているという意識があって、その相手と対等であると言えるまでの心の成長があると思っています。実際、後半は対等ですし、お互いが同じくらいお互いを求め合っているという、何か本当に運命のようなものを感じるので。愛はもちろんなんですけれど、それを超えた何かがあるような気がしてならないです。本当にお互いがお互いを必要としているというか、お互い引き合っている、情熱的な関係性なのかなと思って。

屋比久:正直、今の段階では、自分自身が役をどう演じることになるのか、芳雄さんのロチェスターと役としてどう対峙することになるのか、あまり想像がつかないです。何となくですけど、初めての稽古で向き合ったときの感覚は大事にした方がいいのかもしれない。お互いに探り合いながらやっていくことになると思うのですが、その新鮮な気持ち、お互いのことを知っていくまでの過程というものが、この作品にも通じるところがあると思うので。私自身、初共演だからこそ、芳雄さんと演じていく中で、その感情を楽しみながらやっていけるのかなと思っています。

上白石:芳雄さんとは何度かご一緒していますが、新しい役として対峙するときは不思議と本当にはじめましての気持ちになるんです。変な馴れ合いがないというか、新しい人として向き合える感じがあるので。それはきっと毎回、芳雄さんがこれまでの役を洗って、新たな人として立ってくださっているからだと思うのですが、そこから受ける印象を私も大切にしたいと思います。あとはやっぱり背の大きな方で、歌も上手いし、声も大きいので、どうしても引け目を感じてしまうというか、及ばないという思いが毎回とても強いんですけれど、そんなことではこの役は演じられないと思うので、ジェーンを演じているときは対等に、背筋もできるだけ伸ばして(笑)、キッと向き合いたいです。

ーー井上さんに対しての有効な戦法はありますか。

屋比久:今回、二対一ですからね(笑)。確かに芳雄さん、声も大きい。

上白石:声の圧に押されないようにしっかり頑張りたいですね。芳雄さんは、本当に疲れたときは「疲れた」と言ってくださるし、無理をしてカラ元気になったりとかは絶対しない方なので、芳雄さんの前だと何かすごく素直でいられます。「さすがにしんどいですね」みたいなことも言えますし、芳雄さんがいらっしゃる稽古場はすごく風通しがいい、居心地がいいなと思います。

上白石萌音

上白石萌音

屋比久:素敵!

上白石:今回もそんな感じで引っ張っていってもらえたらな……と。とってもいい方です。

屋比久:風通しがいいっていうのはすごくわかる気がしますね。まっすぐ向き合ってくれる感じがします。そこはとてもありがたいし、私もいろいろなことを聞きやすいし、提示しやすいのかな。みんなで話す時間をすごく大事にしていけそうな気がしますね。

上白石:チーム九州ですし。私は鹿児島で、芳雄さんは福岡で。

屋比久:そうだ! 私が沖縄で。

ーー今日が「はじめまして」のお二人ですが、お互いをどう呼び合っていきたいですか。

屋比久:なんて呼びたいですか? 東京だと「屋比久ちゃん」か「ともちゃん」と呼ばれますね。沖縄だと、その二つでは絶対呼ばれないです。「ともなー」って呼ばれる。

上白石:かわいい!

屋比久:東京に来ると、「屋比久」って名前が、すごく相手の方が言いたくなるらしくて、「屋比久ちゃん」が多いですね。沖縄だと訛りで「ともなー」になるんです。

上白石:鹿児島の訛りも同じ感じ。

屋比久:だったら、「ともなー」、呼びやすい?

上白石:じゃあ、「ともなー」で(ちょっと照れ)。

屋比久:慣れるまで「ともちゃん」でいいですよ(笑)。

上白石:私はけっこう呼び捨てで呼ばれることが多いかな。

屋比久:じゃあ、「萌音」で。

上白石:やった!(笑) うれしいです。

ーー「はじめまして」の瞬間からけっこう盛り上がっていらっしゃるのを拝見していましたが、「チーム九州」、通じるところがありそうですね。

屋比久:ご一緒したかったので、純粋に、会えてすごくうれしいです。

屋比久知奈

屋比久知奈

上白石:うれしい〜。

屋比久:声を近くで聞きたかったです。

上白石:がっかりさせないように頑張ります。

屋比久:萌音の(ちょっと照れ)歌声は、本当に人柄がわかる歌声だから、その温かさがすごく沁みて、好きなんです。同じ九州出身というところもあるのかもしれないけど、空気感というか、流れている時間の早さみたいなのが一緒かもしれないなと思うので、お互いが気負わずにできる関係になって、作品にそれが生きたらな、ジェーンとヘレンもきっとそういう風に合うものがあったんだろうなと思います。

上白石:今日話していて本当に楽しいです。私、今回の話が決まってから早く会いたくて。『モアナと伝説の海』で、モアナとして歌ってらっしゃるのを初めて聴いたとき、「歌声、めっちゃ好きだ」と思って。これからどうなさるんだろうなと思ったとき、『レ・ミゼラブル』出演が決まって、やった! と。

屋比久:うれしい〜。

上白石:でもまさかこういう形で共演することになるとは思ってもみなかったので。会ってすごくホッとしました。ともなーと一緒にやっていけたら絶対楽しいし、すごく心強いし、よかったなって。

屋比久:同じくです。

ーーお互い、どういうところが好きだなと思われたんですか。

上白石:歌声がどこまでも伸びていく感じがして、そこに心根が出ていて、届かないわけがない歌だと思って。そこに変な意識というか、「どう、私の歌?」みたいなものが一切ない、本当に歌に寄り添って、歌を、歌が届くことを一番に考えている、そんな気がしていて。聴いていて「頑張ろう」と思える、それって理想だなと思って。

屋比久:その言葉を糧に頑張れます。

上白石:本当に尊敬してます。

上白石萌音

上白石萌音

ーーお互い、歌声の中にいろいろ聴けてしまうんですね。

屋比久:歌を聴いていてもやっぱりいろいろな印象があります。心が出ると思うんです。上手く隠せる人もいますが、萌音の歌声は、素直なまっすぐな気持ちで歌と向き合っているから、その素直さがみんなの心に対して平等に沁みていくんだろうなと思う。私は聴いていてそう感じるんですね。歌が心にそう染み込んできました。私、姉がひとりいるんです。姉も音楽、ミュージカルが好きで、割と好みが一緒だったりするんですけれど、まだ沖縄にいたとき、テレビ番組で萌音が歌っているのを見て、「素敵な声だよね」って話していたんです。「この歌声がすごく優しく入ってくるのって、この人がそういう優しい心で歌ってるからなんだろうね」と姉と話していて、その萌音が今回、『ジェーン・エア』の曲を歌うのを聴けるのが、私自身すごく楽しみです。きっと二人違う歌になると思うし、どういう表現で歌うんだろうというところが、同じ表現者としてワクワクしています。今回の話が発表になった時、姉から連絡が来て、「共演するんだね、すごいね」って喜んでくれました。

上白石:うちの場合、それが母です。『モアナと伝説の海』のときに、「すごい人がいる」って母が言って、「私もそう思ってた」と。テレビの歌番組とかも、「出るんだって!」って二人で観たりして。

屋比久:ありがとう!

ーー楽曲が非常に難しいとおっしゃっていました。

屋比久:音程というよりも、オーディションに向けて練習をしていたときに感じたのは、すごくドラマがあるから、それをただの音にならないよう、どう表現できるかというところの難しさでした。ただ音をとって歌うだけだったらある程度まではできると思うんですが、それだと本当につまらなくなってしまいます。

上白石:曲の構成がシンプルだから、ね。特に、ジェーンが自分の内面と向き合いながら自分のポートレートを描く「二つの肖像画」というナンバーがあるんですが、ずっと平坦で、最後にがーっといくのがすごく難しいんです。その持っていき方、あのドラマをどう作っていくか、どうやって気持ちとメロディと歌詞をリンクさせて物語に乗せるか、とにかく難しくて。ともすれば平坦な曲になってしまうんですよね。パワーも技術もいるし、感性や情感なんかも、全部必要で。

屋比久:すごく美しい曲なんですが、音程も下から上まで広いし、それ以上に、気持ちと言葉とをいかに無理なく表現していけるかですね。

上白石:本当にメロディがきれいで、歌う喜びがある。だから、本当に歌う喜びだけで歌いたい。きっと、すべてがはまったときに、自分でも何か感じられる瞬間が来ると思うので、そこに早く到達したいです。

屋比久:感情的にも動き的にもいききることは割と得意だったりするんですが、それだけじゃない、繊細に紡いでいって紡いでいってというところが、自分の課題なので、それが必要な楽曲たちだし、声のトーンも含め、どう滑らかにいけるか、私にとってはすごく大きな挑戦だなと思っています。

屋比久知奈

屋比久知奈

上白石:これまで演じてきた役たちが、けっこう繊細というか、内にこもった役が多かったこともあり、外にエネルギーを放出するということが私の中では大きな課題です。ジェーンも、繊細に揺れ動きながらも、曲のラストやいろいろな節目で、周りが引いちゃうくらいのすごいエネルギーを放出する人なので、そういうところできちんと説得力が出るようにしたいなと。それと、この作品の前にやっていた『ダディ・ロング・レッグズ』もジョンの演出だったんですが、私が演じていたジルーシャの愛読書が『ジェーン・エア』なんです。

屋比久:すごい!

上白石:それで『ジェーン・エア』の話にもなったんですが、ジョンが、「ジェーンはクレイジーだ」と。最高という意味で、なんですけれど、情熱がたぎっている人だと。ジェーンがジェーンたるところにやっぱりその情熱があると思うので、そこが物足りなくならないよう、スタミナとパワーをつけたいなと思っていて。

屋比久:歌声の強さというより、萌音の中にはすごく強さがあると思うから、そこは無理に出す必要がないんだろうなって勝手に思ってます。

上白石:声量だけじゃない、声を張ることだけがすべてじゃない、ともなーのパワーがめちゃくちゃうらやましい。

屋比久:いやいやいやいや。

上白石:物理的な強さだけではない、ジェーンの強さを表現する術を探していきたいなと思っているところです。

 

■上白石萌音
ヘアメイク:冨永朋子(アルール)
スタイリスト:嶋岡隆、北村梓(Office Shimarl)

■屋比久知奈
ヘアメイク:武部千里/スタイリング:tavatha

取材・文=藤本真由(舞台評論家)   撮影=池上夢貢