小栗 旬、16年ぶりに彩の国シェイクスピア・シリーズに帰還! 2022年12月26日(月)よりBunkamuraシアターコクーンにて上演される、『ジョン王』で主演する。本来これは2020年に上演される予定だったがコロナ禍で無念にも中止になった。あれから2年の時を経て、満を持しての上演である。そしてこれでようやく彩の国シェイクスピア・シリーズが完結となる。

イギリス先王の私生児(小栗)はまんまとイギリス王族の仲間入りをしたのもつかの間、フランスとの戦争に巻き込まれていく……。

小栗は今年、三谷幸喜が脚本執筆した大河ドラマ『鎌倉殿の13人』で堂々主役を演じ、俳優として成長した。『ジョン王』初日には40歳の誕生日を迎える。いろいろな意味で節目のとき、シェイクスピア作品の中でも上演されることが稀な異色作にどう臨むのか、彩の国シェイクスピア・シリーズの思い出も含め、話を聞いた。

小栗 旬

小栗 旬

ーー2年越しにいよいよ上演となりますが、2年前、稽古はしていたのでしょうか。

稽古に入る前に中止が決まったんです。そのため、2年前、台本を読んでいろいろ考えたことが稽古で解消されないまま今に至っています。当時からなかなか奇妙な話だなあと感じ、これをどういうふうに上演したら面白くなるのだろうと興味を持っていましたが、今回、久しぶりに台本を読んでみたら当時とは少し印象が変わりました。この2年間で、世界情勢が様変わりし、ウクライナ戦争が起こっていることで、戦争というものが日本人の僕たちにも遠いものではなくなっています。そんなときに『ジョン王』を読むと、イギリスとフランスが領土を取り合って戦争していることが現代に通じるような気がして……。とはいえ、全体的には極めて不思議な台本です。前半と後半の雰囲気が全然違うし、戦争についても結局どうなったのかわからない。もしかしたら当時の史実的にそうなのかもしれないけれど、登場人物たちが翻弄されている印象です。そんなふうだから登場人物たちが揃いも揃って掴みどころなく感情移入しづらいと感じています。僕の役、私生児フィリップ・ザ・バスタードも前半と後半の印象が違うし、ジョン王は当てにならないし……。これはもう吉田鋼太郎さんの演出に期待するしかありません。この前に上演した阿部寛さん主演の『ヘンリー八世』も手放しで褒められるような戯曲の完成度ではないと思ったけれど、鋼太郎さんの演出によってとても面白くなっていましたから今回もどんな秘策を出してきてくれるか楽しみにしているところです。

ーー私生児はどんな人物なのでしょうか。

シニカルな人物です。イギリス先王の私生児として生まれたため、正当な血筋と比べたら権力も名誉も地位も得ることができなかった彼が、あるとき急にそれらを手に入れられそうになります。それまでは同じ場所にいても誰の視界にも入っていなかったのが、地位を獲得することによって人々が急にこれまでと違う対応をとるようになり突如世界の中心に躍り出す。そのとき彼はこの状況をおおいに楽しもうと考えます。長いものに巻かれたふりをしながら巻かれないように用心し、話術を駆使して活動する、序盤の私生児の行動はなかなかおもしろいです。

ーー2年前の宣伝ビジュアルでも髪をショートにしていて、今回もショートにしていますが、なにかビジュアルイメージがあるのでしょうか。

それはとくにないです。鋼太郎さんのプランでこれから変わるかもしれないですし。単に、2年前はアメリカに行っていて坊主にしていたのと、今は、数日前に『鎌倉殿の13人』がクランクアップしたので、これまで鎌倉時代という遠い世界にいたところから一旦とてつもなく現代に戻そうと思いました。余談ですが、坊主は楽でいいですよ(笑)。

小栗 旬

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ーー私生児の置かれた状況は理解できますか。

『鎌倉殿の13人』をやるにあたり演出の吉田照幸さんから『ゲーム・オブ・スローンズ』を見てくださいと言われ、見たら、私生児が出てきて、ああやっぱり私生児はこんなにも生きることが大変だったのだなあと勉強になったんですよ。正当に認められず虐げられていた人物が名誉や地位を獲得した瞬間に思うことががらりと変わるだろうなって。

ーー本来、『ジョン王』のあとに『鎌倉殿の13人』の撮影だったところ逆になりましたが、先に『鎌倉殿の13人』をやったことも役に立ったようですね。

たまたま私生児について学べただけですけれどね。やっぱり映像と舞台は違うから、ほかに役に立つことがあるかはわからないです。舞台に立つこと自体5年ぶりくらいだからどうなるか見当もつかず、不安な点もあります。でも『ヘンリー八世』を彩の国さいたま芸術劇場(以下、さい芸)に観に行って、これくらいの劇場の大きさだったら声を届かせることは今でもなんとかできるんじゃないかなと漠然と思いました。あくまで感覚的なものですが。それにしても、今回、さい芸でやれないことは残念です。もちろんシアターコクーンも思い出深い劇場で大好きですし、はじめて立つ埼玉会館も楽しみではありますが、やっぱりさい芸は二十代の青春の思い出がたくさんある場所なんですよね。あの長い廊下、大好きなんです。別の国のようで。

ーー彩の国シェイクスピア・シリーズで育った自覚があるのですね。

ある意味、俳優としての第一歩が彩の国さいたまシェイクスピア・シリーズですから。20歳から24歳くらいまで、生活の半分以上、蜷川幸雄さんの舞台をやっていて、そこでいい経験をいっぱいさせてもらいました。見たことのない景色を見せてもらえたことを感謝しています。『タイタス・アンドロニカス』で行ったイギリスは最高でした。

ーー『タイタス・アンドロニカス』で小栗さんが演じたエアロンも虐げられた人でした。

エアロンは奴隷で私生児とはまた全然違う虐げられ方ですよね。今思えば、あの頃は奴隷がどれだけしんどいかが理解できてなかったと思います。それを体現させるために蜷川さんはあれやこれや厳しく教えてくれたのでしょうね。今だったらエアロンの憎しみや哀しみはもっと深く理解して演じられるような気がしますけどねえ。思い出深い『タイタス・アンドロニカス』で鋼太郎さん、横田栄司さん、高橋努くんが一緒だったから、『ジョン王』でまた一緒にやって、シェイクスピア・シリーズを回顧したいと思っていました。これまでの恩返しのような気持ちでもあります。だからこそ、蜷川組のひとり・横田さんが降板したことはとても残念です。

小栗 旬

小栗 旬

ーー急遽、ジョン王をやることになった吉原光夫さんとは面識はありますか。

出演された舞台は何度か観ています。生田斗真くんとやった『ほんとうのハウンド警部』(21年)も観ています。僕は映画『ミュージアム』(16年、大友啓史監督)で共演しました。そのとき、すごく独特な個性をもった俳優さんだなというイメージがあって、ジョン王にすごく合っていると思います。

ーー改めて、小栗さんとシェイクスピアシリーズを振り返ると——。

『お気に召すまま』(04年)が最初に出演したシェイクスピア・シリーズで、次が『間違いの喜劇』(06年)、『タイタス・アンドロニカス』(06年)、『お気に召すまま』再演(07年)ですね。『ジョン王』はオールメール(出演者が男性のみ)になりますが、『お気に召すまま』はオールメールシリーズの第1弾でした。『間違いの喜劇』もオールメールだし、僕と彩の国といえばオールメールシリーズと思っているところもあって、今回、その大トリを務めることは光栄です。

ーーオールメールの魅力は?

今、改めて振り返ると、オールメールってなんだかよくわからない不思議な世界でしたね、そこが良かったわけですが(笑)。日本独特の歌舞伎のような世界を、昔、イギリスでもやっていた伝統の男性だけの演劇の世界と繋げたことが面白いですよね。『ジョン王』も女形をやっている歌舞伎俳優さんが出てくれているので、そういうところも楽しめるんじゃないかなと思っています。

ーー蜷川さんから学んだことを教えてください。

学んだことはいっぱいあります。ほんとうに様々なことを教えてもらいました。とくに印象に残っているのは『俳優は生活者であれ』という言葉です。生きることに関してアンテナをちゃんと張りながら生きていなさいということだと受け取って、役者である前に生活者でありたいと思っています。

ーー蜷川さんの舞台に小栗さんがはじめて出たのもシェイクスピアでした。

シェイクスピア・シリーズではなかったですが『ハムレット』(03年)のフォーティンブラスを演じました(ハムレットは藤原竜也)。蜷川さんが亡くなった年に、僕がタイトルロールで『ハムレット』をやる企画もあったんです。シェイクスピアをやりたいというよりは、蜷川さんとまた一緒にやりたいと思って楽しみにしていたのですが残念ながらその願いは叶いませんでした。あれができていたら今、役者としてまたちょっと違っていたかもしれないですね……。

小栗 旬

小栗 旬

ーー今回は、鋼太郎さんの演出。演出を受けるのははじめてですか。

そうなんです。ただ、鋼太郎さんの稽古場は何度か見学していて、すごく優れた演出をされると信頼しています。ことシェイクスピアに関して鋼太郎さんほどの経験値のある人は日本になかなかいないと思うんです。シェイクスピアの世界を自由に遊んでいる感じがするのもすてきですよね。鋼太郎さんの演出を受けながらシェイクスピアの面白さと醍醐味を表現できるようになりたいです。

ーー小栗さんの舞台発声も鋼太郎さん仕込みですよね。

それはそうだと思います。最近は舞台用の発声をする機会はなかったから呼び戻すには時間がかかるかもしれないと思って、稽古がはじまる一週間前には個人的な稽古をはじめようと思っています。

ーーいつもそういうことをしているのでしょうか。

『髑髏城の七人 Season花』(17年)のときは稽古じゃないけれど、ものすごく長い公演を乗り越えるために体力づくりをしました。今回は、セリフを自分の言葉として噛み砕いて、どんな状況でもセリフが口から出せるようにしていくことが重要かと思っています。

ーー公演に向けての展望を教えてください。

おもしろいものになったらいいなと思っています。なによりもお客さんに楽しんでもらいたい。それと、僕が40歳になるその日に初日を迎えるので、40歳なりの圧倒的存在感みたいなものを出していきたいです。

ーー大河主演俳優としての圧倒的な。

そうです、大河を背負った男ですから(笑)。

ーー公演のチケットを買おうか迷っている方もいると思います。メッセージをお願いします。

なんだかよくわからないものを観ることができると思います。それってすごく面白い体験になりますよ。なんだかわからないものに一生懸命になっている僕たちをぜひ観に来てください。


取材・文=木俣 冬      撮影=福岡諒祠