4人にとって「タチヨミ」とは? 4人が語る“人生の舞台”

「朗読劇タチヨミ」第十一巻集合写真

「朗読劇タチヨミ」第十一巻集合写真

――みなさんの目には、演出家としての松野さん、演者としての松野さんは、それぞれどんなふうに映っていましたか。

高乃:若い子たちには厳しいですね。私たちには、いろんなことを許してくれるけど、数少ない「これだけはこうしたい」ということに関しては、絶対に通すところがあって。こだわりの数自体は少ないんだけど、こちらとしては、その部分に対してもっと手前から深く考えなきゃいけない。すごく自分に任される演出家だなと思いましたね。だから、演者それぞれが持ってくる答えが全然違うんです。それを松野くんはモニター越しに見ながら誰よりも楽しそうに観ていて。

北山:お客さん以上に、一番笑っていましたよね。

岸尾:だから僕は、松野さんに笑ってもらいたくてやってるところもありましたからね。

高乃:彼、ゲラだったから稽古でもすごく笑ってくれて。だから、より楽しいものが稽古場で生まれた気がします。

――北山さんは声優である松野さんからなにかアドバイスをもらうことはあったのでしょうか。

北山:それが全然なくて。僕に限らず、彼は自分が呼んできた人に対して絶大な安心感を持っていたので、お任せというスタンスでしたよね。本当に立ち位置くらいしか言われませんでした。でも、かんちゃん(神田)はけっこう声をかけてもらっていたよね。

神田:そうですね。松野さんに「普段、朱ちゃんがやらないような役を『タチヨミ』で挑戦してほしい。そこで何かを越えていってほしいんだ」って言ってもらったことが嬉しかったですね。「もっとやれるでしょ?」と、自分の可能性を引き出す演出をたくさんしていただいた気がします。それがすごく難しくて、毎回「えーん。できない」と稽古後の飲み会で泣いていたのですが(笑)そういう挑戦をずっとさせてくださっていました。

――松野さんを師匠と仰ぐ岸尾さんはいかがですか。

岸尾:一緒にお仕事をすると、終わったあとにかなりのダメ出しをもらっていたんです。それが「タチヨミ」では何も言われないから、最初はびっくりしましたよ。聞きに行っても「自分で考えて好きなようにやってみて、あんまり聞きに来ないで」って嫌がるんですよね(苦笑)。最初は、師匠の作品だし泥を塗らないようにと、顔色を窺っている部分がありましたけど、なんでも許してくれるんだなと思ってからは調子に乗りました(笑)。

北山:岸尾さんのすごいところは、調子に乗っているとおっしゃっているアドリブも、本当に細かく計算されているんですよ。「こう言うから、おじゃさんは何か返して」とか、事前に言ってくれるんですが、なかなかいいように返せなくて不甲斐ないなと……。

岸尾:いやいやいや。

高乃:アドリブに起承転結があるみたいなね。

岸尾:いやぁ、ありがとうございます。

北山:でも、そのアドリブを抑えられるのは、この人(神田)しかいない。

神田:抑えるっていうより、毎回、ちゃんと怒ってる感じです(笑)。

北山:かんちゃんが、またうまいんですよ。はっちゃけた人をピシッと刺すのが。

岸尾:視線が強いですからね。そして、僕がシュン……とするところまでが、「タチヨミ」でのお決まりになっています(笑)。

北山雅康

北山雅康

――では、みなさんにとって「タチヨミ」とは?

岸尾:ライフワークだったんですけどね。本当の意味では松野さんのライフワークであったと思いますけれども……。僕としては、1年に1回、その1年頑張って実力をつけてきたものを師匠に見せる場でもありました。お仕事ではご一緒する機会がなかなかなかったので、「タチヨミ」で松野さんとお芝居ができて、積年の恨みも晴らせて(笑)。松野さんは毎回、僕とがっつり組むキャスティングをあえてするんですよ。それで、僕のアドリブでぐちゃぐちゃにされて、というのを毎年やっていましたね。そのライフワークがなくなっちゃうから、僕としてはどうすればいいのかな……と。

神田:本当に家族みたいだったんですよね。外で気を張っていた自分をほどくことができる場所で。松野さんはダメな私も知ってくださってるし、そのとき抱えている悩みを見抜いて「頑張りなさいね」と言ってくださってたので…。すごく「タチヨミ」という場所で甘えさせてもらっていたんだなと、今になって思います。

北山:僕は普通にお仕事をしていたら出会うことがなかったであろう皆さんとこういう場を与えてもらって、松野くんに人生を愉しく豊かにして貰えたなって思います。この11年間、本当に幸せだったので、松野くんと「タチヨミ」には感謝しかないですね。ホームがなくなるのは寂しいですけど、でも、きっとどこかで繋がってると思うので、また皆さんに会える日を目指して日々頑張ろうと思います。

高乃:年齢を重ねていく中で、「今年はもうこの役は無理ね」とはっきり線を引かれたこともあって、私にとっては引導を渡してくれる場でした。一方で、少年役だったり、相手役のバランスによってはこういう役もいけるよね、と考えてくれる部分もあって。だから、年を取っていい場所であり、年をとっちゃいけない場所でもあり、いつも気持ちが引き締まる場所でしたね。いろいろな終わりが見えてくる中で、この先、俳優としてどう生きていくべきなのか、ということを一緒に考えてくれた場所だったような気がします。

――いよいよ「最終巻」を迎えます。最後に、“今だから言えること”や、お客様や松野さんに“伝えておきたいメッセージ”をお聞かせください。

高乃:もう観てもらうしかないですね。たっちゃん(松野)の演出は、突飛で奇抜でいて、思いつきを形にしていくのが上手でおもしろいんです。今回はたまちゃん(長年キャスト・演出助手として本作に携わる藤原珠恵)が敢えて去年までのたっちゃんが演出したものを、今年も正確にちゃんとやろうとしています。だけど、どこかでたっちゃんが「同じじゃなくて、一線越えてくれよ」と言っているんじゃないのかな、とも感じていて。これから稽古や本番をしていく中で、私たちやたまちゃんに、そういうたっちゃんの声が降りてくるんじゃないのかな、という予感がしています。

神田:松野さんはいつも打ち上げで大入り袋を配ってくれたんです。「最終巻」の舞台上には松野さんの姿はないんですが、皆さんにいっぱい笑っていっぱい泣いてもらって、満員御礼、大盛り上がりの客席を松野さんにみてもらいたい。なので、本当にたくさんの方におこしいただきたいです。

神田朱未

神田朱未

北山:「タチヨミ」ファンの皆さんもたくさん来てくださると思います。その方々に、松野くんがいなくても松野くんのクオリティだねと喜んでいただけるようなものが届けられたらなと思って、みんなで頑張ろうと思っています。「見ててね。あなたの夢だった本多劇場で、みんなでちゃんと頑張るからね」と言いたいです。じゃあ最後、岸尾さん締めてくださいね。

岸尾:僕が締めですか!? そうですね。役者として板の上で表現することが全てだと思っていますので、劇場で答えを観てもらえたらと思います。……締めだから真面目にコメントしたほうがいいのかな。いや、僕はいつも真面目ですよ。真面目にふざけているんです。『かいけつゾロリ』か、っていう感じですが……。

北山:こういうのを本番中にぶっこんでくるんですよ。

神田:これのすごく長いバージョンをやるんです。

一同:(笑)

岸尾:ただ、今回は遊べる作品も少ないので悩んでいます。きっと松野さんだったら、「好きなようにやりなさいよ」っておっしゃるとは思うんですが、最後ですしね。あまり最後最後言うのも嫌なんですが……。最初、松野さんはアドリブは嫌いだっておっしゃっていたんですが、僕や吉野くん(吉野裕行)がガンガンやるもんだから、松野さん自身もやるようになっていって。

高乃:負けず嫌いだから、人がウケてるのを見て「なにくそ」と思ったんだろうね(笑)。

岸尾:だから、松野さんが最初に思い描いていた「タチヨミ」とは違う形になっているのかもしれない。でも、最後だから真面目にしかやらないというのも違うと思うので。結果、自分らしく松野さんの弟子として最後の「タチヨミ」ができたらいいなと思います。「タチヨミ」という名前での公演は今後ないと思いますが、想いっていうのはずっと受け継がれていくと思います。僕を含めて教え子がいっぱいいますし、違う何らかの形で松野さんの教えと想いは絶対残っていくと思うので。そのときにはまた応援してもらえたらと思いますし、受け継いだ教えと想いを胸に最後の舞台に立ちたいと思っております。……と、ちょっといいこと言い過ぎちゃいましたね(笑)。

高乃・北山:いい話だったよ。

神田:怒るに怒れなかった(笑)。

岸尾:怒られている僕は、ぜひ劇場に来て観てください(笑)。

取材・文=双海しお 撮影=荒川潤