◇陸上・世界選手権第2日 男子100メートル決勝(2017年8月5日 英ロンドン)

 人類最速の男が負けた。男子100メートルの決勝が行われ、今大会で引退するウサイン・ボルト(30=ジャマイカ)は9秒95(向かい風0・8メートル)の3位で3連覇を逃した。ジャスティン・ガトリン(35=米国)が9秒92で6大会ぶりの優勝を果たした。有終の美を飾れなかったボルトだが、レース後のスタジアムには万雷の拍手が湧き起こった。

 敗れたからこそ、世界はボルトの偉大さを改めて知ることになった。銅メダリストがこれほどの拍手と歓声を受けたことが、かつてあっただろうか。スタジアムで熱い視線を送った約6万人が延々と称え続ける。それはウイニングランかと錯覚を起こしかねない光景だった。

 「ベストは尽くしたからしょうがない。結果は結果だから」

 予選から不安定だったスタートで再び失敗した。「最低のスタートだった」。飛び出したコールマンを必死に追うが全盛期の伸びはない。離れたレーンのガトリンにもかわされた。「ガトリンが見えたのは最後だけだった」。現役最後の100メートルは9秒95(向かい風0・8メートル)。08年以降の五輪を含めた世界大会で、フライング失格を除けば初の敗北だった。だが、王者の意地を最後に見せた。フィニッシュライン上での足の位置は勝ったガトリンと同じ。胴体の位置が公式記録の基準となるために0秒03差で届かなかった。

 4月に親友が交通事故死。悲しみのあまり約3週間、練習を離れた。その影響もあってかパフォーマンスを上げられず、大会前に宣言していた「無敵のまま」では終われなかった。しかし、五輪100メートル、200メートル3連覇などの偉業が色あせることはない。ウイニングランの締めくくりはゴール地点に膝をついてトラックにキス。おなじみの弓を引くようなポーズも3度見せた。

 「考えてできたポーズじゃない。自然と生まれた。英語が通じないような国の人でも、俺の名前を知らなくても、そのポーズだけを知ってくれている人もいる。うれしい」

 朝目覚めると「世界で一番速い男か」と自分に毎日問いかけてきた。ラストランの今大会も「疑いがない。自信は100%だ」と自答し続けた。引退を惜しむ声はやまないが「後悔はない。身を引く時だ」と潔かった。残すは第9日(12日)の400メートルリレー。そこで世界に最後の熱狂を起こす。