◇セ・リーグ 中日7―1広島(2017年8月9日 ナゴヤドーム)

 少し驚き、その後は柔和な表情に変わった。中日・森監督は最後の打球を捕球した大島からウイニングボールを受け取ると、それを大事そうに手でこねた。

 「どういう意味か分からないことはない。娘のところに持って行けということだろう」

 表現できないほどの悲しみを背負いながら、つかんだ1勝。重いボールだった。

 7日に長女・矢野麗華さんを乳がんにより、35歳の若さで亡くした。本来ならば野球ができる精神状態ではないかもしれない。だがチームを預かる勝負師は表面上の変化を見せず、普段通りにグラウンドに立った。

 大島らの早出特打を見守り、試合でも絶妙なタクトを振るう。4―1の6回1死一、三塁、先発・大野に代打を送る積極策で大量点につなげ、完勝を呼び込んだ。前日の試合前ミーティングでは「1人にせず、ユニホームを着て一緒にやらせてくれ」と選手に直訴。前日は引き分けたが、この日はチーム全員の力で勝った。「みんなが勝たせてくれた。みんなと一緒にユニホームを着て、できたことに感謝したい」と声を震わせた。

 勝利の原動力は森政権1期生のルーキー・京田だった。自身初の5安打、3打点、1試合2盗塁。さらに初回1死二塁では初の三盗も決め、次打者・ビシエドの遊ゴロで先制のホームを踏んだ。京田は「何が何でも勝たないといけない試合」と話した。大島も「なんと言っていいか分からないけど、勝つことでしか監督に返せない」と表情を引き締めた。チームの思いが一つになっての勝利だった。 (桜井 克也)