◇セ・リーグ 阪神3−2広島(2025年3月29日 マツダ)

 阪神・岩崎優は十分に時間を使っていた。1点リードの9回裏、2死一塁。走者は俊足の代走・羽月隆太郎だった。

 打席には3番・小園海斗を迎えていた。ベンチから投手コーチ・安藤優也が訪れ、何やら再確認していた。

 小園には直球で続けてファウルを打たせ、2ストライクと追い込んでも勝負を急がなかった。

 一塁けん制球の後、外角低めへボール球の直球で1ボール―2ストライク。ここでまたけん制球。さらにセットで長くボールを持ってまたけん制球を放った。

 打者・小園の時に3球けん制球を投げたことになり、昨年から導入されている大リーグのルールではボークである。1打席あたりのけん制球は2回まで。3回目以降は走者をアウトにできなければボークで進塁される。

 このルールは間(ま)のスポーツである野球の球趣をそぐ。工藤公康が今年1月に出した『数字じゃ、野球はわからない』(朝日新書)で<投手は「間」を意識する>と書いている。<ファンにとっても「間」は必要だと思う。「先」を予想してワクワク、ドキドキできるのも日本のプロ野球のよさだと思う>。

 さらに大リーグではピッチクロックが導入され、走者なしで15秒以内、走者ありで18秒以内に投球動作に入らないとボールが宣告される。計ってはいないが、岩崎の間合いは18秒以上あったのではないだろうか。

 ともあれ、岩崎はこの計3球のけん制球で間を支配していた。十分時間を取って投げた4球目の決め球は外角低めスライダー。走者・羽月はスタートを切ったが、小園のバットは空を切って、試合を終わらせた。

 「詩人は、野球の投手のごとし」とピュリツァー賞4度受賞の米国の詩人、ロバート・フロスト(1874〜1963年)が書いている。「詩人も投手も、それぞれの間を持つ。この間こそが、手ごわい相手なのだ」

 原文はもちろん英語で、先に出てくる「間」は「モーメント」、後の間は「インターバル」だ。その一瞬と、一瞬と一瞬の間の間合いという意味である。岩崎は小園や羽月との駆け引きで、間合いも一瞬も自分のものにしていたわけだ。

 最後に一つ。前日書いた無死一塁、8番・木浪聖也での送りバントがこの日2度あった。前日は強打、この日はバントと硬軟自在な作戦を使い分けていた。 =敬称略= (編集委員)