この結果は何ら不思議ではない、当然の結果だと受け止めています。大の里が3度目の優勝を果たした春場所。優勝決定戦で敗れたとはいえ、高安が久々に存在感を示してくれました。

 高安は私にとってはかつて鳴戸部屋で苦楽をともにした弟弟子。優勝パレードで旗手を務めてもらい、独立後も二所ノ関部屋まで来てぶつかり稽古で私の胸を借りていました。元大関とはいえ場所前に35歳になり、最近は周囲から「高安は大丈夫ですか」「もう優勝は無理ではないか」など心配の声を聞くことが増えました。個人的にはまだまだやれると確信に近いものがありましたが、春場所の奮闘は立派の一言です。

 優勝の可能性を残して千秋楽を迎えたのが過去に8回もありながら、賜杯には縁がなく本人ももどかしい思いを抱いていたかもしれません。春場所も首位で千秋楽を迎えましたが、残念ながら9度目の正直も夢散しました。これまでは調子がいいかなと思うときに限って故障が再発するなどケガに泣かされていましたが、今場所は15日間納得のいく戦いができたと思っています。強いて挙げれば14日目と決定戦が悔やまれます。14日目の美ノ海戦。勝ちたい思いが強く出過ぎていました。美ノ海が最高の相撲を取ったといえばそれまでですが、楽に勝とうと「欲」がでました。決定戦は本割の大の里戦が完璧な内容だったことがアダになったのかな。立ち合いで得意の左が入ったのに、右上手を引いて迷わず走った大の里に先手を奪われました。相手の陣地で左四つになれば勝機はあったと思いますが、紙一重のところですが惜しまれる敗戦です。とはいえ、今まで優勝が懸かる一番でことごとく負けてきたのが、本割は阿炎に完勝。重圧でガチガチみたいなものはなかったところに成長の跡がうかがえます。古傷の腰痛などが、いつ爆発するか分からない状況。年齢を重ねるとともに経験という武器を携え、オーバーワークを避けるためメリハリのある調整ができていることは何よりです。

 大の里はデビュー当時から稽古をつけてもらい、巡業などでもアドバイスをもらっています。大事な一番で恩返しの勝利となりましたが、高安には大関の「お手本」として一日でも長く現役を続けてもらいたい。四つなら現役で一番強い。私の評価は変わることはありません。自己最多13勝、もしくは14勝での優勝を期待します。 (元横綱・稀勢の里)