7月12日から16日まで、オーストラリアの首都キャンベラで開催された世界選手権アジア予選。バレーボール全日本男子は4戦全勝でグループBの首位となり、2018年に行なわれる世界選手権への切符を手にした。この春から指揮を執る中垣内祐一監督が「今季でもっともプライオリティが高い」と述べていたように、結果次第では自らの去就にも影響しただろう大会で、見事に目標を達成した。

 終わってみれば、あらためて石川祐希のすごさを見せつけられた大会だった。

 日本が3連勝で迎えた4日目の第1試合で、タイが台湾相手に1セットでも取れば、日本は最後のオーストラリア戦を待たずに出場権獲得(グループ2位以上)が決まるはずだった。しかし、2位以上に入る可能性を残していた台湾は高いモチベーションを保ち、3−0のストレートでタイに勝利したことで決定は持ち越しとなる。

 それでも、続く試合で日本が1セットを取った時点で出場権が獲得できる状況だったが、オーストラリアは今年6月のワールドリーグでも2勝1敗と実力拮抗している相手。選手たちにも緊張による硬さが見られ、第1セット中盤まで2点を追いかける展開となった。

 そんな重苦しい流れを変えたのが石川だった。スパイクでサイドアウトを取り、10−11にしたところで石川がそのままサーブに入る。久しぶりに見せた強いジャンプサーブで相手レシーブを崩し、ダイレクトで返ってきたボールを処理して同点。続くサーブでも相手を崩して連続得点につなげて逆転すると、リードを維持したまま25−22で第1セットを奪い、日本の世界選手権出場が決まった。

 その後、試合はフルセットまでもつれたが、石川の勝利に対する執念が衰えることはなかった。強打だけでなく、相手のコートをよく見てフェイントを落としたり、走り込んできてトスを上げたりと縦横無尽の大活躍。時には、セッターの藤井直伸がレシーブしたボールを2本目で相手コートにたたき込むという離れ業も見せ、この日だけで32点を稼いだ。スパイク26、ブロック2、サービスエース4と、両チーム合わせて断トツのベストスコアラーだ。

 中垣内監督も、「今日はとにもかくにも石川の調子がよくて、久しぶりに”らしい”プレーが随所に見られた。今シーズンで初めて思い切ったサーブが打てていたし、サーブレシーブも頑張っていた。”石川さまさま”だった」と手放しで賞賛した。

「(試合前に)特別な言葉をかけたわけじゃない。強いて言えば、昨日の試合が終わって、『そういえば石川、今シーズンはまだ1日も強いサーブを打ってないよな?』とは言いましたね。続けて『腰の具合がよくないのか?』と聞いたら、『それもあります』と答えたので、腰の具合がよくなったら強いサーブを打ってくれるなとは思っていました。

 もっとも、今日は前のサーバーが(ミスの少ない)出耒田敬(できた・たかし)で、サーブで思い切って攻めることができたというのが真相だと思います。これまでは、前が大竹(壱青)でサーブがミスになることが多く、連続でミスはできないので入れていくサーブになる。石川も『今日は出耒田さんなので、攻めていけた』と振り返っていました」(中垣内監督)

 石川は試合後、「今日の試合は何かスイッチが入ったのでしょうか」との質問に、「ワールドリーグの時はスイッチが入ったり切れたり、集中が持続できていませんでした。でも、この世界選手権予選は最初の台湾戦からここまで、『集中力を切らさずにやろう』と自分の中で目標を持っていて、それができたと思います。今日は他の3チームよりもレベルが高い相手だったので、さらに集中力も増しましたし、気持ちも高まりました」と涼しい顔で語った。

 今季でもっとも重要な大会の、一番大切な試合でベストのパフォーマンスを披露するあたりは、やはりエースである。相手が強くなっても萎縮することなく逆に集中力が増す。この境地にたどり着けるアスリートはそう多くないだろう。

 この日は感情表現も豊かだったが、「どうしても勝ちたかったので、自然にそうなりました。2セット目の終わり方がよくなかったので、自分の中で勝手に怒っていたんですけど、すぐ切り替えて3セット目に入れました」と、気持ちのコントロールもうまくできていたようだ。

 そんな石川の陰に隠れる形となったが、ここまでのガイチジャパンでは、セッターの藤井、ミドルブロッカーの李博(り・はく)という新戦力が存在感を示している。

 2人は昨季のVリーグを優勝した東レ・アローズの選手だが、25歳の藤井はアンダーカテゴリーでも代表経験がなく、今年が代表初選出。一方、両親が日本在住の中国人で26歳の李は、日本に帰化してから南部正司前監督の時に登録だけはされたものの、実戦で使われたのは初めてだった。

 藤井はミドルブロッカーの攻撃を多用するスタイルを特徴としており、李はそのスタイルに最も合致したミドルブロッカーだ。レセプション(サーブレシーブ)が少々崩れても、「どこからでもミドルを使う」「どこからでも上げてくれと伝えている」と両者は口を揃える。今回の全日本招集が決まった時、李は「藤井が僕を使ってくれなかったら、ハートブレイクですよ」と笑いながら語っていた。それだけ信頼関係が築かれているのだろう。

 中垣内監督も、2人がもたらしてくれた”武器”に満足そうな表情を見せる。

「ミドルを効果的に使うという、ここしばらくの日本にないバレーをすることができた。オーストラリアはブロックをミドルに厚くしてきたために、最初の作戦を変えなければならなかったけど、それだけ日本のミドルが要注意だと認識されたということ。その点は高く評価しています」

 戦力が整いつつあるガイチジャパンだが、選手たちも監督も「ここからがスタート」という想いは変わらない。全日本男子は間髪置かず24日からアジア選手権に出場し、9月12日から日本で開催されるグランドチャンピオンズカップで世界の上位国に挑む。チームの真価が問われるのはそこからだ。