「ビーチバレーボールは、その程度のスポーツだと思われてしまう。これでは、子どもたちに『一緒にやろうよ!』なんて勧められない」

“不祥事”の被害を受けた某選手は、肩を落としてうつむきながらそう語った。その表情に滲(にじ)ませていたのは、怒りよりもやるせなさだった――。

 日本バレーボール協会(JVA)は6月30日、公式サイト上に『ビーチバレーボール国際大会への出場申請漏れに関して』と題したトピックスを掲載した。それには、JVAが国際大会への出場を希望する選手のエントリー手続きを締め切り期限までに行なわず、結果として選手が大会に出場できなかったことについて、簡単な報告と謝罪が記されていた。

 世界バレーボール連盟(FIVB)が主催する『FIVBビーチバレーボール・ワールドツアー』は、賞金総額635万ドル(約7億3000万円)。年間20カ国、26都市で開催される、文字どおりの世界ツアーである。

 今回、その1大会において、JVAの軽率なミスによって選手の出場が阻まれた。エントリーのシステムが違うにせよ、極端なことを言えば、テニスの錦織圭やゴルフの松山英樹が、国内の統括組織(協会や連盟など)のミスで試合に出場できなくなったようなもの。そう考えれば、かなりの”不祥事”であり、大問題である。

 ビーチバレーボールの世界ツアーにおいて、現行のシステムでは選手らがFIVBの定める期間の1週間前までにJVAに参加申請し、その後、JVAが国内選手のエントリーを一括してFIVBに行なうことになっている。人が複数介在し、ミスも起こりうる作業ではあるのかもしれないが、関係者によれば「過去にエントリー期限までに申請を行なわなかったなんて話は聞いたことがない」という。

 では、そんなミスがなぜ起こったのか。結論を先に言えば、単純に担当者が申請をし忘れただけだった。

 選手らの告白によってわかった詳細については、以下のとおりである。

 まず、JVAのトピックスにはなぜか記されていなかったが、希望選手が出場できなくなってしまった大会は6月27日から開催されたポレッチ・メジャー(クロアチア)。ツアーの中でも最高位の5スターにランクされる重要な大会のひとつである。そのエントリー期限は、5月28日だった。

 そしてある日、申請を行なったにもかかわらず、大会のエントリーリストに自らの名前が載っていないことにひとりの選手が気づいた。そこで、JVAに確認を求めると、申請し忘れ、という事態が明るみとなった。

 ただし、その張本人となる担当者とはなかなか連絡が取れなかったそうだ。ようやくその担当者がつかまって、今回のミスについて理由を聞くと「機械のエラーでエントリーできなかった」と説明したという。

 それが、また問題だった。担当者の説明に疑念を抱いたその選手は、今度はビーチバレーボールの強化事業を担う事業副本部長に、説明を求めた。すると、単にFIVBへの申請をし忘れたことを、担当者が認めたというのだ。つまり、その担当者は当初虚偽の説明をして、自身の責任を逃れようとしたわけだ。6月2日のことだった。

 人間、誰しもミスはある。しかしそのミスを隠して、うやむやにしてしまおうとする姿勢、そうした組織の体質には問題があるのではないか。また、担当者ひとりに任せて、組織としてチェック機能が確立されていなかった点にも問題がある。

 当事者である選手が、力のない声でこう話す。

「東京五輪に向けて、今はツアーポイントをどんどん貯めないといけない。でも今季は、5スターの大会に出られるのが、ポレッチ・メジャーがおそらく最後だった。前々から計画を立てて、せっかくそこに照準を合わせてやってきたのに……」

 大きな希望を、他人のミス、それも信頼していたJVAのミスで奪われた選手のショックは計り知れない。それでも、「そこで(JVAから)誠意ある対応があれば、まだ気持ちも落ち着いていたと思う」と、ある選手が漏らす。

 問題はこれで終わりではなかったのだ。ミスが発覚した際、JVAがしかるべき対応をしていれば、選手たちのショックが増大することも、JVAに対する信頼が失われるようなこともなかったはずだが、なんとJVAはそのミスを一切公表しなかった。しかも、ポレッチ・メジャーには男女全7チーム、14名の選手が申請していたにもかかわらず、問い合わせてきた選手以外には、何の説明も、謝罪もしなかったのだ。

 その結果、JVAから何の連絡もなく時が過ぎ、ポレッチ・メジャーの開催が近づいた頃、JVAの対応に不信感を募らせた選手たちが、意を決して自身のSNSなどで事の顛末を公にした。ある選手が悲痛な胸の内を語る。

「自分たちの恥をさらすようで本当はしたくなかったが、競技を応援してもらっている人たちにも謝らないといけない。このことで精神的に不安定になり、夜も眠れなくなった。競技に集中できなくなっていた」

 その後、こうした選手たちの”告白”によって、そのニュースが全国紙などでも取り上げられることになった。それがわかると、JVAは慌てて当該選手全員に謝罪のメールを送り、公式サイトで公表した。ミスの発覚から約1カ月も経過してからのことだ。

 そして、7月1日から開催された国内ツアー第3戦、南あわじ大会の際にようやく、ビーチバレーボール事業本部長が選手たちの前で頭を下げた。

 ただし、メディアに対して事業本部長は会見を拒否、コメントも出さなかった。事態の経緯についても、企画部広報担当がメディアの質問に答える形でしか明らかにせず、選手への虚偽連絡は認めたものの、その理由や、選手への謝罪が遅れた事情などは曖昧な説明に終始した。

 競技団体は、スキルや年齢、性別、障害の有無などにかかわらず、すべての人に競技のできる環境を整えることが、大きな使命のひとつである。にもかかわらず、JVAはその競技の普及をも担うトップ選手へのサポートを怠り、なおかつ、そのミスを隠蔽しようとしたとも受け取れる行為を重ねた。明らかに競技団体としての意識が欠如していたと言わざるを得ない。

 JVAは、東京五輪ビーチバレーボール競技において、男女のメダル獲得を目標に掲げている。はたして、それは本気なのか、単なる建前なのか。

 JVAの主要種目であるバレーボールへのサポート体制は非常に強力だ。人気競技ゆえ、それは当然のことかもしれないが、それに比べると、ビーチバレーボールは余りにもないがしろにされている感がある。今回のことも、バレーボールで起きた”事件”だったら、対処の仕方も違ったはずだ。

 現状のJVAの意識、体制では、ビーチバレーボールが東京五輪で結果を出すことも、その後の競技の普及に関しても、それが実現できるかどうかは、はなはだ疑問だ。

 冒頭で肩を落として語った選手が、最後にこう言った。

「誰かが責任をとって辞めろと言いたいのではなく、悪いことは悪いと認めて、改善すべきことは改善してほしい。選手は人生をかけてこの競技をやっているし、それを応援してくれる人たちもいる。今は、すべてが東京五輪へつながっていると思っている。協力してがんばっていきたいし、本気で(選手と一緒に)力を合わせられる協会になってほしいだけです」