日本の夏の風物詩、鈴鹿8時間耐久ロードレースは今年で40回目の節目を迎える。2015年と2016年はヤマハファクトリーレーシングが連覇しているだけに、最大のライバルであるホンダは3連覇阻止と表彰台の頂点奪還を狙って、強力な布陣を敷いている。

 そのなかでも優勝候補の一角を占めるのが、事実上のファクトリーチームであるMuSASHi RT HARC-PRO.Hondaだ。今年のライダーラインナップには、8耐3勝の経験を持つ高橋巧と、同チーム出身で現在は世界選手権Moto2クラスを戦う中上貴晶(なかがみ・たかあき)、そして世界最高峰MotoGPに参戦する22歳のオーストラリア人、ジャック・ミラーという実力の高い3選手を配した。

 ジャック・ミラーは2014年にMoto3クラスで最終戦までもつれる激しいチャンピオン争いの末、わずか2ポイント差で王座を逃したが、翌2015年には彼の才能を高く評価したHRC(ホンダ・レーシング・コーポレーション)と契約を結び、MotoGPクラスへ「飛び級」デビューを果たした。2016年には第8戦・オランダGPで劇的な最高峰クラス初優勝も達成している。ミラーの8耐参戦は、その可能性が最初に囁かれた当初から世界中の耳目(じもく)を集めてきた。

 7月30日、午前11時30分に40回目の戦いの火蓋が切られる。このレースに参戦することが「以前からの夢だった」と語る彼の独占インタビューをお届けしよう。

―― 7月11日から13日までの3日間の事前テストは、とても楽しく取り組めていたようですね。

ジャック・ミラー(以下:ミラー) もちろん。バイクはとてもよく走ってくれて万事順調なので、とても楽しかったよ。(MotoGPの)休暇期間中もバイクに乗れるなんて、最高の夏休みだね。

―― 近年では、世界選手権に参戦するライダーたちは「自分本来の戦いに集中」し、「無用なリスクを避ける」という理由で8耐に参戦したがらない傾向があります。ミラー選手の場合は、そうは考えなかったのですか。

ミラー 全然。ケガをすれば別だけど、それ以外はMotoGPのレース活動への悪影響はないと思うよ。ずっと走りたいと思っていたレースだし、MotoGPとは違ったバイクに乗ることも楽しい。このチームから8耐に参戦できるのは、僕にとって願ってもない機会なんだ。

―― 8耐のマシンはMotoGPとは種類も特性も異なります。スーパーバイクに乗った印象はいかがですか。

ミラー すごく楽しいよ。量産車ベースだから、特に車体はMotoGPより剛性が低くて挙動も大きいけど、そのマシンを操ることがすごく面白いんだ。

―― 簡単に乗りこなせましたか?

ミラー いや、けっして簡単じゃない。速く走っていいラップタイムを出すためには、乗り方も変えなきゃいけないからね。でも、それがまたいいんだよ。

―― 8耐では1台のバイクを3名のライダーが共有します。マシンセットアップの煮詰め方は、どんな方針で進めているのですか。

ミラー 今のところは、タクミ(高橋巧)のセットアップで走っているんだ。ほとんど何も変える必要がなくて、すごく順調に進んでいるよ。タクミは長年このバイクに乗ってきて、特性についても一番よく理解しているから、僕もそれに合わせている。チームもがんばってくれているので、うまく適応していると思うよ。

―― セットアップ面で、ここだけは譲れない、というポイントはありますか。

ミラー 別にないな。あえていえば、ステップが微妙に高い程度かな。僕自身の好みとしては、もう少し低いステップ位置で乗り慣れているからちょっと姿勢が高く感じるけど、十分に馴染むことのできる範囲内だし、それ以外はまったく問題ない。僕たち3人はタクミもタカ(中上貴晶)もほぼ同じ背格好なので、作業は楽なんだ。チームによってはけっこうライダーの身長差があって、セットアップの落としどころにも苦労するみたいだから、その意味では僕たちはラッキーだね。

―― MuSASHi RT HARC-PRO.Hondaチームでは、2年前にケーシー・ストーナー氏、昨年はニッキー・ヘイデン選手が8耐に参戦しています。そのシートに今年は自分自身が座ることになった心境はいかがですか。

ミラー すごく名誉なことだ。8耐で何度も優勝経験のある強豪チームから自分が参戦できるなんて、本当に最高の気分だよ。だからこそ、今年は勝利を掴み取る力になりたい、自分の走りで彼らに貢献したいと思っているんだ。

―― 昨年と一昨年はヤマハが連覇しています。

ミラー 今年はムリだね!

―― 責任重大ですね。

ミラー うん。だからこそ、ライダー3人の連携が重要なんだ。レースでは、落ち着いて冷静なプランを組み立てなければいけない。最初の7時間が優勢でも、最後の1時間にすべてを失ってしまうことだってある。だから、速さと高いレベルの安定感を両立させ、遅い選手に捕まってペースを乱されないこと。それがレースのカギを握るだろう。僕たちの目標は、あくまでも優勝だから。

―― そのためには、今の話にもあったようにペースの維持が重要ですね。

ミラー ミスを最小限にとどめて、高いレベルで走り続けること。それを達成するために、ホンダはすごく強力なバイクを用意してくれた。バイクに問題はないから、あとはライダーの腕次第だね。ここまでしっかり作業を進めてきたし、チームワークはバッチリだと思うよ。

―― 耐久レースに備えて、なにか特別なトレーニングはしているのですか?

ミラー 今年は自転車でかなりきついトレーニングをずっと続けているんだ。3時間半や4時間、ときには6時間の走り込みをしているから、耐久レースだからといっても特別なトレーニングは必要ない。3日間の公式テスト後も、レースウィークまでの間はこの自転車トレーニングを続けるつもりだ。それが最高の耐久訓練にもなるんだ。全体の体力配分を考えて、最初は抑え気味に走り始めて、我慢強く最後まで走り続けることが重要だからね。集中力を欠かさないという意味では、いいメンタルトレーニングにもなる。僕はMotoGPライダーとして、レース後も万全の体力を維持できるトレーニングを続けてきたから、それが8耐でも効果を発揮してくれると思うよ。

―― チームメイトの高橋巧選手と中上貴晶選手の印象を聞かせてください。

ミラー ふたりとも速い選手だね。特にタクミは全日本ロードレースでこのバイクのことを知り尽くしているから、今回のテストでも走り始めから安定してすごく速かった。体力面での心配もない。それはタカも同じだから、僕たち3人はとても強力なラインナップだと思う。ラップタイムは3人とも非常に接近しているし、これはレースを戦ううえで非常に重要な要素になる。しかもバイクもすごくいいマシンで、いわばパズルのピースはすべて揃っているから、あとは8時間のレースでそれをうまく組み上げればいいという状態なんだ。

―― 3日間の公式テストを終えて、レースウィークに向けた自信のほどは?

ミラー テストに来るまでスーパーバイクに乗ったことがなかったので、自分がいったいどれくらい走れるのか見当もつかなかったけど、すごく迅速に順応できたと思っている。テストの最初から気持ちよく走れたし、チームメイトたちと互角の速さを発揮できた。おかげでかなり自信を深めることができたよ。3人ともタイムは安定しているし、ロングランもいい内容だったので、レースウィークに向けた仕上がり具合は順調だね。

―― 優勝は狙えそうですか。

ミラー もちろん。狙うだけじゃなく、勝ってみせるよ。

―― では、優勝したら、昨年のアッセンでやったみたいに表彰台の上で「シューイ(ブーツにシャンパンを入れて飲む儀式)」をやってくれますか。

ミラー してみたいけど、その前にチームメイトふたりに確認しないとね。「僕のブーツでやっても大丈夫かい?」って(笑)。