7月16日、ワールドグランプリ2017仙台大会(宮城県・カメイアリーナ仙台)の最終日で、バレーボール全日本女子は同大会の前年覇者・ブラジルをフルセットで下した。日本がブラジルに勝ったのは、2011年のワールドカップで勝利して以来、6年ぶり。この試合まで12連敗していた相手に勝利した瞬間、中田久美新監督は両手を広げて天を仰いだ。

 試合後、勝因を聞かれた中田監督が「わかんないです」と素直に答える姿が印象的だった。ランキングポイントがつき、賞金も出るワールドグランプリには、毎年のように世界の強豪国が顔を揃える。そんな大会での国内初采配を、これ以上ない形で締めくくった。

 新指揮官も言葉に窮した勝因を挙げるとすれば、古賀紗理那の活躍を外すことはできないだろう。特に第1、第2セットは「古賀紗理那大作戦」と言ってもいいくらいだった。

 新鍋理沙、内瀬戸真実という守備のいい選手でスタメンが固められたことで、古賀はレセプション(サーブレシーブ)をほぼ免除され、”打ち屋”の役割に徹する。日本の第1セットの36打数のうち、古賀の打数が20本。初めてスタートから使われたセッターの佐藤美弥は、普段はミドルブロッカーの使用が多いが、この日は古賀にトスを上げまくった。

 その期待に応える姿に、昨年のオリンピック世界最終予選で、とにかく木村沙織に上げる「木村沙織大作戦」のすえ出場権を獲得したイタリア戦が思い出された。「ポストサオリンの一番手」にふさわしい古賀の大活躍で2セットを先取。だが、そのまますんなりとはいかなかった。

「こんなに古賀ばかり使っていて、スタミナ切れにならなければいいが……」という筆者の心配が的中。ブラジルの古賀へのマークがきつくなったこともあり、第3セット以降は決定率が落ちていく。さらに、効果的なブロードを見せていたミドルブロッカーの奥村麻衣にもブロックがつくようになり第3、第4セットを落としてしまった。

 前述の「木村沙織大作戦」の時は、得失セット数のおかげで出場権は取ったものの、試合にはフルセットで敗れている。この試合も流れはブラジルに傾き、同様の展開になるのかと危惧されたが、日本は最終セットで粘りを見せる。

 出だしで3点のリードを奪ったが追いつかれ、9−9の同点からはシーソーゲームに。日本が先に勝利まであと1ポイントに迫ったが、被ブロックなどで逆転され、逆にブラジルにマッチポイントを握られた。

 その窮地で起用されたのが、仙台ラウンドではセッターとしての出番がなかった宮下遥だ。これ以上ないプレッシャーがかかる場面でも、宮下は冷静だった。ピンチサーバーとしてコートに立つと、狙い澄ましたサーブでブラジルのレシーブを連続で崩し、最後は宮下がアンダーで上げたトスを内瀬戸がしっかり決めてゲームに終止符を打った。

 土壇場での宮下起用も含め、中田新監督の采配が見事に的中した試合だった。その最たるものが、3年ぶりに全日本に復帰した新鍋と、内瀬戸という2人のレセプションアタッカーをスタメンに並べた点にある。両者の身長は、新鍋が173cmで、内瀬戸が171cm。世界には190cm台のアタッカーが珍しくない中、あえて小柄な2人を起用した理由を「ブラジルは高い攻撃力のあるチーム。なので、こちらも高さで対抗するのではなく、守備を固めることにした」と中田監督は明かした。

 その意図通り、内瀬戸のレセプションは50本受けて成功率58%、新鍋が21本受けて成功率76%と安定していた。レセプションだけでなくディグ(スパイクレシーブ)も何本も上げ、ラリーが続く試合となった。

 また、この大会で初めて佐藤をスタメンでセッターに据えたのも、「ブラジルは日本を研究してくるはず。ならば、セッターを代えれば(相手の裏をかける)」という狙いからだった。しっかり対策を練ってきた日本に、ブラジルのギマラエス監督も、「第2セットまでは我々のバレーができなかった。日本は出だしから調子がよくて、終始冷静にプレーした。決定率もよく、トス精度のレベルも高い」と脱帽した。

 ブラジルは、5位に終わったリオ五輪後に大幅な世代交代を進めている最中だ。チームの売りであった、ミドルからの高くパワーのある速攻が影を潜め、アタッカーの選手がリベロを務めていたこともあり、守備の連携もなかなか取れていなかった。6年前の、ロンドンオリンピックの出場権がかかったワールドカップでの白星とは重みが違うかもしれないが、それでもブラジルに競り勝てた意味は大きい。

 ギマラエス監督はロンドン五輪で金メダルを獲得した名将であり、今回の試合中にも次々とチームに修正をかけていた。セットカウント2−2となり、ブラジルに流れが行きかけたところを、しっかり押し返して勝ち切れたことが何よりの収穫だろう。

 チームをけん引した古賀は、「前日のセルビア戦で悔しい負け方をしたので、今日勝ち切れたことはチームにとって自信になりました」と笑顔を見せた。その言葉通り、翌週の香港大会ではセルビアにリベンジを果たし、続くロシアにも勝利を収めた。

 今後もブラジルや世界の強豪国に勝ち続けるためには、点を取れるサイドアタッカーが古賀の他にもうひとりほしいところ。しかしそこは、ブラジル戦で控えに甘んじた石井優希の復活や、ジュニア選手権(U−20)に回っている黒後愛、井上愛里沙らの合流で埋められるはずだ。東京五輪に向けて順調すぎるスタートを切った”中田ジャパン”の、さらなる成長を期待したい。