なぜ、これほどの選手が昨秋のドラフト会議で指名されなかったのか──。

 そう不思議がる野球ファンも多かったに違いない。それくらい、福田周平(NTT東日本/東京都)が都市対抗野球大会で見せた打棒は神がかっていた。

 7月17日の1回戦・三菱重工神戸・高砂(神戸市・高砂市)戦では5打数4安打。20日の2回戦・トヨタ自動車(豊田市)戦では5打数3安打1打点。そして22日の準々決勝・新日鐵住金東海REX(東海市)戦では4打数3安打。24日の準決勝と25日の決勝こそ2打数0安打、4打数1安打に終わったが、大会通算20打数11安打、打率.550のハイアベレージを記録してNTT東日本の優勝に貢献し、最優秀選手に該当する橋戸賞を受賞した。

 福田は広陵高(広島)、明治大を経てNTT東日本に入社した社会人3年目、8月には25歳になる遊撃手だ。昨年の都市対抗でも11打数6安打7打点と結果を残したが、秋のドラフト会議では指名漏れに終わっている。アマチュア球界のエリート街道を歩み、実力も知名度も十分あるにもかかわらず、結果的に各球団の需要とマッチしなかった格好だった。

 大卒の社会人野手がプロに進む場合、ドラフト解禁となる2年目で指名されることがほとんどだ。2年目で指名を受けなかった場合、プロへの夢をあきらめる選手もいる。今季、新人ながら一軍で活躍する社会人出身の糸原健斗(JX−ENEOS→阪神)は「(社会人2年目で)ドラフトにかからなかったら、プロをあきらめて社会人で骨を埋めるつもりでした」と語っていた。

 今夏、福田がここまでの大爆発を見せたのは、プロへのラストチャンスをかけたアピールなのだろうか。そんな疑問を抱き、本人を直撃してみた。

 昨年の都市対抗優勝チームであるトヨタ自動車を6対3で破った試合後、福田は熱戦の直後とは思えない、落ち着いた口調で試合を振り返っていた。

「トヨタには去年(都市対抗と日本選手権で)2度負けていて、とくに打撃陣はトヨタのバッテリーをほとんど攻略できませんでした。今日は6点取れましたし、いい結果で終われてよかったです」

 自身の好調について聞いてみると、こんな言葉が返ってきた。

「都市対抗まで来るといいピッチャーしかいないので、凡退してもクヨクヨせずに、粘って粘って球際に集中していることが、いい結果につながっているのかなと思います」

 福田の打席を見ていて、気になることがあった。昨夏はオーソドックスな構えをしていた福田が、今夏はバットを左肩に担ぐようにして構えていたのだ。その意図についても聞いてみた。

「腕に力を入れたくないので、(バットを)肩に乗せてボールを待って、振りにいくときにためた力を出す形にしました。でも、僕はバッティングフォームをちょいちょい変えていて、いろいろと引き出しがあるなかで、今の形にしているだけです」

 明治大時代の福田は、4年間でリーグ通算打率.288、76安打を記録したアベレージヒッターだった。その反面、長打はわずか4本(二塁打2、三塁打1、本塁打1)と極端に少なく、打撃面で怖さを感じることはなかった。だが、NTT東日本に入社後はスイングに力強さが増している。昨夏の都市対抗では東京ドームで本塁打を放った。

「大学では、自分の形を崩してまで『ゴロを打って走ろう』というバッティングでした。でも社会人では、どんなボールに対しても自分のスイングをしてアタックすることにこだわっています。僕の体(169センチ69キロ)では、パワーだけでは飛びません。体重を増やそうと思っても、ショートとして動きやすい体を維持しないといけない。だから『瞬発力』を高めようと思って、トレーニングを積んできました」

 メディシンボールを投げるなど、一瞬で最大の力を発揮できるスイングづくりに取り組んできた。その効果は打撃のみならず、守備・走塁にも好影響をもたらしている。こうして社会人で大きな進化を見せた福田だが、昨秋のドラフト指名漏れはどのように受け止めているのか。本人に聞いてみると、福田は当時の心境を静かに語り始めた。

「プロに行くことは夢です。でも、スカウトの目は僕が操作できることではありません。1試合、1試合を戦ったなかで評価してもらえたら、それは嬉しいことですけどね。プロには行きたかったけど、もう戻ってこないこと。そのときはスパッとあきらめて、秋の日本選手権に集中しました」

 福田の口ぶりから昨年だけでなく、今もプロへの思いにフタを閉じているようなニュアンスを感じ取り、「今年もチャンスはあるのでは?」と聞いてみた。すると、福田は「ありますかねぇ……」とつぶやき、「それは行けたらいいですけど、やっぱりそこは僕には操作できないので」と続けた。

 社会人野球の選手のなかには、プロ入りの道が見えなくなった瞬間、モチベーションが大きく低下する選手も珍しくない。いま、なお進化し続ける福田周平という野球選手を支えているものは何なのか? 社会人野球をまっとうすることか。チームの勝利に貢献することか。それとも――? 福田に問うと、しばらく黙考した後、こんな答えが返ってきた。

「うまくなりたい。やっぱりそこに尽きると思います。野球がうまくなるために、日々練習しています。それは『プロになるため』じゃない。バッティングも守備も、まだまだ技術は向上できると思っていますし、もっといろんなプレーができるようになりたいんです」

 この話を聞いて、思い出されることがあった。3年前、明治大関係者が語っていた「いつも福田と糸原は夜遅くまで残って練習しています」という言葉だった。ケガで戦線離脱したものの、大学同期の糸原がプロで活躍していることは、福田にとって「すごく嬉しい」ことだという。しかし、だからといって「自分もプロで……」と野心をむき出しにするわけではない。福田には、もっと大切にしていることがあるのだ。

 バックネット裏に集まるスカウトを見ることはない。ただ、自身の向上心に突き動かされるがまま、最高のパフォーマンスを発揮している。

 ヒットゾーンの広い打撃、足運びの軽やかな守備、盗塁可能な走塁──。福田周平という選手を評価するポイントはいくつもある。しかし、何よりも大きな武器は「うまくなりたい」という思いが並外れていることだろう。今年の秋にはその部分が高く評価されて、福田の「夢」は成就しているかもしれない。