◆世界水泳短期集中連載・「キャプテン」松田丈志の目線(3)

 競泳日本チームに待望のメダル第1号が大きなサプライズとともにもたらされた。

 世界水泳競泳2日目、この日最後の種目となった女子200m個人メドレー決勝。大橋悠依が4月に出した自己ベストをさらに2秒以上更新する2分07秒91で銀メダルを獲得した。準決勝はギリギリ8番での通過。そのレース後のコメントで、本人はまだ余力はあると話してはいたが正直、一番端っこのコースからの銀メダル獲得は想像できなかった。

 会場は地元の英雄、カティンカ・ホッスー(ハンガリー)の今大会初の金メダルを期待するファンで超満員となり、レースは大歓声のなか、行なわれた。決勝前は緊張していたという大橋だが、自分が端っこのコースで、しかも会場の大声援はセンターコースを泳ぐ地元の英雄に送られているということで、かえって冷静になれて「自分の泳ぎに集中できた」という。

 レースは予想通りホッスーが先行する展開。しかし、大橋も8コースからバタフライ、背泳ぎ、平泳ぎとこなし、自身の自己ベストを上回るラップを刻んでいく。3種目を終えた150mの時点で自身の準決勝のタイムを1秒24秒も上回っていた。そして、圧巻はラストの自由形だ。準決勝のラップタイムから1秒30秒も縮めるタイムでフィニッシュ。このラスト50mのラップタイムは優勝したホッスーのラップをも上回る記録だ。

 このレベルの選手が200mのレースでいきなり2秒も自己ベストを更新するのは驚きだった。本人は準決勝のレースでも最後の自由形以外は、そこそこ力を出していたと言っていた。そこから2秒も上げてきた。これは日本選手権の時も感じたことだが、大橋はいざアクセルを踏んだ時の上げ幅が非常に大きい。持ち味であるゆったりとした伸びのある軽い泳ぎに、少しずつパワーがついてきて、アクセルを踏んだ時のスピード感が大幅に上がってきている。

 しかし、なぜ初出場の大橋がこの大舞台で自己ベストを大幅に更新し、銀メダルまでたどり着けたのか。これはトレーニングが順調に積めていることを大前提として、決勝で「自分の泳ぎ」に集中できたことが大きい。自分の泳ぎとは、「自分の動作」と言ってもいい。

 レース前に大橋が平井伯昌コーチからもらったアドバイスはふたつあったそうだ。ひとつが種目ごとの泳ぎのフォームに関する注意点。もうひとつは「自分を信じて思いっきり泳いでこい」というものだった。フォームの注意点は、具体的に言えば、呼吸の時の頭の位置やキックの足幅など細かい動作の部分だったという。

 例えば「何秒で泳ぐ」というタイムの目標や、メダルを獲りたいという目標も大事だが、それらは「結果」だ。自分の中で念じるだけでは、それは近づいてきてはくれない。競泳の場合、ひとつひとつのストローク、動作の積み重ねが「結果」となる。その動作に集中することで、目指すタイムや順位に近づいていくのだ。「結果」だけを考えてしまうと、時にプレッシャーになり、焦りにもなる。

 初めて世界の大舞台に立った大橋は見事に平井コーチのアドバイス通り、自分の動作に集中し、これまで培ってきたストローク、動作を繰り返した。その結果、メダルにたどり着いた。

 最終日に本命の400m個人メドレーを控える大橋。200m個人メドレー同様、地元ホッスーへの大歓声が予想される。

 インタビューの最後に次の種目での目標を聞いてみた。

「いい色のメダルを獲りたいです」

 また、自分の泳ぎに集中して欲しい。